妹に撃たれない方法   作:Brooks

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カミーユ(9)登場。
次出るか不明です。


第220話 反乱軍通達

 

 

 夜明け前、地球連邦軍の通信回線に一つの通達が流れた。

 

 最初にそれを受け取ったのは、前線の司令官ではなかった。まだ湯気の残るカップを端末の横に置いたまま、夜勤の終わりを待っていた通信士だった。

 

 通信室の照明は白く、窓の外はまだ暗い。端末が短い電子音を鳴らし、軍令文を吐き出した。通信士は眠気の残る目で文面を追い、二行目で声を止めた。

 

 隣にいた当直士官が顔を上げる。

 

「どうした」

 

 通信士は紙を差し出した。

 

「ティターンズ識別、無効化されました」

 

 当直士官は一度、聞き間違えたような顔をした。

 

「もう一度照合しろ」

 

 通信士は端末に指を走らせた。照合結果はすぐに出た。

 

「同じです。連邦軍登録から外れています」

 

 通達には、地球連邦議会臨時決議と記されていた。

 

 ティターンズは地球連邦軍指揮系統から除外。

 

 ティターンズ所属識別コードは無効。

 

 ティターンズ名義の燃料、弾薬、補給申請は停止。

 

 所属兵には一定時間内の武装解除、正規軍復帰申請、または投降の猶予を与える。

 

 政治将校、強制徴発担当、違法拘束に関与した者は拘束対象。

 

 猶予後に武装を継続する部隊は、連邦政府に対する反乱軍として扱う。

 

 同じ文章は、別の基地にも届いていた。

 

 補給所では、燃料ポンプの端末に赤い文字が灯った。

 

 認証無効。

 

 整備兵がもう一度カードを通した。結果は変わらなかった。ポンプは低い音を立てたあと、完全に止まった。

 

「燃料ポンプが動きません」

 

 若い補給兵が言った。

 

 整備班長は、端末の赤い表示をしばらく見つめた。

 

「故障じゃない。許可が消えている」

 

 弾薬庫では、開錠申請が拒否された。

 

 給与支払い端末は、ティターンズ所属番号を弾いた。

 

 基地ゲートの身分証照合機は、ティターンズ章を付けた兵を赤い表示で止めた。横の端末で、連邦軍登録の残っている身分証だけが緑に変わった。

 

 通達は、砲撃ではなかった。

 

 だが、それが届いた瞬間から、いくつもの基地で扉が閉じ、車両が止まり、出撃命令がただの文字になった。

 

 ティターンズは、最初に燃料を失ったのではなかった。

 

 弾薬を失ったのでもなかった。

 

 連邦軍として端末を通る名前を失ったのだ。

 

―――――

 

 ある航空基地では、朝靄の中にフライ・ダーツが並んでいた。

 

 機体の下には工具箱が置かれ、整備兵が翼の下から顔を出していた。出撃準備は半分まで進んでいた。だが、燃料車は来なかった。

 

 整備班長が燃料ポンプの端末を見た。

 

 表示は赤い。

 

「出せない。ティターンズ名義では燃料が降りない」

 

 政治将校が肩を怒らせた。

 

「命令だ。出せ」

 

「命令番号が失効しています」

 

「誰が失効させた」

 

 整備班長は端末から目を離さずに答えた。

 

「議会と軍令部です」

 

 政治将校の顔色が変わった。だが、燃料ポンプは動かなかった。

 

 別の山岳基地では、正規連邦軍出身の中佐が自分の胸のティターンズ章を外した。

 

 小さな金属音を立てて、それは机の上に置かれた。

 

 部下たちは黙って見ていた。誰も拍手しなかった。誰も声を上げなかった。ただ、それがこの基地の向かう先を決める合図になることだけは分かっていた。

 

「私は連邦軍人だ。ティターンズの反乱には加わらない。武器を置く者は、この場に残れ。出ていく者は、今すぐ出ろ」

 

 若い兵が口を開いた。

 

「撃たれませんか」

 

 中佐は、その若い兵を見た。

 

「武器を置けば撃たせん」

 

 弾薬庫の前では、政治将校が怒鳴っていた。

 

「鍵を探せ!」

 

 扉は閉じたままだった。鍵を持つ下士官は、そこにはいなかった。彼は鍵を持って基地司令室へ行き、正規軍復帰の手続きを始めていた。

 

 兵士の一人が、端末を見ながら言った。

 

「鍵だけじゃ開きません。認証が要ります」

 

「認証など知るか!」

 

「端末が反乱軍扱いです」

 

 政治将校は拳を握った。

 

 拳では、弾薬庫の扉は開かなかった。

 

 ある格納庫には、マラサイが一機残っていた。

 

 装甲は磨かれていた。武器も残っていた。だが、パイロットだけが消えていた。開けっぱなしのロッカーには、連邦軍身分証と、外されたティターンズ章が置かれていた。

 

 沿岸基地では、基地司令が港湾砲台の電源を落とした。

 

 政治将校が拳銃を抜こうとする。その手を、副官が先に押さえた。

 

「この砲は市民へ向けない。連邦軍へ向けない。これ以上、名前を汚すな」

 

 兵舎では、若い兵士が夜明け前に靴を履いていた。

 

 友人が寝台の上で身体を起こす。

 

「逃げるのか」

 

 若い兵は靴ひもを結びながら言った。

 

「戻るんだ」

 

「どこへ」

 

「連邦軍へ。俺は連邦軍に入った。ティターンズに入った覚えはない」

 

 脱走は、銃声より早く広がった。

 

 命令は届く。だが車両が出ない。

 

 車両はある。だが燃料がない。

 

 燃料があっても、運転手がいない。

 

 運転手がいても、認証が通らない。

 

 軍は、命令だけでは動かなかった。

 

―――――

 

 ティターンズ系MS試験部隊の格納庫では、端末の赤い表示だけがやけに目立っていた。

 

 試験用のマラサイが脚部固定具に繋がれ、バーザム系の機体が整備途中のまま並んでいる。片隅には分解された無人機材が積まれていた。ケーブルは束ねられないまま床を這い、作業台の上には未整理の部品が置かれている。

 

 政治将校だけが怒鳴っていた。

 

「ゲーブル、出撃しろ。脱走兵を押さえる」

 

 ヤザン・ゲーブルは、マラサイの足元に立っていた。

 

 片手にヘルメットを持っている。目だけが笑っていた。

 

「燃料は」

 

 整備兵が答える。

 

「認証が通りません」

 

「予備タンクを使え!」

 

 政治将校が叫ぶ。

 

 別の整備兵が首を横に振った。

 

「弾も出ません。弾薬庫が閉じています」

 

「こじ開けろ!」

 

 ヤザンは政治将校を見た。

 

「こじ開ける兵はどこにいる」

 

「貴様、命令を拒む気か」

 

 ヤザンは笑った。

 

「命令? お前の端末、赤くなってるぞ」

 

「我々はティターンズだ!」

 

「だから終わったんだろ」

 

 格納庫の中が静かになった。

 

 ヤザンはヘルメットをロッカーへ放った。乾いた音がした。机の上に、外してあったティターンズ章を置く。

 

「俺は死に場所を選ぶ。燃料も弾も出ない連中のために死ぬ趣味はねえ」

 

 政治将校の顔が歪んだ。

 

「逃げるのか」

 

「違うな。つまらねえ戦場から出るだけだ」

 

 整備兵の一人が、小さな声で聞いた。

 

「どこへ行くんです」

 

 ヤザンは振り返らなかった。

 

「面白い戦場がある方だ」

 

 彼は機体を奪わなかった。

 

 派手な音も立てなかった。

 

 格納庫の裏手へ出ると、整備車両に乗り込んだ。気の合う整備兵が二人、何も聞かずに続いた。車両は低い音を立て、格納庫の影から消えた。

 

 残されたのは、動かない試験機、赤い認証表示、机の上のティターンズ章だった。

 

 ヤザン・ゲーブルは忠誠で動く男ではなかった。

 

 命令で死ぬ男でもなかった。

 

 戦場の匂いが消えた場所に、彼は残らなかった。

 

―――――

 

 ティターンズ系技術部隊の宿舎では、別の種類の混乱が起きていた。

 

 廊下には避難荷物が置かれ、扉は半分開いたままだった。基地内放送では、武装解除と正規軍復帰手続きの案内が繰り返されている。だが、誰も放送を落ち着いて聞いてはいなかった。

 

 外には輸送車両が停まっていた。

 

 荷台には、技術資料のケース、設計データ、試験部品が積まれている。家族用の荷物を置く場所は、最初から空けられていなかった。

 

 フランクリン・ビダンは端末を見ていた。

 

 ヒルダ・ビダンが、宿舎の入口で夫に声をかける。

 

「フランクリン、私たちはどの車に乗ればいいの」

 

 フランクリンは端末から目を離さなかった。

 

「後続の避難車両が来る」

 

「後続って、いつ」

 

「分からん。私は先に研究区画へ行く。機材を失うわけにはいかない」

 

 カミーユは、父の手元を見ていた。

 

 父は家族の荷物ではなく、設計データの入ったケースを持っていた。金属製の角が朝の光を受けていた。

 

「父さん、僕たちは?」

 

 フランクリンは一瞬だけ息子を見た。

 

 その目は、父親の目ではなかった。荷物の積載順を考えている技術者の目だった。

 

「母さんと待っていろ。基地の外には出るな」

 

 ヒルダが一歩近づく。

 

「あなたは?」

 

「すぐ戻る」

 

 その言い方で、ヒルダは分かった。

 

 戻る気がない言い方だった。

 

 フランクリンは緑色の技術ケースを抱え、輸送車両へ乗り込んだ。車両後部には試験用部品と記録装置が積まれている。家族の荷物を置く場所は、どこにもない。

 

 カミーユが走り出しかけた。

 

 ヒルダが、その肩を掴んだ。

 

「カミーユ」

 

「父さん!」

 

 車両は止まらなかった。

 

 フランクリンは振り返らなかった。

 

 排気ガスが宿舎前に残った。カミーユの手は握りしめられたまま震えていた。ヒルダは息子の肩を掴んでいたが、その指にも力が入っていなかった。

 

 二人は、置いていかれたのだと理解した。

 

 フランクリン・ビダンは、家族を連れて逃げなかった。

 

 彼が持っていったのは、設計データと試験部品だった。

 

―――――

 

 すべての基地が、静かに武器を置いたわけではなかった。

 

 あるティターンズ強硬派の格納庫では、まだ旗が壁に残っていた。床には命令書が散り、脱走しようとした兵士のバッグが転がっていた。通信端末は沈黙している。格納庫の外は静かなのに、そこだけは空気が尖っていた。

 

 直轄隊長が、逃げようとした兵士を殴った。

 

 兵士は床に倒れた。誰も助けに行かなかった。

 

「反乱軍だと? 誰が決めた」

 

 隊長が言った。

 

 通信兵が小さく答える。

 

「議会です」

 

「議会が戦うのか。議会が銃を持つのか」

 

 政治将校が横から言った。

 

「我々こそ連邦の剣です」

 

 隊長は壁の旗を見た。

 

「なら、剣は折れるまで斬る」

 

 だが、その基地にも燃料は少なかった。

 

 弾薬庫は半分しか開かなかった。

 

 通信は途切れがちで、部隊の半分は夜のうちに消えていた。

 

 恐怖で残せる兵はいる。

 

 しかし、恐怖で燃料は増えない。弾薬も増えない。赤くなった端末を緑に戻すこともできなかった。

 

 強硬派は残った。

 

 だが、残ったことと戦えることは同じではなかった。

 

―――――

 

 夜間、識別灯を消した輸送車両が、内陸へ向かっていた。

 

 荷台には燃料缶が積まれている。弾薬箱もある。通信機材は布で覆われ、固定具で押さえられていた。兵士の顔は暗くて見えない。車両の列は、街道を避け、細い整備道路を選んで進んでいた。

 

 別の格納庫では、マラサイ二機が運び出されていた。

 

 機体番号の一部は布で隠されている。整備員が、輸送担当に聞いた。

 

「どこへ持っていく」

 

 輸送担当は、工具箱を閉じながら答えた。

 

「知らない方が長生きする」

 

 南米の内陸では、建設区画付近の保管施設に灯りが入った。

 

 新しい管理番号が残る扉の前で、保管担当が建設時の認証コードを入れる。端末は一度止まった。短い沈黙のあと、緑色の表示に変わった。

 

 備蓄確認。

 

 短い暗号文が飛ぶ。

 

 南側進入口、受入可能。

 

 地下搬入線、一部使用可能。

 

 水路入口、封鎖解除待ち。

 

 建設第七区画、照明復旧。

 

 まだ、その名は出なかった。

 

 ティターンズの基地は崩れた。

 

 だが、崩れた破片が一方向へ集まり始めていた。

 

 それは逃げる者の流れではなかった。

 

 集められている流れだった。

 

―――――

 

 ダカールの情報室では、壁面地図にいくつもの点が打たれていた。

 

 投降基地は白。通信途絶は黒。燃料と弾薬を持って消えた部隊は赤。赤い点が、少しずつ南米方面に偏っている。

 

 レビルは地図を見ていた。

 

 ブライトは通信記録を重ね、マチルダ・アジャン中尉は左脇に緑色のファイルを挟んだまま、補給記録だけを抜き出していた。

 

「これは脱走だけではありません」

 

 マチルダが言った。

 

 レビルが振り返る。

 

「理由は」

 

「燃料と弾薬を持って消えている部隊があります。逃げるだけなら、食糧と車両を優先します。通信機材まで持ち出す必要はありません」

 

 ブライトが地図上に線を引いた。

 

「通信途絶地点と重ねます。南米方面へ線が寄っています」

 

 通信士が別の記録を読み上げる。

 

「南米地下施設の周辺で、未確認の暗号通信が増えています。建設用の暗号形式に近いものも混じっています」

 

 レビルはそこで、わずかに目を細めた。

 

「建設用暗号か」

 

 マチルダは、ファイルの端を親指で押さえた。

 

「長期滞在用の備蓄がある場所を探している可能性があります」

 

 ブライトが地図を見たまま言った。

 

「あるいは、最初からそこへ向かっている」

 

 部屋の空気が少し重くなった。

 

 地図は何も語らない。

 

 ただ、赤い点だけが増えていく。

 

―――――

 

 南米上空へ向かう輸送機の中は狭かった。

 

 赤い非常灯が、壁に固定された仮設通信卓を照らしている。床には通信紙が散っていた。基地放棄、燃料供給停止、通信途絶、正規軍復帰。似たような報告ばかりが、短い間隔で届く。

 

 バスク・オムは、その紙を一枚握り潰した。

 

「反乱軍、ですと。議会の連中が、我々をそう呼ぶとは」

 

 ジャミトフ・ハイマンは地図を見ていた。

 

「呼ばせておけ。名札が変われば、兵は迷う。いま起きているのはそれだけだ」

 

 通信士が報告書を差し出す。

 

「第八航空基地、正規軍復帰を宣言。第三補給施設、燃料供給停止。第十二沿岸基地、通信途絶」

 

 バスクの拳が通信卓を叩いた。

 

「脱走兵は撃ちます」

 

 ジャミトフは地図から目を離さなかった。

 

「撃つ部隊が残っていればな」

 

 バスクは黙った。

 

 通信士が、言いにくそうに口を開く。

 

「追撃可能な治安隊は半数以下です。燃料も足りません」

 

「なら、残った部隊を出せ」

 

 幕僚が答える。

 

「残った部隊は、基地防衛で手一杯です」

 

 輸送機が小さく揺れた。

 

 ジャミトフは、南米方面の地図に指を置いた。

 

「地方基地は捨てる。残す必要はない」

 

 バスクは顔を上げた。

 

「では、残存部隊は」

 

「使える兵、燃料、弾薬、通信機材だけを南米へ集めろ」

 

「南米……建設中の地下要塞ですか」

 

「そうだ」

 

「守るのですか」

 

「違う。入れさせる」

 

 バスクの口元が歪んだ。

 

「入ったところで潰す」

 

 ジャミトフは、そこで初めてバスクを見た。

 

「潰す相手を間違えるな。レビル、ブレックス、補給を動かしている者たちだ。兵だけを殺しても、戦争は終わらん」

 

「では、まとめて始末します」

 

「命令を待て、バスク。貴様の役目は殺すことだ。だが、殺す順番は私が決める」

 

 バスクは短く顎を引いた。

 

「了解しました」

 

 ジャミトフは地図の一点を指した。

 

「南側進入口を開ける」

 

 通信士が別の報告を読む。

 

「外周通信応答。南側進入口、封鎖解除準備中」

 

「進路を維持しろ」

 

 ジャミトフは静かに言った。

 

 バスクは血で勝とうとする。

 

 ジャミトフは場所で勝とうとしていた。

 

 守るためではない。

 

 入れさせるための地下要塞だった。

 

―――――

 

 夜になり、ダカールの情報室の照明は落とされた。

 

 壁面地図だけが明るい。赤い点が地球各地から南米内陸へ向かって伸びていた。通信途絶地点、燃料消費量、建設用暗号、南米地下施設周辺の通信。ひとつひとつは小さな点だったが、重ねると行き先が見えた。

 

 通信士が顔を上げる。

 

「南米方面で、連邦軍建設暗号が復帰しています。発信源はジャブロー建設区画周辺と推定」

 

 マチルダが緑色のファイルを開いた。

 

「燃料の消費量から見ても、海岸沿いではありません。内陸へ入っています。弾薬と通信機材も一緒です。逃げる積み方ではありません」

 

 ブライトが言った。

 

「籠もる準備ですね」

 

 レビルは地図を見たまま黙った。

 

 指先が、南米の奥で止まる。

 

「ジャブローか」

 

 その名が出た瞬間、アムロの手がわずかに止まった。

 

 エドワウも地図から目を離さなかった。

 

 密林。地下区画。新しく作られた大要塞。逃げ道の見えない通路。前の記憶の底にある、白い熱。

 

 アムロは何も言わなかった。

 

 言えば、声に余計なものが混じると思った。

 

 レビルが命じた。

 

「ジャブローの建設資料を出せ。竣工図、施工記録、増設計画、搬入口、地下水路、格納区画、反応炉区画、弾薬庫、退避路。未整理のものも含めてだ」

 

 ブライトが一歩前へ出た。

 

「レビル大将」

 

「何だ」

 

「エドワウ氏とアムロ氏は軍属ではありません。ジャブローの資料をここで見せてもよろしいのですか」

 

 部屋の空気が少し硬くなった。

 

 ブライトの問いは正しかった。若いが、そこを流さない。軍の資料を民間人へ見せるなら、理由と範囲が要る。

 

 レビルは短く答えた。

 

「全資料は見せん。作戦に必要な範囲だけだ」

 

 エドワウが静かに口を開いた。

 

「ロジスティックスの仕事で、我々はジャブローには何度か入っています」

 

 ブライトが目を向ける。

 

「ジャブローに?」

 

「建設資材の搬入、搬入口の時間割、地下水路周辺の通行制限、重機の搬入経路です。軍の作戦区画ではありません。ですが、荷を通した場所と、通せなかった場所は覚えています」

 

 マチルダが頷いた。

 

「補給動線ですね」

 

「はい。機密区画の中身までは知りません。ただ、どの搬入口が広いか、どの通路で車両が詰まるか、どの区画が図面より使いにくいかは分かります」

 

 レビルはブライトを見た。

 

「ならば、搬入口と補給動線は見てもらう。ブライト、開示範囲を記録しろ」

 

「了解しました」

 

 そこで、アムロが地図を見たまま言った。

 

「反応炉区画と弾薬庫の位置だけは、早めに確認した方がいいと思います」

 

 レビルがアムロを見る。

 

「理由は」

 

「地下基地です。追い詰められた部隊が籠もるなら、出口を塞ぐか、内部で爆発を起こすか、そのどちらかを考えます」

 

 アムロはそこで言葉を切った。

 

 言いすぎれば、前の記憶が混じる。

 

 エドワウが続けた。

 

「ジャミトフが守るだけで終わるとは思えません。敵を入れるつもりなら、壊す場所も決めているはずです」

 

 レビルは二人を見た。

 

 しばらくして、短く頷いた。

 

「よし。反応炉区画、弾薬庫、主要退避路は軍側で確認する。アムロ、君はMSで入った場合に危険になる場所を見ろ。狭い通路、逃げ場のない区画、機体が旋回できない場所だ」

 

「分かりました」

 

「エドワウ、君は搬入口と補給動線だ。黒猫が荷を入れた場所なら、軍の資料より現場に近い」

 

「承知しました」

 

 マチルダがファイルを閉じた。

 

「補給の流れから見ても、長期籠城だけではありません。通信機材を多く持ち込んでいます。中で何かを動かすつもりです」

 

 エドワウは地図を見た。

 

「罠でしょう」

 

 レビルは短く答えた。

 

「だろうな」

 

 情報室に沈黙が落ちた。

 

 地図の上では、南米の密林の奥にジャブローの名が浮かんでいた。その地下へ、ティターンズの残った戦力が集まりつつある。

 

 その時、通信士が顔を上げた。

 

「レビル大将」

 

「何だ」

 

「サイド3から通信が入っています」

 

 部屋の空気が変わった。

 

 ブライトが思わず聞き返す。

 

「サイド3?」

 

 通信士は端末を確認した。

 

「発信元は、ズムシティ。総帥府直通暗号です」

 

 エドワウが、初めて地図から目を離した。

 

 通信士が続ける。

 

「ギレン・ザビ総帥からです」

 

 

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