パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜   作:佐佑左右

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第11話 元エリートは隙あらば自分語りをします

 ダンジョン探索二日目。

 まずは昨夜から待ち続けた森の入り口まで偵察に行ってみると、濃い朝霧に包まれて視界が良好ではなかった。

 

 ダンジョンには往々にしてこういうことがよくあるが、自然の仕掛け(ギミック)に乗じて魔物に囲まれでもしたら目も当てられない。

 

 だからこのまま霧が晴れるまでいくらか待とうとミュリエルに提案したが、彼女はそれならもう少しだけ周囲を見て回りたいと口にした。

 

 その提案に一抹の不安を覚えなくもなかったがやる気になっている彼女に水を差すのも悪いかと思い、いざという際には撤退を最優先することを約束させてから俺たちは再び野営場所に戻った。

 

 早朝に彼女と顔を合わせた時はつい数時間前の出来事のせいもあってかお互い赤面してしまい、なんともぎこちなかった。

 

 いくら知識豊富なおっさんといえどこういったことに対する人生経験は少なかったから、平たく言えば免疫がなかったというわけだ。

 

 しかしダンジョンという共通の話題のおかげで次第にそれも収まり、やがて彼女といつも通りのやりとりができるまでに回復していた。

 

「どうですレイドさん、地図は書けましたか?」

 

 一人分距離を空けてこちらを先導する形だったミュリエルは、そこでくるりと振り返った。

 

 ここが見通しのいい道だからよかったものの、もしそうでなければこの瞬間に敵が接近してきても発見が遅れてしまうと軽く注意していたところだ。

 

 ただ彼女の朗らかな表情を見ていると時折説教の言葉も飲み込んでしまうこともあるのだが。

 

「まあ、この辺りの経路や地形は書き終えたよ。穴埋め度は七十パーセントってところかな。全体の完成図まであとちょっとだ」

「はええ相変わらず手際がいいですね。隘路(あいろ)とか分岐路とか色々あったのに」

 

 魔物の襲撃に備え周囲に注意を払う必要のある女性に変わって、マッピング作業を行うのは執事の主な仕事の一つだ。

 ひょいと俺の手元を覗き込んでくるミュリエルにも見えるようにそれを広げると、彼女は地図の出来栄えに感心した風で息を呑んだ。

 

「一目で情報が探しやすい! それに見やすくて分かりやすい! 疑問なんですが、なんでこんなに丁寧に地図が書けるんですか?」

「こういう細々とした作業は得意だし執事として生きていく上でこれぐらいはできなきゃな。それに今まで培ってきた経験と年期が違うから」

 

 ダンジョンにおいて、地図作成のスキルはある意味もっとも重要視される能力だろう。

 せっかく金銀財宝を手に入れたとしてもそれを生きて持ち帰ることができなければ本当の意味で宝の持ち腐れだ。

 

 だからこそ冒険者は、時に大枚をはたいてまで測量者(マッパー)から地図を買い付けたりする。

 一マス単位で精緻に書き上げられた地図はある(しゅ)宝と同程度の価値があるからだ。なにせ自前で用意するとなると他の技術が必要だからな。

 

 手早く、それでいて正確に作りあげられた地図は正に冒険者にとっての生命線だ。

 ゆえに俺は数々の執事スキルの中でも特にこの部分を重点的に鍛え上げてきた。

 最悪このスキルさえあれば食いっぱぐれることはまずないだろうという小ずるい考えも作用してのことだが。

 

「前々から思ってたんですけどレイドさんの能力があれば、もっと上のパーティーに所属することだってできたんじゃないですか?」

「……かもしれないな。こう見えて俺も昔は王都で将来を嘱望(しょくぼう)されたエリートの端くれだったんだぞ。今じゃ見る影もないけども」

 

 目を閉じると、まるで昨日のことのように思い出される。あの時の俺は正しく人生で一番輝いていたと実感できる。

 現在ではこってりとした皮脂油が顔に乗って別の意味で輝いているが。テカり顔ともいう。

 

「王都……ああ、アークリル王国のことですね。数十年くらい前にその国で一番有名なパーティーの女性冒険者が国を相手に反逆を起こしたと歴史の授業で習ったことがあります。えーと確かそのパーティーの名前は——」

「『まつろわぬ槍(ゲイレルル)』だ。昔俺はそのパーティーのリーダーから王国探検隊という国家直属の冒険者集団に入らないかとスカウトされたことがあるんだ。同じ時期にギルドからSSS級ランクの冒険者として認定されたこともあったが、まあどっちも過去のことだ」

「すごいじゃないですかっ! SSS級ランクって認定上限が決まっていて、たとえ実績があっても限られた人しかなれないんですよね。いいなぁ、私だってまだC級がやっとなのに。……ってあれ、それじゃなんでレイドさんはあんな田舎の街に」

 

 触れてはいけないことだと思ったのか、途中で彼女の言葉が尻すぼみになる。別に気を遣う必要もないのに。

 だからなんでもないことのように言う。

 

「当時スカウトの条件としてあるパーティー直属の執事になってほしいと頼まれたんだが、俺の方から断ったんだよ」

「えー、どうして断ったんですか? せっかくのチャンスだったのに」

 

 まあ普通に考えればその後の躍進のきっかけになるチャンスを自分から棒に振るのはありえないかもしれないな。

 だけどその内情を知れば十人中九人は俺と同様の選択を取るだろう。

 

 なにせ――。

 

「その女性から紹介されたのは、全員幼女だけで構成された幼女だらけの、まさに幼女パーティーだったんだ」

「よ、ようじょ? 三回も言う必要が?」 

 

 俺の発した言葉にきょとんとするミュリエル。

 今一ピンときていない様子だが無理もない。

 

「ええと、それって孤児院出身の子たちだったんですか?」

「いや、そっちの養女じゃない。平均年齢が十歳以下、幼い女と書く方の幼女だ。似た言葉に童女というものもある」

「ああやっぱりそっちの意味ですよね……って、ええとそれ冗談、ですよね?」

 

 ミュリエルの反応はもっともだ。

 俺だってこの目で実際に見るまではそう思っていた。

 だが実際に現場で待ち構えていたのはどこからどう見ても本物の幼女だった。

 それも一人ではなく五人も。

 

「なんでもその子たちは冒険者として大変優れた才能を持っていたらしくて、特例中の特例として王国探検隊のメンバー候補に選出されたらしい。だけどいくら才能があろうとも精神年齢は普通の子供と同じで、だからこそその子たちの保護者兼指揮官として俺が直々に指名されたんだそうだ」

 

 一応は自分の執事としての腕を買ってくれての抜擢だったそうだ。それ自体は名誉なことだ。

 だが当時の俺は愚かにもそれを受け入れることができなかった。

 

「まだ年端もいかない子供だからとその幼女たちのことを侮ったんだ。俺はこんな子供のお守りをするために執事になったんじゃない、馬鹿にするなって食ってかかったよ」

 

 正に青二才という奴だった。

 自分にはもっとふさわしい相手がいるのだと、人を見る目のなかった若造は信じて疑わなかったのだ。

 結果としてかつて畏敬の念を抱き憧れた女性の野望を見抜くことすらできなかったというのに。

 

「それは……でも仕方ないと思います。私だってそんな年齢の子が冒険者になるなんていくら理由があっても信じられないと思いますし。ちなみにその子たちはどうなったんですか?」

「……全員死んだそうだ。俺が紹介を断ってからすぐにその子たちだけでダンジョンに挑んで。他の冒険者に発見された時には酷い有様だったそうだ」

 

 運悪く魔物の巣穴にでも迷い込んで殺されたのだろう、というのが無残にも喰い荒らされた遺体を発見した冒険者の見解だった。

 

「……そうだったんですか。レイドさんにとって辛いことを思い出させてしまってごめんなさい」

「いや」

 

 辛いのは俺じゃなく亡くなったその子たちだ。死の間際にどんな目に遭ったのか、想像するだけで居たたまれなくなる。

 

「その話を風の噂で聞いた際に後悔したよ。もし自分があの時断らずにその子たちのパーティーの執事になっていれば、もしかしたらそんな未来は回避できていたかもしれないと。だからその一件以来俺は人の選り好みはしなくなった。誰かから執事仕事を頼まれれば断ることなく役目についたよ。でも罰が当たったんだろうなあ、かつては人を見捨てた側が今度は見捨てられる側に回ったんだから」

 

 もちろんこれであの時のことがチャラになったとは思わない。

 俺が幼女たちを見殺しにしたという事実は一生付いて回るのだ。贖罪のためと言い訳をして後進の養成をしていても消えはしない。

 

「まあこんなおっさんにも苦い過去があったってわけさ。それがきっかけで人間的に成長したってもんでもないが、人生経験をコツコツ積んで今の俺があるんだな」

「私と知り合う前から色々なことがあったんですね。でも不謹慎かもしれないですけどそのおかげで私はレイドさんと出会えたんですから人生ってどう転がるか分からないものですね。なぁんて、レイドさんの人生の半分も生きていない私なんかが言っても説得力なんてないと思いますけど」

「長く生きたからって、言葉に説得力が生まれるというものでもないけどな。逆も然りだがいくつになっても幼い人間だっているさ。たとえばこれは俺の友人の話なんだが——」

 

 と、更なる昔話に花を咲かせようとした瞬間、突然通路の向こう側から「きゃあ!」という絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。




 

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