ガーディアン解任   作:slo-pe

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今回は光宣&船尾ちゃん回です。
オリキャラのスペックちょっと盛りすぎたかなぁと思いつつ、まあいいかと開き直っています。

よろしければ、本編に進む前に
「二年目九校戦編4」の後半。
「二年目九校戦編12」の中盤。
を読んでいただけると、船尾ちゃんの戦闘スタイルがイメージ掴めるかなと思います。



師族会議編5

 

 

 新学期三日目、一月十日。

 朝のホームルーム前の一年A組の教室にて。

 

「うーん」

 

 水波の信奉者である船尾は、一人唸っていた。

 クラスメイトたちが声をかける様子はない。彼女が水波のストーカー予備軍なのは有名だ。そのため、どうせ今回も水波関連だろうと放置されていた。

 

「うーん」

「おい船尾、いい加減うるさい」

 

 そんな船尾に注意したのは、同じくA組の七宝琢磨だった。

 

 入学当初は悪い噂が先行していた琢磨だったが、春を過ぎた頃から評価は一変した。

 自己主張の強さはそのままに、周囲を見る余裕を身につけてクラスの中心的存在になり、九校戦でも自然と一年男子の纏め役を担っていた。

 

 そんなクラスのリーダーの苦言に、船尾は質問で返した。

 

「ねえ七宝、私、水波先輩のメイド服姿の写真が欲しいの」

「…そうか」

「どうすればいいと思う?」

「知るか」

「冷たいなぁ」

 

 琢磨の冷たい回答に、船尾は傷付いた様子もない。今の彼女の思考は、まだ見ぬ水波のメイド服姿に大半を占められていた。

 

「お前さ、本当女で良かったよな。男だったら今頃捕まってたぞ」

「七宝も男でよかったよね。入学当初のあれじゃ、三年間ずーっとハブられたよ」

「んぐっ……お前、ほんっと口が減らないな」

「七宝も偉そうな態度は変わらないよね」

 

 投げた嫌味が倍になって返ってきて、琢磨の顔が引き攣る。

 

 二人の喧嘩友達とも言える距離感には理由があった。

 船尾の理由は単純だ。入学前後に、琢磨が深雪へ失礼な態度を取って水波をキレさせたと知ったから。

 琢磨の方はさらに単純で。船尾が一年で唯一、琢磨と模擬戦で張り合える生徒だからだ。

 

「ああ、そう言えば七宝、予め伝えておくね」

「なんだ?」

「二年生に、三高から一条さんが国内留学生で来てるじゃん。このクラスにも一人来るらしいよ」

「本当か?」

「うん、昨日達也先輩から聞いた」

 

 相変わらず情報通な船尾に、琢磨は舌を巻く。先ほどまで船尾を放置していた周囲からも、耳をそばだてる気配がする。

 

「どこから、誰が来るんだ?」

「二高から、九島光宣くん。ほら、コンペで二高代表になってた超美形」

 

 周囲がざわめく。

 ただでさえ前例にない国内留学生、それが二人目。しかも十師族──『一条』に続いて『九島』だ。

 

「あいつか」

 

 琢磨は少し眉を顰めた。十師族を目指す琢磨にとって、既にその座にいる九島家は複雑な気持ちを抱かざるを得ない相手だった。

 とはいえ、それを誰かにぶつけるほど、今の琢磨は子どもでもなかった。

 

「なんで初日から来なかったんだ?」

「体質的に、体調崩しやすいんだって。なんでも達也先輩たちと知り合いらしくて。一緒に学校生活送れるってはしゃぎすぎて、それで前日に熱出したとか」

「あほかそいつ」

「でも顔はいいよ? 正直深雪先輩並み」

「そこじゃねえよ」

 

 琢磨のツッコミは、A組の総意だった。

 

 

 

 

 ホームルームの時間になり、教室の前に立つのは、A組の指導教員ではなく教頭の八百坂。

 

「えー、一昨日に引き続き、二人目の国内留学生です。九島君は第二高校の生徒ですが、三学期の間一高で過ごすことになりました」

 

 八百坂の説明は、生徒たちの頭に入っていなかった。クラスメイトの意識は、続いて入室した少年に根こそぎ奪われていた。

 その麗しい顔には緊張が浮かんでいた。少年のあまりにも整いすぎた容姿に、琢磨が息を吞む。深雪で耐性が付いている船尾ですら、瞠目せずにはいられないほどの美貌だ。

 

「予め伝えておきますが、転校ではなく国内留学生です。制服の通り、九島君は第二高校に在籍したままです。単位も二高に換算されます」

 

 八百坂は、生徒たちの意識が自分に向いていないと気付きながらも、説明を省くことはしない。

 

「九島君にとっても皆さんにとっても、きっといい刺激になることでしょう。仲良く、切磋琢磨してくれることを望みます。では九島君」

 

 八百坂に促されて光宣が半歩進み出る。

 

「第二高校の九島光宣です。この度は第一高校の皆様のご厚情により、一緒に学ばせていただくことになりました。三か月の短い期間ですが、よろしくお願いします」

 

 光宣が頭を下げる。一瞬の沈黙の後、船尾が手を打ち鳴らした。その音に我に返った生徒たちが、一斉に拍手を起こした。

 

 クラス中からの拍手に、光宣は本気で照れている様子だった。顔を赤らめたことで、神秘的な印象が薄れる。

 超の付く美少年が見せた親しみやすい振る舞いに、クラスメイトの意識はより一層釘付けになった。

 

 

 

 

 ホームルームを終えて、八百坂が教室をあとにした。

 空いている席──退学者により空きができたのだ──に着いた光宣へ声を掛けるため、女子生徒たちが立ち上がる。

 

「九島くん、初めまして」

 

 だが、最も先んじたのは船尾だった。船尾の席は光宣の隣、同時にスタートすれば一番になるのは当然だった。

 

「私、船尾春花って言います。生徒会役員として関わることも多いと思うし、これから三か月よろしくね」

「あっ、はい、九島光宣です、こちらこそよろしくお願いします」

 

 声を掛けられた光宣は、はにかんだ笑みを浮かべて謝意を伝える。

 

「船尾さん、先ほどはありがとうございました」

「いえいえ、こっちこそごめんね。うちは深雪先輩で慣れてるとはいえ、九島くんが美形すぎて皆びっくりしちゃって」

 

 光宣が笑顔のまま固まった。俯いて肩が細かく震えているのは、──顔を上げてから分かったが、吹き出すのをこらえていたらしい。

 

「……すみません。こんな正面から美形だと言われたの初めてで。女性の方からは、特に」

「いつもはもうちょっと慎ましいんだけど。九島くんの場合は触れないのもどうかと思うくらいの顔だから」

 

 船尾は、じりじりと会話に入る機会を窺っている周囲へ視線を投げた。図星を突かれた面々は、そっと目を逸らす。

 

「九島くんは病み上がりなんだし、あんまり囲まれ過ぎても疲れちゃうもんね」

「お気遣いありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 船尾は光宣から視線を外して、「七宝」と呼び掛ける。

 

「紹介するね。うちのクラスの七宝琢磨」

「七宝琢磨だ。九島くん、よろしく頼む」

「九島光宣です。よろしくお願いします」

 

 光宣は先ほどよりも緊張が解れた様子で、琢磨の自己紹介に答える。

 

「分からない事があったら、私か七宝に聞いてくれれば大体は答えられると思うから」

「そうだな。一高と二高で慣れない点も多いだろうし、何かあれば教えてくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

 二人の厚意に、光宣が微笑んだ。

 

「あ、そうだ。ごめんだけど九島くん、放課後生徒会室来れる?」

「生徒会室、ですか?」

 

 生徒会室という単語に、光宣の目が輝きだした。

 その容姿も相まって、本当に光を纏っているかのようだった。船尾はそれに気圧されながらも、役割を果たすべく口を開く。

 

「うん。これから放課後、自治会とか部活動に参加する時に、生徒会を通した方がスムーズに進むから。三高の一条さんとの顔合わせも必要だしね」

「分かりました。では放課後、ご一緒させてもらいます」

 

 光宣がそう了承したところで、一限目が始まる予鈴が鳴った。

 

 

◇◇◇

 

 

 四葉家の発表により、ぎこちない雰囲気が漂っていた第一高校は、今や全く別の話題で盛り上がっていた。

 一条将輝、九島光宣。ただでさえ前例のない国内留学生。しかも容姿、家柄、才能の三拍子が揃った二人。

 それだけでも四葉の噂を吹き飛ばすには十分だったが──。

 

「深雪さん、お願いします」

「はい。カウントは九島くんにお任せします」

 

 向かい合う二人の距離は三メートル。

 その真ん中で、直径三十センチの金属球が細いポールの上に載っている。実習室には同じ器具がずらりと並んでいるのだが、クラスメイトの全員が手を止めて深雪と光宣の二人を見ていた。

 クラスメイトだけではない。中二階の回廊状見学席には、自由登校になった三年生がずらりと並んでいる。その中に、服部と五十里の姿もあった。

 

「司波さんに比肩する魔法力、本当だと思うか?」

「九島家の秘蔵っ子という噂だし、ありえないことじゃないと思うけど。でも、にわかには信じ難いな。同じ年代で深雪さんと拮抗する魔法技能だなんて」

「同感だな。百聞は一見にしかずと言うが、この目で見なければ信じられん」

「だからこうして確かめに来てるんだけどね」

 

 実習の内容は、同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配する。魔法実習の中でもシンプル且つゲーム性の高いものだ。シンプルだからこそ、二人の単純な力量差が露わになる。

 先月から始まったこの実習で、光宣は同級生をまるで寄せ付けなかった。新入生総代の琢磨、十師族直系の泉美や香澄。同級生トップスリーですら、誰一人敵わなかったのだ。

 

 その話を聞きつけた新旧生徒会役員(プラス風紀委員長)が交互に光宣の相手を買って出たが、深雪と将輝以外は相手にならなかった。

 その将輝ですら、勝率は三割前後。深雪も勝ち越してはいるが、勝率は七割に届かない。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

 実習用のCADは据え置き型・パネルインターフェイス。

 光宣が「ワン」のカウントを口にすると同時に、二人は揃ってパネルの上に手を翳した。

 

「GO!」

 

 最後の合図は、二人で声を揃えて。深雪と光宣、二人の指がパネルに触れる。

 眩い想子の光輝が、対象となった金属球の座標に重なり合って爆ぜた。光輝は一瞬で消えた。

 金属球が光宣へ向かってコロコロと転がっている。

 

「くぅ…、また負けた……」

「ふぅ、これで七割に戻せたかしら」

 

 悔しさを露わにする光宣と、何処かホッとした笑みを浮かべる深雪。

 二人の様子を見て分かるように、今の勝負は深雪の勝ちだった。しかし「七割に戻せた」というセリフからも、そう告げた口調からも、深雪の圧勝という印象は無い。

 

「……凄まじいな」

「そうだね。干渉力で深雪さんが上回っていたけれど、術式の発動は完全に同時だった」

「スピードを取るか、パワーを取るか……司波さんでも、僅かなミスや作戦の読み違いで負け得る程度の差しかない」

 

 服部と五十里、二人の目から見ても、光宣の魔法力は凄まじいの一言だった。あの深雪と同じ土俵に立っている、それ自体が異次元である証だ。

 

 ──その後、時間内に同じ実習が二度繰り返され、光宣は一勝をもぎ取った。

 

 深雪はリベンジしたそうな雰囲気を醸し出していたが、自身も授業があるため、戻らざるを得なかった。

 

 

 

 

 昼休み、いつもの学生食堂。

 光宣は今日は琢磨たちと同席しているが、これは毎日というわけではない。光宣の初登校から一週間、彼にはあちらこちらからお誘いがあり、その都度違う相手と食事をしていた。広く交流を深める、留学生としては模範的な態度だと言えるだろう。琢磨たちと一緒にお昼を食べるのは、実に初日以来のことだ。

 なお、初日に船尾が釘を刺していたこと、その後も琢磨と船尾、B組C組の泉美と香澄が目を光らせていたことで、過剰なお誘いが来ることはなかった。

 

「大人気だな、光宣」

「ありがとう。皆さん良くしてくれて、本当に嬉しいです」

 

 琢磨の短く質素な褒め言葉に、光宣ははにかんで応えた。

 

「でも、光宣って予想以上に凄かったんだな。そりゃあ九島家の人間だし相当な実力者とは思っていたけど、まさか司波先輩とあそこまで競り合う程とは思わなかった」

 

 同席している梶原という男子生徒がそう称賛する。光宣とテーブルを囲んでいるのは、琢磨、梶原、千川の三人。新人戦モノリス・コードの選手たちだ。

 

「驚いているのはむしろ僕の方です」

 

 今度の光宣は淡々と答える。

 

「二高にいた時は、先輩方にも負けなしだったんですけど。深雪さんにはどうしても勝ち越せないですし、一条さんにも少しのミスで負けてしまいます」

「光宣、こう言っちゃなんだが、司波先輩と張り合えるだけで相当異次元だからな? 一条さんだって三高のエースだし」

 

 梶原のセリフに光宣は曖昧な笑みを返した。

 魔法では負け無しだった光宣にとって、一高での敗北は全て、深く刻まれている。相手が将輝や深雪であろうと、それは決して軽くなるものではない。

 とはいえ、それを主張しすぎるのも自慢になるかもしれないと気付き、とりあえず笑って誤魔化したのだ。

 

 その後も和気藹々と昼食を食べ進め、全員が箸を置いたところで。

 

「そうなると、船尾との模擬戦も観てみたいよな」

 

 梶原がそんな事を言い出した。

 

「船尾さん、ですか?」

「ああ。あいつ、実技じゃそれなりだけど、模擬戦じゃ琢磨や七草姉妹にも勝ち切るんだぜ?」

「船尾の模擬戦、人気あるんだよなぁ」

 

 それに千川が同意した。

 

 一年生の中で、実技の成績は琢磨、泉美、香澄が頭一つ抜けており、船尾はそれと比べると数段劣る。だが、模擬戦となると話は別だ。

 通常男女間(或いは女子同士)で採用されているノータッチルール、指定されたエリアから出られない状況下では、対船尾の戦績は琢磨が七割超え、香澄や泉美が僅かに勝ち越し。

 だが、接触が許可されたルールにおいては、香澄・泉美は一割前後、琢磨でさえも四割を切るのだ。

 

 梶原と千川の声と表情には、光宣が船尾と戦ってほしいという思いが色濃く出ていた。

 

「光宣、無理はしなくていいからな。模擬戦は強制されるものじゃない」

「いえ、やってみたいです」

 

 琢磨の気遣ったセリフに対して、光宣ははっきりと意志を示した。

 

 光宣は一高に来て、敗北を学んだ。しかしそれは、魔法力の均衡した戦いでの敗北だ。

 光宣から見れば、船尾は魔法力に優れているとは言えない。そんな船尾が、琢磨や香澄たちに勝ちきってみせる。その理由を知りたくなったのだ。

 

「……それじゃあ後で、船尾と話をしようか」

 

 光宣がやる気を見せたこと、梶原たちが目を輝かせたこと。

 三人の反応に、琢磨はわずかに眉を寄せる。だがそれを押し隠し、いつもの調子でそう答えた。

 

 

 

 

 放課後の生徒会室では、琢磨は針の筵気分を味わっていた。

 琢磨の前には生徒会役員の四人が並んでいる。上級生二人はあからさまな視線を向けてくることはないが、同級生である泉美と船尾ははっきりと不機嫌な顔をしている。

 

「ねえ七宝、私たち生徒会はね、今すっごい忙しいの」

「……すまん」

「ううん、いいんだよ、別に。九島くんは国内留学生、二高を代表して来てるようなもんだもん。仕方ないよ……でもね、その前例のない国内留学生の対処で、今めちゃくちゃ仕事が増えてるの。わかる? 部活連にも見学のスケジュール共有してるし、分かってるはずだよね? それなのに模擬戦。しかも私だけじゃなく、深雪先輩と水波先輩まで引っ張りだして」

「いや、ほんと……すまん」

 

 船尾は模擬戦が嫌いではない。ただ、こんな忙しい時に持ち込まれては迷惑なのだ。

 船尾の正論パンチに、琢磨は苦々しい表情で謝罪する。ここであれこれ言い訳しないのは、琢磨の真っ直ぐな気質を反映した美点といえる。

 

「船尾さん、その辺にしてあげたらどうですか?」

「泉美。でも……」

「七宝くんも悪気があったわけじゃないのですし。それに……光宣くんの実力なら、遅かれ早かれ船尾さんの話は耳に入っていたと思いますよ」

「……泉美がそう言うなら」

 

 先ほどまで琢磨を責める側に回っていた泉美の説得に、船尾は不承不承ながらも矛を収めた。

 その空気を引き継ぐように、さらにフォローの声が上がった。

 

「泉美ちゃんの言うことも確かだけど、この模擬戦で春花ちゃんにメリットが無いのよね……だから、春花ちゃんが勝ったらご褒美をあげようと思うのだけど」

 

 深雪はそう言うと、ちらっと水波へ視線をやる。それを受けた水波は僅かに間を置いて、静かに頷きを返した。

 

「え、それって……」

 

 船尾の目が爛々と輝きだした。顔には「まさか、まさかまさか、まさか……!」と書かれている。

 

「水波ちゃんのメイド服姿。この前焼き肉パーティーした時に、水波ちゃんがお肉を焼いている写真を撮ったのよね」

「やりますっ! 誰が相手でも負けません! 九島だろうと一条だろうと、絶対に勝ってみせます!」

 

 先ほどまでの怒りは遥か彼方へ飛んでいき、船尾は力強く宣言した。

 ヤル気満タンとなった船尾を見て、琢磨はようやく肩の力を抜き、三人の役員へ頭を下げた。

 

 

 

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