ガーディアン解任   作:slo-pe

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日常編4

 

 

 幹比古が達也たちと行動するようになってから数日経った土曜日。放課後のアイネブリーゼには八人の一高生がいた。達也たちE組のメンバーが五人、A組のほのかと雫、そして水波だ。

 

「紹介するぜ、1−Aの桜井水波だ」

「初めまして、A組の桜井水波です。よろしくお願いします」

 

 レオの紹介に続いた水波、その意識の何割かが達也に向いている。早く初対面の挨拶をしろということだろう。

 

「知っているみたいだが、E組の司波達也だ。俺のことは達也でいい。桜井さん、よろしく頼む」

 

『桜井さん』と呼んだ時、一瞬ジト目を向けられたような気がしたが、達也は気のせいだと処理した。

 

「では、私のことも水波と呼んでください」

「分かった。よろしくな、水波」

「はい、よろしくお願いします」

 

 水波はそう言って笑みを向けてくる。初対面の演技としては不合格なくらいの、満面の笑みだ。達也は周りがそれ不審に思う前に他のメンバーの紹介を始めた。

 

「──最後に、同じくE組の千葉エリカだ」

「あたしのこともエリカでいいわ。よろしくね、水波」

「分かりました。エリカさん、よろしくお願いします」

 

 和やかな会話のはずだが、エリカの視線には何やら迫力が籠められている。

 

「それで、水波はなんで達也くんを紹介してほしかったの?」

 

 水波もそれに気づいているはずだが、完全にスルーを決め込んで質問にのみ回答した。

 

「生徒会室で話題になっていましたので、どんな人だろうと思っていました」

 

 生徒会室という単語にエリカが眉を顰めるが、言葉を返したのはほのかだった。

 

「生徒会室って、どんな話題だったの?」

「剣術部の騒動を収めたということで話題になっていました。特に、渡辺先輩は自慢げにしていました」

「ああ、あれね。達也くんの立ち回りは凄かったわね」

「私たちは見てないんだけど、そんなにすごかったの?」

「相手にすらなってなかったわよ」

 

 エリカの手放しの称賛に達也はくすぐったい気持ちになる。

 

「それに、新歓期間に達也くんと校内を回ったけど、あたしじゃ絶対に勝てないもの」

「エリカちゃんも大活躍だったんですけどね……」

「僕は噂でしか知らないけど、すごかったらしいね」

「それは私もほのかと見てた。達也さんもエリカも凄かった」

 

 さすがにそろそろ恥ずかしいので、達也は強引に割って入った。

 

「それはいいんだが、水波はなんで山岳部に入ったんだ?」

「体を鍛えたかったので、魔法を使わない部活にしました」

 

 水波も達也の意図を汲んでくれたようで、エリカもそれに乗っかった。

 

「でも山岳部って男ばっかりじゃない、嫌じゃないの?」

「実家の道場では男性と稽古していましたから」

「桜井はすげぇぞ、入部してすぐに三年生と同じくらい動いてたんだからな」

「いえ、そんなことはないです……」

 

 水波は恥ずかしげに否定する。水波は四葉家で鍛えられていたのでそのくらいは当然なのだが、周りからはそうは見えないらしい。

 

「でもちょっと意外……水波、体育のときはそんなイメージ無いのに」

「いつもは手を抜いてるの?」

 

 ほのかの素直な感想と、雫の直接的過ぎる質問が飛んだ。

 

「いえ、その、球技は苦手で……」

 

 できないのではなく、心理的に「不得意」なのだ。ほのかはそれがよく分かるのか、それ以上追及はしなかった。レオも同じ部活の女子を助けるためか、話題転換をしてくれた。

 

「球技と言えばよ、達也もそうだが幹比古もすげぇ動けるんだぜ」

「そうだな、あそこまで動けるとは思っていなかったな」

 

 その所為で、今度は幹比古が恥ずかしい思いをすることになるようだ。

 

「この間の体育の試合、三人とも格好良かったですよ」

「こう見えて、ミキも結構鍛えてるのよね」

「そうなんですね、吉田くんすごいですね」

「いや、そんなことはないよ……」

「そんなことあるぜ、すげぇぞ幹比古は」

 

 その後も美月の天然パワーで称賛を受け続けた幹比古は、助けを求めるべく達也に視線を向けた……のだが、達也は素知らぬふりを続けている。

 レオとエリカはそれを煽っているし、A組女子も助けるつもりは無いようだ。美月の褒め殺しはしばらく続き、達也が頃合いを見て助けるまで幹比古は耐え忍ぶのだった。

 

 

 

 

 駅で友人たちと解散して帰宅した達也だったが、隣には先ほど別れたはずの人物がいた。

 

「達也さん、私は夕食の準備をするのでここで失礼します。できましたらお呼びしますので」

「……そうだな」

 

 隣にいるのは今日『初対面』の挨拶をしたばかりの水波。水波は帰宅して早々、やる気満々という表情でリビングへ向かうのだが、達也は少し呆れている様子だ。

 

「水波、そんなに気合を入れなくてもいいんだぞ?」

「何を言うのですか。せっかくの記念日なのですから、気合いも入るに決まっているではないですか」

「もう誕生日を祝う歳でもないんだが……」

「それでもです、一年に一度しか無いのですよ」

 

 水波が何故こんなにやる気かと言うと、明日の日曜日、四月二十四日が達也の誕生日だからだ。

 

「当日に来られない分、今日は盛大に祝うと決めたではないですか」

 

 水波の言う通り、明日はFLTで面倒な会議があるため達也の都合がつかなかったのだ。水波は誕生日祝いができないということでかなり不満げだったが、達也が前日にご馳走を作ってもらうようお願いすることで、どうにか妥協が成立した……他人から見ると何とも不思議な妥協ではあるが。

 

「私が祝いたいのですから、達也さんは大人しく祝われてください」

「そうか……」

「そうです」

 

 水波にも譲れない一線があるらしく、達也の「さん付け」呼びや、敬語禁止には強く抵抗した。だが、流石に必要性は理解しているようで、その部分は水波が引かざるを得なかった。

 その分こういった日常場面では、水波はこれでもかというくらい我儘を通している。まあ我儘といっても可愛いものなので、達也も笑って見逃しているのだが。

 

「分かったよ。俺は地下にいるから、できたら呼びに来てくれるか?」

「わかりました、楽しみにしていてくださいね」

 

 リビングをあとにしようとした達也だったが、持っていた大きなカバンを開いて、楽しそうに『洋服』を取り出す水波を見てその足が止まった。

 

「……水波、何故メイド服を?」

「何故、と言われましても……」

 

 水波は何故そんな質問をするのか分からないといった風に小首を傾げている。

 

「……いや、何でもない。夕食、楽しみにしているよ」

「はい、頑張りますね」

 

 水波は達也の返事に再度こてんと首を傾げたが、すぐに楽しそうな表情に戻った。達也は突っこみたい気持ちを必死に抑えながら、地下室へと向かうのだった。

 

 一時間ほど経ち、水波に呼ばれてリビングへ向かうと、料理は既にテーブルに運ばれていた。それに、テーブルの脚がすっぽり隠れる長さの純白のテーブルクロスまで敷かれていた。

 品目はシーザーサラダとアスパラガスの生ハム巻き、それにボロネーゼパスタと煮込みハンバーグ。

 見た目の華やかなものばかりだし、水波の料理なら美味しくないはずがない。それに、おそらくデザートにも何か用意しているのだろう。

 

「美味しそうだな」

「ありがとうございます」

 

 達也の素直な賛辞に、水波もはにかんだ笑みで応えた。水波はそのまま達也をテーブルへと案内し、椅子を引いて座らせた。その後キッチンへと向かい、ワイングラスを二個とボトルを一本、手に持って帰ってきた。

 

「達也さん、乾杯しましょうか」

「赤ワインか」

「はい、きちんとノンアルコールですよ」

 

 水波に関してそこは心配していない、達也が気にしているのは別のことだ。本来なら男性である達也が水波に注ぐべきなのだが、水波はボトルを離す気配がない。今もグラスをテーブルに置いて、自分でコルク栓を抜いている。

 

「水波……」

「何でしょうか」

 

 達也の視線がボトルに向いていることに気づいていながらも、水波は敢えて質問という形で返した。それだけでなく、一度達也の前にあったグラスに視線を落として、再度達也の顔を見つめ返した。

 

「……それじゃあ頼むよ」

「はい」

 

 諦めの籠った達也の答えに、水波は達成感あふれる笑みを浮かべた。それどころか、小さくガッツポーズまでしている。

 

「勝ちました……」

「……何か言ったか?」

「いえ、何でもないですよ。さあどうぞ」

 

 達也のジト目を水波は満面の笑みで撃退し、ボトルを両手に持って、グラス三分目まで注いだ。その後も達也の視線を黙殺し、自分の分まで注いでしまった。

 何がなんでも達也にはさせないという気概が伝わってくるので、今更達也もツッコんだりはしない。

 

「早速だけどいただこうか」

「そうですね」

 

 水波がボトル口を拭き終えたのを確認してから達也がグラスを掲げると、水波もグラスを持ってにっこりと微笑んだ。

 

「達也さん、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、水波」

 

 二人は同時にグラスを傾けた。

 

 

 

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