妹に撃たれない方法   作:Brooks

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ちょっと違うな?と思う部分がありましたが、毎ルールでChatGPTが出力した内容をそのまま出してます。


第7話 月面はたいてい静かすぎる

 

静かな話ほど、ろくでもない。

 

それは長く生きていれば誰でも学ぶ。怒鳴り声のある問題はまだ親切だ。通路の向こうから近づいてくるし、手すりを叩く音もする。だが静かな問題は違う。帳簿の隙間、輸送名目の書類、あるいは「安全な退避先」という上品な言葉の中に潜る。

 

夕食会の翌朝、私の机の上に置かれていた封筒は、その典型だった。

 

差出記録は月面経由の商業連絡便。

中身は二枚。

一枚は輸送ルート表。

もう一枚は、妙にきれいな字で書かれた短い報告だった。

 

**ダイクン家遺児移送の受け皿、グラナダ方面で調整の動きあり。表向きは療養。裏名目は保全。関係者にラル家周辺の名が見える。**

 

私はそれを読んで、まずコーヒーを一口飲んだ。

ひどくまずかった。

まずいコーヒーは、たいてい情報のせいだ。

 

月面グラナダ。

静かで、遠くて、しかも表向きはいくらでも用途を作れる。療養。教育。保護。悲劇の遺児に必要そうな言葉は、たいてい全部そろっている。問題は、そのどれもが逃亡経路の別名として使いやすいことだ。

 

私はもう一度報告書を読んだ。

ジンバ・ラルが動いている可能性は高い。

キャスバルとアルテイシアをここから出す。

それ自体は理解できる。むしろ自然だ。

この家に近い場所は、たいてい誰にとっても健康に悪い。

 

だが、出し方が問題だった。

露骨に追えば殉教が生まれる。

見逃せば、今度は月面で「失われた正統」の神話が育つ。

政治というのは本当に面倒だ。人を殺すより、生かしたまま物語を減らす方がずっと難しい。

 

ノックがして、キシリアが入ってきた。

もちろん返事は待たなかった。

 

「兄上、顔が“月面”になってる」

 

「どういう顔だ」

 

「遠くて、冷たくて、少しだけ信用できない顔」

 

「鏡を見た感想か」

 

「朝から失礼ね」

 

私は封筒を投げた。

彼女は受け取り、立ったまま目を通した。

 

「なるほど」と彼女は言った。

「静かな面倒」

 

「お前の予言は当たると腹が立つ」

 

「兄上のよりは可愛げがあるでしょう」

 

「内容に可愛げがない」

 

キシリアは窓辺へ歩き、紙を軽く振った。

 

「ラル家らしいといえばらしいわ。真正面から撃てないなら、正しさを抱えて連れ出す」

 

「ジンバ・ラルはそうするだろうな」

 

「で、兄上はどうするの」

 

私は少し考えた。

既に答えは半分出ていた。考えるというより、認めるのに時間がかかっただけだ。

 

「止める」と言った。

 

「殺す?」

 

「いや」

 

彼女はそこで私を見た。

「へえ」

 

「今ここで潰せば、キャスバルの中で話が完成する。

“ザビ家は父を奪い、逃げ道も奪った”と」

 

「間違ってはいないわね」

 

「正確さは物語にとって一番厄介だ」

 

キシリアは少しだけ笑った。

 

「じゃあ、どうやって止めるの」

 

「ルートを変える。

月面へは出さない。

だが、逃がす気があると思わせたまま、こちらの目の届く場所にずらす」

 

「性格が悪い」

 

「家系だろう」

 

「それもそうね」

 

私は机の上の別の書類を引き寄せた。

月面ルートに出入りする商船名簿。

その中に、一隻だけ最近不自然に荷が軽い船がある。医療物資名目でサイド3に入り、戻り荷が少なすぎる。空荷の商船ほど怪しいものはない。商人はたいてい、理想より容積を信じる。

 

「これを使う」と私は言った。

 

キシリアは名簿を覗き込み、すぐに意図を理解した。

 

「偽の受け皿」

 

「そうだ」

 

「兄上、あなた最近ますます上手ね」

 

「誉めるな」

 

「褒めてないわ。感想よ」

 

---

 

その日の午後、私はランバ・ラルを呼んだ。

 

彼はいつものように、無駄のない動きで入ってきた。

軍服に皺がなく、だが鏡ばかり見て整えた感じもしない。実務家として理想的だ。そういう人間ほど、理想家の家に生まれると苦労する。

 

「閣下」

 

「座れ」

 

彼は座った。

私は月面ルートの報告をそのまま見せはしなかった。見せるべきではない情報を全部見せるほど、私は親切ではない。少なくとも職務上は。

 

「ラル家周辺の動きについて、ひとつ確認したい」

 

ランバ・ラルの目が少しだけ細くなった。

それだけで十分だった。彼は何かを知っている。だが、ジンバ・ラルほど雑には動いていない。

 

「どの件でしょう」

 

「子どもたちの安全だ」

 

彼は沈黙した。

沈黙の長さは嘘の質を教える。

彼はあまり長く黙らなかった。完全な隠蔽をする気ではないのだ。

 

「守りたいと考える者は多いでしょう」と彼は言った。

 

「それは答えになっていない」

 

「答えない方がいい場合もあります」

 

「君は誠実だな」

 

「そう見えるなら幸いです」

 

「いや、困る」

 

そこで彼はわずかに口元を動かした。

この男は笑うと、少しだけ年相応に見える。

 

「率直に言おう」と私は言った。

「月面へ出すな」

 

彼の目が変わった。

真正面から来た言葉に対する、軍人の目だった。

 

「なぜです」

 

「遠すぎる。

遠い場所に出した子どもは、子どもではなく旗になる」

 

「では近くに置いて、監視する?」

 

「保護だ」

 

「言い換えは自由だ」

 

私は少しだけ感心した。

父に似たことを言うようになった。場数だろう。

 

「君も理解しているはずだ」と私は続けた。

「今ここで彼らを月面へ出せば、連邦も、残党も、理想家も、みな都合よく意味を足す」

 

ランバ・ラルはしばらく黙っていた。

やがて低い声で言った。

 

「ジンバ様は、あなた方を信用していません」

 

「当然だ」

 

「私も全面的には信用していません」

 

「健全だな」

 

「ですが」と彼は言った。

「月面はたしかに遠い。

そして遠いものほど、人は勝手に美しくする」

 

私はうなずいた。

彼は理解している。

少なくとも、理想をそのまま輸送してもろくなことにならないことは。

 

「協力しろとは言わない」と私は言った。

「ただ、止めろ。

子どもたちを今すぐ宇宙の外縁へ乗せるな」

 

「代わりに何をするつもりです」

 

「数日以内に、表向きの保護措置を強化する。

医療名目での移動は認める。だが行き先はこちらで決める」

 

「どこへ」

 

「まだ言えん」

 

彼は少しだけ眉を寄せた。

不満そうだったが、怒りではなかった。

計算している顔だ。

 

「キャスバル様は従わないかもしれません」

 

「知っている」

 

「アルテイシア様はもっと素直でしょうが、その分、逆に見抜くことがあります」

 

「それも知っている」

 

「では」とランバ・ラルは言った。

「なぜ私に話すのです」

 

私は答えた。

「君が、英雄になりたがっていないからだ」

 

彼は一瞬だけ黙り、それから小さく息を吐いた。

 

「買いかぶりです」

 

「そうかもしれん」

 

「ですが、閣下」

 

「何だ」

 

「買いかぶられる方が、軽く扱われるよりはましです」

 

それはたぶん本音だった。

 

---

 

夕方、私はキャスバルを一人で呼んだ。

 

応接室ではなく、小さな書庫にした。

窓のない部屋で、古い紙の匂いがする。人は本棚の前だと少しだけ声を落とす。あれは不思議な習性だ。本はほとんど何も言わないのに、相手に沈黙を要求する。

 

キャスバルは定刻に来た。

時間を守る子どもは大人を油断させる。だが、彼の場合は逆だった。守るべき時間の価値を、必要以上によく知っているように見えた。

 

「何でしょう」と彼は言った。

 

「月面へ行くつもりか」

 

彼は瞬きもしなかった。

たいしたものだ。大人でもその一言で肩が動く。

 

「誰が言いました」

 

「それを訊く時点で、半分は認めている」

 

「認めてません」

 

「そうか」

 

私はそれ以上追わなかった。

追いつめると、正しさはすぐに防御の形を取る。

 

「月面はやめろ」と私は言った。

 

彼は黙っていた。

そして、ゆっくり訊いた。

 

「なぜ」

 

「遠いからだ」

 

「それだけ?」

 

「遠い場所は便利だ。

追手からも逃げられるし、記憶も育つ。

だが、育った記憶は大抵、持ち主を不幸にする」

 

「あなたは僕の記憶まで管理したいんですか」

 

「できればしたくない。面倒だからな」

 

彼は少しだけ唇を結んだ。

怒っている。だが、完全には閉じていない。

ここで変に優しさを出すと逆効果だ。私は知っている。子どもは見抜く。ましてこの子は。

 

「あなたたちは父上を奪った」と彼が言った。

 

私は答えなかった。

正確な反論がないとき、沈黙は便利だが、卑怯でもある。

 

「そして今度は逃げ道まで奪う」

 

「違う」

 

「では何です」

 

「近くに置く」

 

「監視するために」

 

「必要なら守るためにも」

 

彼はそこで笑った。

小さく、冷えた笑いだった。

 

「あなたは本当に危険だ」

 

「前にも言われた」

 

「たぶん前回よりも」

 

私はその言葉を聞いて、少しだけ背筋が冷えた。

前回。

彼はもちろんループの記憶など持っていないはずだ。

だが時々、人は自分でも知らない語彙を選ぶ。

時間は案外、綺麗に消えない。

 

「キャスバル」と私は言った。

「君はいずれ、私を憎むかもしれない」

 

「もう十分に」

 

「そうだろうな。

だが、今ここで月面へ出れば、その憎しみはたぶん綺麗になりすぎる。

私は綺麗な憎しみが嫌いだ。手がつけられなくなる」

 

彼はしばらく黙っていた。

それから、ひどく大人びた声で言った。

 

「あなたは、僕に何をさせたいんです」

 

難しい問いだった。

政治家なら、ここでたいてい嘘をつく。

自由に、とか。

自分で選べ、とか。

そういう種類の美しい嘘を。

 

私はあまり美しい人間ではなかった。

 

「生き延びろ」と言った。

「できれば、早まるな」

 

キャスバルは目を逸らさなかった。

「それは命令ですか」

 

「助言だ」

 

「ずいぶん支配的な助言ですね」

 

「性分だ」

 

そのとき、書庫の外で小さな足音がした。

アルテイシアだった。

ノックもせずに少しだけ扉を開け、顔だけ覗かせた。

 

「お兄さま、いた」

 

「どうした」とキャスバルが言うと、

 

「花がしおれた」

 

私は思わず息をついた。

世界の大きな問題が、時々そういう小さなものに負けるのが好きだ。

 

「ガルマにもらったやつ?」とキャスバル。

 

「うん」

 

「水を替えたか」

 

「かえた」

 

「じゃあ仕方ない」

 

アルテイシアは私を見た。

「ギレン、花って死ぬの早いね」

 

「そうだな」

 

「でも、もっかい咲くのもある」

 

私は答えに少し困った。

書庫で政治と逃亡経路の話をしていた人間に向けるには、ずいぶん正しい言葉だった。

 

「種類による」と私は言った。

 

「へんなの」と彼女は言った。

「人みたい」

 

それだけ言って、彼女は去った。

扉が閉まり、また本の匂いだけが残る。

 

キャスバルは、ほんの少しだけ口元をゆるめた。

「あなた、子どもには弱いですね」

 

「そう見えるか」

 

「少なくとも、機械よりは」

 

「それはどうだろうな」

 

「でも、嫌いじゃない」と彼は言った。

「そういうところ」

 

私は返事をしなかった。

返事をすると、たぶんよくないことになる気がした。

 

---

 

その夜、報告どおり、件の商船がサイド3外縁へ入った。

 

私は工廠のときとは別の種類の緊張を感じていた。

爆発はわかりやすい。

逃亡は静かだ。

静かなものほど、人は過去をのせる。

 

港湾監視室では、灯りを落としてモニターを見ていた。

キシリアもいた。白い手袋のまま、肘掛けに指を軽く置いている。ああいうときの彼女はだいたい機嫌がいい。ろくでもない前兆だ。

 

「兄上、ほんとに乗せないのね」

 

「乗せない」

 

「優しいのか、残酷なのかわからない」

 

「両方だろう」

 

「知ってた」

 

モニターの一つに、外縁ドックへ入る小型車列が映った。

医療搬送名目の車両。

その先頭に、見覚えのある男がいた。

 

ジンバ・ラルだった。

 

私は少しだけ肩の力を抜いた。

予想どおりに来ると、ろくでもない話でも少し安心する。

 

だが、その直後、別の車両が映った。

父の周辺書記官ではない。

軍政局の人間でもない。

見慣れない民間服の男が二人。動きが軽すぎる。商人にしては視線が鋭い。

 

「誰だ」と私は言った。

 

キシリアはすぐに答えなかった。

彼女はモニターに顔を近づけ、わずかに首を傾げた。

 

「連邦側の匂いがする」

 

「匂いで言うな」

 

「兄上は紙で言うでしょう。私は匂い」

 

私は通信を取った。

「ドック封鎖はするな。

ただし、ジンバ・ラルと民間服二名の接触だけは必ず押さえろ。

子どもたちはまだ動かすな」

 

「了解」

 

キシリアが言った。

「面白くなってきたわね」

 

「私は面白くない」

 

「兄上はいつもそう言うけど、一番奥まで見る」

 

それは否定しづらかった。

 

外縁ドックの監視映像では、ジンバ・ラルが誰かを待っていた。

月面へ逃がすだけなら、こんなに周辺が騒がしくなる必要はない。

つまりこれは単なる逃亡ではなく、接触だ。

連邦側か、連邦に近い商業筋か。

どちらにせよ、話が大きくなる。

 

「やっぱり月面は静かすぎる」と私は言った。

 

キシリアが横で笑った。

「そういう場所ほど、よく聞こえるのよ」

 

モニターの向こうで、ジンバ・ラルが民間服の男に近づいた。

その瞬間、私は理解した。

 

子どもたちは逃げるためだけではない。

誰かに“見せる”ために運ばれようとしている。

ダイクンの血を。

正統の残り香を。

そしてサイド3が、もう家の中の争いだけでは済まないところへ来ていることを。

 

私は立ち上がった。

 

「現場へ出る」と言った。

 

キシリアも同時に立った。

「私も」

 

「来るな」

 

「無理」

 

「邪魔だ」

 

「心外ね。兄上一人だと、たいてい話を難しくするでしょう」

 

それはたぶん事実だった。

 

私たちは監視室を出た。

夜の通路を歩きながら、私は少しだけ可笑しかった。

夕食会でプリンの話をしていた数時間後に、今度は外縁ドックで正統性の密売を止めに行く。

宇宙世紀という時代は、本当に落差の配分がおかしい。

 

エレベーターの扉が閉まる直前、キシリアが言った。

 

「兄上」

 

「何だ」

 

「今夜、誰を止めるつもり?」

 

私は少しだけ考えた。

ジンバ・ラルか。

連邦の手か。

逃亡か。

それとも、物語そのものか。

 

「全部だ」と私は言った。

 

キシリアは満足そうに微笑んだ。

「そういうところは嫌いじゃないわ」

 

エレベーターが下りはじめた。

ドックの灯りが近づいてくる。

静かな面倒は、ついに音を持ち始めていた。

 

---

 

必要ならこのまま続けて、

**第八話「外縁ドックの静かな騒ぎ」**として、

ジンバ・ラル、連邦側の接触者、キャスバル移送計画の衝突までそのまま書けます。

 

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