ダカール港湾は、朝になっても燃えていなかった。
それが勝利だった。
岸壁には、砲撃で欠けたコンクリートが散っていた。焼けた金属片が、朝日に鈍く光っている。潮の匂いに、火薬と油の匂いが混じっていた。
だが、クレーンは動いていた。
低い機械音を響かせ、BLL二番艦から降ろされた医療品のコンテナを、ゆっくりと岸壁へ下ろしていく。港湾労働者たちは、最初は兵士の顔色を見ていた。やがて、一人が手袋をはめ直した。別の一人が荷札を読み上げた。三人目が誘導棒を持ち、コンテナの下へ入った。
人は、仕事が残っていると分かると立ち上がる。
港は、そういう場所だった。
ブレックス・フォーラは、管制塔の窓から港を見ていた。
隣にレビルが立っている。
「ここは私が引き受ける」
ブレックスは言った。
「港湾行政、降伏兵の身分保護、声明発信、救難物資の配布。ここから先は政治の仕事だ」
レビルは窓の外を見たまま頷いた。
「任せる。港は燃えずに開いた。その意味を地球中へ知らせろ」
「従わなくても殺されない。その事実を見せることが、次の降伏を生む」
ブレックスの声は穏やかだった。だが、芯があった。
砲声より遅く届く言葉がある。届けば、人の手を止める言葉がある。ダカールでは、それが起きた。
港の下では、セイラが積載表を手に歩いていた。
「医療品は第一倉庫へ。食糧は第二倉庫です。港湾復旧資材と簡易発電機は、クレーンの動作確認が終わってから入れます」
港湾労働者が聞いた。
「弾薬は」
「後です」
セイラは即答した。
「今は薬と食糧が先です」
その声は、戦場の中でもまっすぐだった。
エドワウは、少し離れた場所でその声を聞いた。振り返らなかった。ただ、妹がそう言い切ったことを胸の奥で受け止めた。
レビルの通信機に、ワッケイン大佐の声が入った。
「レビル大将、港湾外縁の警戒は本艦隊で継続します」
「ご苦労。だが主力はここへ留めない」
レビルは短く言った。
「次はキリマンジャロだ」
その名が出た瞬間、港の空気が変わった。
ダカールは港だった。
キリマンジャロは山だった。
ティターンズの主力基地だった。
―――――
港湾外縁では、ガンダムとルシファーがベースジャバーの横で点検を受けていた。
ベースジャバーの下面には、砂と潮がこびりついている。整備兵が布で拭き取り、脚部固定具のロックを確認していた。空中で固定具が外れれば、MSごと海へ落ちる。地上戦が始まっても、空へ上げる足は休めない。
アムロはガンダムの足元を見ていた。
「やはり守りはたやすかったな」
エドワウは、ルシファーの肩部装甲を見上げていた。黒猫の印が、朝の光の中で沈んだ色をしている。
「今回は、相手に空戦用MSもSFSもまだない。港を守るには、空を押さえる手段が足りなかった」
「ベースジャバーが効きすぎた」
「港は平地で、守る場所も見えていた。砲台、管制塔、燃料施設、倉庫。どこを壊してはいけないかも分かる」
アムロは顔を上げた。
「キリマンジャロは違う?」
「違う」
エドワウはすぐに答えた。
「山だ。隠す場所も、撃ち下ろす場所も、逃がす通路もある。あそこは港じゃない。基地だ」
港の方で、クレーンが低く鳴った。
その音が、二人の間に落ちた。
アムロは整備架の影を見た。
「前の記憶では、基地は爆発した」
「ああ」
エドワウの声が低くなった。
「核は警戒する」
「やると思う?」
「ジャミトフなら、部下を捨てる。だが、今回は別の手を選ぶ可能性が高い」
「なぜ?」
「核は最後の札だ。使えば、隠せない。ダカールを取られた今は、なおさらだ」
アムロは黙った。
それでもやる人間はいる。
二人とも、それを知っていた。
地下深くから立ち上がる熱と光。MSの装甲も、人間の肉も、敵味方も、そこで区別を失う。基地を守るためではなく、基地を捨てるための爆発。
それを、二人は覚えていた。
「基地を棺桶にするより、部隊を足止めに使い、自分だけ抜ける」
エドワウは言った。
「奴なら、そちらを選ぶ」
アムロは遠くの空を見た。
海の向こうに山は見えない。
だが、そこにある。
雪線の下に、固い基地がある。
―――――
BLL一番艦の奥に、秘匿管制室があった。
扉の外には、通常管制員も入れない。記録は一般の作戦系統に残らない。照明は低く、空気は少し冷たい。小さな部屋に、キリマンジャロ基地の立体図が浮かんでいた。
そこにいるのは、ララァと、アムロと、エドワウだけだった。
ララァは椅子に座り、山の表示を見ていた。
滑走路。砲台。地下格納庫。補給区画。通信施設。退避路の候補。
けれど、彼女が見ているのは地図ではなかった。
「山の中に、固いものがある」
ララァが言った。
アムロが静かに聞く。
「固いもの?」
「人の気持ちも、機械の気配も、奥へ隠れている。港みたいに外へ出ていない」
エドワウは腕を組んだ。
「ティターンズの主力基地だ。守る側も本気になる」
ララァは、立体図の一角を指した。
「ここは弱い」
そこは第七補給区画だった。
「怖がっているのか」
アムロが聞いた。
「違う。疲れている。命令を聞いている。でも、信じていない」
アムロは端末に入力した。
ララァの言葉は、そのままでは渡せない。
第七補給区画。命令復唱遅延。負傷者搬送要求増加。補給通信量過多。投降回線への反応可能性あり。
文字にすると、軍が扱える情報になる。
ララァの名は出せない。ニタ研に繋がる未来があるためだ。
ララァの感覚も出せない。
ただの通信解析になる。
エドワウが表示を見た。
「これでレビルに渡す」
アムロは頷いた。
「ララァの名前は出さない」
ララァは何も言わなかった。
守るために隠す。
エドワウは、それを甘いことだとは思わなかった。隠さなければ、いつか誰かが彼女を測り始める。測り、分け、使い、削る。そういう場所を、人は作る。
それをさせない。
そのために、情報は一度、人間の言葉へ変えなければならなかった。
―――――
ホワイトベースの作戦室には、キリマンジャロ基地の立体図が浮かんでいた。
レビルは、その山を見下ろしていた。
ブライトは通信解析の結果を横に出している。アムロとエドワウは、作戦卓の反対側に立っていた。ワッケインは通信参加。ブレックスはダカールから、政務状況だけを短く送ってきている。
「正面から潰せば時間がかかる」
レビルは言った。
「山を削る戦いは避けたい」
アムロが第七補給区画を拡大する。
「通信解析上、第七補給区画が弱いです。命令復唱が遅れています。負傷者搬送要求も多い」
ブライトが補足した。
「補給通信量が増えています。守備隊の反応も揃っていません」
レビルは表示を見た。
「臆病な兵がいるという意味ではないな」
エドワウが答える。
「違います。命令を信じていない場所です」
「そこを割るか」
「はい。投降回線を集中させます。負傷者搬送路も提示する。攻撃ではなく、道を開ける」
アムロは基地深部の表示を指した。
「核警戒は継続してください。反応炉、弾薬庫、遮蔽区画、異常熱源。すべて見ます」
レビルは頷いた。
「当然だ」
エドワウが言った。
「今回は使いにくい状況ですが、罠がない理由にはなりません」
ブライトが顔を上げる。
「ジャミトフは核ではなく脱出を選ぶ、と?」
「おそらく」
エドワウは山腹を指した。
「基地を守り切る必要はない。時間を稼げばいい。逃げ道はあるはずです」
レビルは短く息を吐いた。
「では二つを同時にやる。守備隊を割り、核を警戒し、退避路を探す」
山を焼くのではない。
山の内側にある亀裂を広げる。
そういう戦いになった。
―――――
キリマンジャロの地下司令部では、発電機の振動が床を伝っていた。
壁面モニターに、ダカール港湾の映像が流れている。
燃えていない港。
動くクレーン。
武器を置いた兵士。
医療品と食糧のコンテナ。
それは砲弾ではない。
だが、守備隊の胸の中へ入る。
政治将校が苛立った声を出した。
「ダカールの放送を遮断できません。投降兵の映像が守備隊にも入っています」
基地司令が管制士官を見た。
「部隊の反応は」
「正規連邦軍出身者の多い区画で、命令復唱に遅れがあります。補給部隊からも負傷者搬送要求が増えています」
ジャミトフ・ハイマンは、表情を変えなかった。
「予定通りだ」
基地司令が眉を動かす。
「予定通り、ですか」
「ダカールが落ちれば、兵は迷う。レビルは身分保護を出す。ブレックスは政治声明を出す。そうなる」
政治将校が低く言った。
「自爆処理を準備しますか」
基地司令が政治将校を見た。
ジャミトフは、声を荒げなかった。
「不要だ」
「基地を奪われます」
「基地は失ってよい。ダカールが燃えていない以上、ここで核を使えば、こちらが地球を焼く側になる。レビルとブレックスに旗を渡す必要はない」
政治将校は黙った。
ジャミトフの言葉は冷たい。
冷たいから、反論できない。
「守り切るには」
基地司令が聞いた。
「守り切る必要はない。人間だけで守ろうとするな。人間は迷う。迷う部分を、機械で支えればよい」
モビルドール隊の管制士官が姿勢を正した。
「モビルドール隊、起動準備は完了しています。有人バーザムリーダーを中心に、無人バーザム改を展開可能です」
「出す時機はこちらで決める。それまでは守備隊の迷いを相手に利用させておけ」
ジャミトフは別のモニターを見た。
火山観測施設。
そう表示された区画がある。
実際には、小型発着場だった。
山は、守るためだけにあるのではない。
逃げるためにもある。
―――――
キリマンジャロ外縁には、霧が出ていた。
白い雪線の下に岩があり、岩の間に砲台が埋め込まれている。斜面は静かだった。だが、その静けさは眠りではない。待っている静けさだ。
第七補給区画へ、投降回線が集中された。
ダカールの映像が送られる。
白い信号灯が点滅する。
負傷者搬送路が示される。
ネモ隊は撃たずに前へ出た。
「武器を置け。負傷者から先に出す。身分確認は後だ」
外部スピーカーが告げる。
補給区画の兵士たちは、互いに顔を見た。
「本当に撃たれないのか」
若い兵が言った。
政治将校が怒鳴る。
「騙されるな。降伏した者は全員処分される」
「ダカールでは処分されていない」
「映像などいくらでも作れる」
「なら、なぜ港は燃えていない」
その一言で、政治将校の声が止まった。
最初の銃が床に置かれた。
次の銃が置かれた。
それは勇気がなくなった音ではない。
従う理由が落ちた音だった。
政治将校が拳銃を抜いた。
ネモの手が伸びる。
銃が弾かれ、政治将校は床へ押さえ込まれた。
亀裂が入った。
小さいが、深い亀裂だった。
―――――
地下格納庫の扉が開いた。
モビルドール隊が出た。
先頭は有人のバーザムリーダーだった。通常のバーザム改より頭部センサーが大きい。肩部には光学送受信器が増設され、背部には中継用の機器が付いている。
その周囲に、無人バーザム改が並ぶ。
コックピットは空だった。
だが、勝手に考えて戦う機械ではない。
リーダー機が目を持つ。
リーダー機が照準を渡す。
管制班が隊列を補う。
無人機は、その情報を受けて動く。
「第一バーザムリーダー、接続確認。追従機四機、光学リンク確立」
「第二リーダー、追従機六機。照準補助、同期しています」
有人バーザムリーダーのパイロットは、背後に並ぶ無人機をモニターで見ていた。
部下ではない。
だが、従う。
人間より正確に。
人間より冷たく。
それが、重かった。
―――――
斜面上部から、モビルドール隊が降りてきた。
バーザムリーダーが目標を固定する。
無人バーザム改が左右へ散る。
リーダー機の照準がネモを捕らえると、無人機が射線を補った。一機を狙えば、横から二機が撃つ。人間なら身を引く砲火の中でも、無人バーザム改は前進を止めなかった。
「下がりません。撃っても隊列が崩れません」
ネモ隊の声が入る。
リック・ディアス隊も続けた。
「横から二機、射線を重ねられた。有人機が目標を取ると、無人機が合わせてきます」
アムロは戦術表示を見ていた。
「完全自律じゃない。リーダー機がいる」
エドワウが答える。
「有人機が目と頭か」
「無人機はそれに合わせて動いている。リーダー機と中継を探してください」
そのころ、秘匿管制室でララァは同じ前線を見ていた。
「人が乗っていない機体が多い。でも、奥に操っている人がいる」
アムロは、その言葉を通常回線へ変えた。
「敵は管制付きです。無人機はバーザムリーダーから照準と機動情報を受けています」
ネモ隊が押された。
リック・ディアス隊の火力も、射線を重ねられて動きにくい。
山の斜面で、前進が止まった。
アムロの声は変わらなかった。
「予定通りです。攪乱膜を入れてください」
エドワウが応じる。
「ここで切るか」
「広がられる前に。リーダー機と追従機の距離がまだある。斜面ごと覆えます」
ブライトが管制へ命じた。
「ビーム攪乱膜拡散ミサイル、発射準備完了」
レビルの声が入る。
「使え」
ミサイルが山岳斜面へ飛んだ。
爆発は小さい。
岩を砕く弾ではない。
白く薄い粒子が、斜面と谷間に広がった。岩場が霞む。砲台が白く滲む。バーザムリーダーと無人バーザム改の間に、薄い膜が入る。
ビームの直進性が乱れた。
光学送受信器の受信品質が落ちた。
リーダー機から無人機へ渡る照準と機動情報に遅れが出る。
敵管制区画で、士官が叫ぶ。
「光学リンク、減衰。第一リーダー、追従機二機の同期が遅れています」
「中継機を上げろ」
「中継機も攪乱を受けています。安定接続距離、四十メートル前後まで低下」
基地司令が声を荒げた。
「四十メートル?」
「それ以上離れると、リーダー機からの照準補助が届きません。広域同期、維持できません」
無人バーザム改の動きが変わった。
止まったわけではない。
だが、遠くから合わせられない。
リーダー機へ寄る。
中継機へ寄る。
距離を詰める。
密集した結果、射線が重なる。味方機の肩が邪魔になる。さっきまで左右から重ねていた射撃が、薄くなる。
アムロはそれを見た。
「射撃戦をやめる。近接に入ってください」
「サーベル戦ですか」
ネモ隊が聞き返す。
「無人機はリーダー機から離れると同期が落ちる。近づけば、横からの集中射撃は減ります」
ガンダムがビームサーベルを抜いた。
ルシファーも続く。
エドワウの声が入る。
「ルシファー、前へ出る」
秘匿管制室で、ララァが言った。
「糸が短くなっている」
アムロは通常回線へ言い換えた。
「リーダー機と追従機の距離を見てください。四十メートルを超えると動きが遅れる」
ガンダムは胴を狙わなかった。
膝関節を斬る。
肩の武器基部を斬る。
腰の回転部を斬る。
爆発させる必要はない。
倒せばいい。
撃てなくすればいい。
「完全撃破はいらない。脚と武器を落としてください」
アムロが言った。
エドワウが続ける。
「動けなくすればいい」
ルシファーは金色の機体を前へ出した。バーザムリーダーの照準が流れる。エドワウは正面に入らない。側面へ回り、肩と腰を斬る。黒猫の印が白い粒子の中で一瞬見え、消えた。
ネモ隊は二機一組で入った。
一機がサーベルを受け、もう一機が脚を斬る。
倒れた機体へ追撃しない。
武装を落として次へ行く。
リック・ディアス隊は中継アンテナと固定砲台を潰した。通信車両が爆発し、無人バーザム改の数機が一拍遅れて動く。
その一拍で十分だった。
モビルドール隊は強かった。
だが、仕組みを切られると脆い。
恐怖しない機械は、危険を感じて後ろへ跳ばない。
管制が遅れた時、反応が単調になる。
そこへガンダムとルシファーが入った。
崩れるのは、早かった。
―――――
基地内部へ入ると、銃声は減っていった。
守備兵が次々と武器を置く。政治将校だけが抵抗し、ネモ隊に拘束される。負傷者が担架で運ばれ、通路の壁には白い発光信号が点滅していた。
だが、エドワウは安心しなかった。
前世の記憶がある。
勝ったと思った場所で、熱が来ることを知っている。
ブライトの声が入る。
「反応炉区画、出力安定。異常な熱上昇なし」
アムロが答えた。
「核の兆候はない。でも、油断しないでください」
エドワウは通路の奥を見た。
「奴が核を使わない理由はある。だが、罠がない理由にはならない」
秘匿回線で、アムロにだけララァの声が届いた。
「強いものが、さっきまであった」
アムロは短く返した。
「今は?」
「遠い。ここにはいない」
アムロは通常回線へ切り替えた。
「司令部中心の反応が薄い。退避済みの可能性があります」
エドワウの顔が変わった。
「ジャミトフか」
レビルの声が重くなる。
「司令部へ急げ」
ブライトが言った。
「退避路を探します」
「この基地を作った人間なら、必ず用意する」
エドワウは歩き出した。
勝っている。
基地は崩れている。
だが、中心が空になっている。
それが、いちばん嫌だった。
―――――
司令部には、ジャミトフはいなかった。
残っていたのは、通信記録、偽装された命令端末、影武者に近い幕僚数名。彼らは抵抗しなかった。抵抗する役目すら、与えられていなかったのかもしれない。
地下通路の奥に、発進痕跡があった。
火山観測施設に偽装された区画。
そこから高高度輸送機が離脱している。
発進時刻は、モビルドール隊が投入された直後だった。
そのころ、ジャミトフはすでに山の外へ向かっていた。
輸送機の中で、側近が言った。
「モビルドール隊まで失います」
「補充できる」
ジャミトフは窓のない機内で答えた。
「だが、相手の手は一度見ておく必要がある」
「自爆処理は」
「不要だ」
ジャミトフは目を閉じた。
基地は失ってよい。
相手が何で勝つかを見ればよい。
通信解析に偽装された何か。
ビーム攪乱膜。
ガンダムとルシファーの近接戦。
それを持ち帰れれば、次は違う。
司令部で、アムロが言った。
「ここにいない」
エドワウは発進記録を見た。
「やはり逃げたか」
レビルはしばらく黙っていた。
やがて言った。
「キリマンジャロは取った。だが、ジャミトフは残った」
エドワウは頷いた。
「基地を捨てる前提だったな」
勝利の報告が入ってくる。
だが、誰も笑わなかった。
―――――
夕方、キリマンジャロの斜面には白い粒子が薄く残っていた。
ビーム攪乱膜の名残が、谷間を霞ませている。雪線の下には、動けなくなった無人バーザム改が並んでいた。膝を斬られ、肩の武器を落とされ、腰の回転部を失った機体が、岩場に倒れている。
有人バーザムリーダーの一部は投降した。
一部は撃破された。
ネモ隊が降伏兵を誘導していた。
リック・ディアス隊は、まだ砲台の残骸を確認している。
ブライトの声が入った。
「モビルドール隊、沈黙。基地主要区画、制圧完了。核反応、異常なし」
アムロはガンダムのコクピットで、白く霞む斜面を見ていた。
「接続距離を落とせば、あそこまで脆くなる。次は対策されます」
エドワウがルシファーから答える。
「一度見せた手は、二度目には効きにくい」
レビルの声が入った。
「それでも、今回は効いた」
ララァの声は、連邦の回線には入らなかった。
秘匿管制室の中で、彼女は小さく言った。
「人が乗っていない機体は、静かで嫌」
アムロだけが聞いた。
彼は短く答えた。
「うん」
ダカールから、セイラの通信が入る。
「BLL補給隊、出発準備に入ります。医療品と食糧、港湾復旧資材の第二便です」
戦争は続いている。
だが、荷も動いている。
それだけは確かだった。
レビルは命じた。
「キリマンジャロ基地は制圧した。だが、ジャミトフは逃げた。全軍、追撃準備に入れ」
キリマンジャロは落ちた。
核の光はなかった。
だが、山の冷たい空気の向こうで、ジャミトフの影だけがまだ消えていなかった。