パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜   作:佐佑左右

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第19話 中年おっさんのやり直し

「――はは」

 

 いっそのことこのまま狂うことができればまだ楽だったかもしれない。

 あるいは自分では気がつかないだけで俺はもうとっくに狂ってしまっているのだろうか。

 あれだけ守りたい、失いたくないと思っていた元パーティーと現パーティーの仲間たちを一挙に無くしたというのに、こうして俺だけがのうのうと生き長らえているとはな。

 

 ……だが、そのおかげでようやく決意できた。

 

 まだ俺が冒険者として青二才だった頃に天より賜り、あまりの効力から今日まで使用を固く自制していたユニークスキル。

 自分を取り巻く環境はおろか、この世界すらも強引に巻き込んでしまうそれの封印を紐解く決意がとうとう固まった。

 

 だけどその前にこのままやられっぱなしでなるものか。

 せめて仕返しの一つでもしなければ、先立って行ったみんなに申し訳がつかない。

 

 ゆっくりと体を起こし、立ち上がる。

 皮肉なことにミュリエルを失った直後から体を蝕んでいた痛みも消えていた。

 もしかすると脳がダメージシグナルを認識することはやめたのかもしれない。

 まあ、今更どうでもいいことではあるが。

 

 すぐ脇に投げ捨てられていたナイフを拾う。

 人間の解体に用いられたそれは、べたべたした脂肪と赤黒く変色した人血で酷い有様だったが、力づくで突き立てる分には問題ない。

 

 周囲はいまだ多くの魔物に囲まれており、当然逃げおおせることはできないが元よりその選択肢もない。

 俺にとって必要なのは命からがら助かるための手段ではなく、今動ける体だ。どうせここで命を落とすことになるのだから。

 追い詰められた獲物の抵抗は時に末恐ろしい。

 玉砕覚悟であれば、もうそれ以上の痛痒を負うことになんの躊躇いも覚えないからだ。

 

 けれど目の前の魔物どもは笑っていた。

 げらげらげらと哄笑していた。

 まるで魔力を持たない男ごときになにができるのかと言わんばかりに。

 が、せいぜいそうやって見下してるがいいさ。その方がこちらもやりやすい。

 

 俺はナイフを手にしたまま最愛の女性を殺した魔物に近づいていく。他の奴らは捨て置いても、こいつだけは許すことができない。

 たとえ完全に(かたき)を取るまでに至らなくても目玉の一つくらいはもらってやるさ。

 

区縷縷類屡流(グルルルルル)

 

 狙いが自分だと理解したワービーストは誰も手を出すなとばかりに同胞に向かって腕を振った。

 まるで仲間を守ろうと立ちはだかる人間じみた行為ではあるがしょせんは畜生、さしたる理由もなくたまたまそうしただけだろう。

 

 さて彼我の距離がもう目と鼻ほどしかない。

 後はただどちらが先に攻撃をするかだけだが、もちろん先手はこちらがもらう。それが済んだら俺のことは好きにすればいい。

 存分に肉を引き裂き、血をすすり、腸を喰らい尽くせ。

 

 ――接近。

 

 服の袖をまくり露出させた左腕をワービーストの前に突き出した。しかしなにもその強靱な顎で今すぐに食らいつけという意味ではない。

 お楽しみはここからだ。

 

「ほらよ、プレゼントだ」 

 

 ――ザクッ!

 

 俺は自らの左腕にナイフを差し込み、そのままシュッと勢いよく前に滑らせた。

 切り裂かれた箇所から真っ赤な血が吹き出し、胡乱げなまなざしを向けてこちらの出方を伺っていたワービーストの顔に飛びかかる。

 

牛飢(ギュウ)⁉」

 

 怯んだ一瞬の隙を突き、俺は引き抜いたナイフの先端を思いきり奴のルビーレッドの目玉にねじ込んだ。

 

()(ギャ)赤呼吾朝会(アアアアア)ッ!」

 

 途端、大きな悲鳴が上がる。

 痛いか? でもそれがミュリエルの感じた痛みだ。甘んじて受け入れろ。

 しかし更にナイフを奥深くにねじ込もうとしたところで俺の悪あがきは終わりを迎えた。

 引かない目の痛みに喘ぎでたらめに振るわれたワービーストの爪が、たまたまそこにあった老体を袈裟懸けに切り裂いたのだ。 

 

「がはっ……!」

 

 痛み分けというには、あまりにも両者の威力が違いすぎた。

 全身の力が抜け、頭から地面に倒れる。

 痛みという概念はとうに超えて、我が身を襲うのは底冷えのする寒さだった。

 急速に視界までも白み始め、こひゅーこひゅーとのど笛が意識せずとももれる。

 抗いようのない虚脱感と急激な眠気は三日三晩徹夜した時の感覚にも似ていて、このまま意識を手放せば二度と目覚めることはないだろうという確信があった。

 だからその刻が訪れるまで回顧する。

 

 ——再始動(リスタート)

 

 俺が持つユニークスキルの名称である。これは所持者の人生最大の分岐点まで時間を巻き戻し、そこから派生するすべての人間がもう一度人生をやり直すというもの。

 

 そして己の選択次第ではかつて選んだ方の道の先はなかったことになり、逆に選ばれなかった方が自分史において新たな正史となる。

 つまり俺の存在を起点として世界を丸ごと一定の過去まで回帰してしまうのだ。

 

 とはいえ回帰前の記憶や出来事は自分を含めて誰にも残らないし、そうなれば大半の人間は前回と同じ人生を送ることになるだろう。

 

 ……だけど唯一()()()がある条件を引っさげて人生をやり直すことができる。

 

 それは二巡目の世界では『再始動』のユニークスキルが失われ、二度と使用することができない

ということ。

 たったそれだけかと思うかもしれないが、一つボタンをかけ違うだけでもその後の人生が大きく変わる可能性もあるのだ。

 

 これまで俺はずっと選択を間違い続け、様々なものを失ってきた。

 その度に自分の浅はかさを後悔し、なのに時が経つとまた同じ過ちを繰り返しながら無駄に歳を重ねてきた。

 

 しかしどこか己の根底に『たとえ失敗しても、いざとなったら一回だけやり直すことができる』という甘い考えがあったかもしれない。

 いやかもしれないではない、確実にあった。

 

 だからといってそれは心の内の言い訳に留め、自分の都合だけでは決してこのユニークスキルを使わないようにしていた。

 

 たとえ元パーティーの仲間が全滅してもその気はなかった。

 起きてしまった悲劇とその現実をなかったことにしてはいけないとなんとか理性を働せていた。

 しかしミュリエルまでもが死んでしまったことで、完全に心が折れてしまった。

 

 だからこそ今度はそのような甘えが許されない回帰後の世界で、他の人間と同様に普通は人生をやり直すことはできないという前提条件の下に、なにも知らない自分が取るであろう選択にすべてを委ねたいと思う。

 

 本来なら今を生きる人々のためにこの力の封印を続けるべきだろう。

 だが見知らぬ誰かよりも見知った人たちを優先してしまうのは無理らしからぬことではなかろうか。

 そういった点では、俺もあの元パーティー崩壊のきっかけを作った青年の行動を非難する資格はもはやない。

 

 彼もまた『魅了』という劇物を与えられ、その誘惑に勝てなかっただけなのだから、自らのエゴで他人の意思など関係なく好き勝手しようとしている俺も同じ穴のムジナといえる。

 むしろ彼以上の大馬鹿者で、史上最悪の極悪人なのかもしれない。

 

 ……そう、俺が望むのは世界の改変。

 

 人生最大の分岐点である幼女パーティーの担当執事を引き受ける、つまりあの時に選ばなかった過去が現在の正史になれば死んでいった仲間たち――この場におけるミュリエルらの死もなかったことになるかもしれない。

 

 もちろん代償として、かろうじて存在している俺もいなかったことになるが、たとえそうなったとしてもみんなが、あの子が助かる可能性が万に一つでもあるのなら喜んで消えよう。

 

 彼女と出会ってから作り上げてきた記憶も共に歩んだ冒険の記録も、そのすべてがなかったことになるが構わない。

 

 けれどもその前にこれだけは言わせてほしい。

 二巡目の世界中では俺なんかよりもっと若くていい男を見つけてくれ。

 やっぱり、こんなくたびれたおっさんなんかを好きになっちゃ駄目だ。

 愛に年の差は関係ないと言うが、惚れた女より先に死んで悲しませるのは勘弁願うものだから。

 なにより、親子ほどに歳の離れた恋人なんかはどうしても世間体が悪いしな。

 本当はもっと言いたいことがあるけどこの辺でやめておくよ。

 

 それから次の世界でのレイド、関係ないはずのお前に今後の責任と俺の尻拭いを押し付ける形になってしまってすまない。

 だが心持ちが変われば結果も変わる、俺が為し得なかった最良の結果をきっと掴めるはずだ。

 そして今度こそ後悔することのないように幼女たちも、元パーティーメンバーの女性陣も、あの青年も……なによりミュリエルの一人として誰も死なないような、そんな幸せな結末を頼む。

 

 ……それじゃあいよいよ最後の時間だ。

 

 今この時をもって世界の有り様は変わる。

 

「タイ……トル、に、もど、る……」

 

 ユニークスキル発動の引き金(トリガー)となる復活の呪文(パスワード)を唱え、今生での俺の命は終わりを迎えた。

 

 ◆

 

→ぼうけんのしょ 1 レイド レベル~42

 ぼうけんのしょ 2 はじめから

 ぼうけんのしょ 3 はじめから

 中断データ レイド レベル~18

 

 ぼうけんのしょ 1を削除してもよろしいですか?

→はい いいえ 

 

 ぼうけんのしょ 1が削除されました

 

 ぼうけんのしょ 1 はじめから

 ぼうけんのしょ 2 はじめから

 ぼうけんのしょ 3 はじめから

→中断データ レイド レベル~18

 

 中断データがありますが、ロードしますか?

→はい いいえ

 

 一度ロードすると中断データは削除されますがよろしいですか?

→はい いいえ

 

 データを読み込んでいます……

 

 中断データが正常にロードされました。すぐにぼうけんを再開しますか?

→はい いいえ

 

 冒険再開のペナルティとしてユニークスキルが永久に失われましたが、今の貴方にすべての者を救う覚悟はありますか?

→はい いいえ

 

 長い旅路になりますがそれでも諦めるつもりはありませんか?

→はい いいえ

 

 後悔はしませんか?

→はい いいえ

 

 ……本当に、後悔はありませんね?

→はい いいえ

 

 ――よろしい、では私たちに見せてください。貴方の思う最高のハッピーエンドとやらを。

→はい 

→はい

→はい

 

→はい!




 というわけで今回のエピソードをもって一巡目の世界編(前半戦)が終了となります。
 パッと見ると打ち切りエンドみたいな感じではありますが、まだまだ彼らの物語は続きますのでひとまずご安心を。

 特にお気に入りはそのまま外さないでいただけますと、作者としても更新の間隔が空く際の精神衛生上助かります。

 とはいえ現時点ではやり直し後である二巡目ノ世界編がまだ執筆し終えていませんが、https://syosetu.org/novel/407285/こちらのリンク、または作者名のリンクから飛べる『幼女に命ズ』という作品がその間を繋ぐ本作の実質的な続編となっております。

 こちらの作品は単独でも読めますが、現段階の構想では本編の二巡目の世界編(後半戦)に繋がりますので並行してお読みいただければ幸いです。

 また本編では作劇の都合上どうしても外すことのできなかった鬱展開や後味の悪い要素は控えめで基本はコメディ、途中ですれ違いからの仲違いもしますが最後はハッピーエンドで終わりますのでどうかこちらの作品もよろしくお願いします。

 最後になりますが、ひとまず前半戦完結の記念に感想や評価などをいただけますと今後の更新の励みになりますので、よろしければぜひ。

主人公レイドの過去、かつて存在した幼女たちパーティーとのエピソードに興味はありますか?

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