妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第21話 噂は議事録の顔をしたがる

 

噂というものは、放っておくといずれ議事録の顔をしたがる。

 

酒場の隅で生まれた時はまだ柔らかい。誰かが言い過ぎればすぐ崩れるし、聞いた側も半分は酔っている。だが、それが廊下を歩き、港の待合を抜け、議会の周辺で「その件ですが」と言い換えられ始めると、急に骨を持つ。骨を持った噂は面倒だ。人は骨のあるものを記録に乗せたがるし、記録に乗った噂はいつの間にか「そういうことになっていたらしい」として残る。国家の初期とは、そういう薄い誤解をどこまで薄いままにしておけるかの競技みたいなものだと、私は最近つくづく思う。

 

ジンバ・ラルの感情が爆発した翌朝、私の机の上には、その骨が育ち始めている証拠がきれいに並んでいた。

 

一枚目は港湾区画の聞き書きだった。ジンバ・ラルはなお旗を下ろしていない、という言い方が一部で増えている。一方で、ランバ・ラルはもう別の筋で動いているらしい、という私見も混入している。私見というのはだいたい書いた本人の願望を少しだけ含む。だから私は私見を軽蔑しない。人の願望は、数字より未来に近いことがある。

 

二枚目は議会周辺の雑談整理だった。ラル家の中で割れたらしい。いや、もともと世代が違う。世代の違いではなく、子どもたちの扱いをめぐる立場の違いだ。そういう、少しだけ頭のいい整理が始まっていた。頭のいい整理は危険だ。感情だけでできた噂は酔いが覚めれば崩れるが、少し頭を使って整えられた噂は翌朝も生き残る。

 

三枚目は酒場の会話断片だった。ここがいちばん嫌だった。酔いの回った会話は時々、官僚より正確な構図を作る。ジンバは遺志を抱えているが、ランバは現実を見ている。どっちが忠義かはもうわからん。どっちも正しいが、同じ方向は見ていない。そういう言い方が、ぽつぽつ増えていた。

 

私は三枚を重ねて、しばらく机の上へ置いたままにした。悪くはない、と正直思った。ジンバを悪役にしすぎると、かえって悲劇の光が当たる。ランバを私の犬にしすぎても同じだ。どちらも少しずつ違う正しさを抱えたまま離れた、という形が最も座りがいい。座りがいいというのは、神話になりにくいという意味だ。物語は単純な方が燃えやすい。複雑なものは、せいぜい長い会話になるだけで済む。

 

「増え方は悪くありません」とセシリアが言った。

 

私は顔を上げた。彼女はもう、こういう時に私の考えを先に読むようになっている。助かるが、たまに少し怖い。

 

「どれがだ」と私は訊いた。

 

「解釈の数です。ひとつにまとまっていません。神話になる前に、複数の説明へ分散しています」

 

「よく見ているな」

 

「見なければ困りますので」

 

「最近、お前は無駄な謙遜をしないな」

 

「役に立ちませんので」

 

私は少しだけ笑った。セシリアのこういうところはいい。有能さを飾らない。飾らないくせに、飾る必要がない程度には整っている。そういう人間がそばにいると、こちらの怠慢が目立つから困る。

 

その横で、アサクラが紙束を揃えていた。今日のあいつは妙に機嫌がいい。機嫌がいい時のアサクラは危ない。だいたい、自分の嫌らしい観察が当たった時だからだ。

 

「閣下」と彼は言った。「一点だけよろしいでしょうか」

 

「だいたいよくないが言え」

 

「昨夜の件、議会周辺では『ジンバが怒鳴った』という事実より、『ランバが怒鳴らなかった』という印象で広がっております」

 

「それがどうした」

 

「武人が静かである時、人はそこへ意味を足したがります。今のうちに、ランバ・ラルを別の場で少しだけ動かしておく方がよろしいかと」

 

私は少しだけ目を細めた。嫌な観察だが、正しい。昨夜のランバは静かすぎた。静かすぎる武人は、時々周囲に美しさを誤解される。私はあの男を美しいまま置いておきたくない。美しい忠義は、後で厄介になる。

 

「どう動かす」と私は訊いた。

 

「港湾再編か、共同防災訓練の準備です」とアサクラは言った。「筋肉のある仕事をさせれば、物語の匂いが少し下がります」

 

「お前は本当に、物語の匂いが嫌いだな」

 

「はい。物語は実務に役立ちませんので」

 

「小さいな」

 

「身の丈であります」

 

私はその言い方に少しだけ救われた。どれほど国家が大きくなろうと、アサクラみたいな男は必ずいる。そして、こういう男がいる限り、世界は少しだけ神話になりきれない。そう考えると、小ささにもそれなりの公共性がある気がした。

 

食堂へ行くと、父が珍しく上機嫌だった。理由は半分くらいわかっている。ジンバの件がひとまず血を見ずに片づいたこと。もう半分は、おそらくグレイトグロウの継続使用によって頭頂部へ「効いているかもしれない」という感覚が生まれ始めたからだ。希望というものは、それが現実であるかどうかより、継続する気分を与えるかどうかでかなり価値が決まる。

 

「顔がましだな」と父が言った。

 

「それは私にですか」と私は言った。

 

「誰がお前の話をしている」

 

キシリアがカップを置いて、少しだけ目を伏せた。笑いを飲み込んでいるのだろう。あの女は最近、本当に父の頭頂部に優しい。優しすぎる時は危ない。

 

ドズルがスープを飲みながら言った。

 

「で、次はどうするんだ」

 

「仕事を増やす」と私は答えた。

 

「何だそれは」

 

「神話に対抗するには、仕事を増やすのが一番早い。人は忙しい時、他人の物語をきれいに仕上げる暇がなくなる」

 

ガルマが少し首を傾げた。

 

「それって、かなり乱暴な作戦じゃない?」

 

「実務的だ」と父が言った。

 

「父上」と私は言った。「最近、私の乱暴さへの理解が早すぎませんか」

 

「年を取ると近道が見える」

 

キシリアがそこで言った。

 

「それ、髪にも言えるのかしら」

 

食卓が一瞬だけ静かになった。私は思わずコーヒーを飲んだ。ガルマは息を止め、ドズルは本気で困った顔をした。父だけが数秒考えてから言った。

 

「言えなくもないな」

 

私はその返しに負けた。笑いそうになったが、長男としての品位がまだかろうじて残っていたので、何とか口元で止めた。キシリアはだいたい、こういうところで勝つ。悔しいが事実だ。

 

食後、私はすぐに港湾再編の中核会議を入れた。理由は単純だった。今この場で「仕事を増やす」という方針を実際の動きに変えないと、ただの嫌な比喩で終わるからだ。国家は嫌な比喩だけでは動かない。嫌な現実も必要である。

 

会議室には、セシリア、アサクラ、港湾管理長、老書記官、それにランバ・ラルを呼んだ。ランバはこういう席を好まない。だがだからこそ、座らせる価値がある。武人を現場だけに閉じ込めると、後で現場の論理が制度を食う。制度の匂いを少しだけ嗅がせておいた方がいい。

 

ランバは席につくなり言った。

 

「私はここ向きではない」

 

「知っている」と私は言った。「だから来てもらった」

 

「理屈になっていない」

 

「国家建設の半分は理屈にならない人選でできている」

 

アサクラが横で小さくうなずいた。

 

「たいへん実感のあるお言葉です」

 

「お前は黙れ」と私は言った。

 

会議は、まず共同防災訓練の名目から始まった。港湾での火災対応。非常用電源の切り替え。医療搬送の導線整理。各区画の責任系統の一本化。どれも地味だ。地味だが、その地味さこそが重要だった。神話は血と旗を好む。配電盤と搬送導線の話は好まない。だからこそ、こちらはそこに力を入れる。

 

「各区画の若手実務者を混ぜます」とセシリアが言った。「議会実務、港湾、保安、医療搬送、物資補給。出身サイドも混ぜる形で」

 

港湾管理長が眉を上げた。

 

「他サイドの若手まで?」

 

「そうです」と私は言った。「共同防災の名目です。今は理念ではなく、事故を減らす顔で集める」

 

老書記官が鼻を鳴らした。

 

「若い者は防災より出世に興味がありますぞ」

 

「だから来るのです」と私は言った。「防災訓練の裏に人脈があると知れば、むしろよく集まる」

 

ランバがそこで初めて口を開いた。

 

「そういう言い方は好きではない」

 

「知っている」と私は言った。「だが集まらないよりはましだ」

 

彼はそれ以上何も言わなかった。よかった。ランバ・ラルは反論を延ばさない方がいい。延ばすと正論が増える。正論が増えると会議はたいてい痩せる。

 

「人選は」と港湾管理長が訊いた。

 

私は机上の名簿に目を落とした。サイド1、サイド2、サイド4。月面側はまだ名前を薄く。ユーリ・ケラーネ経由で繋がる若い実務家を数名。情報局が嫌がらない程度に、しかし完全な御用聞きでもない者。こういう名簿作りは気が滅入る。人間を将来の橋と道具の中間くらいの見方で分類していくからだ。

 

「サイド2から二名」と私は言った。「保安ではなく物流寄り。サイド4からは医療搬送と工業区画の若手を一名ずつ。月面側は今は観察者に留める」

 

アサクラが紙に書き込みながら言った。

 

「たいへんバランスの良い嫌らしさです」

 

「お前の感想がいちいち気に入らない」

 

「励みになります」

 

「褒めていない」

 

「承知であります」

 

セシリアが名簿を見ながら言った。

 

「ケラーネ家からの推薦枠を一つ入れますか」

 

「入れる」と私は答えた。「ただし、表向きは議会側推薦に見せろ。橋は見せすぎると通行料を上げたがる」

 

ランバがその言い方に、ほんのわずかにだけ口元を動かした。笑ったのかもしれない。だとしたら珍しいことだ。倉庫の夜が、少しだけこの男の中の硬さをずらしたのかもしれない。

 

会議の終盤で、老書記官が一つだけ重いことを言った。

 

「若手を集めるのは結構」と彼は言った。「だが、子どもたちの件が落ち着いたと見せるのは危険ですぞ」

 

「なぜだ」と私は訊いた。

 

「落ち着いたと見せれば、今度は『忘れたのか』という物語が始まる。人は神話を作る時、まず『誰かが忘れた』と言いたがる。ですから、忘れていない顔だけは薄く見せ続けた方がよろしい」

 

私はうなずいた。完全に蓋をするのではない。薄く見せ続ける。国家建設における誠実さとは、だいたいその程度の濃度でちょうどいいのかもしれない。

 

「具体的には」と私は言った。

 

老書記官は少しだけ口元を緩めた。

 

「議会の議事録に一行だけ残すのです。『親族の意向を尊重した移動につき、引き続き安全配慮を要する』と。それだけで、忘れていない形にはなります」

 

私はうなずいた。本当に、この手の男たちは侮れない。国家とは、演説より先に議事録の言い回しで固まる時がある。

 

会議が終わる頃には、もう夕方だった。人を集める。橋をかける。神話を歩かせて座らせない。言葉の角を削り、仕事の量で空気を変える。どれも大きな行為には見えない。だが国家というものは案外、そのくらいみみっちい積み上げでしか形にならない。

 

ランバは会議室を出る前に、短く言った。

 

「ジンバ様は、まだ止まらん」

 

「知っている」と私は答えた。

 

「私の言葉で折れる相手ではない」

 

「それでいい」

 

「よくない」とランバは言った。「だが、それしかないのもわかっている」

 

私は彼を見た。この男は正直だ。そして、その正直さは時々ひどく疲れる。だが疲れるからといって、こういう人間を遠ざけると国家は早く腐る。私はもう、それを知っている。

 

「ランバ」と私は言った。「しばらくは現場訓練に顔を出せ。お前が物語の中に立ちすぎると面倒だ」

 

「命令か」

 

「助言だ」

 

「どちらでも同じだろう」

 

「お前にはな」

 

彼はそこで、ようやくほんの少しだけ笑った。いや、笑ったというより、表情の端が一瞬だけほどけた。十分だった。

 

夜、屋敷へ戻ると、キシリアが私の執務室の椅子に勝手に座っていた。最近、この女は本当に遠慮がない。遠慮がないのに、不思議と似合うから困る。

 

「兄上」と彼女は言った。「会議、長かったわね」

 

「盗み聞きか」

 

「壁は耳を持ってるもの」

 

「お前の壁だけだ」

 

彼女は肩をすくめた。

 

「で、どうするの。神話を仕事で消すの?」

 

「消えはしない」と私は言った。「薄める」

 

「薄めるだけで足りる?」

 

「濃いままよりはましだ」

 

「兄上、最近そういう答えばっかり」

 

「そういう時代なんだ」

 

キシリアは私を見た。その目は、思ったより真面目だった。

 

「前は、もっと切ったでしょうね」と彼女が言った。

 

私は少しだけ息を止めた。前。その一語の温度を、私は知っている。だが今ここで、それに触れる必要はない。

 

「今は切りすぎると神話が残る」と私は言った。

 

「ええ」と彼女はうなずいた。「それはそう。でも兄上、気をつけた方がいいわ」

 

「何をだ」

 

「薄めすぎると、今度は味のない国になる」

 

私は少しだけ笑った。嫌なことを言う。だが正しい。

 

「お前は時々、本当に厄介だな」

 

「褒めてるのね」

 

「半分だけ」

 

「役に立つ半分なら結構よ」

 

彼女が去ったあと、私は一人でしばらく机に向かっていた。窓の外では、サイド3の人工夜景がいつも通りに光っている。この人工的な夜はよくできている。よくできすぎていて、時々本物より本物らしく見える。国家もたぶん似たようなものだ。うまく作られた人工物ほど、人はそこに自然を見たがる。

 

その時、扉が二度だけ軽く叩かれた。

セシリアだった。

夜の彼女は昼より少しだけ柔らかく見える。光のせいか、疲労のせいか、その両方かもしれない。

 

「まだ起きておられましたか」と彼女が言った。

 

「国家は眠らないらしい」

 

「国家は眠りませんが、人は眠ります」

 

「嫌な訂正だな」

 

「正しい訂正です」

 

彼女は手に盆を持っていた。

コーヒーではない。

湯気の立つ細い湯呑みに近い器だった。

 

「何だそれは」と私は訊いた。

 

「茶です」と彼女は言った。

 

「見ればわかる」

 

「日本の茶です」

 

私はそこで少しだけ目を上げた。

「どこで手に入れた」

 

「月面の小さな商会です。

前に、閣下が『日本の茶は政治に似ている』とおっしゃっていたので」

 

「そんなことを言ったか」

 

「言いました」

 

「疲れていたんだろう」

 

「今も疲れておられます」

 

私は少しだけ笑った。

確かにそうだ。

疲れていない時の私は、もっと別の嫌なことを言う。

 

彼女は湯呑みを置いた。

香りは静かだった。

強すぎず、薄すぎず、妙に落ち着く。

私は昔から日本というものが好きだった。たぶん、あの国が不便さをそのまま工夫へ変える癖を持っているからだ。美しさを、勝利ではなく制約の中に作る。あれは見ていて少し救われる。

 

「根回し、という言葉がある」と私は言った。

 

セシリアは椅子へは座らず、そのまま立っていた。

「知っています。木を移す前に根を回しておくことですね」

 

「よく知っているな」

 

「少し調べました」

 

「なぜだ」

 

「閣下がたびたび使うので」

 

私は茶を一口飲んだ。

悪くなかった。

本当に少しだけ、脳の角が丸くなる。

 

「政治で使うには、よくできた言葉だ」と私は言った。

「いきなり移すと木が死ぬ。先に周囲を少し切り、土を緩め、水を変え、時間をかける。外から見ると何も起きていない。だが中では、もう移る準備が始まっている」

 

「いまのサイド3も、そういう状態ですか」

 

「そうだろうな」

 

セシリアは少し黙った。

その沈黙が悪くなかった。

話しかけたいが、話しすぎる気はない。そういう距離の沈黙だ。

 

「閣下」と彼女は言った。

「一つだけ申し上げてもよろしいですか」

 

「言え」

 

「最近、少しだけ顔が柔らかくなりました」

 

「嫌な言い方だな」

 

「褒めております」

 

「お前までそういうことを言うのか」

 

「前はもっと、全部を切って並べておられました」

 

私は湯呑みを見た。

茶の表面がわずかに揺れている。

人工夜の静かな照明が、そこに細く映っていた。

 

「今は違うか」

 

「今は、切る前に置き方を考えておられる」

 

「それは臆病になったということだ」

 

「そうかもしれません」とセシリアは言った。

「ですが、国家を作る人間が少し臆病なのは、悪くないことかもしれません」

 

私はそれにすぐ返事ができなかった。

疲れている時、人の言葉はまっすぐ入る。

まっすぐ入る時は危ない。

だから私は少しだけ横道へ逃げた。

 

「日本には、もう一つ好きなものがある」と私は言った。

 

「何でしょう」

 

「弁当だ」

 

セシリアは一瞬だけ表情を止め、それからほんの少しだけ笑った。

めずらしかった。

彼女がこんなふうに明確に笑うのは。

 

「意外です」と彼女は言った。

 

「なぜだ」

 

「もっと庭とか、詩とか、そういうものを挙げるかと」

 

「それも好きだ。

だが弁当はいい。

限られた箱の中に、必要なものを、見栄えよく、冷めても悪くない形で収める。

国家も本来、あのくらい控えめな技術でできていればいい」

 

「ずいぶん大きなものを小さな箱に入れますね」

 

「お前はどうだ」

 

「私は」とセシリアは少し考えて言った。「日本なら、余白が好きです」

 

私は顔を上げた。

「余白か」

 

「はい。全部を言い切らないところです。

書にも庭にも、あるいは話し方にも。

全部を埋めない」

 

私は少しだけ黙った。

それは、思ったよりいい答えだった。

 

「政治には向かないな」と私は言った。

 

「そうでしょうか。

全部を言い切る政治は、時々とても危険です」

 

私は湯呑みを置いた。

セシリア・アイリーンという女は、やはり時々ひどく正しい。

そしてひどく正しい人間は、疲れている夜にそばへ立たせると少し危ない。

好意に似たものが生まれるからだ。

国家建設において、好意に似たものほど扱いにくいものはない。

 

「もう休め」と私は言った。

 

「閣下も」

 

「国家は眠らないらしい」

 

「人は眠る、と先ほど申し上げました」

 

「嫌な秘書だな」

 

「優秀な秘書です」

 

私は少し笑った。

「そうだな」

 

彼女は一礼して去った。

部屋には日本の茶の香りが少しだけ残った。

グレイトグロウの匂いとは違う種類の、静かな残り方だった。

あれはあれで、家の中に妙な人間味を作るが、夜の執務室にはやはり茶の方が似合う。

 

私は一人になって、しばらく湯気の薄くなった茶を眺めていた。

窓の外では、サイド3の人工夜が静かに回っている。

まだ公国ではない。

まだ独立もしていない。

だが橋は増え、会議は長くなり、神話は少し痩せ、遠くでは少年が別の名前を探し、こちらでは父が頭頂部の未来を信じている。

 

そして私は、夜の執務室で日本の茶を飲みながら、余白について考えていた。

国家にも、家にも、人にも、言い切らない部分が少しあった方が、たぶん長持ちする。

全部を埋めると、あとで崩れた時に逃げ場がない。

そういうことを、前の人生ではあまり考えなかった気がする。

今は少し違う。

少し違うということが、良いことなのかどうかまでは、まだわからないけれど。

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