妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第3話 ボルトと予算と、赤い子ども

子どもを工廠に連れていくべきではない。

それが一般的な常識だと思う。鋼材は重いし、床は固いし、作業員は忙しい。だいたいどの世界でも、子どもと工場の相性はよくない。ましてそこが、未来の戦争をひそかに組み立てつつある場所なら、なおさらだ。

 

しかし政治の世界では、一般的な常識というものは驚くほど役に立たない。

役に立つのは、もっと湿っぽくて中途半端な判断だ。連れていかないことで生まれる疑念と、連れていくことで生まれる傷を秤にかけて、まだましな方を選ぶ。国家というものは、そういう消極的な算数の集積でできている。

 

だから私は、その朝、キャスバルとアルテイシアを工廠へ連れていくことにした。

まるで遠足の引率みたいだったが、もちろん水筒も菓子もなかった。代わりにあったのは警備計画書と避難経路図、それに私のあまりよくない予感だった。

 

出発前にキシリアが執務室へ現れた。白い手袋をはめ、いつものように、誰かの秘密をもう半分くらい見抜いている顔をしていた。

 

「本気なのね」と彼女は言った。

 

「何がだ」

 

「子どもたちを工廠へ連れていくこと。兄上、時々、信じられないくらい大胆か、信じられないくらい馬鹿か、そのどちらかになるわ」

 

「両立は可能だ」

 

「ええ、兄上が証明している」

 

私は書類から目を上げた。

 

「お前は反対か」

 

「反対はしない。ただ、帰ってくるときに人数が減っていたら困るだけ」

 

「不吉なことを言うな」

 

「不吉じゃないわ。実務よ」

 

彼女は机の端の見学許可証を一枚つまみ上げ、眺めた。

 

「キャスバルはともかく、アルテイシアまで?」

 

「片方だけ連れていけば余計に物語が生まれる。人は不公平を見つけると、そこに意味を足したがる」

 

「兄上らしい発想ね。血の通わない優しさ」

 

「通いすぎた血は掃除が面倒だ」

 

キシリアは少しだけ笑った。

 

「ヘルメットは忘れないで。あと、兄上も撃たれないように」

 

「工廠見学でか?」

 

「場所は関係ないでしょう。兄上は」

 

その言い方がひどく正確だったので、私は返事をしなかった。

 

キャスバルとアルテイシアは、ダイクン家の仮住まいの玄関で待っていた。

キャスバルは濃い色の上着を着て、顔つきだけはすでに少年というより若い裁判官のようだった。アルテイシアは薄い青のワンピースで、落ち着きなく靴先を見ていた。子どもらしさというのは救いだが、同時に大人を試す装置でもある。

 

「おはよう」と私は言った。

 

アルテイシアが先に答えた。

「おはよう。ほんとうに行くの?」

 

「そのつもりだ」

 

「おおきい機械がある?」

 

「嫌になるほどある」

 

「じゃあ行く」

 

それで話は半分済んだ。

もう半分はキャスバルだった。

 

「なぜ僕たちを」と彼は訊いた。

 

「見せたいものがある」

 

「何を」

 

「戦争がどうやって始まるか」

 

彼は少しだけ目を細めた。

 

「兵士で?」

 

「違う。兵士が出るのはずっと後だ。もっと先に来るものがある」

 

「何です」

 

「見積書と稟議書だ」

 

アルテイシアが私の顔を見て言った。

「それ、つまんなそう」

 

「安心しろ」と私は言った。「現物はもっと大きい」

 

車の中で、キャスバルはほとんど黙っていた。窓の外を流れるサイド3の街路と搬送路、広告灯、空調塔、警備ドーム。それらをひとつ残らず記憶しているようだった。記憶する子どもはやっかいだ。忘れられる子どもより、ずっと。

 

一方アルテイシアは、なぜ人工空が毎朝少しずつ色を変えるのか、なぜ道路脇の植栽は全部同じ高さなのか、なぜ警備車両はあんなに四角いのかを次々に訊いた。私は答えられるものだけ答えた。答えられないものは、「設計した人間の趣味が悪い」と言えばだいたい通用した。

 

工廠ブロックに着くと、空気はすぐに変わった。

油と熱と金属粉の匂い。搬送クレーンの低い駆動音。高所作業灯の白さ。現場の空気には、いつだって少しだけ宗教に似たところがある。人は自分の手で巨大なものを作っているとき、妙に敬虔になる。

 

迎えに出たのはランバ・ラルだった。

まだ若いが、すでに軍服がよく似合っていた。彼は子どもたちを見て、いくらか驚きを隠したあと、すぐに表情を整えた。

 

「ギレン閣下」と彼は言った。「見学対象が想定より若年です」

 

「教育方針の変更だ」

 

「壮大な現場教育ですね」

 

「現場はたいてい壮大だ。教育はだいたい間に合わないが」

 

ランバ・ラルはアルテイシアに視線を落とし、少し腰をかがめた。

 

「危ない場所です。手を離さないように」

 

「誰の?」とアルテイシアが訊いた。

 

「……大人の誰かのです」

 

「じゃあ、このこわい人の?」と彼女は私を指した。

 

「できれば」とランバは言った。

 

彼は優秀だった。

子どもに向かって無理に笑わない。笑顔が苦手な人間の無理な笑顔ほど、子どもを不安にさせるものはない。

 

私たちは見学用の回廊を歩いた。厚いガラスの向こうで、搬送アームが巨大なフレームを吊り上げ、作業員たちがその周囲で小さく動いていた。上から見ると、人間はずいぶん頼りない。しかし、その頼りない生き物がこういうものを作る。そこに文明の可笑しさがある。

 

「これはなに」とアルテイシアが訊いた。

 

「作業用の機械だ」と私は言った。

 

「うそ」と彼女は言った。

 

私は足を止めた。

「なぜそう思う」

 

「だって、ぜんぶ、つかむ手がつよそう」

 

私はランバ・ラルを見た。彼も何も言わなかった。

子どもは、ときどき設計意図より本音を先に見抜く。

 

キャスバルがガラス越しの機体を見ながら言った。

 

「作業用なら、こんなに推力はいらない」

 

「よく見ているな」

 

「父上は、機械を見るときはまず重心を見ろと言っていた」

 

「いい教えだ」

 

「あなたは何を見るんです」

 

「納期だ」

 

彼はその返答を面白がらなかった。

私は少しだけ面白かった。

 

さらに奥へ進むと、試験区画の前で一団の技師が待っていた。設計主任が説明を始めたが、案の定、専門用語が多すぎた。技術者は言葉を節約する一方で、意味は増やしたがる。

 

「――したがって、各軸可動域におけるトルク偏差を」

 

「要点だけでいい」と私は言った。

 

主任は咳払いした。

 

「動きます。壊れにくくなりました。量産はまだ難しいです」

 

「その順番で十分だ」

 

アルテイシアがランバ・ラルの袖を引いた。

「このへや、なんでこんなにさむいの」

 

「機械の都合です」

 

「機械って、わがまま」

 

「人間よりはましです」とランバ・ラルは答えた。

 

私は彼を見た。

ますますよかった。こういうときに気の利いたことを言える軍人は、兵を無駄に凍らせない。

 

一通り見学が進んだころ、休憩室に通された。

鉄骨の匂いに慣れたあとだと、そこで出された薄い紅茶の匂いがやけに人間的に思えた。休憩室の壁には安全標語が貼ってあった。安全第一。確認徹底。焦りは事故のもと。戦争準備の現場にぴったりの標語だった。誰も守らないという意味で。

 

キャスバルは紙コップに触れず、私を見ていた。

 

「何だ」

 

「あなたは、これを全部、連邦と戦うために作っているんですね」

 

「今のところは抑止のためだ」

 

「抑止が失敗したら?」

 

「そのときは戦争だ」

 

「簡単に言うんですね」

 

「簡単ではない。簡単に言わないと、部下が困るだけだ」

 

彼は少し考えた。

 

「父上は、人が変われば世界が変わると言っていました」

 

「それは半分正しい」

 

「半分?」

 

「残り半分は逆だ。世界が変わると、人も変わる」

 

「あなたはどっちですか」

 

私は紙コップを手に取った。中身はひどく薄かった。

 

「私は」と言った。「どちらも信じるほど純粋ではない」

 

アルテイシアがパンをかじりながら言った。

「このパン、ぱさぱさ」

 

「工廠だからな」と私は言った。

 

「工廠って、なんでもぱさぱさになるところ?」

 

「概ね正しい」

 

そのとき警報が鳴った。

 

短く、鋭く、前回の爆破警報とは少し違う音だった。

休憩室の照明が一段落ち、赤い補助灯が点く。空気の流れまで少し変わる。現場は音より先に匂いで緊張する。どこかで焼けた絶縁材の臭いがした。

 

技師の一人が駆け込んできた。

 

「試験区画Cでシール破断、加圧漏れです。隔壁が――」

 

「人は」と私は訊いた。

 

「二名、取り残しの可能性が」

 

私は立ち上がった。

 

「子どもたちは避難回廊へ。ランバ・ラル、お前が連れていけ」

 

「閣下は?」

 

「現場を見る」

 

キャスバルが立ち上がった。

「僕も」

 

「だめだ」

 

「見るために来たんでしょう」

 

「そこまでだ」

 

彼は私をまっすぐ見た。年齢よりずっと冷たい目だった。

「都合のいいところだけ見せるんですか」

 

私は一瞬、返す言葉を失った。

その隙にアルテイシアが言った。

 

「じゃあ、わたしは?」

 

「お前は絶対だめだ」

 

「なんで」

 

「小さいからだ」

 

「それ、へんな理由」

 

私はランバ・ラルに目で合図した。彼は迷わず二人を連れ出そうとした。だが、避難回廊へ向かう途中で、別の作業員たちがどっと流れ込み、通路は一気に騒然となった。

 

嫌な予感は、だいたいこういう混雑の中で現実になる。

 

数秒後、ランバ・ラルが振り返った。

「アルテイシア嬢がいません」

 

私は呼吸を一つ無駄にした。

 

「どこへ行った」

 

「わかりません。さっきまで確かに――」

 

キャスバルの顔色が変わった。

子どもが初めて本物の恐怖に触れる瞬間というのは、見ていてあまり楽しいものではない。

 

「探す」と彼は言った。

 

「お前はここにいろ」

 

「嫌です」

 

「命令だ」

 

「あなたの部下じゃない」

 

「そうだな」と私は言った。「その点だけは正しい」

 

結局、私はキャスバルを連れて探すことになった。

ランバ・ラルには避難誘導を優先させた。現場では、すべてを同時に守ることはできない。だから順番をつける。順番をつけるたびに、誰かに恨まれる。

 

私たちは補助回廊を走った。

赤い灯が壁を薄く染め、床のガイドラインが矢印みたいに伸びている。遠くで隔壁が閉じる鈍い音がした。宇宙の工場では、空気は貴重品だ。ひとたび漏れはじめると、建物は急に正気を失う。

 

「なぜこんな場所へ連れてきた」とキャスバルが言った。

 

「見せるべきだと思った」

 

「何を」

 

「現実を」

 

「これが?」

 

「その一部だ」

 

彼は走りながら私を睨んだ。

「あなただけが現実を知っている顔をする」

 

「違う」と私は言った。「誰も全部は知らない。ただ、知らないまま決めるしかない」

 

「それが大人ですか」

 

「残念ながら」

 

角を曲がると、白い整備用小型ローダーの前にアルテイシアがしゃがんでいた。

ローダーの片アームが床材に引っかかって動けなくなっている。その横で、彼女はまるで迷子の動物でも見るみたいな顔をしていた。

 

「なにをしている」と私は訊いた。

 

彼女は顔を上げた。

「このこ、こわれてる」

 

「それは見ればわかる」

 

「でも、だれもたすけない」

 

私は一瞬、言葉を選んだ。

機械の心配をしている子どもを叱るのは、どうにも品がない。

 

「今は人間が先だ」

 

「でも、このこ、ずっとここにいる」

 

キャスバルが妹の肩をつかんだ。

「戻ろう」

 

そのとき、回廊の向こうから作業員の叫び声がした。

隔壁の一枚が半分だけ閉じ、向こう側に二人取り残されているのが見えた。加圧漏れは小規模だが、猶予は長くない。数秒、いや一分もないかもしれない。

 

補助端末には二つの選択肢が表示されていた。

非常隔壁を完全閉鎖して区画を捨てるか、試験機材への圧を落として手動で開放するか。後者を選べば、試験中の重要データと一部設備は失われる可能性が高い。前者なら、設備は守れるかもしれないが、人間は危ない。

 

私は端末を見た。

キャスバルも見ていた。

 

「迷うんですね」と彼が言った。

 

「迷わない大人は危険だ」

 

私は手動開放を選んだ。

警告表示が赤く点滅し、試験ログ損失の可能性が流れる。知ったことではない。隔壁がぎこちなく開き、取り残された二人の作業員が転がるようにこちらへ出てきた。ひとりは足を引きずり、もうひとりは咳き込みながらも、自分の端末だけはしっかり持っていた。技術者にはそういう種類の執着がある。

 

直後に向こう側の区画灯が落ちた。

高価な試験設備のいくつかは、たぶんもう駄目だった。

 

アルテイシアが言った。

「たすかった?」

 

「ああ」と私は答えた。

 

「じゃあよかった」

 

実に簡潔な総括だった。

国家予算の損失も、試験計画の遅延も、その一言の前では妙に小さく見えた。少なくとも数秒間は。

 

避難回廊へ戻る途中、キャスバルはずっと黙っていた。

アルテイシアは今度こそ私の手を握っていた。小さくて、驚くほど温かかった。こういう温度に慣れてしまうと、政治の判断を誤ることがある。だから権力者はしばしば、子どもから距離を置きたがる。

 

工廠の外へ出たころには、警報は解除されていた。

空気はまだ鉄の味がしたが、空は何事もなかったみたいに人工の青を保っていた。世界はいつも、事故や死や陰謀と無関係な顔をして続いていく。その鈍感さに、人は救われもするし、絶望もする。

 

ランバ・ラルが駆け寄ってきた。

 

「ご無事で」

 

「見ての通りだ」

 

彼はアルテイシアを見て、短く息をついた。

「次からは必ず手を離しません」

 

「ええ」とアルテイシアが言った。「でも、あのしろいこも助けてね」

 

ランバ・ラルは少しだけ困った顔をした。

「努力します」

 

それが彼にできる最も正しい答えだった。

 

帰りの車中で、アルテイシアはほどなく眠ってしまった。

工場見学と警報と逃走と救助。子どもには十分すぎる一日だ。彼女の頭が窓にぶつからないよう、私はそっとクッションを差し込んだ。そんなことをしている自分が少し可笑しかった。未来の私はたぶん想像しないだろう。妹に撃たれる直前の私なら、なおさらだ。

 

キャスバルは眠らなかった。

窓の外を見たまま、しばらく何も言わなかった。そして、屋敷が近づいたころ、やっと口を開いた。

 

「あなたは父上より現実的だ」

 

私は答えなかった。続きを待った。

 

「でも、たぶんもっと危険だ」と彼は言った。

 

「なぜそう思う」

 

「父上は理想のために人を動かした。でもあなたは、理想がなくても動かせる」

 

私は少し考えた。

それは褒め言葉ではないし、たぶん非難としてもかなり正確だった。

 

「危険なのはお互いさまだ」と私は言った。

 

彼は初めて、ほんの少しだけ笑った。

子どもの笑いというより、将来きっと人を困らせる男の予告みたいな笑いだった。

 

屋敷に着くと、夕暮れの人工光が玄関の柱を柔らかく照らしていた。

アルテイシアはまだ眠っていて、使用人がそっと抱き上げた。キャスバルは車を降りる前に一度だけ私を見た。

 

「また連れていくつもりですか」と彼は訊いた。

 

「場合による」

 

「僕は行きます」

 

「そうか」

 

「でも妹は連れていかない方がいい」

 

「なぜ」

 

「あなた、あの子に少し甘い」

 

私はその言葉に軽く眉を上げた。

 

「観察が鋭いな」

 

「家族ですから」

 

彼はそう言って降りた。

私はその背中を見送りながら、妙な気分になった。あの少年はいずれ私の敵になるかもしれないし、ならないかもしれない。だが少なくとも今日、私たちは同じ隔壁の前で、同じ二人の命を見ていた。

 

執務室へ戻ると、キシリアがすでにいた。

私の椅子に座り、勝手にコーヒーを飲んでいる。人の席に座ることにためらいのない人間は、たいてい権力と相性がいい。

 

「どうだった?」と彼女が訊いた。

 

「機械は壊れ、人は助かり、子どもは感想を持った」

 

「要領を得ない報告ね」

 

「現場はいつもそうだ」

 

彼女はカップを置いた。

 

「工廠の試験設備、かなり損害が出たそうよ」

 

「そうだろうな」

 

「惜しくないの?」

 

「惜しい」

 

「なのに切った」

 

「お前なら切らなかったか」

 

キシリアは少し考えた。

本当に少しだけ。

 

「状況による」と彼女は言った。

 

「そうだろう」

 

「でも兄上、今日それをあの子に見せたのは、あまり賢くないかもしれない」

 

「どの部分だ。私が迷うことか、私が切ることか」

 

「両方」

 

私は上着を脱ぎ、椅子にもたれた。

体の奥に、金属の粉みたいな疲労が沈んでいた。

 

「人間はな」と私は言った。「完全に冷たい相手より、ときどき温度のある相手の方を、ずっと長く警戒するものだ」

 

キシリアはしばらく黙ったあと、薄く笑った。

 

「それ、兄上自身の説明としては完璧ね」

 

「お前も似たようなものだ」

 

「私はもっと一貫しているわ」

 

「それが怖い」

 

「知ってる」

 

窓の外では、工廠ブロックの灯りが規則的に並んでいた。

今日いくつかは消え、いくつかはまた点いただろう。壊れた設備は交換され、救われた作業員は診療区画で眠り、失われた試験データは報告書の欄外で悔やまれる。世界は、だいたいそうやって帳尻を合わせようとする。

 

だが、帳尻の合わないものもある。

子どもの記憶だ。

あれだけは、会計科にも工廠にも修理できない。

 

私は机の上の見学許可証を裏返した。

そこには、朝の自分の字でこう書いてあった。

 

見せるべきは兵器ではなく、その手前にあるもの。

 

私はそれを見て、少しだけ笑った。

ずいぶん教育者ぶった文だと思った。

実際には、今日キャスバルに見せたのは兵器の手前ですらない。もっと厄介なものだった。

迷う大人と、切り捨てられる設備と、助けられる人間。

つまり、政治そのものだ。

 

キシリアが帰ったあと、私は一人で冷めたコーヒーを飲んだ。

まずかった。だがそのまずさは、どこか正直だった。

 

遠くで工廠の夜間シフト開始のサイレンが鳴った。

戦争はまだ始まっていない。

それでも、そのための夜勤はもう始まっている。

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