黒江真由に一目惚れした三年生男子吹奏楽部員の話 作:日向陰陽
翌日、朝練、音楽室にて。
真由「あがた祭りってなに!」
真優「ああそうだった、『暗夜の奇祭』って呼ばれてる宇治市のお祭りだけど屋台通りが活発なお祭りだよ。一昨年と去年は男子たちと行ってたけど、今年は最高の彼女が出来たから真由さんと行くつもり。いいかな?」
真由「うん!」
麗奈「オホン!オホン!」
真優「あっおはよう、麗奈、久美子。」
久美子「朝っぱらから仲いいね、何かいいことあった?」
真由「うん!」
真優「まあ…色々とね。」
譜面に目を通し該当箇所を片っ端から吹きまくる。昨日も真由さんに言われたけどバリサクのソロがないのが何とも悔やまれる。何度も何度も始めから最後まで目を通し吹きまくった。次第に慣れてきた。譜面を見ずとも吹けるようになってきた。
「「おはようございます。」」
真優「おはようございます、義井さん、すずめさん。」
すずめ「先輩!女子たちの間で話題になってるんですけどママちゃん先輩と付き合ってるってほんとうですか⁉」
真優「…? はい、本当ですよ。」
沙里「そう…なんですか…。」
義井さんの表情に陰りが見える、自惚れかもしれないがひと言言わずにはいられなかった。
真優「義井さんも美人なので近い内に素敵な男性に巡り合えると信じていますよ。」
沙里「先輩…!はい!先輩にそう言っていただけると嬉しいです!」
すずめ「先輩!私はどうですか!」
真優「すずめさんもお姉さんに似て可愛らしい顔立ちで元気一杯で、近い内に素敵な男性に巡り合えると思っていますよ。」
すずめ「可愛いだなんてそんな…! でも嬉しいです! ありがとうございました!」
真優「恐縮です。」
その後もコンクール曲を吹きまくった。1年生ふたりから褒められた。嬉しかった。
あがた祭り当日、いつも真由さんと待ち合わせている場所から最寄り駅で電車に乗って現地に向かうことに決まった。今、ノースリーブにハーフパンツという私服姿に着替えて待っている最中だ。
真由「ごめん!待った?」
真優「いや、今来たところ。私服姿も可愛いね。」
真由「真優くんこそ、凄い筋肉だよね。ナンパされてもついていかないでね。」
真優「ついていかないよ、こうしていれば。」
手を繋ぐ。
真由「うん、嬉しい。」
真優「せっかくだから写真撮っていい?」
真由「いいよ。」
例の如く前後左右に亘って撮りまくった。真由さんも俺の写真を撮ってくれた。嬉しかった。一緒に電車に乗って手を繋いだまま座る。
真優「そういえば、すずめさんに『ママちゃん先輩と付き合ってるって本当ですか?』って聞かれて一瞬誰だろうと思って葉月が真由さんのこと『ママちゃん』って呼んでるの思い出して返答したけど、どうして『ママちゃん』って呼ばれてるの?」
真由「小学生が先生のこと『ママ』って呼ぶことってあるじゃない?そんな感じで私も『ママ』って呼ばれてそのままあだ名になっちゃった。だからみんなにもその話をしたら同じように呼ばれることになったの。」
真優「確かに真由さんって大人っぽいよね。小学生の頃の真由さんも小学生離れした美人さんだったと思うよ。」
真由「真優くんこそ女子にモテてたんじゃない?」
真優「まあ…何人かの女子には告白されたけどモテてたってほどじゃないよ。」
真由「つばめちゃんが言ってた気がするけど、同級生にも後輩にも何人からも告白された聞いたけど、どうして付き合わなかったの?」
真優「その子に興味が湧かなかったからかな。だから真由さんが転校してきた時も始めはボケーっとしてたけど真由さんを見た瞬間に全身に衝撃が走った気がして心臓の鼓動も早くなって隣の席に真由さんが座った時は凄く緊張して、ああこれが一目惚れってやつで女性を好きになるってことなんだなって実感した。」
真由「良かった、北宇治に転校して。」
真優「俺も真由さんが北宇治に転校してくれて、本当に良かったと思ってるよ。でなきゃこんなに幸せな気分になってないよ。」
真由「私も真優くんに出会えて本当に良かったと思ってる。こんなに優しくて頼り甲斐があって素敵な男子と付き合えて幸せだと思ってるよ。」
宇治駅に着いて電車を降りる。駅を出ると人だかりが既にできていた。
真由「凄い人だね。」
真優「ググったら10万人以上が訪れるって書いてあった。屋台通りはもっと混雑してるよ。手を離さないでね。」
屋台通りに向かう途中でみどりやつばめたち女子集団や秀一や求くんたち男子集団に出会い集合写真を撮った。真由さんは自分が集合写真を撮られることに慣れていないのか、始めは拒否していたが俺の強い押しによって彼女を含めた集合写真も撮れた。不意に鈴木美玲さんに話しかけられた。
美玲「真優先輩と黒江先輩って本当に付き合ってたんですね。お似合いだと思います。」
真優「ありがとうございます。」
つばめ「正式に転校してきた夕方に告白したんだもんね~。その決断力と行動力は見習いたいよ。」
求「流石です、真優先輩。」
真優「ありがとうございます。」
と、まあこんな感じで男子&女子集団と別れた。屋台通りに入る。人混みでごった返している。
真優「何か食べたいものある?」
真由「真優くんと同じものが食べたい。」
真優「じゃあ焼きそばとたこ焼きをふたつずつ買ってくる。待っててね。」
手際よく焼きそばとたこ焼きを買った。走って戻ろうとした時
「真優くん。」
背後から声を掛けられた、まさか、この声は…まさか! 聞き覚えのある声の方へ振り向いた。
真優「小笠原先輩‼ 中世古先輩‼」
晴香「久しぶり、元気にしてる?」
真優「はい!元気にやってます!彼女も出来ました!とっても幸せです‼」
香織「本当⁉ 真優くんを堕とすなんて凄いわね⁉ お祝いに何か買ってあげる。」
真優「そんな…悪いですよ。」
晴香「こういう時は素直に先輩に甘えていいのよ。何が食べたい?」
真優「それでは…りんご飴をふたつお願いします。」
りんご飴をふたつ買っていただいた。
真優「ありがとうございます、先輩たちもお元気で…。」
晴香「真優くんも彼女とお幸せにね、バイバイ。」
香織「バイバイ。」
一礼してお別れする。卒業してから半年も経っていないのに随分大人っぽく見えた。あれが大学デビューというやつなのだろうか。未来の真由さんがもっともっと大人っぽくなる姿を想像し胸を躍らせながら彼女の下へ走っていった。
真優「お待たせ!買って来たよ!」
真由「お疲れ様。」
屋台通りから外れた道路脇に腰を下ろす。
真優「では早速焼きそばから…美味しい。」
真由「本当、美味しいね。」
真優「真由さんはお祭りは初めて?」
真由「小学生の頃はよく行ってたかな。中学生の頃は親の転勤が続いて行く暇がなくて…高校の時も近くにお祭りやっていた所がなくて…だから久しぶり。」
真優「そうなんだ…じゃあいっぱい食べていっぱい楽しまなきゃね。」
真由「もう楽しんでるよ、素敵な彼氏と一緒にお祭りに来れて…本当に楽しい!」
真優「そう言ってくれると俺も嬉しい。」
そんな会話を続けながら焼きそばとたこ焼きを平らげる。残りはりんご飴ふたつ。
真優「ふたつとも味が違うから試しに食べてみる?」
真由「食べる。」
俺が差し出したりんご飴をひと口、ふた口、と齧る。唇が艶っぽい。そういえば数日前にキスしたのを思い出した。アレは凄かった。
真由「ありがとう、美味しかった。」
真優「どういたしまして。」
ポケットからビニール袋を取り出しまとめて突っ込んだ。
真優「それじゃあ屋台通りを一通り歩いてから帰ろうか。やりたいのがあったらいつでも言って。」
真由「うん。」
屋台通りを手を繋いで歩いた。やがて彼女の視線がある一点で止まる。
真由「あ!射的だ!真優くんが射的やってるところ見たい‼絶対カッコいいよ‼」
真優「え?真由さんじゃなくて俺がやっていいの?」
真由「写真にも撮りたいの!お願い!」
真優「お望みとあらば…」
屋台のおやじさんにお金を払い、おもちゃの銃を構える。ぬいぐるみを撃ち落とした。
真由「凄い凄い‼ 軍人さんみたい‼」
次も、次も、デカいモノ以外は粗方撃ち落とした。おやじさんに「良い腕してるねぇ、マジでマジモンの軍人じゃないの?」と問われ「ありがとうございます。」とだけ返答した。
真優「はい、プレゼント。」
纏めて真由さんに渡した。
真由「いいの⁉ 本当に貰って⁉」
真優「真由さんの誕生日はとっくに過ぎちゃったけど、代わりの誕生日プレゼントと思って受け取ってくれると嬉しい。ちょっとショボいけど。」
真由「嬉しい‼ 私の宝物にするね‼」
真優「喜んでいただけたなら俺も嬉しい。」
それから屋台通りを一通り眺めてから帰った。あがた祭りから程なくして東京へ修学旅行にも行った。自由時間を利用して真由さんと一緒に東京観光を満喫した。進学予定の大学も見学した。
真優「ここで間違いない?」
真由「うん、ここで合ってるよ。」
真優「絶対に合ってる?」
真由「絶対に間違いない。」
真優「それじゃあ今度の進路相談で先生に報告するよ、あと両親にも。勉強も頑張らないとね。」
真由「それなんだけど、コンクールが終わったら一緒に勉強しない?私ひとりじゃ不安で…。」
真優「いいよ、俺も御両親に挨拶したいし。ビシビシやるからね。」
真由「お手柔らかにお願いします…。」
真優「ちなみに今でも勉強はしてる?」
真由「うん、練習が終わってから家に帰ってすぐにやってるけど…正直不安なの。」
真優「まあ…その辺りは俺と同じだね。今すぐにでも一緒に勉強したいけど…部活が終わったら翌日にでも真由さんの家に伺うつもりなんで御両親にもよろしくお願いいたします。」
真由「うん!よろしく言っておく!」
かくして修学旅行も終えて府大会向けのオーディションを迎えるのであった。