妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第24話 分類棚の前に立つ男

 

人を分類したがる人間は、だいたい最初に部屋を見たがる。

 

顔より先に椅子の位置を見て、窓の高さを見て、扉までの距離を測る。誰がどこに座り、誰が立ったままなのか、その配置の方を先に覚える。そういう人間は、話を聞いているようでいて、たいてい話の前提になっている空気の方を見ている。言葉に嘘が混じっていても、足の置き方まではなかなか演技できないからだ。だから厄介なのだ。こちらが何を言うかより、こちらが何を隠す時にどの方向を見るかを先に拾われる。

 

フラナガンという男は、まさにその種類の人間だった。

 

翌朝、私はそのことを思い出しながら食堂へ向かった。前世で知っている相手と、今世で初めて会う相手として向き合う時、人は妙な疲れ方をする。知らないふりをするのは嘘をつくのとは少し違う。むしろ、知っている部分を削ってから喋る作業に近い。削ったところだけ、頭の中に白く残る。朝からそれをやると、コーヒーの味が少しだけ平板になる。

 

食堂へ入ると、父は上機嫌だった。理由は半分くらいわかっている。頭頂部の扱いに、ここ数日で妙な自信が出てきたのだ。グレイトグロウはどうやら、毛の数そのものより、希望の置き方に効くらしい。最近の父は鏡の前で数秒だけ立ち止まる。その数秒が、家族全員にうっすら知られている。人は、国家より自分の頭皮に先に住んでいる。責めるほどのことでもないが、感動するほどのことでもなかった。

 

「ギレン」と父が言った。「今日はあの医者だったな」

 

「ええ」

 

「変わり者らしい」

 

「そう聞いています」

 

父はそこでパンを切り、それからわざとらしくない動作で一度だけ頭へ手をやった。最近では、あの仕草が会話の句点になりつつある。

 

「変わり者は嫌いではない」と父が言った。「だが、国に使う変わり者は、使う前に名前より癖を見ろ」

 

私は少しだけ驚いた。

父は時々、本当に嫌になるほど短く正しい。

 

「承知しました」

 

ドズルがスープ皿を持ち上げながら言った。 「医者なんだろ。そんなに構えることか」

 

「医者に見えて、医者だけではないかもしれん」と父が言った。

 

それは珍しく、私ではなく父の方から出た言葉だった。ドズルは少し考え、それから肩をすくめた。ガルマは話の中身より、テーブルの端に置いてある試作品の弁当箱の方を気にしていた。あの年齢なら当然だ。国家より蓋の開けやすさの方が人生に近い。

 

「今日は弁当も出るの?」とガルマが訊いた。

 

父が真顔でうなずいた。 「出る。昨日より蓋は改良された」

 

キシリアがカップを置いた。 「父上、共同防災訓練の成功より、もう蓋の進歩の方を喜んでいない?」

 

「人は最初に蓋へ腹を立てる」と父が言った。「腹を立てたまま警報を聞けば判断が遅れる」

 

ドズルが吹き出した。 「言ってることはわかるが、先にそこへ行くのが父上らしいな」

 

私はコーヒーを飲んだ。

最近の食卓はおかしい。

国家建設の話と育毛剤と弁当箱の蓋が、同じ温度で回っている。

 

「兄上」とキシリアが言った。「今日は怖い顔をしすぎないでね」

 

「するかもしれんな」

 

「やめて。ガルマが先に緊張するから」

 

ガルマはそこで、慌てて自分の顔を隠すようにカップへ視線を落とした。子どもというものは、話題が自分へ向いた瞬間に何も知らないふりをするのが下手だ。見ていて少しだけ救われる。

 

「機嫌が悪いのか」と父が言った。

 

「悪くはありません」

 

「では、警戒しているな」

 

私は父を見た。

やはり時々、この人は正確だ。

 

「ええ」と私は言った。「少しだけ」

 

キシリアはそれを聞いても、何も言わなかった。そこがあの女らしい。本当に大事なところほど、家族の前では軽口にしない。軽口にしてよい部分と、してはいけない部分の線引きが妙に冷たいのだ。

 

食後、私は執務室へ戻った。セシリア・アイリーンはすでに来ていた。茶が一つ、机の右端に置かれている。書類の順番も、今日だけは少し変えてあった。最初に港湾の現場記録、その下に症例断片、その下に情報局からの照会。つまり、フラナガンへ見せる順番のまま並んでいる。彼女はやはり、物事を置く順番で人の呼吸を整えるのがうまい。

 

「本日の予定です」と彼女が言った。「午前に港湾区画の現場確認。次に補助作業員との面会。午後は月面側倉庫補助の記録確認。その後、必要なら本人との面会調整に入ります」

 

「必要なら、か」

 

「博士の反応次第です」

 

「博士と呼ぶのか」

 

セシリアは少しだけ首を傾けた。 「他に便利な呼び方がありませんので」

 

私はそこで小さく笑った。

便利な呼び方。

確かにそうだ。

フラナガンという男に最初から大きすぎる肩書きをつけるのは危険だが、呼ばずに済ませられる相手でもない。国家というものは案外、こういう呼称の加減から始まる。

 

「机の順番を変えたな」と私は言った。

 

「はい」

 

「理由は」

 

「記録から先に見せると、机の上で結論へ行きます。現場を先に歩かせれば、少しは人間の方に引っ張られます」

 

私は彼女を見た。

それはかなりいい判断だった。

前世でのフラナガンは、机の上だけでも十分に人を切り分けた。だが今はこちらが先に歩かせる。歩かせれば、紙と人のずれが多少は見える。多少は、だが。

 

「正しい」と私は言った。

 

「ありがとうございます」

 

「お前は最近、礼を言われると少し困るな」

 

「そうでしょうか」

 

「そうだ」

 

「まだ慣れておりません」

 

その答え方が少しだけよかった。

慣れていない、と正直に言う。

セシリアは疲れている時ほど、余計な飾りを落とすらしい。

 

「茶は軽いな」と私は言った。

 

「今日は重い方が合わないと思いました」

 

「なぜだ」

 

「警戒しておられる日は、濃いものを置くと黙りすぎます」

 

私は湯呑みを持ち上げた。

少し笑いそうになった。

そこまで読んでいるのかと思うと、ありがたいより先に少し怖い。

 

「お前」と私は言った。「本当に、人の機嫌で茶を変えるのだな」

 

「有能な秘書ですので」

 

「自分で言うな」

 

「結果が伴っている時だけです」

 

私はそれには返さなかった。

返さない時の方が、相手が正しいことを言っている場合が多い。

 

港湾区画の小会議室には、キシリアとシンシアが先に来ていた。フラナガンはまだいない。私はその少しの間に、椅子の位置を自分で決めた。正面に置かない。斜めもよくない。真正面だと対立になる。斜めだと共犯に見える。だから少しだけ横へずらす。こっちが部屋を先に作る。そうしないと、あの男は入ってきた瞬間にこちらを棚へ置くだろう。

 

「兄上」とキシリアが言った。「顔、昨日より悪いわよ」

 

「余計なお世話だ」

 

「そうね。でも役には立つ」

 

「何のだ」

 

「警戒してるって、相手にもわかるもの」

 

私は妹を見た。

前世を知っているのはこの女だけだ。

だからこういう時の言葉が、どうしても他の誰より短くなる。説明しなくていい。だが、説明しなくていい相手ほど疲れることもある。

 

「お前は平気なのか」と私は訊いた。

 

キシリアは少し笑った。 「平気ではないわ。懐かしいだけ」

 

「それは良い意味ではないな」

 

「もちろん」

 

そこへフラナガンが入ってきた。

 

やはり最初に部屋を見た。

入って二歩、視線だけで窓、扉、机、椅子、私、キシリア、シンシアの順に拾う。

同じだ。

前世でもそうだった。

病人を見る目ではない。

分類棚の前に立つ学者の目だ。

人間を観察する時に、いきなり心へ行かない。先に外形へ行き、配置へ行き、最後に言葉へ来る。

 

「お待たせしました」とフラナガンは言った。

 

声も前と同じだった。

静かで、大きくない。

だが、こちらの反応を試すには十分な音量だ。

最初から人の神経の端を測っている。

 

「待ってはいない」と私は言った。

 

「それは失礼しました」

 

「失礼だとは思っていない顔だな」

 

フラナガンはそこで、ごくわずかにだけ口元を動かした。 「便利な言い方をなさる」

 

私は少しだけ目を細めた。

やはりそうだ。

変わっていない。

いや、変わっていないように見えるだけかもしれないが、少なくとも今のところは、前世で知っているあの男の延長にいた。

 

キシリアが紙束を指した。 「昨日見せた記録のうち、港湾側の作業員をまず呼んでるわ」

 

「順当です」とフラナガンは言った。

 

「そう」とキシリア。 「懐かしいくらい順当でしょ」

 

私はその言い方にだけ、少しだけ神経が固くなった。

シンシアは気づいていない顔をしている。

よかった。

気づかれる必要はない。

 

作業員が入ってきた。昨日の港湾補助の男だ。緊張していたし、呼ばれた理由も半分くらいしかわかっていない顔だった。前世で見たことのある光景だと思った。フラナガンは、こういう「自分が何の棚へ置かれようとしているか知らない相手」に対してやけに有能だった。

 

「名前を」とフラナガンが言った。

 

男が名乗ると、フラナガンは一拍だけ置いてから続けた。

 

「昨日、嫌な感じがしたそうですね」

 

男は戸惑った。 「ええ、まあ……」

 

「どこが嫌だったのです」

 

「どこ、と言われても」

 

「胸ですか。喉ですか。皮膚ですか。耳ですか」

 

私はその問いの並べ方に、前世の記憶が少し軋むのを感じた。

同じだ。

最初に本人の言葉を奪うのではなく、言葉の輪郭を与えてやる。

だが与えられた輪郭は、後で分類しやすい形になっている。

親切に見えて、実は棚を作っているだけだ。

 

男は答えた。 「胸……だと思います。いや、喉かもしれません。変な感じで」

 

「痛みではない」

 

「違います」

 

「恐怖でもない」

 

「いえ、怖いっていうより、なんか、よくないっていう感じで」

 

フラナガンは頷いた。

それだけだった。

余計な慰めも、共感の顔も作らない。

私はその無愛想さを嫌いではない。

嫌いではないが、好きになると危険だとも知っている。

 

「前にもありましたか」とフラナガン。

 

「二、三回は」

 

「全部当たりましたか」

 

「いや……別に、何もなかった時も」

 

フラナガンは紙へ短く何かを書いた。 「では、当たったものだけを強く覚えている可能性があります」

 

男の顔が少し曇った。

そりゃそうだろう。

変な感覚を打ち明けた直後に、それは思い込みかもしれませんね、と切られれば少し傷つく。

 

キシリアがそこで口を挟みかけたが、私は先に視線で止めた。

あの女はこういう時、相手の中へ踏み込んででも話を引き出したがる。

前世でもそうだった。

だが、それを早くやりすぎると、フラナガンの分類と混ざってろくなことにならない。

 

「当たらなかった時」とフラナガンが続けた。 「何日くらい前でした」

 

「何日……ってほどじゃなくて、その場で、です」

 

「現場から離れると消える」

 

「だいたいは」

 

フラナガンはまた書いた。 「それで十分です。次」

 

男は目を瞬いた。

十分なのか、不十分なのか、たぶんわからなかったのだろう。

私にも最初はわからなかった。

だが前世で何度か同じ場にいて、ようやくこの男の「十分です」は、必要な分だけは取れた、という意味なのだと知った。

 

面会が終わると、男は少しだけ救われた顔で出ていった。救われたというのは妙な表現だ。自分が狂っているとは言われなかったからだろう。一方で、理解されたわけでもない。その中途半端さが、フラナガンという男の最初の仕事にはよく似合う。

 

「弱い」とフラナガンは言った。

 

キシリアがすぐに反応した。 「症例として?」

 

「はい」

 

「理由は」

 

「本人が自分の感覚を恐れていない。

まだ偶然と日常の境目にいる。

こういう例は、もう少し数を見ないと棚に置けません」

 

「棚」と私は言った。

 

フラナガンは私を見た。 「ええ。棚です。分類とはそういうものです」

 

私は少しだけ笑った。

相変わらずだ。

前世でもこの男は、人間を棚に置くことへのためらいが薄かった。

だから使いやすく、だから危険だった。

 

「次は月面の件だな」と私は言った。

 

「ええ」とキシリア。 「そっちは記録だけじゃなく、本人も呼べる」

 

フラナガンの目が、そこで初めて少しだけ動いた。強い動きではない。だが、興味はあった。やはり前と同じだ。本物かもしれないものの前でだけ、わずかに焦点が合う。

 

午後、月面倉庫補助の記録を整理するため別室へ移った。本人はまだ移送中で、記録だけが先にある。シンシアが読み上げ、フラナガンが短く切り分ける。病理、保留、要観察。その速度が少し嫌だった。人を切る速さというのは、それだけで一種の冷酷さになる。

 

「前と同じ」とキシリアが小さく言った。

 

私は彼女を見た。

その声色には、面白がりだけではないものが混ざっていた。

懐かしさと警戒と、ほんの少しの悔しさ。

私も同じだった。

前世でこの男を使ったのは失敗だったのか、必要だったのか、その答えがまだついていないからだ。

 

「そうだな」と私は答えた。

 

「兄上」とキシリア。 「前より慎重でしょ」

 

「お前もだろう」

 

「ええ。でも前より危険かもしれない」

 

私はその言葉にすぐには返せなかった。

それもまた、たぶん本当だった。

同じ道具でも、一度使った記憶を持っていると、二度目は使い方が上手くなる。

上手くなるということは、往々にして危険の質が変わるということだ。

 

面会が終わる頃には、日が傾いていた。

フラナガンは紙を整え、静かに言った。

 

「今必要なのは場所ではありません。記録の統一です。

医療、事故報告、教育、軍務、その境界にある言葉を揃えてください。

同じものを違う言葉で呼ぶと、後で全部が散ります」

 

「研究所は」とキシリアが訊いた。

 

「まだ要りません」とフラナガンは答えた。 「早い箱は、現象を歪めます」

 

私はそこで、ほとんど前世のままだと思った。

最初に箱を急がない。

だが、それは慎重さというより、まずは中身を吟味したい欲だ。

箱を作らないのではない。

後で、もっと自分に都合の良い箱を作るために待っている。

それがこの男だ。

 

夕方、自室へ戻ると、セシリアが待っていた。今日は茶だけでなく、小さな皿が二つ置かれている。片方は昨日よりましな形のおにぎり、もう片方は妙に不格好な焼き魚だった。

 

「何だこれは」と私は訊いた。

 

「比較です」と彼女は言った。

 

「何の」

 

「おにぎりだけでは偏るかと」

 

私は皿を見た。 「どちらがお前だ」

 

「聞かない方が平和です」

 

「つまり片方はお前なのだな」

 

「はい」

 

私は少し笑った。

彼女のこういう返しは、最近前より柔らかい。

柔らかいということが、私には少し危ない。

 

「フラナガンは前と同じだった」と私は言った。

 

セシリアは茶を注ぎながら言った。 「今日の印象として、ですか」

 

危なかった。

私は一瞬だけそう思った。

この女は前世を知らない。

知っているのは私とキシリアだけだ。

今の言葉は、その境界に少しだけ近づきすぎていた。

 

「そうだ」と私は言い直した。 「今日見た限り、想像通りだった」

 

セシリアはそれ以上追わなかった。

そこがありがたかった。

有能な人間は、時々追わないことでこちらを助ける。

 

「使えますか」と彼女は訊いた。

 

「使える」と私は答えた。 「だから困る」

 

彼女は少し考えた。 「閣下は、便利な人間を前にすると疲れて見えます」

 

私は彼女を見た。 「よく気づくな」

 

「見ておりますので」

 

その言い方が、少しだけ胸に残った。

見ておりますので。

たったそれだけなのに、妙に距離が近い。

私は疲れているらしい。

疲れていなければ、こんな言葉の置き方に気を取られたりしない。

 

「セシリア」と私は言った。

 

「はい」

 

「お前は、説明のつかないものを信じるか」

 

彼女は即答しなかった。

軽い茶の香りが少しだけ立ちのぼる。

窓の外では人工夕景が倉庫群の上を薄く滑っていた。

 

「信じるかどうかより」と彼女は言った。 「誰がそれを持つか、の方が怖いと思います」

 

私は湯呑みを置いた。 「それは正しい」

 

「フラナガン博士は、持つ側になりたがる人ですか」

 

「なりたがるというより、自然にそこへ手が行く」

 

「では危険ですね」

 

「かなりな」

 

彼女はほんの少しだけ微笑んだ。 「今日の比較は、おにぎりの勝ちですね」

 

「何の話だ」

 

「危険な話が続いたので、せめて比較で片づくものを一つ入れました」

 

私はそこで笑った。

そういう気の遣い方をするのか、と少し驚いた。

驚いたが、嫌ではなかった。

 

夜、キシリアが最後に顔を出した。

ノックは一度だけ。

私は最近、あの一度きりのノックでだいたい機嫌までわかるようになってきた。嫌な慣れだと思う。

 

「兄上」と彼女は言った。「彼、使えるわ」

 

「それはもう聞いた」

 

「前と同じ箱は作らない。でも、前より深いところまで見るかもしれない」

 

「そうだろうな」

 

「怖い?」

 

私は少しだけ考えた。 「便利だと思う方が、怖い」

 

キシリアはそれを聞いて、珍しくすぐには笑わなかった。 「ええ」とだけ言った。 それで十分だった。 前世でフラナガンを使った二人の間では、その一言でたいてい足りる。

 

彼女は扉へ向かった。

だが出る前に、また一度だけ振り返った。

 

「兄上」

 

「何だ」

 

「次は、月面側の本人よ」

 

それだけ言って、キシリアは出ていった。

 

私はしばらくその扉を見ていた。

月面側の倉庫補助。

二度続けて“嫌な感じ”で事故を避けた人間。

そこへフラナガンを会わせる。

やることは単純だ。

だが単純なことほど、後で大きな分岐になる。

 

窓の外では、サイド3の人工夜が静かに回っていた。

まだ公国ではない。

まだ独立もしていない。

だが橋は増え、若い実務者は同じ弁当を食べ、父は弁当の蓋と頭頂部の未来を信じ、こちら側では前世で使った危険な男を、今世でどう使い直すかという話が始まっている。

 

国家というものは、案外そのくらい滑稽で、そのくらい危ういところから続いていくのかもしれなかった。

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