ジャンプはジャンプでも 作:通りすがりの最下級大虚
「では、ブリーフィングを始める」
会議室に警視長の静かな、しかし力強い声が響き渡る。
此処は東京都、警察庁本部。室内には殺人、強盗を主に担当する刑事部捜査一課と『桃』の能力を使用する犯罪者専門の特殊部隊、そして魔防隊の隊員の姿があった。
「再度説明するが、今回の内容は3日前に発生した反社会組織の構成員の大量殺害事件、その関係者、いや関係醜鬼『虚』の捜査及び殺害された構成員が所属する組織の検挙と、その関係者の捜査を行うことが目的である」
淡々と説明する彼女の言葉に、一人の刑事が手を挙げた。
「何だ?」
「この『虚』という醜鬼に関してですが……」
過去醜鬼が関係する殺人事件を担当したこともある彼女でさえ知り得ない名称である。疑問に思うのも当然であろう。
しかし、その質問は一言で切って捨てられた。
「機密事項だ」
続けて警視長の言葉が続いた。
「そしてこれから配布する資料は該当醜鬼に関する情報であり、万が一外部に情報が漏れた場合この場に居る全員に厳重な処罰が与えられる。各自機密保持を徹底する様に」
その言葉と共に、魔防隊の隊員から資料が配られる。
その資料を手に取り、詳細を見た刑事部の人間からざわめきが広がる。
――人型の醜鬼……?
――月山大井沢事件にも関わっているのか……
――道理であの事件の情報が少ないと思った……
「静かに」
徐々に静寂に包まれていく会議室を見渡し、警視長は口を開いた。
「では、今回の事件の詳細を説明する」
「まず、今回の事件の経緯だが、ここ最近複数の議員にある嫌疑が掛けられていたことが発端だ」
プロジェクターに複数の人物が映し出される。
それは嘗て魔都に関する様々を取り決める定例会議の一員に選ばれていた議員であり、魔防隊と陰陽寮の双方に様々な妨害工策を行い、現在はその役を追われている人物達でもあった。
「彼女達は反社会的組織及び海外の工作員との繋がりが疑われていた。事態を重く見た内閣府が調査を行った所、その嫌疑は見事に的中。結果彼女達は処罰を受けることになる」
しかし、と言葉を続け画面が切り替わり、新しく一人の人物が映し出される。
「一部過激な議員たちはその報復として調査を担当していた情報部部門長、一色和美の殺害と彼女の持つ情報の奪取を試みた。これには国内の暴力団とロシアの諜報部が関わっていることが判明している」
また画面が切り替わり刑事一課の人間に見覚えのある人物が映し出される。違法な薬物の取引から人身売買まで多岐に関わっていたが、その規模の大きさから捜査が難航していた暴力団。その幹部である。
「その一色和美は現在どこに?」
一人の刑事がまた質問を投げかける。事件の当事者がこの場に居ないことに疑問を抱く者達はその回答を望むように警視長へ視線を向ける。
「あれだけの人数を相手に大立ち回りをしたんだ、外見こそ軽傷だが念には念を入れて現在病院で治療と経過観察を受けている」
「話を戻そう。先ほども言った通り、彼女が捜査を行っている最中不測の事態により構成員に追跡されていた。その最中に『虚』が現れ、全ての構成員を殺害。その後逃走し現在行方が分からなくなっている。また、一色和美が住居としていたマンションの一室にて同様に殺害されたロシアの工作員が発見された。この一室から飛び出す影を見かけたという目撃情報から、これも『虚』の仕業だと考えても良いだろう」
「さて、君達捜査一課と特殊部隊諸君、これで凡その概要は判っただろう。最初に言った通り君達には当該組織の構成員、主に幹部級の一斉検挙とこの事件の主要人物の捜索を行ってもらう」
主要人物の捜索。その言葉に再び全員の脳内に疑問が生まれた。
それを察知したように、警視長が画面を切り替える。そこには一人の男の姿が映っていた。
「この人物は一色和美の部屋で同棲していた人物であり、事件当日に現場から逃走した様子が監視カメラで映っている」
「この男は何者なんですか?」
その答えも一言で答えられた。
「不明だ」
「不明?」
「戸籍が無いという事だ」
再び会議室にざわめきが走る。
男女の力関係が逆転した現代社会において、男児が生まれても戸籍を出さずに棄てるケースは表だって問題視されていないだけで珍しくない。
しかし、そう言った問題を解決する為国は積極的に制度を作り、棄てられた幼い男児は孤児院に預けられ戸籍が造られるのが一般的である。戸籍が無い状態で成人するという事はありえないのだ。
「という事は、他国からの工作員でしょうか?」
「それも含め、捜査を行って貰う。魔防隊は『虚』、我々は犯罪組織の構成員の検挙とこの男の捜索。今回は今までとは一味も二味も違うヤマ場だ。諸君には不撓不屈の精神で働いてもらうつもりだ。他に質問が無いなら以上を以て第一回目のブリーフィングを終了する。この後すぐに捜査本部を立ち上げる為、各自部屋を移って貰う」
以上、解散。
その号令と共に、その場にいる者達は各々のペースで次の会議室へと向かうのだった。
あーあ。やっちった。
と、昼下がりの公園でベンチに腰掛けながら憂いをおびた表情をする男が一人。そう、俺だ。
別に助ける必要も無かったじゃん。マンションで襲って来た連中ブチコロがしてトンズラすればよかったじゃん。なんで家主ちゃん助けたのさ。
あーもー最悪。
……何時までも引きずってたってしゃーない。切り替え切り替え。
で、やっちも待ったモンはしょうがないので、これからどうすっか。
正直、現世に長居しすぎてこのままだと何かの拍子に正体がバレかねないので、魔都に戻りたい。
ただなぁ……魔都に戻るにしたって、突発的に発生する『門』を待つのはリスキーだし、かといって魔防隊が管理する『門』の真正面から突入するのも怖いんだよなぁ。
うーん……
うーーん……
うーーーん……
「おかーさん、あの人すごいこまってるよ」
「あの人はね、今までに食い散らかしてきた女に詰められて覚悟を決めている最中なのよ」
「どーいういみー?」
「アナタも大人になったらわかるわ」
そこのお母さんお子さんになんて嘘を教え込んでるんですか。確かに女喰ってそうな顔してますけど、まだ一人だけです。いや喰うつもりもないけど。
……はーあ。なあーんも考えが思いつかんし、考え事してても意識がとっ散らかるし、このままのんびりしてみるのもいいか。
お空綺麗だなぁ。
何て言ってたらすっかり夕方になってしまいました。
仕方がない。じゃ、適当なネカフェで夜を明かすかぁ。
都心の摩天楼。その屋上で蛇がぼやく。
「あちこちで醜鬼をばら撒いて反応を見たけど、なかなか見つからないねぇ」
「そうだな」
返答する声は平坦で、何処か冷淡に思える。
「今回は見つかると良いね。何せこれだけ人間がいるんだ、さぞかし大きな騒ぎが起きると思うんだ」
「計画の前だ、あまり大事を起こさないよう太極姉から言われている筈だ」
「大丈夫大丈夫。あの醜鬼が手に入れば計画も前倒しできるし、許してくれるさ」
声はそれっきり途切れ、屋上の気配は嘘のように消えた。
主人公が化けの皮剥しているのに何故人間の姿が映ってるの…? と思った方へネタ晴らし。
工作員ブッコロリー→いったん人間に戻ってマンションの外へ→適当な路地裏で変身してばれないようにマンションの部屋に入室→マンションから飛び出す。
という事です。今書かないと後々書く機会無いのでここで説明させて頂きました。
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