人はたいてい、危険な場所を間違える。
たとえば工廠。
たしかに危険だ。鉄は落ちるし、圧は漏れるし、気を抜けば人間は配管の部品みたいに扱われる。だが危険という意味では、工廠はまだ正直である。危ないものは目に見えるし、音もする。警報も鳴る。
それに比べて夕食会はどうか。
銀のカトラリー。磨かれた皿。行き届いた給仕。温度も照明も完璧。見た目だけなら人類の成熟を感じさせる。だが実際には、その卓上には暗殺、牽制、誤解、善意、そして家族という最悪の可燃物が並ぶ。
つまり、工廠より危険だった。
ダイクン家の子どもたちを招く最初の夕食会の朝、私はそのことをよく理解していた。理解していたが、止めなかった。止められなかったと言うべきかもしれない。ガルマの善意は、時々、艦砲射撃より押し返しにくい。
私は朝から席順表を三回作り直した。
一回目は、ドズルがアルテイシアの正面になり、彼の大声で子どもが泣く可能性を考えて却下した。
二回目は、キシリアとキャスバルが隣になり、会話の温度が零下へ落ちる予感がしたので却下した。
三回目は、私がキャスバルの隣、ガルマがアルテイシアの隣、父が卓の短辺、キシリアをその対角に置いた。完全ではないが、この家で完璧を目指すのは、宇宙で雨を降らせるのと同じくらい非効率だ。
秘書官が控えめに言った。
「閣下、本日の夕食会の注意事項ですが」
「読み上げろ」
「武器検査を給仕係まで含めて実施。飲料は個別管理。料理の取り分けは固定担当。政治的議題は禁止。ダイクン議長に関する直接言及は禁止。過去の死因に関する冗談は禁止」
「良い」
「追加で、ガルマ様の思いつきによる余興は禁止」
私は顔を上げた。
「余興?」
「はい。先ほど『子どもたちのために何か場が和むものを』と」
「即刻禁止だ」
「承知しました」
「あと」
「はい」
「ドズルには事前に、声量を三割落とすよう伝えろ」
秘書官はメモを取りながら、少し困った顔をした。
「三割で足りますか」
「無理なら五割だ」
「可能でしょうか」
「可能性は低いが、国家運営もそんなものだ」
秘書官が去ったあと、私は窓の外を見た。
サイド3の人工午後は、いつもよくできた偽物だ。本物の空を知らない人間なら、あれで十分満足するかもしれない。だが、偽物は完璧であるほど不安になる。夕食会も同じだった。
昼過ぎにキシリアが来た。
許可も待たずに入ってくるところまで含めて、いつも通りだった。
「兄上、顔色が悪いわね」
「お前のせいでないなら、夕食会のせいだ」
「光栄だわ」
彼女は私の机の上の席順表を見て、鼻で笑った。
「ずいぶん真面目に考えてる」
「必要だからな」
「楽しみね。父上、ドズル、私、ガルマ、そこへキャスバルとアルテイシア。
兄上、今夜は下手な会議よりずっと多くの地雷があるわ」
「知っている」
「しかも給仕まで緊張してる」
「それも知っている」
「だったら、どうしてやるの」
私は少し考えた。
理由は一つではなかった。ガルマの善意。キャスバルの観察眼。アルテイシアの無邪気さ。そして何より、相手を家の外に置いて神話に育てるより、家の中で人間として見せた方がまだましだという打算。
「物語を減らすためだ」と私は言った。
キシリアは椅子に腰掛け、足を組んだ。
「逆に増えそう」
「その可能性は高い」
「兄上らしいわね。破滅の可能性を理解して、なお実行する」
「お前に言われたくない」
「私はもっと趣味が悪いもの」
その自己認識の正確さが嫌だった。
---
夕刻、屋敷の食堂は必要以上に整っていた。
長いテーブルの上に銀器が並び、グラスはきれいに光を割っていた。花まで置かれている。誰の判断だか知らないが、政治の匂いが濃い夕食会に花を置くのは、火薬庫に香水を振るようなものだ。
ドズルが最初に現れ、席を見て言った。
「なんだこの並びは。俺がまるで危険人物みたいじゃないか」
「まるで、ではない」と私は言った。
「ひどいな、兄貴」
「声を落とせ」
「これでも落としてる」
「その情報は誰のためにもならない」
ドズルは不満そうだったが、座った。彼の良いところは、言われたことに一応は従うところだ。悪いところは、従ったうえで存在自体が騒がしいところだが。
次にガルマが来た。
今日は妙にきちんとした服を着ていて、本人だけが本当に「良い夕食会」にするつもりらしかった。
「兄上、花はどうかな」
「お前か」
「だめだった?」
「だめではない。ただ、少しだけ墓前っぽい」
ガルマは露骨にしょんぼりした。
こういうとき、善意を必要以上に傷つけると後味が悪い。私は少しだけ言い直した。
「だが、アルテイシアは喜ぶかもしれない」
「本当?」
「たぶんな」
彼はすぐ機嫌を直した。若いというのは回復が早い。
父は定刻より少し遅れて現れ、席につく前に食堂全体を見回した。
あの男は、どんな場所でもまず「配置」を見る。人ではなく配置を。だから長く生きたし、たぶんそれゆえに多くを間違えた。
「ずいぶん厳重だな」と父は言った。
「客人を迎えるので」
「家族の食卓にしては」
「家族だからです」
父はそれで少し笑った。
「違いない」
最後にキシリアが現れた。
彼女は席順を見て私にだけ聞こえる声で言った。
「兄上、キャスバルを隣に置くなんて、なかなか教育熱心」
「お前を遠ざけたかっただけだ」
「それも教育ね」
そこへ、ダイクン家の子どもたちが案内されて入ってきた。
食堂の空気が、ほんの少しだけ変わった。
大人だけの空間に子どもが入ると、場の嘘が少し見えやすくなる。人は子どもの前では、必要以上に立派に見せるか、逆に妙にぎこちなくなる。ザビ家の面々は後者寄りだった。
アルテイシアは花を見て目を丸くした。
「きれい」
「よかった」とガルマがすぐ言った。
彼はその一言で半分くらい救われた顔をした。
キャスバルは花より席順を見ていた。
やはり観察する子どもは厄介だ。
「こんばんは」と彼は言った。
「こんばんは」と父が答えた。
その声は意外なくらい穏やかだった。デギン・ザビという男は、必要とあれば祖父のふりくらい平気でできる。
全員が席につき、最初の皿が出た。
前菜は冷たい魚のマリネだった。私は心の中で給仕長に感謝した。汁物が先でないだけ、事故の被害範囲が狭い。
しばらくは、平和だった。
アルテイシアが花の名前を尋ね、ガルマが知らないまま勢いで答え、ドズルが「花は食えない」と言ってキシリアに睨まれ、父が「お前は黙って食べていろ」と言った。
この程度なら、まだ普通の家族だった。かなり騒がしいが。
問題は二皿目から起きた。
ドズルがアルテイシアに向かって、できるだけ声を落とそうとしたのだろう、少しだけ低めの大声で言った。
「この前、工廠に行ったんだってな!」
アルテイシアはうなずいた。
「おおきかった」
「そうだろう!」
「ドズル」と私は言った。
「なんだ、ちゃんと静かだろ」
「お前の中ではそうなのか」
アルテイシアは気にした様子もなく、続けた。
「白いこが、はさまってたの」
ドズルは真剣に聞いている。
あの男は、子どもと動物に対してだけは驚くほど素直だ。
「助かったのか?」
「うん。ギレンがきった」
食堂の空気が少し止まった。
キャスバルは黙っていたが、私の方を見た。キシリアは面白がっている。父は表情を変えない。ガルマだけが「兄上すごいね」と言いそうな顔をしていたので、私は視線だけで止めた。
「設備を犠牲にして人を助けたんです」とキャスバルが静かに言った。
父がそこで初めて私を見た。
「ほう」
私はフォークを置いた。
「状況上、そちらが合理的でした」
キシリアが口元を拭きながら言った。
「珍しいわよね。兄上が目の前の人間を優先するなんて」
「状況上だ」
「ええ、状況上」
ガルマが、その含みを理解しないまま言った。
「でも、いいことだと思います」
「ガルマ」と私は言った。
「何?」
「今夜は感想を減らせ」
彼は素直に「わかった」と言ったが、たぶん本当にはわかっていなかった。
メイン料理が運ばれてきたころ、父がキャスバルに訊いた。
「工廠を見て、どう思った」
悪い質問だった。
悪いが、父らしい質問でもあった。子どもの感想を聞いているふりをして、相手の思考回路を計る。
キャスバルは少し考えた。
それから言った。
「大人は、戦争より前に、戦争の形を作るんだと思いました」
誰もすぐには何も言わなかった。
厨房の向こうで皿が触れる小さな音だけがした。
「形か」と父が言った。
「はい。兵士がいなくても、まだ戦争じゃなくても、もう準備は始まってる」
「よく見ている」
「見せてもらいましたから」
その言い方は丁寧だったが、刃先があった。
父もそれに気づいたはずだ。しかし顔には出さなかった。年を取ると、そのあたりだけはうまくなる。
ドズルが耐えられなくなったように言った。
「戦争になるって決まったわけじゃないだろ」
キャスバルは兄の方を見た。
いや、兄ではない。ザビ家の男を見る目だった。
「決まってないなら、どうしてあんなに急ぐんですか」
ドズルは言葉に詰まった。
彼は正直だから、こういう問いに弱い。嘘をつけない人間は損をするが、食卓ではたまに救いにもなる。
代わりに私が言った。
「急いでいるから戦争になるわけではない。備えないから避けられるわけでもない」
「でも、備えることが相手を刺激する」とキャスバル。
「その通りだ」
「それでもやるんですね」
「そうだ」
彼はまっすぐ私を見た。
私はその視線を受けた。逃げても意味がない。
「怖いですか」と彼が訊いた。
私は少し考えた。
食卓で問われるには、妙に正確な質問だった。
「怖いな」と私は言った。
ガルマが顔を上げた。
キシリアはナイフを置いた。
父はわずかに眉を動かした。
ドズルだけが、むしろ少し安堵したように見えた。
「兄上が?」とガルマが言った。
「意外か」
「少し」
「意外なままでいてくれ」
キャスバルはそれを聞いて、ほんの少しだけ表情を緩めた。
完全な納得ではない。ただ、記録の仕方を少し変えた顔だった。
そこまでは、まだよかった。
本当に危なかったのはデザートのときだ。
甘いものが出ると、人は油断する。血糖値のせいか、文明の名残かは知らないが、とにかく少しだけ口が軽くなる。それがザビ家では致命傷につながる。
アルテイシアがプリンの上の飾りを見ながら、ふいに言った。
「これ、おとうさまも好きだった」
父がスプーンを止めた。
食堂の温度が一度、下がった気がした。
ガルマは何か慰めの言葉を探そうとした。
ドズルは珍しく沈黙した。
キシリアは表情を消した。
そして、最も危険なのはたいてい善意だという原則どおり、ガルマが口を開きかけた。
私は先に言った。
「そうか」
アルテイシアはうなずいた。
「でも、あんまりきれいに食べられなかった」
私はプリンを見た。
「それは大人として親しみが持てる」
アルテイシアは笑った。
小さく、でもたしかに。
「ギレンも?」
「私も時々失敗する」
「うそ」
「本当だ」
「きれいに見える」
「見えるだけだ」
キシリアがそこで、意外にも助け舟を出した。
「兄上は外ではきれいに食べるの。家ではたまに考え事をしていて、何を食べているかわからなくなる」
ガルマがすぐに乗った。
「ありますね。兄上、パンにバターを塗らないまま食べてたことある」
「それは覚えてない」
「僕は覚えてる」
ドズルまで言った。
「兄貴、この前も肉を切ったあと、食わずに資料見てたぞ」
「お前たちはなぜそんなことばかり覚えている」
「家族だからだろう」とドズル。
その一言で、妙に場がやわらいだ。
家族だから。
あまり信用ならない言葉だ。美しい時もあるが、多くの場合、免罪符か呪いとして使われる。だが、その夜、その瞬間だけは、少なくとも食卓の上に載っていたものを少し軽くした。
キャスバルは黙ってそれを見ていた。
アルテイシアはもう完全にプリンの方へ意識を移していた。
父は何も言わなかった。けれどその沈黙は、先ほどまでの政治的な沈黙ではなかった。もっと古い種類の、たぶん家庭というものに属する沈黙だった。
私は少しだけ息を吐いた。
うまくいった、とまでは言わない。だが、少なくとも破綻はしていない。
そのとき、給仕がワインを注ごうとして手を滑らせた。
ほんの少し。
赤い液体がテーブルクロスに落ち、白の上へ滲んだ。
誰も声を上げなかった。
だが、全員が一瞬だけその赤を見た。見てしまった。
給仕は真っ青になっていた。
私はその顔を見て、かわいそうになった。たぶん彼は今後一生、夕食会のたびにワインの色を恨むだろう。
「気にするな」と私は言った。
「も、申し訳ありません」
「クロスを替えろ。それで済む」
父も何も言わなかった。
キシリアだけが、私にだけ聞こえる声で言った。
「今夜いちばん正しい一言だったかも」
「お前は黙って食べていろ」
「兄上もね」
結局、その夜の夕食会は無事に終わった。
無事、という言葉を使っていいなら、だが。
子どもたちを見送るとき、ガルマは露骨に達成感のある顔をしていた。
「よかったね」と彼は言った。
「何がだ」
「ちゃんと、普通の夕食会みたいだった」
私はしばらく彼を見た。
「お前の普通は、だいぶ特殊だ」
「兄上たちのせいだよ」
それは否定しづらかった。
玄関で、キャスバルが私に言った。
「面白かったです」
「それは褒めているのか」
「まだ判断中です」
「賢明だな」
「でも」と彼は少し間を置いて言った。「あなたたちは思っていたより、ちゃんと家族でした」
その言葉は不思議な重さがあった。
軽い慰めではなく、警戒の修正としての評価。私はそれを覚えておくことにした。
アルテイシアはガルマに向かって手を振り、花を一輪だけもらって帰っていった。
ドズルはその様子を見て、なぜか少し照れたような顔をしていた。キシリアは終始、何かを考えていた。父は帰り際に私へ目配せだけした。あとで話がある、という合図だった。
私はその合図がひどく嫌だった。
夕食会のあとに父が話したがることに、ろくなものはない。
案の定、子どもたちが帰り、ガルマとドズルが下がったあと、父は私を執務室へ呼んだ。
部屋に入ると、父は窓の前に立っていた。
人工夜景が背中を縁取っている。あの男は、自分が少し大きく見える立ち位置を本能で知っている。
「どうだった」と父が言った。
「見ていたでしょう」
「お前の感想を訊いている」
私は少し考えた。
「思ったより壊れなかった」
父は笑った。
「お前らしいな」
「父上は?」
「面白かった」
その答えは本音だったかもしれない。
デギン・ザビという男は、たまに本当に人間の機微を面白がる。問題は、それを政治の材料とほぼ同じ温度で扱うところだが。
「キャスバルは賢い」と父が言った。
「ええ」
「ガルマと相性が悪くない」
「それを良い兆候と見るかどうかは迷います」
「お前は何でも迷うようになったな、ギレン」
「前よりは」
父は振り返った。
その顔には年齢相応の疲れがあった。しかし目だけは、まだ何かを選別している。
「迷うのは悪くない」と父は言った。「だが、迷っているあいだにも情勢は動く」
「承知しています」
「ラル家の動きも、連邦の反応も、工廠の件もな」
私はその言い方に少し引っかかった。
工廠の件。父はどこまで知っているのか。いや、知らないふりをどこまでしているのか。
「何か情報でも」と私は訊いた。
父はすぐには答えなかった。
それから、机の上の封筒を指で示した。
「月面ルートからの報告だ。連邦側の一部が、こちらの工廠拡張を必要以上に警戒し始めている」
「早いですね」
「早いから厄介だ」
私は封筒を開けた。
内容は簡潔だった。連邦高官の非公式な発言、サイド3経済圏への監視強化、輸送品目の抜き取り調査。まだ露骨ではない。だが、火のつく前の紙の乾き方みたいなものは伝わる。
「戦争準備と見られている」
「実際、そうだからな」と父は言った。
「防衛準備です」
「言い換えは自由だ」
私は黙った。
父はそういうとき、たいてい少しだけ正しい。
「お前」と父が言った。「ダイクンの子どもたちを、これからどうするつもりだ」
「生かします」
「それだけか」
「今のところは」
「キシリアはどう考えている」
「本人にお聞きください」
父はまた笑った。
「お前らしい返しだ」
そのとき、私はようやくわかった。
父は探っているのだ。私とキシリアが今どの程度まで歩調を合わせているかを。家の中の停戦は、家長にとって最も扱いづらい現象である。争っていれば分断できる。だが静かに協力されると、どこを叩けばいいのかわからなくなる。
「今夜は、あれでよかった」と父は言った。
「だが、子どもは油断ならん。
大人の言葉そのものより、言わなかったことを覚える」
「ええ」
「お前もそうだった」
私は返事をしなかった。
たぶん、そのとおりだったからだ。
---
自室へ戻る途中、廊下の角でキシリアが待っていた。
「父上、何て?」
「色々だ」
「便利な要約ね」
「お前もだいたい聞いていたんじゃないのか」
「半分くらいは」
「趣味が悪い」
「兄上に言われたくないわ」
私たちはしばらく並んで歩いた。
夜の屋敷は静かで、絨毯が足音を吸っていた。こういうときだけ、この家がちゃんと金をかけていることを思い出す。
「今夜」とキシリアが言った。「意外と悪くなかった」
「お前にしては前向きだな」
「ええ。キャスバルが思ったより感情的じゃない」
「それは良いことか」
「少なくとも、すぐ撃ってくるタイプではない」
「基準がひどい」
「ザビ家の評価軸としては健全よ」
私はため息をついた。
「連邦の動きが早い。月面ルートから報告が来ている」
キシリアの表情が少し変わった。
「なるほど。じゃあ、今夜の夕食会の余韻に浸っている暇はないわね」
「お前は浸る気だったのか」
「少しだけ」
それは意外だった。
だが彼女はその先を説明しなかった。私も訊かなかった。家族には、踏み込まない方がましな柔らかさがある。
「兄上」と彼女が言った。「次は外に出るわよ」
「どこへ」
「ラル家。あるいは月面。
とにかく、“家の中で普通っぽく食事をした”という出来事は、外から見れば何の意味もない。
でも内側では少し意味が出た」
「珍しく詩的だな」
「今夜は花があったから」
私は笑いそうになった。
笑わなかったが、少なくとも口元は少し緩んだ。
「次の話は面倒になる」と私は言った。
「ええ」とキシリア。
「しかもたぶん、静かに」
私は自室の扉の前で立ち止まった。
静かに来る面倒ほど嫌なものはない。大声の問題はまだ対処しやすい。静かな問題は、たいてい書類か、善意か、密航経路に姿を変えている。
その夜、私は机に新しいメモを置いた。
**次回以降の注意事項**
一、夕食会での善意は予想以上に強い。
二、キャスバルは見ている。
三、アルテイシアは花と甘味で空気を変える。
四、父は探っている。
五、連邦は近い。
六、家の中が少しだけ家らしくなったときほど、外は戦争に寄る。
私はそれを読み返し、最後の一行に線を引いた。
窓の外では、サイド3の人工夜がもう少しで朝へ切り替わるところだった。
偽物の夜明けは、たいてい少し早すぎる。
だが、それでも人は目を覚ます。
たとえ次に待っているのが、家族会議ではなく、密談と動員計画と、まだ名前のついていない戦争だったとしても。