ジャンプはジャンプでも   作:通りすがりの最下級大虚

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 夜勤まで時間が余った&書き足りないので即書き上げて投稿也。


ばいばい

 1か月、2ヵ月。

 半年、1年、1年6か月。

 気が付けば3年。

 

 あっるぇー? 全然追い出しの気配が無いぞ?

 や、まあ拠点があるのは嬉しいんだけどさ。こう、家主さんに恋人ができる気配が一向に無いんだよね。

 もう30手前だろ? 結婚とか考えて……はなさそうなんだよなぁ。

 

 うーん……。

 あ、そういえば帰ってきたら転職の話するとかって言ってたな。その時に聞いてみるか。

 って、言っても後3時間で帰ってくるんだども。それまでに夕食の仕込みでもするか。

 

 

 

 で、3時間が経過しました。が、帰ってくる気配が微塵も御座いません!

 ……予定時間に遅れることなんて滅多になかったし、あったら電話する筈。

 予定時間1時間を超えて連絡もナシってのはなんか、こう、嫌な予感がする。

 

―カチャリ

 

 ドアが開いた音が聞こえた。が、いつも聞こえてくる声が聞こえない。

 その代わり感じる複数の気配。

 

 咄嗟にソファに移動して障害物にする。

 

「ヒューッ、あの女オトコ飼ってやがるぜ」

 

「へぇ? なかなかいいシュミしてる」

 

「アタシ等で愉しむ?」

 

「パス。もうちょっと若ければ好みだったんだけれども」

 

 お客さん5名の御入店ってところか。ただ、こっちは招いた覚えはないし、家主が招いた記憶もない。

 

「お前達、今回は一色和美の持っている情報を持ち帰るのが目的。目撃者は例外なく排除すると言ったはずよ」

 

「ちぇー、ざーんねん」

 

 ペラペラ喋ってくれてどーも。俺が普通の人間だと油断しているんだろうな。

 んじゃあ、序にもう1個情報を貰おうか。

 

「あ、あの」

 

「何?」

 

 バレちゃだめだ。あくまでも何も知らない、ただの一般人。そう、ただのヒモで力のない一般人を装え。

 

「一色さんと何の関係があるんですか……? 貴女達は何なんですか」

 

「なんだ、何も知らないのか?」

 

「冥途の土産に教えてやるよ、アイツは政府の情報部の長でな、居て貰うと色々と都合が――」

 

「喋りすぎよ」

 

 オーケーオーケー。大体わかった。そう言う事ね。

 じゃあ、まあ、もっと詳しい情報は――

 

「安心して頂戴。貴方を殺した後、あの女も同じところに送ってあげ――」

 

 

 

 ――――――――――――――あ?

 

 

 

 

 

 一色和美殺害計画と並行して行動していた別動隊は、眼前の男に対して警戒心を抱かなかった。

 所詮は平和ボケした国の民。それも『桃』の能力を持たない貧弱な雄。片手間で終わらせて情報を持ち帰るだけだと考えていた。

 

 故に目晦ましの為か目の前で跳ね飛ばされたソファを目撃しても何の脅威も抱かなかった。こんな小細工はただ男の命を数瞬伸ばすだけの延命措置でしかないと。

 

 故にその油断が命取りだった。

 

――ドゥルルルルルルルル…………

 

 獣の唸り声が聞こえた瞬間、隊長である女以外の人間の上半身と下半身が寸断された。

 

「―――え?」

 

 一瞬の内に死と血の匂いが充満する部屋の中で、思わず声が漏れた。

 

――ドゥルルルルルルル……

 

 再び獣の唸り声。床が揺れるかと錯覚するほどに低く、重い音。

 声の主は――何の脅威も抱かなかった筈の、目の前の男。

 

 いつの間にか刀をその手に携え、眼はその怒りを表す様に真っ赤に染まっている。

 そして、その顔を覆っている、仮面。

 

 ヤギの頭骨のようでいて、しかし、あり得ない程螺子曲がった二本の角。

 その意匠を彼女はよく知っている。

 

「ほ、虚……」

 

 咄嗟に能力を行使する。

 単純な、超速行動。眼にも映らぬ速さでの一閃。

 しかし――虚は確実に視界に捉え、その上で無防備に女の攻撃を受け止めた。

 首に突き立てた刃は、その肌にかすり傷を付けることは出来なかった。

 

 一瞬の内に再び距離を置く。反動で真面に動くことは出来なかった。

 

 一歩、虚が近づく。一歩、女は後退る。

 一歩、近づく。一歩、後退る。

 

 近づく。後ずさ――ろうとして、転がる肉塊に足を取られて床に背を打ち付けた。

 虚が倒れ込んだ女の首を片手で掴んで持ち上げ、壁に叩き付ける。

 逃げ場はない。

 

 男の持つ刀が黒い煙となりながら溶け、男の身体に纏わりついた。

 足元から、腹部。腹部から胸部へと昇り全身を包み込む。

 

『知っている事、全てバラして貰おうか』

 

 黒煙の中から、悪魔が姿を現した。

 

 

 

 

 

「いやぁ、マズっちゃったねぇ……」

 

 銃弾を受けた肩を庇いながら、路地裏で一色和美は言葉を漏らす。

 罠だった。

 情報部か、或いはその上か。兎も角、彼女は偽の情報を掴まされた。

 自覚はあった。何名もの議員に、その背後の組織を幾度となく損害を与えて来たのだ。

 

「だからと言って今そのしっぺ返しを喰らうなんてねぇ」

 

 今はまだ形を成さない命が宿っている腹部を撫でる。

 今回の任務が終われば、彼女はこの職を降りるつもりだった。

 後進の育成も済んだ。未熟な部分が目立つものの、それは時間とこれからの経験が解決するだろう。その為の相方だっている。

 自分は一般人として企業に勤め、温かい食事と風呂に、その時間を共に過ごす彼とまだ見ぬ我が子が待つ家に帰る。そんな日常を過ごそうと望んでいた。

 

「いたぞ!!」

 

 背後から怒号と足音が聞こえる。

 壁に背を凭れて視線を向けると、先程迄逃走劇を繰り広げていた組織の構成員。その数十数名。その中には『桃』の能力者も数名いる。

 跡が付くからと、『桃』を食すことをかたくなに断り、能力を持たなかった一色にこの状況を切り抜ける手段は無かった。

 

「漸く捕まってくれたなぁ?」

 

「コソ泥相手に気取られるなんて、いやはや一色ちゃんも随分とヤキが回った物ですねぇ」

 

 でっぷりとはみ出た腹部を揺らし、醜悪に顔をゆがめながら組織の長である男が一歩集団から踏み出した。その口から黄土色の歯が覗く。

 

「テメェにはたっぷりと世話になったんだ。その分『お礼』を返してやらねぇとなぁ」

 

「お礼を返される程、キミたちと親しくはないと思ったんだけどもねぇ」

 

 舌なめずりをしながらそう宣う男に、一色は精一杯の軽口で返す。

 その言葉を聞いた男はより一層笑みを浮かべた。

 

「ならこれから親睦を深めるための『おつきあい』と洒落こもうじゃねぇか」

 

 なあ! と背後の部下に問いかければ男も女も関係なく笑い声が響く。

 彼等にとって彼女の言葉は『お誘い』の言葉にしか聞こえなかった。

 彼等が欲望を滲ませながら近づく。

 

 嗚呼、此処までか。と一色は覚悟を決めた。

 拳銃の銃口を顎下に当てる。

 

 ふと、『彼』のほほ笑む顔が脳裏をよぎった。

 

 ああ、会いたいな。さよなら。

 

 引き金に力を籠める―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドゥルルルルルルル…………

 

 獣の唸り声が辺りに響いく。

 

 人影が音もなく一色の前に降りた。

 二メートルは超える背丈、首筋を隠すほどの黒い髪、細身ながらも鍛え上げられた肉体。

 

 見覚えのある後ろ姿に、拳銃を持つ腕の力が抜けた。

 チラリとこちらを向くその貌は、ヤギの頭骨に似た仮面に隠れて見えない。しかし、その空いた眼窩から会いたかった者が良く見せてくれた温もりを感じた。

 

「醜鬼!?」

 

「いや、あれは虚だ!!」

 

「嘘だろ!? 長年行方不明だったんじゃなかったのか!」

 

「あんな特徴的な見た目、見間違えるかよ!」

 

「何でこんなとこに――」

 

 虚の姿が一瞬揺れ、元に戻った。

 何か話しかけていた構成員は物言わぬ肉塊に変わっていた。

 

「ヒッ」

 

「何が――」

 

 再び揺れ、今度は一瞬姿を消し、再び目の前に背を向けて現れた。

 組員全員の命の灯が永遠に失われた。残ったのは長だった男のみ。

 

「ま、待て!」

 

 手を前に突き出し、男が怯えたように叫ぶ。

 

「取引をしよう! な? 取引だ!!」

 

「お前の望みは何だ? カネか? 女か? そ、それともコネか? 俺はその全てを持っている、判るな? 貴様が望むなら、何でも用意できる! な?」

 

 無言。不動。

 虚は何も反応を示さず、男を見つめるだけだ。

 その様子に恐怖を増した男は耐え切れずに背を向けて逃走を図る。

 

 獣相手に背を向けることがどういうことか、その答えを男はその身を以て証明した。

 背後から、一瞬の内に距離を詰めた虚の貫手が、背中から男の胸を貫いた。

 

 自身の身に何が起きたか、理解する間もなくよごれを払うように横に腕を薙ぎ払われ、壁に叩き付けられ哀れな肉塊の一つと成り果てた。

 

 残ったのは先ほどまでの喧騒が一瞬の夢に思うような、耳が痛くなるほどの静寂。

 虚は先ほどまで殺戮を繰り広げたのが嘘のように穏やかな所作で一色を見つめ、そして跳躍。

 一色が目で追いかける頃には既に姿を失っていた。

 

 

 遠くから、微かにパトカーと救急車のサイレンが近づいて来た。

 それが、自身が後進に選んだ後輩と相方が引き連れた応援だと気づくのはそれから数分後の事だった。




問1:戯れに飼っていた男に堕とされたと思ったら最重要指名手配犯だった時の一色ちゃんの心境を答えよ。(配点100点)
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