黒江真由に一目惚れした三年生男子吹奏楽部員の話 作:日向陰陽
―――府大会前オーディション当日、緊張はなかった。朝練でも部活でも吹いて吹いて吹きまくり譜面を見ずとも吹けるくらいにはなった。2年前、1年前、無念を抱えて引退した先輩たちの意志を引き継ぎ今年こそ全国金賞を勝ち取るつもりで情熱を込めて吹いた。オーディションはあっさり終わった。真由さんはどうだろうか、3回制オーディションが発表された時のあの怯えたような様子が脳裏から離れない。全国大会常連で金賞も珍しくない清良女子の部員としての実力を見せつけてコンクールメンバーに選ばれてほしいと心底願った。
オーディション結果発表当日、松本先生がいらっしゃってコンクールメンバーをひとりずつ発表していく。俺の名が呼ばれ気合いを入れて返事をした。真由さんの名も呼ばれた。ちらりと真由さんを見る。あの時のような怯えた様子はなく堂々としていて安心した。ひとつ意外だったのはチューバ担当の2年生の鈴木さつきさんではなく初心者1年生のすずめさんが選ばれたということだった。
美玲「真優先輩、少しだけいいですか?」
案の定というか当然というべきか、鈴木美玲さんから相談を持ち掛けられた。
美玲「ハッキリ言って…さつきが落ちる理由が分かりません。確かに釜屋さんは初心者にしてはいい音を出してはいると思います。けど、さつきの方が上手いことは流石に揺るがない気がします。」
真優「……俺は朝練で彼女の演奏を聴いただけで、後は真由さんから聞いた話ですが…彼女の音量は大きいと聞きましたし俺もそう思います。技術の差を音量でカバーした…という風に納得は出来ませんか?まあ…全て俺の憶測で滝先生に直接聞かないとわかりませんが。」
美玲「…分かりました。コンクールを前に揉め事を起こしたいわけじゃありませんし、真優先輩の仰る通りなのかもしれないと思いました。ただ…ずっと指導を受けてきた今の3年生と違って、1,2年生は滝先生をそこまで神格化していません。それは覚えておいてほしいんです。」
真優「俺も神格化はしていませんよ。そもそも3回制オーディションも初めてでそこに至った経緯を説明すべきだと思っていますし、麗奈と久美子のソロの一角が崩れたら部の動揺はもっと広がるでしょうね。まあ…とにかく貴重な御意見ありがとうございます。」
美玲「いえ、お礼を言われることでは…。」
真優「後輩でも意見や相談事は貴重ですよ。」
鈴木美玲さんを見送った後、すぐに走った。校舎裏で練習している久美子を見つけた。
真優「今すぐ麗奈と秀一を呼べ。俺は連絡先を知らん。」
久美子「え⁉ 今⁉」
真優「今 す ぐ に 呼 べ。」
数分待つこと校舎裏、麗奈と秀一がやって来た。
麗奈「何? 練習中なんだけど。」
秀一「何の用だよ?」
真優「滝先生に説明してもらうべきなんじゃねえか?3回制オーディションに至った経緯とか理由とか。もう既に不信感広がってんぞ。『ずっと指導を受けてきた今の3年生と違って、1,2年生は滝先生をそこまで神格化していません。』って言われちまったよ。お前らどうすんだこれ。」
麗奈「そこまで滝先生に負担をかけるわけにはいかない。放っておけば?」
秀一「俺も同意見。」
真優「ほーーーう。それじゃあ3年間頑張って信頼積み上げてきた部長サマが、3年生のトランペットのエースと固い友情で結ばれている部長サマが次の大会も次の次の大会も、ソロから外れて部員たちが動揺して演奏が乱れたり空気悪くなったらどう責任取るつもりなんだよお前ら。」
麗奈「……。」
秀一「……。」
久美子「……。」
真優「聞いてんのか?」
麗奈「……。」
秀一「……。」
久美子「……。」
真優「お前ら俺を舐めてんだろ?舐めてるよなぁ?」
麗奈「……。」
秀一「……。」
久美子「……。」
真優「俺の言う通りになったら耳でも目ん玉でも髪でもどこでもいいや。体のパーツがどこか無くなる覚悟はしておけ、以上。」
3人を置き去りにして俺は俺の練習にのめり込んだ。俺の怒りをぶちまけるように吹いて吹いて吹きまくった。練習時間が終わり、真由さんが俺を待っていてくれた。
真由「何かあった?」
真優「え?何が?」
真由「凄く怖い顔してたから。」
真優「別に何もないよ。」
真由「ウソつき。」
ドキッとした。と同時に嘘をついたことを心の中で詫びた。
真由「私にも言えないことなの?彼女なんだよ?真優くんの、来て。」
両手で顔を挟まれ引き寄せられキスをした。前にした情熱的なキスだ。無意識にお尻をまさぐった。スカートをめくって直接お尻を触りたかったが理性を総動員して我慢した。やがて彼女が唇を離す。名残惜しいが我慢した。
真由「落ち着いた?」
真優「うん、ごめん。真由さんに嘘をついた。本当にごめん。」
真由「何があったの?」
真優「幹部3人に『滝先生に3回制オーディションに至った経緯とか理由を説明してもらうべきなんじゃねえか?」って提案したけど聞いてくれなかったので怒りをバリサクの演奏で紛らわそうとしたけど無理でした。」
真由「『北宇治は完全実力主義だ』って言ってたのにね。」
真優「幹部があんなに情けねえ奴らだと思うと益々頭にきて…そのまま真由さんに会っちゃった。表情に出ないように我慢したつもりだけど真由さんにバレちゃった、ごめん。」
真由「素直でよろしい♪」
真優「ガッカリした?」
真由「全然♪ 正直に話してくれて嬉しいよ、彼女としての自信が深まった♪。」
真優「次の大会で真由さんがソロに選ばれてゴチャゴチャ言う奴がおったら全力で守るよ。」
真由「うん、楽しみにしてるね。私の大事な大事な彼氏さん♪」
真由さんに嫌われなくてホッとした。そして二度と彼女に嘘はつかないと誓った。
翌日、いつものように真由さんと待ち合わせをして朝練に向かった。
真優「あっそういえば夏服姿の真由さんを写真に撮るの忘れてた。撮っていい?」
真由「いいよ、好きなだけ撮って♪」
正面、左右から撮ったが後ろに回ってドキッとした。ブラジャーが透けている。彼女は気づいているのだろうか、罪悪感が湧いたが男の欲求には逆らえなかった。照準をよく定めて撮った。ついでにスカートのお尻の部分も撮った。
真由「ブラジャー透けてなかった?」
真優「……少し透けてた。」
真由「スカートの中も見せてあげるって言われたら見る?」
真優「それは流石に……理性が崩壊して学校どころじゃなくなるから遠慮しとく。」
真由「正直でよろしい。でも…ふふっ、きちんと大事にされてるんだなぁって思えて嬉しいな。」
真優「そりゃあ大事だよ。部活もあるし受験勉強もあるし、真由さんのこと…そんなに軽く見てないよ。」
真由「そういう優しいところも大好きだよ、真優くん♪」
真優「でも透けブラって嫌じゃない?」
真由「好きな人に見られるのは嬉しいけど他の人は嫌。」
真優「女子も大変だね、でもこれ以上制服の生地をブ厚くしたら夏服の意味もなさそうだし。」
真由「なるべく目立たない色にしてるつもりだけど、それ以外はどうしようもないね。」
そんな会話をしながら朝練に励み練習にのめり込んだ。
そして府大会当日、緊張はしなかった。こんなところで緊張している場合ではない。ただ、ポニーテールの真由さんも美しかったのは覚えている。演奏後に頼み込んで撮影させてもらった。(特にうなじ部分。)結果は金賞、関西大会出場決定、みんな笑顔だったが仏頂面で集合写真を撮った。
夏休みに入り音楽室と楽器室との大掃除が行われた。真由さんと一緒に窓ガラスを拭いていると聞き覚えのある声がした。振り向くと楽器室で盛り上がっている吉川先輩と中川先輩がいた。邪魔をしてはいけないと思いガラス吹きに徹した。やがて音楽室に入ってきた。
真優「お久しぶりです、吉川先輩、中川先輩。」
吉川「元気?彼女が出来たって聞いたけど。」
中川「あ、わかった。隣にいる転校生が彼女?」
真由「は、はい!私が真優くんの彼女の黒江真由と申します‼」
吉川「おおぉぉ~、すっごい綺麗…!これはあの真優も惚れるわけだ…!」
中川「難攻不落の真優を堕とすだけのことはあるわ…!」
先輩に素直に真由さんを褒められるのは凄く嬉しかった。お土産のアイスもいただいた。真由さんと分け合って食べたが部員たちに注目された。しまった、あがた祭りのノリでやってしまった。恥ずかしい。そして3日間のお盆休み(8月13日~15日)に入った。14日は真由さんとプールへ行く約束をしたので13日と15日は勉強会をすることにした。
13日、真由さんの案内で黒江邸を訪れた、お母様が応対してくださった。
真優「お初にお目にかかります、黒栄真優と申します。娘さん、真由さんの専属家庭教師として伺いました。よろしくお願いいたします。」
真由母「真由からいつも話は聞かせてもらってるの。真由のこと…よろしくお願いします。」
真優「はい、お任せくださいお母様。失礼いたします。」
真由さんのお母様は…真由さんがそのまま年齢を重ねたような美しい女性だった。外見的には母というより年齢の離れた姉と言った方が正しいかもしれない。真由さんも将来はお母様のように年齢を重ねていくと思うとテンションが爆上がりした。初めて入る女子の部屋に加えて真由さん特有のいい匂いに意識が混濁しそうになり緊張したが真由さんの勉強のためと脳内で詠唱しながら一緒に勉強した。
真由「うーん…!疲れた…!ちょっと休憩していい?」
気づけば昼になっていた。
真優「ついでにお昼ご飯食べに行っていいよ、俺はおにぎり持ってきたから気にしないで。」
真由「うん…そうさせてもらうね。」
足音が遠のいていく、勉強を再開する。真由さんにはああ言ったが一度集中した意識を途切れさせたくなかった。と思っていたら足音が近づいてくる。ドアが開く。
真由「もう!まだ勉強してる!いつおにぎり食べるの?」
真優「あともうちょっとやらせて!」
真由「ちょっとってどのくらい?」
真優「あと5~6時間くらいかな……?」
真由「それじゃ夕ご飯になっちゃうでしょ!真優くんがおにぎり食べるまで私もご飯食べないからね!」
急いでバッグからおにぎりを取り出しかぶりつく。
真優「ほら!これでいい?」
真由「とりあえず許す。全部食べてね!」
そう言い残し今度こそ足音が遠のいていった。言われた通り全部食べた。早速続きに取り掛かった。どれくらい時間が経ったかはわからない。次第に足音が近づいてくる。ドアが開く。
真由「本当に全部食べた?」
真優「食べたよ。」
真由「確認させてもらうね。」
真由さんが俺のバッグを漁る。手が止まりやがてジッパーが閉じる音がする。
真優「納得した?」
真由「……とりあえずね。」
沈黙の時間が続く。
真由「ねえ…。」
真優「なに…?」
真由「真優くんからキスしてほしい…!」
真優「もうちょっと待ってもらっていい?」
真由「ちょっとってどのくらい?」
真優「あと5~6時間くらいかな……?」
真由「そんなに待てないわよ⁉ 私のことを何だと思ってるのよ⁉」
真優「とーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっても大事な彼女だよ。」
真由「嘘よ⁉ 真優くんからキスしてくれたことないじゃない⁉ お父さんにもお母さんにも真優くんのこと話したわよ⁉ 『そういう関係』になってもいいって認めてもらえたんだから⁉」
真優「『そういう関係』って⁉ どういう関係なの⁉」
真由「愛し合う恋人同士…少し違うわね、愛し合う夫婦がするような関係って言ったら分かる?」
真優「御両親に認めていただいたのは嬉しいけど⁉ 今はその時じゃないってことは分かってほしい⁉」
真由「……そう、それならその証拠に真優くんからキスして。早くして、待ってるんだから。」
覚悟を決めた、思い返せばキスをしたのはいつも真由さんからだった。愛情の伝え方が下手だったかもしれないと反省した。早歩きで真由さんに歩み寄る。
真優「そ、それではキス…するね。」
真由「うん…!」
ゆっくりと唇同士で触れ合い舌を突き出した、それに反応するように真由さんも舌を伸ばし絡め合う。夢中でお尻に触れ、揉みしだく。真由さんの息が荒くなる。何分経ったかはわからないが真由さんの動きが止まる。ゆっくりと唇を離す。
真優「満足した?愛情の伝え方が不足してたかもしれないことについてはごめん。反省してる。」
真由「……とりあえずは満足したわ。もっと積極的にしてもいいのよ?私が不安になる気持ちも分かってもらえたかな?」
真優「うん…ごめんなさい。」
真由「分かってもらえればいいの、さあ…勉強を続けましょう。」
勉強に集中した、真由さんの覚えが良くて助かる。俺も負けていられない、より集中した。気づけば日が沈んで月が出ている。夢中になりすぎた。
真優「それじゃあそろそろ俺は帰るよ。」
真由「あ、言い忘れてたけど勉強会のこと両親に話したら『ぜひ泊っていってもらいなさい』って言ってたから泊っていって。帰るなんて言わないで、それで明日は一緒にプールに行く。問題ある?」
真優「………分かった。でも家に連絡していい?部屋から出るよ?」
真由「いいけどそのまま家に帰らないでね。」
友人の家で勉強会をすることは事前に伝えておいたので勉強がはかどって徹夜で勉強することになったから友人の家に泊ることになったと伝えて電話を切った。
真優「一応寝袋は持ってきたから廊下で寝ていいかな?」
真由「そんなの必要ないよ、ここで寝ればいいよここで。」
ここでと言いながらベッドをポンポンと叩く。拒否権はなさそうなので考えるのをやめた。その後のことはよく覚えていない。晩御飯をご馳走になっている間にお父様が帰宅されてご挨拶してお風呂をいただいた後に歯磨きをして真由さんの部屋に入ってベッドで寝たところまでは覚えている。目が覚めて朝になっていて朝食もご馳走になって気が付いたらプール場にいた。