パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜 作:佐佑左右
さて、ひとまず勧誘は断ったがこの先を進んだところにも好条件の野営地があるかは分からないという理由で俺と、元パーティーメンバーの女子たちは同じ場所でやや距離を挟んで休息を取っていた。
ミュリエルは当初嫌がっていたのだが俺たちも通ってきた森の入り口付近に魔物が密集しているという向こうからの情報に、とりあえず今は戻るのに危険ということで残留を決意した。
それにしても最初はポツポツとしかいなかった魔物が一箇所に固まっているのは気になるな。
魔物なりのタイムスケジュールに沿っての行動なのか、あるいは。
なんにせよこれがなにかの前触れじゃなければいいんだが……。
「あのー」
考え事にふけっていると、声をかけられる。
顔を上げると、例の青年が手持ち無沙汰そうに突っ立っていた。
「隣、いっスか?」
「ああ、構わんよ」
まさか彼の方から話しかけてくるとは思ってもみなかった。
ちょうどいい機会だからとパーティーメンバーについて質問しておきたいことでもあるのだろうか。それとも俺個人に対することか。
「失礼しゃっス」
ドカリと俺の横に座った彼はなにかを言い淀むように口を開けたり閉じたりしている。
「……あの時は殴ってすまなかったな。その後顔はどうだ?」
待っていても仕方ないので俺の方からまず先に彼に謝っておく。理由がどうであれ、他人を殴るのは決して褒められた行為ではない。
まして、それが分別のつく年齢の大人であればなおさらだ。
あれから冷静になったこともあり、このことがずっと頭の片隅に罪悪感としてこびりついていたのだが。
「あー別に問題ないっスよ。最初はなかなか腫れがひかなかったスけど、元通りになりましたし。女を寝取って野郎に殴られるのも、あれが初めてじゃなかったたんで。むしろあの程度で済ましてくれたのはおっさんぐらいなもんス。今まで何回ボコボコにされたか」
「謝罪をしておいてなんだが呆れたな。あるいはこりないなと言うべきか?」
「下半身の欲求には素直なんスよ俺は……っと、んなことはどうでもいいんス」
背後で休んでいる女性陣との距離を確認すると恐る恐るといった様子で青年はこう口にする。
「なんなんスかあんたが育てたあのパーティーの女たちは。やれ俺の作る飯がまずいだの、道具の手入れが不十分だの、次挑むダンジョンと魔物のことはちゃんと調べておけだの、肩を揉めだのと注文多すぎてマジパネェっすよ。しまいにゃ俺に敵と戦う作戦を考えろとか言いやがるし! いやそれはあんたら攻撃職の仕事だって話でしょ?」
ううむ、なんてことはない。
彼が話しかけてきたのはただ単に同業者にして前任の執事であった俺に愚痴を言いたかっただけらしい。
目を閉じるとこれまでに青年が受けたであろう仕打ちがありありとまぶた裏に浮かぶ。
しかし魔物を倒すだけで直接レベルアップする女性冒険者とは違い、そうやって執事は成長していくんだ。
そして執事とは奉仕に従事する者。
わざわざ言われなくても相手が求めていることを察知し、人知れず仕事をこなせるようになってようやく一人前の執事として扱われる。
だから女性陣からあれこれと注文をつけられるのは精進が足りないことに対する警告だ。
このままだと解雇も辞さないと暗に言っているのである。
まだ彼は若いからそのことには気がつけないのだろう。
「はあ、マジ手を出す相手を間違えたっスわー。いくら俺のユニークスキルがどんな強情な女でもなびかせる『魅了』だったからってちょっと安易だったスよ。結局は時間経つと俺に対する好意も冷めてくるし、最近じゃ何でもかんでもあんたの仕事ぶりと比べられてホント勘弁って感じだったっス」
「……ん?」
なにげなく発せられた彼の言葉に耳を止める。
まさか急な彼女たちの心変わりは彼のユニークスキルの効力によるものなのか。
もしそうだとすると腑には落ちる。
この世界では冒険者としてなにかしらの職業についた際に天から一つ加護を
俗にユニークスキルとも呼ばれるそれは起きる効力等に規則性はなく、決して誰かとかぶることはない正に神の御技である。
もちろん俺もあるのだがそのユニークスキルは絶大な効力を秘める反面、生涯でたった一度しか使うことができず、また発動直後には世界の記録からも自身の記憶からも消去されてしまう。
そのためおいそれと使用することができない上にこのユニークスキルの効力は周囲どころか世界まで巻き込んでしまう。
だからあってないような力だと思いこんで今日まで生きてきた。
でなければ、手にした力のあまりの恐ろしさに心が揺らいでしまいそうだったからだ。
ユニークスキルは個人の今後の人生を定める毒である、と評したのは一体どこの誰だったか。
「――それで物は相談なんスけどね、あんたあのパーティーに戻る気はないっスか?」
思考が別のところに及んでいるといきなりそのようなことが青年の口から告げられた。
「……俺が、あのパーティーにもう一度?」
「そっス。やっていく自信なくしたんで俺はもう降りることにしたっスから。さっきあの女連中にもそう伝えてきたっス。なんならあんたのツレの子も一緒にってね。だから今回が俺の最後の出勤っス」
「…………」
なんと身勝手な言い分だろうか。
人からパーティーを横取りしておいて辞めるとなったら俺に返すだと? 馬鹿にしているのか。
……だがあの時は違い、青年を殴るような真似はしない。
あまりにも呆れ果ててもはや拳を振るう価値もない。謝罪の撤回はしないが、それでも謝るだけ損だったと今になって理解する。
「とにかく考えといてくださいよ今の話。俺マジ無理っスから」
青年が念を押してきたその瞬間、俺たちのものではない大声が聞こえてきた。
「ふざけないでください!」
ミュリエルだった。
その場で立ち上がって元パーティーメンバーの面々をキッと睨めつけている。
普段怒りの感情を露わにすることがない彼女があんなに怒っているところを見るのは初めてだ。
「寄ってたかってパーティーから追放しておいて今更レイドさんには戻ってきてほしい? そんな自分勝手なことってありますか!?」
……ちょうど彼女もまた俺と同じ話を向こうで聞かされているようだ。
「確かにそのことに関してはおっさんに悪いことをしたと思ってる。だけど仕方がなかったの!
そう言って元リーダーはこちらを、正確には俺の隣を盗み見る。
「だとしても言い訳になりません! さっきから話を聞いていると結局貴方たちは自分たちのことばっかりじゃないですか。信頼していた仲間からいきなり捨てられたレイドさんの気持ちを考えたことはありますか?」
「か、考えたよ。もしもおっさんの立場だったらきっと悔しいし悲しかっただろうなって。だから今はちゃんとみんな反省してる。ね、みんな?」
「う、うん、それはもちろんだし」
「罪悪感でいっぱいだったのー」
しかしそれぐらいでは納得できないのかなおもミュリエルは声を荒らげて詰め寄る。
「反省したと口でならなんとでも言えますよね。だけど実際に貴方たちはレイドさんを探し出して謝ろうとしましたか!? さっき会った時は? 私、待ってました。貴方たちがレイドさんにいつ謝罪するのかと。でも、いつまで経ってもありませんでした。たまたま再会できたから今度はあっちの男性を切り捨ててレイドさんに戻ってきてくれだなんて、心から申し訳ないと思っているのならばそんなこと口が裂けても言えないはずです、違いますか⁉」
「そ、それは……」
彼女のあまりの迫力に、さしもの元リーダーの女子も言葉を詰らせた。
他の二人も困惑したような表情を浮かべ、二の句が継げないでいる。
「本当に最低です、貴方たち――」
「もういいよ、ミュリエル」
たまらず両者の間に割って入る。
痛いところを突かれて鼻白む元リーダーの女子と俺のことで顔を曇らせるミュリエルの姿、そのどちらも見たくはなかった。
「ありがとう、ミュリエル。君が俺なんかのために怒ってくれるその気持ちだけで十分だよ」
慰めるというのは立場が逆なのかもしれない。しかし俺は他人の心の痛みをまるで自分のことのように受け止め、ままならない感情に涙を湛える彼女の姿に、確かに救われたのだ。
「だけどレイドさん、私悔しいんです! なんで貴方みたいに仲間想いの人が馬鹿にされなくちゃいけないんですか。私よりずっと長くレイドさんといたはずなのに、あの人たちにはその優しさが伝わらなかったなんてむなしすぎますよぉ」
翡翠色の瞳に溜まっていた玉のようなその涙がとうとう溢れだす。
元パーティーメンバーを責め立てる声はやがて嗚咽へと変わり、やがてひんひんと鼻まで鳴らし始めた彼女の頭をそっと撫でる。
労るように何度も何度も。
やがてミュリエルが落ち着いてきた頃を見て、改めて元リーダーの女性に向き直った。
「せっかくのパーティー復帰の話だが、断らせてもらう。悪いが他を当たってくれ」
ぴしゃりと告げると、「そう」と頷く。
ミュリエルからの胸を打つような説教が堪えたのか、まるで力のない返答だった。
「……残念だけど私たちがおっさんにしたことを考えれば仕方ないよね」
「そうじゃないさ。その件はもうお互いに済んだことで俺が誘いを断ったことと関係ない。だけど俺たち執事はパーティーリーダーをその時の主と定めて付き従う。そして執事は主の許可なくして自らパーティーを去ることは許されない」
俺が今
昔と比べて執事の立場がそれなりに見直された現在では、この心得もさしたる強制力を持たなくなった。
しかし俺はそれを自身の座右の銘として深く心に刻み込んでいた。
執事とは、雇われるから付き従うのではない。この主に仕えたいと思うからこそ従属するのだ。
たとえば夢見がちだが、そこが好ましくもある心根の清らかな少女のように。
「俺にとって今の主はミュリエルだ。その彼女が離脱を許さないのだから俺が君たちのパーティーに戻ることはできない。戻るつもりもない」
つまりは、そういうことだ。
おっさんと呼ばれる歳までくるとその時感じた理不尽に対する気持ちなんかも、日々の老廃物と一緒に流れ落ちてしまう。
だからなんの遺恨なく純粋な気持ちで昔の仲間と決別することができた。
「レイドさん……」
そんな俺の心情の吐露を耳にして。
泣き止み、鼻をすすった我が優しき主君の反応はといえば。
「……はいっ! 今後も私はウチの執事を手放すつもりはないです。だから貴方たちのパーティーのところに彼を送り届けることも、私がそちらのパーティーに加入するつもりもありません」
だから私の大切な
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主人公レイドの過去、かつて存在した幼女たちパーティーとのエピソードに興味はありますか?
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