ジャンプはジャンプでも   作:通りすがりの最下級大虚

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 お待たせしました。 
 筆が乗るのはいいことなのですが、如何せんタイピングが遅いと時間がかかりますね……いい加減タイピング練習をしようかなぁ。


腹に一物抱えてんなぁ

「おっはよぅございまーす♪」

 

 此処は嘗て『虚』が活動範囲としていた魔都のとある地域に設立された『虚』追跡班の寮。

 其処に東家に雇われ、東桔梗に仕えていた使用人の姿があった。

 彼女は明るい挨拶の声を響かせ、本日の業務に向かう。

 

「おはよ。相変わらず元気だねぇ」

 

「ウチらは憂鬱だってのに」

 

「こういうの、慣れてるんです」

 

 

 合流した同じシフトの組員AとBの感心するような呆れるような一言に彼女は軽く返す。

 前職含め、特定の地域で寝ずの活動なんてザラである彼女にとって、睡眠ができる環境はまさしく天国と言っても良い。

 挨拶を交わした組員と2,3言交わしながら、執務室に向かう。

 

「おはようございまーす♪ 一色ちゃん、只今より交代勤務に参りましたぁ!」

 

 扉を開け、前のシフトに付いていた組員たちに彼女――一色和美は明るい調子を落とさずに部屋に入る。

 

「……おはよー」

 

「おはようさん」

 

 モニターを監視していた組員がぶっきらぼうに返す。別段仲が悪いわけではないのだ。ただ、緊急の案件がない時でも気の抜けない彼女たちにとって、何の動きも無い退屈な時間は眠気を誘うのに十分であり、気力を削ぎ落され尽くした結果限界を迎えつつあった。ソレだけだ。

 

「今日は遭難者も居ない感じです?」

 

「あと『虚』の目撃情報もね」

 

「魔都災害の対策で監視カメラも増えたのに、現世もこっち(魔都)もなーんの反応もナシ! 全くイヤんなっちゃうよ。」

 

 限界極まれりといった表情で組員が返す。

 設立当初はそれこそ『虚』の目撃情報も多く、確認次第特定の為に行動していた。

 しかし、設立後1年も持たずして月山大井沢事件が発生したせいで、活動範囲は大幅に拡大。

 組員の数も増員されたが、千里眼の能力を持つ組員の少なさと『虚』の隠密能力の高さによって思う成果は得られず。

 さらには首都同時醜鬼襲撃事件以降その姿を確認することは一例を除いて出来ず。

 

 結果、現在では現在『虚』の捜索は消極的となり、専ら担当区域内の遭難者の救助へと活動を変更しつつある。

 

「分かりました。じゃあ、こっからは私達が引き継ぐんで先輩方はぐっすり寝て下さい」

 

「はーい。じゃあ、宜しくねぇ~」

 

 フラフラと立ち上がる組員と入れ替わりで、一色は椅子に座るとモニターに向かう。

 

「で、どう思う?」

 

 背後で執務室の扉が閉まり、静寂が室内を包むと隣で同じくモニターを監視している組員Bから声を掛けられる。

 

「何がですか?」

 

「『虚』の事よ! これだけ捜索網広げても引っかからないってことは、もう死んだんじゃないのかって」

 

「それはないよ」

 

 考え込む一色の耳に同じくモニターを監視していたもう一人の組員Aの即答が聞こえた。

 

「何でよ」

 

「2年前のこと忘れた?」

 

 2年前。そのキーワードを聞いてここ最近で唯一の発見例を思い出した組員Bは声を挙げた。

 

「あー! あれね、確か『虚』の潜伏場所を見つけた総組長が他の組長と一緒に捕獲しに行ったっていう」

 

「そ」

 

 幸運にも索敵網に引っかかり追跡も可能だった『虚』に奇襲を仕掛け、確実に捕獲するべく現総組長である山城恋を含めた最大戦力で『虚』捕獲作戦を行ったのだ。

 そこには『虚』を研究し、その秘密を探るという目的もあったが、前総組長である東海桐花が達成できなかったことを成し遂げて自身の力を伸ばしたい山城恋の思惑もあったが、そこは割愛しよう。

 

 現場にいたのは山城恋総組長、武闘派で知られた2番組の組長上運天美羅と7番組の羽前京香、6番組の組長出雲天花。

 

 山城恋が『虚』をその場に押しとどめ、自身に注意を逸らさせ、その周囲を上運天美羅が分身で囲い込み時に四方から攻撃を加えかく乱し集中力を乱す。

 隙を見て出雲天花が能力で『虚』を所定の位置へ転移させ、羽前京香の能力で捕獲。

 作戦としは上記の通りであり、それは寸分の狂いもなく実行に移すことができた。

 

 しかし――

 

「で、結果は?」

 

「ウチ等が此処で働いている時点で察しろ」

 

 失敗に終わった。

 確かに計画に狂いはなかった。事前のシミュレーションも万全だった。

 しかし、『虚』の力はその想定を上回っていた。

 

 最後の段階、出雲天花の能力により羽前京香の前に転移させられた『虚』。

 場所は空中、羽前京香も空中。しかし彼女は天花の能力によって移動が可能。

 後は接近して『虚』に触れるだけ―――それだけだった。

 

 その寸前、『虚』はその姿を消した。

 能力が空振り、地上に避難した羽前京香と出雲天花が目撃したのは、『虚』が山城恋に上段からの拳の振り下ろし――つまり拳骨を喰らわせ逃亡する姿だった。

 対象を逃がし、山城恋は傷こそ無かったものの、その頭部を地面に深く陥没させた無様な姿を晒すこととなる。

 

「それ以来総組長に『虚』関連の話は地雷になったの」

 

「あー……でもちょっと見たかったなー。その光景」

 

「止めときなさい。蝦夷組長の二の舞になるだけよ」

 

 以降は取り留めのない会話が続く。

 

―魔防隊の中で誰と誰が付き合っているのか。

 

―前回の避難者の様子。

 

―今度の休日に何処へ行くか。

 

 そして異性のいない空間という特性上、話は次第に胡散臭い噂話に移行する。

 

「あ、そうそうこの間の遭難者の事なんだけどさ『フードの男』って都市伝説知ってる?」

 

「フードの男?」

 

 話を振られた方の隊員Aは全く聞き覚えの無いワードに、首を傾げる。

 一色はというと、話は知っていたが敢えて知らぬふりをして彼女の話に耳を傾けた。

 

「何でも最近、『フードの男』と一緒に遭難すると助けてもらえるって話」

 

「は? どうやって?」

 

 疑問の声が室内にこだまする。当然だ。魔都に住まう醜鬼は『桃』の能力を得た者しか討伐出来ない上、『桃』は女性にしか効果を示さない。

 唯一の例外と言えば7番組の羽前京香だが、彼女とて霊山での修行に寄り可能になった一面もある為、能力のない生身での討伐は現実的では無かった。

 そんな事情をこの場に居る全員が知らない訳が無い。だからこその当然の質問だが、その答えは更に混乱を生むだけだった。

 

「『フードの男』が持っている刀で醜鬼を殲滅してるんだってさ。んで魔防隊が到着したころには姿はどこへやら。跡形もなく消えてる」

 

「―――は?」

 

 2度目の混乱が隊員Aの思考を停止させた。が、すぐにある結論に辿り着く。

 

「『フードの男』ってもあれでしょ? 男みたいに見える女とか、そんな感じじゃない? それだったら能力を違法に使用している私人討伐みたいなのってことでしょ」

 

 私人討伐――桃の能力を得た一般市民が、魔都災害に巻き込まれ能力を使用することは多々ある。

 しかし、それは自己防衛の観点からやむを得ずに使用した場合に限り、積極的に醜鬼を討伐する場合は私人討伐という形になり厳罰に処せられる。

 中にはその様子をライブ配信で行う者も居るが、そいうった不届き者は軽い処分では厳重注意、重たいものだと罰金刑に課される。

 今回の噂の人物もそう言った不届き者の一人だろうと自身を納得させるが、続いた言葉に彼女は残酷なことにその無理やりの納得を赦さなかった。

 

「実際に遭遇した人の話だと声の感じが男っぽかったし、刀を握る手もごつごつしてたし骨格も男っぽいって」

 

「――でも所詮噂でしょ?」

 

 その一言だけ、辛うじて返すことができた。

 そんな男性が居ようものなら、即座に陰陽寮が確保に向かう筈。その陰陽寮はおろか、一般隊員の間でもそんな話題がない以上、噂でしかない。

 そうだ、噂だ。ならばこんな荒唐無稽な話があってもよいではないか。

 今度こそ彼女は己を納得させることにした。

 

「でもいいよねぇー」

 

「なにがよ」

 

「その『フードの男』なんだけど、身長が2メートルはあるんだって! 彼氏持つなら身長高い人がいいなぁ」

 

 あまりにも急な話題の方向転換に組員Aは脱力せざるを得なかった。

 確かに年齢的には色恋沙汰に興味が残る年齢ではあるが、ソレにしたってあまりにも急カーブではないだろうか。

 

「あのねぇ……うち等にそんな余裕あると思う?」

 

「でも夢を語るくらい良いじゃない。あ、どうせ夢なら身長は2メートルで顔はイケメンで……」

 

 唐突に昨今の恋愛漫画でも見ないような理想を語りだす隊員Bに、隊員Aが鼻で笑うと隊員Bはそれを咎める。

 

「あー! 今鼻で笑ったー!! じゃあそーゆーアンタはどんなヒトがタイプなのよ!」

 

 矛先を向けられた隊員Aは、少し考えこんでから一言。

 

「仕事」

 

 それだけ言うとモニターに向かい監視業務の続きを再開するのだった。

 一方梯子を外された隊員Bは今度はその先を一色和美に向けた。

 

「一色ちゃーん、相方が意地悪するぅー」

 

 キャスター付きのオフィスチェアを移動させ、一色の元へ向かうとその膝元に縋りつくように飛び込む隊員B。

 それを拒否せずに受け入れ、頭をヨシヨシと撫でるその様はさながら手のかかる妹を宥める姉のようであった。

 尤も、魔防隊の入隊時期を考えれば一色の方が後輩なのだが、隊員の名誉の為にもあまり追求しないでおこう。

 

「一色ちゃんはタイプの人とかいる感じ?」

 

 腹部に頭を擦りつけながら隊員Bが質問すると、一色は胸元の飾りと左手の薬指を見せた。

 そこには似た形状のリングが一対、部屋の光を反射しながら輝きを放っていた。

 

「あ、もしかして既婚者? え、マジ!? どんな人!?」

 

 それを見つめた隊員Bは先ほどまでの不満げな表情を一変させ、指輪が嵌っている一色の左手を握りながら興味津々に質問攻めをする。

 

「ちょっと、やめておきなさい」

 

 それを先程会話の梯子を外した隊員Aが咎める。

 

「なによー! さっき意地悪した癖に!」

 

 すかさず噛みつく彼女に、隊員Aは呆れたように言葉を返す。

 

「あのねぇ……何で両方とも指輪があるのか、考えたことない?」

 

 一瞬疑問を浮かべる隊員B。しかし、ある考えに行き着いたのか、慌てて一色に両手を合わせ頭を下げる。

 

「ごめんなさい! ウチの考えが浅かったです!! まさか結婚前に――」

 

「莫迦!!」

 

 余計な事を言おうとした隊員Bの頭をAが叩いて強制的に黙らせる。しかし、当の一色は何事も無いように手を振りながら話す。

 

「いやいや、未亡人って訳じゃなくて魔都災害に巻き込まれて行方不明になっただけだから」

 

 あっけらかんと話す一色とは対照的に、隊員A、Bの表情は暗い。

 

「それって、実質―――」

 

 死んでいるようなものだ。

 今度こそ言葉には出さなかったが、彼女たちは半ば確信している。

 『桃』の恩恵も無い男性が魔都で生き残る確率は非常に低い。それでも一色和美が未だに諦めていないのは――そこまで考えて邪推だと気が付き、それ以上の思考を中止した。

 

「うーん……でもあの人が簡単に死んじゃうような人には見えないんだよねぇ……案外、何処かでフラフラしてるんじゃないかなって」

 

 なおも明るい一色の表情を見て、それが精一杯の強がりに見えてしまい更に曇る二人。

 結局、会話はそれっきりで終了し後はただ只管にモニターを監視する業務に専念する3人であった。

 次の交代勤務でやってきた隊員たちは、普段騒がしくも明るい一色質の班の空気が死んでいることに明日は天変地異でも起きるのかと身構えるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 魔都の地下深く。そこに集まる影8つ。

 

「で、どう? 研究の成果は?」

 

 蛇の様な黒い髪を持つ影が尋ねる。尋ねる先には奇妙な細長い影。

 

「どうにもうまくいきませんね。末っ子――白雷の置き土産ながらじゃじゃ馬です」

 

 細い影はため息を吐くと言葉を続ける。

 

「神奉者に与えてみましたが得られたのは殆どが身体能力の強化のみ。稀に他の能力が発現することはあっても、制御不可に陥ります。この間の成功例も倒されてしまったようですし」

 

 その言葉を聞いた黒い髪を持つ影は口を開いた。

 

「それで、研究は続けるの?」

 

「いいえ。()()()()がありますのでこれ以上の研究は無駄遣いになりかねません」

 

「そっか、じゃあ最初の計画通りに使っても良い?」

 

 黒い髪の影の言葉に、細長い影の頭部に現れた表情が凄惨に歪み、首肯する。

 

「ええ、勿論。これ以上解析が出来ないのは不服ですが、少しでも計画に近づけるのならば文句はありません」

 

 二人の静かで、しかし不気味な笑い声が響き渡る。

 魔都の地下で、人ならざる者達の謀略が胎動していた。




一色和美:魔防隊の『虚』捜索組に配属。色々思惑がある模様。

隊員A・B:A…眼鏡を掛けた釣り目がちの女の子。お調子者のBを諫めたりいなしたりしている。B…ミーハーなギャル。魔防隊所属故、頭の回転は速い。それはそれとしてうっかり失言しよく相方のAにオシオキされている。


山城恋:地球の答えさん。『虚』を捕まえようとしたらボコボコにされた。そのせいで『虚』関連の話になると場の空気が死ぬ。

上天運美羅:ついでに軽くボコボコにされた。本人(?)曰く『うろちょろされて鬱陶しかったから』

???:謎の連中に勝手に末っ子扱いされ、更には白雷と勝手に名前を付けられている。『置き土産』(不本意)のせいで各地で厄介ごとを引き起こしかけているし、さらなる厄介ごとのタネが芽吹く。度々色んな勢力から追いかけ回されている模様。



 いい加減エロの方も書かないといけませんねぇ……。

R-18 (余裕があれば)

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