ジャンプはジャンプでも 作:通りすがりの最下級大虚
その時は唐突だった。
「風舞希副組長!」
襖が乱雑に開かれる音と共に、飛び込んできた隊員の悲痛な叫びが部屋中に響く。
「騒がしいですよ。それに今はお客様の――」
「魔都の9番組寮の結界が突破され、管理していた『門』から大量の醜鬼が現世へ侵入しました!!」
その言葉を聞いた風舞希の表情が固まる。
通常、魔防隊員が日常を過ごす寮は強固な結界で守られ、通常の醜鬼は触れただけで消滅する程に強力である。
無論、巨大な醜鬼による襲撃を受けた場合はその限りではないが、それは組員で討伐してしまえば問題は無い。そもそも7番組と2番組以外でそのようなことが起きるのは稀である。
「すぐに向かいます。貴女は代わりに此処でこの方を見張ってて――」
風舞希が立ち上がろうとした瞬間、今度は着信音が鳴った。
1回、2回――3回。醜鬼襲撃の合図だ。
端末を確認して、再びその表情は固まった。
――渋谷区、新宿区、豊島区にて魔都災害発生。醜鬼の大量出現有。
今までに無かった最悪の状況に、彼女は酷く動揺する。
首都主要地区3か所、否4か所での同時魔都災害発生報告。
1体現世に出現しただけで数十人規模に被害が及ぶ。それが複数個所で、しかも人口の密集する地区ならばその被害は如何程なものか。
「2番組は?」
「既に現着していますが数が多く、更に一体強力な醜鬼がいる為苦戦しております! 他の組にも応援を要請しましたがどれだけ時間がかかるか……」
「すぐに出撃るわ。貴女も準備して――」
タン。と床を踏みしめる音。
振り返ると、男が立っていた。
この騒動で逃亡を図る気か―――そう推測したが、表情を見てその思考は消え去った。
悩むような、何かを恐れるような、複雑な表情。
眉は八の字に下がり、口を堅く結び、垂れ下がった両の掌は忙しなく開閉を繰り返している。
しかし、それは一瞬。強く瞑った目が開かれた時には覚悟の決まった眼に変わっていた。
男が片腕を真横に上げる。すると壁を突き破って飛来した竹刀袋が男の手に収まっていた。
風舞希達が反応するよりも早く、男は刀を抜く。
――瞬間、刀は溶け煙となり、掴んていた腕を伝い男の身体を覆い尽くした。
そして。
―――■■■■■■■■■■■■―ッッ!!
咆哮を上げその場から跳躍し、天井を突き破って男だった『ナニカ』は姿を消した。
一瞬、風舞希が見たその姿は魔防隊が長らく追跡してきた『虚』によく似ていた。
虚はその強靱な脚力で首都を駆けていた。
後悔はしていた。この行動の結果が
それが、一体如何なる感情からくるものなのか、この身体を突き動かす衝動が何なのか測りかねながら、虚は駆ける。
その視界に、一体の醜鬼が目に映る。
――はぐれたアレが
気が付けばその醜鬼は無残に命を散らしていた。
確認する間もなく、再び東京の街並みを駆ける。
その視界に、5体の醜鬼の集団。
――アレ等が
意識する間もなく両腕がソレ等を引き千切り、肉の塊に変えていた。
立ち止まる間もなく再びアスファルトを陥没させながら駆け抜ける。
その視界に、数十体の醜鬼の群れ。
――あの集団が一色和美の命を奪うかもしれ―
考える間もなく、醜鬼の群れが一匹残らず塵と化した。
一度立ち止まる。そして辺りを見回す。
周囲で騒ぐ声が聞こえるが、今の虚にとっては聞くに値しない雑音でしかない。
高く聳え立つビル群、カフェーーそして案内看板。
そこに書かれている渋谷駅の文字。
此処は渋谷区――となれば次は――――。
周囲を取り囲む者達を無視し、虚は再び最高速度で東京都内を駆け巡った。
路地裏に隠れた醜鬼、人を襲っている醜鬼、戦っている最中の醜鬼。
道中、醜鬼の姿をその眼に移した瞬間、衝動の儘に屠りながら向かう。
渋谷区から北上して新宿区、新宿区から更に北上して豊島区の渋谷駅へ向かうと、一体の醜鬼が逃げ遅れた民間人に危害を加える寸前だった。
それを横合いから蹴り飛ばすために、脚を振り―――それは呆気なく受け止められた。
受け止められた脚が振り回され、それにつられて身体も揺らされる。
そして投げ飛ばされ、ビルに叩き付けられる。軽い衝撃と砕けたガラスとコンクリートが虚の身体に降り注いだ。
吹き飛ばされた『虚』はその方向、吹き飛ばした主を見やり――そして、動きを止めた。
鎧の如き威容を誇る肉体。丸太とも表現できる程に太い
かつて大井沢の集落で相対し、徹底的なまでに叩きのめした『一本角』が更なる変化を経て『虚』の前に現れたのだった。
一本角が倒れている虚目掛けて接近する。嘗ての雪辱を晴らす相手を前に、昔よりも格段に上がった速度を殺すことなく勢いのままに拳を振るう。
それは凄まじい破壊のエネルギーとなり、ビルが揺れるほどの衝撃を与えた。
土煙が舞うビルの中から、虚が姿を現した。あの追撃を受けてなお、傷は無かった。
それを追うように一本角も現れる。その2対の腕を振り回し、『虚』に猛攻を仕掛ける。
あの時よりも圧倒的な体躯と、それに見合う腕はもはや破城槌である。受ければひとたまりもないだろう。
虚は体格差を活かし、隙間を縫うように身体を動かし猛攻を裁く。しかし、所詮は素人同然の動きでしかない。いつまでも避けきれる事は出来なかった。
遂に一撃が虚の身体に叩き込まれ、その脚が地から浮き上がる。
一本角は嗜虐的な笑みを浮かべ、一層激しく腕を叩き付けた。
上から、下から、斜め上から斜め下から。
幾度もの重い乱打は虚の身体を完全に空中に留め、一切の反撃を許さなかった。
上段から、二対の腕を叩き付け反動で跳ねた虚に一本角はトドメを差すために、角を腹部に定める。
そして、勢いよく身体を押し出した。
腹部に接触した角は阻害される事なく皮膚を突き破り、その肉体へ沈み込んだ。
溢れ出す血液が一本角の顔を濡らし、地面に滴り落ちる。一本角は悦びの咆哮を上げた。あの日の雪辱を、あの日の敗北を、今、帳消しにできる。
角を地面に叩き付ける。再び反動で一度跳ね、虚はそのまま倒れ伏した。
倒れる虚の頭蓋を踏み砕くべく、脚を振り上げ―――地面に足裏を叩き付ける。
が、虚はその場から飛び退き、立ち上がる。
一本角は嗜虐的な笑みを浮かべた。まだこの
立ち上がったとはいえ、最早虫の息。角で突き刺したまま、息絶える様子を眺めよう。一本角は再び角の狙いを定め、凄まじい速度で突進する。
それが命取りになるとあの日痛感したはずであるにも関わらず、一本角は油断した。油断してしまった。
迫る角を虚は静かに避け――上下から膝と肘を振り下ろす。
あの日の焼き直しのように、角はあっさりとへし折られた。
驚愕の表情を浮かべる一本角の顔面に、すかさず拳が叩き込まれた。
一発、二発――徐々に速度が上がりそれは乱打へと移行する。上下も左右も無く、ただ真っ直ぐに顔面を捉え何度も何度も何度も何度も――
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
顔面が陥没し、首が拉げ、胴体が叩き潰され、血が飛び散り、筋線維が弾け、骨が砕け散る。
それでも辛うじて『形だけ』残り痙攣を繰り返していた肉体に、虚は拳を引き絞る。
力が溜まり、腕の肉が軋み、周囲の空気が蜃気楼の如く揺れた。
今度は乱入する者も居ない。虚は拳を突き出した。
凄まじい衝撃が肉塊をブチ抜き、その後ろのアスファルトを捲った。
もし、その先に建造物があれば崩れ落ちていたであろう衝撃は、道路沿いに放たれていたことが幸いし、ビルのガラスが割れ道路に降り注ぐだけで収まった。
虚は、地面に落ちた肉塊を眺める。
恐らくこれが一番強い醜鬼であろう、後は9番組に向かい、そこから溢れる醜鬼を叩き潰しながら魔都に帰るだけだ。
そう思い、踵を返し―――
「成程。紫黒が執着する理由も納得できる」
剣が腹部を貫いた。
仮面の隙間から血が零れた。
「でしょ? 八雷神の一柱にちょうどいいと思うんだ」
蛇が身体を拘束する。
「私に弟ができると。フフフ、夢のようですねぇ、色々と可愛がって差し上げましょう」
黒い影が煙で虚の身を包み込んだ。
「さあ――我らが神域へご招待しようじゃないか。末っ子くん」
とぷり。と、虚の姿が影へと落ちた。
懺悔します。今回で1章最後と言いましたが、この次報告書回とかその他色々書いて最後です。多分。
主人公:何も考えずに飛び出していけ宇宙の彼方して神隠しにあった。お願い負けないで主人公! あんたが此処で八雷神になったら一色さんとの新婚生活はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここで逃げ切れれば、まだチャンスはあるんだから! 次回:『虚大脱走する』(嘘(ガチ))
一本角:肉体改造(ガチ)をした結果超絶強化。特に角は念入りに改造された結果、主人公の腹部を貫くことができた。良かったね。でもその後すぐにボコボコのボコにされちゃったけど。
最後の連中:ビンゴ引けて小躍りしそうなくらい嬉しくなっている。末っ子が出来て喜んでいる奴は可愛がりと称して色々やりたい模様。
次回は報告書回と色んなキャラの視点を書いて次章に繋げます。上の偽次回予告は内容は嘘じゃありませんが登場するのはだいぶ先になります。