パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜 作:佐佑左右
パチパチと焚き火の爆ぜる音を聞いていると、不思議と心が落ち着く。
あれから数時間ほどが経ったが俺たちはいまだダンジョンの中にいた。
一度例の入り口まで偵察に出てみると予想よりも多くの魔物の群れがいたからだ。
問答無用で切り抜けようにも、敵の数が数だ、これを強引に切り抜けるのは蛮勇ではなく無謀と言う。
なので仕方なく今日でダンジョン脱出は諦めることにし、戻った先で一晩を明かすことにした。
獣道といえど幸いなことにこの辺りまで魔物が近寄ることもなく、ひとまずここで野営の準備を整えたのは日が傾きだした頃。
周辺は薄ぼんやりとした夕闇に包まれており、時折木々が風に揺られて立てる葉擦れの音以外はひっそりと静まりかえっている。
夜の森の空気を吸い込むと無味だと思っていたそれにも甘い味があることが分かった。
なんの役に立つのか分からないが、とりあえず覚えておこう。
さて。
その後の顛末だが、俺が口にしたあの宣言以降なぜか態度が百八十度変わったミュリエルの希望で元パーティーメンバーたちと交代で寝ずの番をすることになった。
ちなみに今は俺たちの番。
一晩中火を絶やさないように注意を払いつつ、隣で一緒になって役目についてくれている彼女を見る。
「そういえば昼間は驚いた。まさかミュリエルがあんなに激高するとは思ってもみなかったよ」
「だって元お仲間のレイドさんには悪いですけど本当にあの人たちに腹が立ったので。だからこうガツン! って言ってやりたくて、気がついたらあんな感じになっちゃってました」
ぷくぅと頬を膨らませる姿は本人には申しわけないがまるでリスみたいだった。
「でも君が俺のために怒ってくれて嬉しかった。思わず男泣きしてしまいそうになったよ」
「
泣いたのはミュリエルの方だったが、そのことは黙っておく。
「それは……怖いな」
「はい、なのでレイドさんも私を怒らせないようにしてくださいね? 他のパーティーに浮気とか絶対許しませんから」
「ははは、こんなくたびれたおっさんなんかにゃそんな度胸も機会もないさ」
「さあどうでしょう。レイドさんって年の割には精悍な顔立ちだし頼りがいだってあるし、本当はモテると思いますよ」
「買いかぶりすぎだって。第一そんな風に思ってくれる女性もいないよ」
「じゃあ私が立候補しちゃいます」
そう言ってトンと俺の左肩に頭を預けてくる。ネコのように甘えてくる様はこそばゆく、年甲斐もなく照れてしまう。
恐らく赤くなっているであろう顔をなんとなく見られたくなくて、ぶっきらぼうにごまかす。
「……おいおい、そんなところに顔を乗せたら俺の加齢臭が移るだろ?」
「平気ですよ。それにこの枯れ葉みたいな臭いをかいでいるとなんだか安心できるんです」
褒められているのか、これは?
「なんだか俺の加齢臭が香水みたいな扱いだな」
「かもしれませんね。レイドさん臭は私にとって素敵なお香と同じです。だからもっとかいじゃいますね」
すんすんと臭いをかいでは「んーっ」と悶えるような声をもらすので、無理に剥がそうとはせずに彼女の好きにさせることにした。
しばらくそうしていると、やおら神妙な面持ちでミュリエルはこう切り出した。
「ねえレイドさん、さっきのことなんですけど」
「ん、さっきのこと?」
分からない振りをしてオウム返ししているが、
「その――私のことをどう思ってますか? って質問です。まだ答えてもらっていなかったので」
「どうって、もちろん大切な仲間だよ」
こんな答えを求めているつもりではないことはもちろん見当がつく。
しかし俺の口を突いて出たのはそんな逃げともとれる返答だった。
だがやはり彼女が満足するはずもなく。
「そうじゃなくて。異性として、……一人の女の子として、どう思ってますか?」
しばしの沈黙が訪れる。
からかい目的や俺の勘違いでもなければこれはつまりそういうことなんだろうか。
黙考しながらこの場にそぐう言葉を探していると、やがて意を決したかのようにミュリエルが口を開いた。
「私はレイドさんのことが好きです。ただの仲間としてではなく、一人の男性として貴方のことが大好きです。恋人になりたいと思うほどに」
どうやら俺は今、親子ほど年の離れた少女から告白をされたらしい。
冗談、ではなさそうだ。その証拠に、彼女の瞳にはどこまでも真摯な色が秘められていた。
「それとも、やっぱり私みたいな小娘なんかじゃそういう対象には見られませんか」
愛の告白に気を取られていると、確かめるようにミュリエルは尋ねてきた。
違う、そんなことはない! と、声高に言ってやりたかった。
だけど安易には口に出すことはできなかった。
確かに彼女は綺麗だ。これはお世辞じゃなく、心の底からそう思う。
華奢な体躯に小ぶりの顔立ちはそれこそ冒険者には似つかわしくない容姿だ。
こんな子が自分に好意を持ってくれていることは素直に嬉しい。だからといってならばそういう関係になりたいのかと聞かれると、すぐに首を縦に振ることはできない。
「……なんて、いきなりこんなことを言われても困っちゃいますよね」
そんな俺の考えが顔に出ていたか、すぐにこうミュリエルは言い繕った。
明らかに気落ちした様子の彼女に今度はこちらが慌てて否定する。
「いや、迷惑とかじゃないんだがその、俺なんかのどこがいいんだ? 自分で言うのもなんだが俺はミュリエルみたいに顔が整ってもいなければ、甲斐性があるわけでもない。できることと言えばせいぜい執事の仕事に関することぐらいしかないしな」
人格だってできた人間じゃない。
いっちょまえに歳食った割に頼れる大人らしいところを彼女に見せたこともない。
むしろダサくて格好悪い、中年のおっさんとはかくあるべしを地で行っていたように思える。
少なくとも、年下の美少女に惚れられるような部分はなかったはずだ。
「……最初はただ
「それが執事である俺の仕事だからな」
「ううん、普通の人はたとえ仕事でもあんな風に丁寧に教えてくれたりなんてしません。……実はレイドさんと知り合う前に一度別の執事の男性とパーティーを組んだことがあるんです。でもその人にはあっさりと逃げられました。私のなけなしのお金とともに」
これも初めて聞く事柄だ。
そんなことがあったと、ミュリエルを紹介してくれたギルドの受付嬢も教えてはくれなかったが彼女に配慮してのことだろう。
「すまない、同業者が君には酷いことを。その男に代わって俺に謝らさせてくれ」
「いえ、それはいいんです。あとでその人を一人で探し当ててボコボコにはしておきましたから。なのでレイドさんが頭を下げる必要はないです」
なんとも綺麗なオチが付いたな。それにしても大人しそうに思えてもやる時はやるんだな。
「だからギルド職員からレイドさんを紹介された時も、内心また同じことをされるんじゃないかと思ってドキドキしてました。だけどあなたは違いました。どこまでも紳士的で優しい人だってすぐ分かりました。本当に女性冒険者のことを、仲間のことを大事にしてくれてるんだって」
「仲間を大切にするのは当たり前のことだ」
そう、当たり前なんだ。
これまで共に日々を過ごしてきた仲間がいなくなってしまうのは、本当に身を切られる想いなのだから。
もう二度と味わいたくないと感じるほどに。
「でもそれができない人たちもいるんですよね。……とにかくそれがレイドさんのことが気になり始めたきっかけですよ。あとは毎日ちょっとずつレイドさんが私を褒めてくれる度に、『また次も頑張ろう』って気持ちになって、たまに怒られた時も嬉しく感じるようになった時に気がついたんです。こんな些細なことでもそう感じられるのはきっと貴方のことが好きだからなんだって」
「……そうだったのか。いきなりで驚いたけど、君が俺を想ってくれていることはよく分かった」
「はい」
「君が俺とどうなりたいのかも分かった」
「……はい」
分かった上で、結論を出さなければならない。俺の返答次第で今後のパーティーにも影響が出るだろう。
場合によっては彼女とも離れなければならないかもしれない。
「まず先に伝えておく、そんな風に想ってくれてありがとう。その上で言うよ。俺はミュリエルのことを――」
「ま、待ってください!」
待たせていた告白の返事をする前にミュリエルが制してきた。
「自分から聞いておいてなんですがもうちょっとだけ時間をいただけませんか? レイドさんに私の気持ちを包み隠さず伝えることが精一杯でまだ返事を伺う心の準備ができてなくて」
「……君がそれでいいのなら」
俺自身もう少し考える時間がほしかった。彼女の告白を断るにせよ受け入れるにせよすぐこの場で安直な結論を出したくはない。
ミュリエルだって思いの丈の白状を決意するのにたっぷりと悩んだはずだ。なら俺も彼女と同じだけ悩まなければならない。
それがなけなしの勇気を振り絞って告白をしてくれた彼女に対する礼儀だろうから。
「さ、明日も早いからミュリエルは一足先に休むといい。俺ももう少ししたら交代を頼むから」
別に気まずさをごまかすために勧めたわけではなく、そろそろ体の方を休めておかないと明日の行動に差し障るからだ。
まあ会話に一区切りをつけるタイミングとしてはいささか強引だっただろうが、気にしていても仕方がない。
「分かりました、それじゃあすみませんがお先に失礼しますね。……あのレイドさん、お休みする前にちょっとこっちを向いてもらえませんか?」
「どうしたミュリ」
——ちゅっ。
振り返った俺の頬になにかが軽く当てられる。
その正体がミュリエルの柔らかい唇であると気がついたのは、一拍おいてからのことだった。
頬に触れていたのはわずか数秒のこと、まるで判を押すかのような気軽さだった。
「おやすみなさい、レイドさん」
こちらがなんらかの言葉を口にするより早く、これでもかというくらいに顔を紅潮させた彼女が脱兎の如く走り去って行った。
「最近の女の子って大胆なんだな」
ミュリエルが走り去った先を見つめながら呆気にとられる。彼女の唇が触れたところはまるで熱を帯びたようにカッカと熱い。
……どう考えてもあれはキスだよな。
たまたま起きた事故とかそんな古典的な間違いではなく、事前に彼女は俺に呼びかけていた。
だからやはり本気なのだろう。さすがに冗談であんなことまでできるわけがない。
「あー駄目だな、色々ありすぎて今夜は眠れそうにない」
照れを隠すためにそう一人ごち、再び焚き火に枝木を投入した。
今度はパチッと爆ぜる火の粉を見てもまったく心が落ち着くことはなく。
実際そのまま朝日が昇っても、睡魔はいっこうにやってこなかった。
主人公レイドの過去、かつて存在した幼女たちパーティーとのエピソードに興味はありますか?
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ない