ガーディアン解任   作:slo-pe

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古都内乱編15

 

 

 翌日、十月二十八日。日曜日。

 二○九六年度全国高校生魔法学論文コンペティションが開催された。

 優勝の栄冠は、一年生、九島光宣をメインの発表者に起用した第二高校の上に輝いた。

 第一から第九の国立魔法大学付属高校で新たなスターが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 論文コンペが終わり、将輝は京都から金沢の自宅へ帰ると、すぐさま父親である一条家当主・一条剛毅のもとへ向かった。

 

「それで、話とは何だ?」

 

 貴公子的な将輝とはあまり似ていない、荒っぽい口調で問われる。将輝はそれに、遮音フィールドを張ってから答えた。

 

「親父は、司波深雪さんを知っているか?」

「第一高校の司波深雪嬢か? もちろん知っているが」

 

 剛毅は将輝が周公瑾の捕縛に動いていると、本人から知らされていた。機密性の高い応接室にわざわざ遮音フィールドを張ったことで、その報告だろうと思っていた。

 思わぬ話題に剛毅は訝しんだが、回答に迷うことはなかった。

 

「そうか」

 

 将輝はそう相槌を打ったものの、次の言葉を口にしようとしない。

 

「なんだ? 今回の捕縛で仲が深まりでもしたか?」

「…そうだ」

 

 じれったく思った剛毅から水を向けてみると、将輝は躊躇いを捨てて頷いた。

 

「俺は司波さんに惚れている。今回の捕縛任務で司波さんも俺の事を好ましく思っていると言われた。俺は司波さんと交際……それも婚姻を前提とした交際を申し込みたい」

「好きにしたらいい。無名の家系とは言え、深雪嬢の魔法力はこの国屈指のものだ。一条の嫁として迎えるに何の問題もない」

「違う」

 

 将輝が返した否定に、剛毅が眉を顰めた。それを問うより速く、将輝が言葉を続けた。

 

「司波さんが一条に来るんじゃなく、俺が一条を出ていく婚約をしたい」

「……どういう事だ」

 

 剛毅はふざけるななどと怒鳴ることせず、息子の真意を問うた。

 

「今回、周公瑾を無力化したのは司波さんだ。詳細は言えないが、系統外魔法、それも俺が知る限り最強のものだ」

「…………なるほどな」

 

 剛毅は暫しの思考の末、頷いた。

 圧倒的な魔法力、系統外魔法、一条の跡取りが家を出る。これだけのヒントで剛毅は真実にたどり着いた。

 将輝も父親が理解に至ったことで、話を続けた。

 

「彼女は、正月にとある発表がされると言っていた。それを受けて、一条の跡取りとしてどうするのかとも」

 

 剛毅は将輝の説明に、一つ息をついた。

 

「将輝、お前に問う」

「なんだ」

「お前は、司波深雪嬢が好きなのか? お前は彼女に惚れているのか?」

 

 剛毅は先ほど将輝が宣言した事を、もう一度問うた。射貫くような眼差しが将輝を捉える。海の荒くれ者でも萎縮せずには居れないほどの強い眼光。だが将輝には、それを恐れるべき理由が何も無かった。

 

「ああ。俺は司波さんに惚れている。一目惚れだ」

 

 一条家の長男として、許されない行為だという自覚はある。だが将輝には、自分の想いを、ようやく通じたこの想いを、蔑ろにすることはどうしてもできなかった。

 

「そうか」

 

 剛毅は息子の堂々たる告白に、満足して頷いた。

 

「ならば親として、その想い、叶えてやらねばな。なに、心配するな。一条家は茜に継がせれば良い。お前は遠慮無く婿に行ってこい」

「ありがとう、親父……!」

 

 将輝は生まれて一番の感謝を父親に伝えた。

 剛毅はそんな息子へ、応援がてら一つサプライズをしてやろうと思った。

 

 

 

 

 同時刻、奈良にある九島邸では、前当主であり日本魔法師界の長老である九島烈と、その孫である光宣が和やかに話をしていた。

 一年生ながら論文コンペ優勝の立役者となった光宣。身体が弱く、今まで全てを諦めなければならなかった孫へ、烈は万感の思いで称賛を送る。光宣も初めて自身の実力が示せたことと、敬愛する祖父の言葉に頬を緩ませていた。

 

「光宣、一つ聞きたいことがある」

「なんですか、お祖父様」

「……もし、お前の病弱さが解決できるとしたら、お前はそれを受け入れるか?」

 

 光宣は即答できなかった。当然解決したいに決まっている。だが祖父の躊躇いを含んだ表情を見て、その意味を考えていた。

 

「……達也さん、もしくは四葉家ですか?」

 

 光宣は烈から、達也が四葉家の人間であると仄めかされていたが、ここではっきりと口にした。

 

「お前は本当に聡い子だ」

「今までどうしようもなかった僕の身体が、急に良くなるなんてあり得ませんから」

 

 祖父の本心からの称賛を、光宣はお世辞と受け取ったようだ。

 

「達也さんなら、僕の身体を治せるんですか?」

「響子曰く、応急処置なら理論上可能だそうだ」

「応急処置……」

「つまり光宣が健康体でいるには、司波達也くんに人体実験を兼ねた施術を継続的にしてもらう必要がある。九島の魔法師が四葉の魔法師に、無防備を晒すということだ」

「構いません」

 

 光宣は僅かな躊躇いも持たずに断言した。

 達也を信頼していることもそうだが、光宣は自分が「九」の魔法師という自覚はあれど、九島家の一員という認識はなかった。祖父と響子以外に信頼できる人間は、この家にはいなかった。

 

「そうか」

 

 烈はその答えを予想していたのか、意外感も見せず頷いた。

 

「真夜……四葉殿には私から施術の要請をしよう。それと光宣、新学期から第一高校へ行きなさい」

「転校、ですか?」

「いや、国内留学という形で話をつける。九島光宣が信頼に足る人物だと、司波達也くんに、そして四葉家にアピールしてきなさい」

「っ、はい!」

 

 祖父が自分の治療のために手を回してくれる事実はもちろん嬉しい。

 だがそれ以上に、達也やエリカ、レオや水波とまた一緒に過ごせる未来に、光宣は輝かんばかりの笑顔を浮かべた。

 

 

 

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