妹に撃たれない方法   作:Brooks

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第95話 SS 負けないブラウ・ブロ

 

ギレンは机の上に置かれた図面を指で軽く押さえた。

 

そこに描かれているのは、まだ名前も与えられていない大型機動兵器の外形図だった。

丸みを帯びた巨大な本体、その周囲に配置された有線端末、そして中央にはサイコミュ・ブロック。

 

前世で見た姿と、よく似ていた。

 

だが、同じものを作るつもりはなかった。

 

同じものを作れば、同じ場所で死ぬ。

 

それだけは、許すつもりはなかった。

 

キシリアは図面を眺めたまま、静かに言った。

 

「ブラウ・ブロは、悪い兵器ではなかったわ」

 

ギレンはうなずいた。

 

「ああ。間違ってはいなかった」

 

有線式サイコミュによるオールレンジ攻撃。

艦隊相手には圧倒的だった。

通常のパイロットでは、あの攻撃には対応できない。

 

シャリア・ブルは、あの機体で十分に戦っていた。

 

問題は、そこではない。

 

キシリアがゆっくりと顔を上げた。

 

「悪かったのは、近づかれたことよ」

 

「その通りだ」

 

ギレンは図面の中央、本体部分を指で叩いた。

 

「本体が遅い。大きい。押し込まれたら逃げられない。

 そして、一度白兵の距離に入られたら終わりだ」

 

白い悪魔は、そこまで踏み込んできた。

 

遠距離では捕まえきれず、

有線砲台をかいくぐり、

最後は距離を詰め、ビームサーベルで切り裂いた。

 

あの光景は、今でもはっきり思い出せた。

 

ギレンは静かに言った。

 

「同じ死に方を、もう一度させる気はない」

 

キシリアは何も言わず、しばらく図面を見ていたが、やがて小さく笑った。

 

「……つまり今回は、近づかれなければいいのね」

 

「いや」

 

ギレンは首を横に振った。

 

「近づかれる前提で作る」

 

キシリアの目がわずかに細くなった。

 

「逃げる兵器ではなく、近づいてきた方が死ぬ兵器にする」

 

ギレンは別の図面を取り出した。

 

そこには、アプサラスの試験機の推進ユニットの断面図が描かれていた。

 

巨大な推進器ではない。

空間そのものを押し出すような、あの装置。

 

キシリアはそれを見て、すぐに理解した。

 

「……アプサラスのあれを使うのね」

 

「小型化する」

 

「本体に積む」

 

「そうだ」

 

ギレンは指で図面の中央をなぞった。

 

「これを積めば、本体は速くなる。

 推進剤に縛られず、質量の割に動ける。

 まずこれで、追いつかれにくくなる」

 

キシリアは腕を組んだ。

 

「それだけでは、白いのは追ってくるわよ」

 

「だから前にも使う」

 

「前?」

 

「推進場は後ろに吹くだけではない。

 前に偏向すれば、押し返す壁になる」

 

キシリアは少し考え、やがて小さくうなずいた。

 

「……Iフィールドの壁のようなものね」

 

「似たようなものだ」

 

「白兵突入の直前、一瞬だけ押し返せればいい」

 

「それで距離が開く」

 

「そしてまた遠距離戦に戻る」

 

ギレンはさらに図面の縁を指でなぞった。

 

「それでも入ってくる相手はいる」

 

「白いのね」

 

「白いのだ」

 

ギレンは静かに言った。

 

「だから、最後の牙をつける」

 

「牙?」

 

「推進場の縁に粒子を流す。

 機体の周囲に、触れた方が焼ける帯を作る」

 

キシリアは一瞬だけ黙り、それから小さく笑った。

 

「……ずいぶん嫌な兵器になるわね、兄上」

 

「近づかなければいい兵器だ」

 

「近づいたら?」

 

「焼ける」

 

キシリアは肩をすくめた。

 

「敵にしたくないわね」

 

ギレンは図面を見下ろしたまま、しばらく何も言わなかった。

 

前世。

ブラウ・ブロ。

有線砲台が空間を走り、ビームが飛び交い、

それでも最後は、白い機体が一直線に踏み込んできた。

 

避けきれなかった。

押し返せなかった。

最後の一歩を止める手段がなかった。

 

だから、今回は違う。

 

遠くから撃つ。

近づかれない。

近づけば押し返す。

それでも来るなら、触れた方が焼ける。

 

そこまでやって、ようやく同じ舞台に立てる。

 

ギレンは小さく息を吐いた。

 

「ブラウ・ブロは、悪い兵器ではなかった」

 

キシリアもうなずいた。

 

「ええ。悪かったのは、機体ではなく設計思想ね」

 

「遠くで勝つ兵器だった」

 

「だから、近くで死んだ」

 

ギレンはゆっくりと言った。

 

「今回は違う。

 遠くでも勝つ。

 近くでも負けない」

 

キシリアは図面を見ながら、静かに言った。

 

「名前はどうするの?」

 

ギレンは少しだけ考え、それから答えた。

 

「ブラウ・ブロでいい」

 

「同じ名前にするの?」

 

「ああ」

 

ギレンは図面の中央を指で軽く叩いた。

 

「ただし、今度は負けないブラウ・ブロだ」

 

キシリアは小さく笑った。

 

「いいわ。

 シャリア・ブルには、今度は長生きしてもらいましょう」

 

ギレンは何も答えなかった。

 

だが心の中では、はっきりと思っていた。

 

今度は、あの男をあんな場所で死なせない。

 

白い悪魔に追い詰められ、

光の刃で切り裂かれ、

何もできずに消えるような最後は、二度と繰り返させない。

 

ブラウ・ブロは、負けない。

 

今度は、負けない。

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