ガーディアン解任   作:slo-pe

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師族会議編15

 

 

 スターズのナンバー・ツー、ベンジャミン・カノープス少佐。彼はUSNA軍から廃棄予定の兵器を盗み出し、国外へ持ち出したヘイグ(顧傑)を捕らえるため秘密裏に来日していた。

 だが、カノープスのスマートかつ精悍な顔は、深い戸惑いに彩られていた。

 

 ヘイグが盗んだのは歩兵用ミサイル。その炸薬程度では、余程上手く不意を突かない限り高位魔法師を殺傷することはできない。

 だが爆弾化した弾頭を何十と用意すれば、その全ての爆発を阻止することは日本の十師族にも難しいだろう。高位魔法師は対物耐熱障壁により爆発の被害を免れ得るが、偶然その場に居合わせた一般市民はそうも行かない。

 さらに、多方向から襲撃を受けて、第三者の市民を守り切ることも不可能だ。結果として、魔法師以外の市民に被害が出る。それにより、USNAで活発化している人間主義者の矛先を日本に向ける。

 これが『七賢人』からもたらされたシナリオだった。

 

 許されるなら、カノープスはテロを阻止したかった。廃棄予定の兵器を盗まれたという身内の恥を曝してでも、日本当局と協力して市民を犠牲にするテロを阻止したいというのが彼の本音だった。

 しかしそれは、彼に許されていなかった。兵器盗難の事実を日本側に明かすことも、日本の軍や警察と協力することも禁止されていた。

 

 カノープスに与えられた任務は、ヘイグの暗殺。しかも、日本当局に主権侵害を非難される材料を与えてはならないという条件付き。

 カノープスに残された選択肢は、ヘイグの爆弾テロを黙認し、それを捕らえようとする日本の魔法師を妨害し、公海まで逃げ出したヘイグを始末することだけ。

 

 ヘイグの目的を最も効果的に果たせるのは、二日間に渡って行われる日本魔法師界のサミット、師族会議。

 この二日間、カノープスはUSNA大使館が用意したウィークリーマンションの一室にて臨時の作戦本部を開き、起こるはずの惨劇を座して待つしかできなかった。 

 

 だが、二月五日、二日目の師族会議が終了し、そろそろ日を超える時刻になっても、それらしき動きはない。

 カノープスは、非戦闘員がテロの犠牲にならなかった安堵と同時に、何故テロが起きないのか戸惑った。

 

「カノープス少佐。如何いたしましょう」

「……ヘイグの捜索を開始する。ただし日本当局に知られぬよう、慎重に事を進めること」

「了解であります、サー」

 

 部下からの問いに、カノープスは決断を下した。

 

「ヘイグの想子波パターンは登録してあるな?」

「イエス、サー。追跡班の短距離レーダーは、ヘイグの想子波パターンは登録済みです」

「よろしい。では作戦を開始せよ」

「イエス、サー」

 

 犯罪者の追跡において、USNAは絶対的な自信を持っていた。

 米国の情報機関は、外国籍・無国籍の魔法師に対する警戒措置の一環として、顧傑の想子波パターンを本国で採取しており、さらにそれを追跡する短距離レーダーまで開発していた。

 この技術があれば、ヘイグを捕捉すること自体は可能であると、USNA軍は想定していた。現場責任者として派遣されたカノープスも同様の考えだった。

 

 ──ただしそれは、ヘイグが生存していれば、の話である。

 

 

 

 

 二月七日、USNA軍がヘイグの捜索に乗り出してから三日が経った。未だにテロは起きておらず、カノープスたちはヘイグを見つけられていない。

 カノープスを始めとして、USNA軍の魔法師たちは焦りを覚えていた。

 

 その日も夜が更けた頃に、カノープスの部下たちは捜索に繰り出した。

 カノープスが彼らからの報告を待つ中で、日を跨いだ午前零時を境に、次々と連絡が途絶えた。カノープスと共に派遣されたのは、数こそ少ないが精鋭たちだ。彼らが何の兆しもなく無力化されるなど、普通では起こり得ない。

 だが、何度通信を試みても応答がない。不意の戦闘を開始したという報告もない。生死すら分からない。

 

 そんな状況が数時間続き、痺れを切らしたカノープスが直接現場へ向かおうとしたところ、這う這うの体で部下たちの隊が帰ってきた。

 続々と帰還する彼らを迎えたカノープスは、安堵と同時に驚愕した。

 

 彼らは装備を根こそぎ剝ぎ取られていた。CADから拳銃、衣服や靴に仕込んだ暗器。情報端末や捜索用の短距離レーダー、対魔法師用のキャスト・ジャマーまで。根こそぎだ。

 治癒魔法の限界を超える怪我を負った者はいなかったが、情報端末が予備も含めて奪われていた所為で、迎えの車も呼べなかった。作戦行動中は身元を探られるリスクを避ける為、データ通貨を含む私物の一切を身に着けていない。そのため、二十四時間稼働している交通機関も利用できない。

 魔法師とはいえ、CADまで取られていては満足に魔法は使えない。しかも今は秘密工作中、下手な使い方をすれば即座に街頭センサーに検知されてしまう。

 彼らは満身創痍の状態で、魔法の補助無しで、ここまで自力で帰らなければならなかったとのこと。

 

「とにかく、よく戻ってきた」

 

 カノープスは彼らを労い、治癒魔法を施す。その後、同じく大使館が用意した別のルームで休むよう促した。

 副官にも寝室で休むよう命じ、カノープスが居間で一人になった瞬間。

 

 彼を不可視の衝撃が襲った。

 

 魔法ではない。スターズのナンバー・ツーとして長く務めてきたカノープスは、現代魔法・古式魔法の両方に精通している。自身では使えない魔法でも、引き起こされた結果から使われた魔法を推測する事は、カノープスの感受性と経験を以てすれば容易だった。

 しかし、そのカノープスが幾ら調べてみても、先程の攻撃による負傷は何処にも無かった。遅効性、条件発動型の魔法が仕掛けられている兆候も無い。

 

(だが、なんだこれは……何故こんなにも不安を覚える? まるで自分が知らない内に、絞首刑用のロープを首に巻き付けられているような、この不気味な感覚は何だ?)

 

 何をされたのか分からないのは不気味だったが、カノープスはそれを切り捨てた。

 日本の魔法師にこの場所を何らかの形で知られたのは間違いない。おそらく部下たちを襲撃したのも彼らだろう。

 カノープスはせめて部下たちだけでも、公海へ浮かぶクルーザーへ向かわせようとして──

 

 ──不意に、ドアホンが鳴った。

 

 副官がドアホンに応対している声が聞こえる。クッ、と息を吞む音がカノープスの耳に届く。

 

「失礼します」

 

 カノープスが占拠する居間に近づく足音も、入室の許可を請う声も、動揺に乱れていた。

 

「入れ」

 

 カノープスはソファの上で姿勢を正して、しっかりした発音を心掛けながら応えた。

 階級が下の者に気弱な姿を見せられない──すり込まれた士官の心得が彼にそうさせていた。

 

 居間の扉が丁寧に開け閉めされる。目の前で敬礼したのは副官の表情は、ひどく青ざめ強張っていた。

 ただごとではないと直感して、カノープスはソファから立ち上がった。

 

「何事だ」

「少佐殿に、ご面会を求めている者がおります」

「なに……?」

 

 カノープスがここに滞在していることは秘密にされている。それでもUSNA軍の人間が会いに来ただけで、護衛の軍曹がこれほど緊張する謂われはない。

 つまり来訪者は、USNA軍の情報封鎖にも関わらず、部外者でありながら、彼がここにいると知って会いに来ているということだ。

 タイミングからして、部下たちを襲撃した魔法師集団だろう。

 

 副官に命令する時間ももどかしく、カノープスは自分でリモコンを操作してドアホンのモニター映像を居間の大型スクリーンへ転送した。

 そこに映っていたのは、神妙な顔でたたずむ、クラシックなドレス姿の、可憐な少女だった。意外感が限界を超えて、カノープスはたっぷり五秒間、フリーズした。

 

「……何者だ?」

 

 ようやく再起動を果たしたカノープスの意識は、少女の背後に控える体格の良い男性二名を認識した。一人は少女の物と思しきコートを丁寧に持ち、もう一人はアタッシュケースを手にしている。おそらく彼女のボディガードだろう。

 見るからにただ者ではないボディガードを従えた、ミドルティーンの少女。警戒しなければならないと分かっているのに、現実感が浸食されていくのを止められない。

 

「名はアヤコ・クロバ」

 

 副官が言葉を切った。唾を飲み込むような仕草を見せたが、次の言葉を聞いて、それもやむを得ないとカノープスは思った。

 

「ヨツバ家のエージェントを名乗っております」

 

 

 

 

「お目にかかれて光栄ですわ、ミスター・カノープス。わたくしは黒羽亜夜子と申します。本日は、四葉家の代理人としてお邪魔いたしました」

 

 少女はきれいな英語でカノープスにそう挨拶した。ただし、軍人に、高級士官に対する敬称は一切用いずに。

 これだけ完璧な発音を身につけていて、その程度のボキャブラリーが無いということは考え難い。つまり、わざとだ。自らの名を告げる時にファミリーネームを先にしたのも、同じくわざとだろう。

 

「USNA軍第一部隊隊長、ベンジャミン・カノープスです。失礼ながら、ご用件をうかがう前に一つお訊ねしたいのだが」

「あら、何でしょうか? お答えできることでしたらよろしいのですが」

 

 アヤコ・クロバ、カノープスはその名を知っていた。

 日本の高校生の魔法競技会、九校戦。その中で圧倒的な成績を残した、第四高校の生徒。まさか四葉家の縁者だとは思ってもみなかった。

 年齢はスターズ総隊長のアンジー・シリウス少佐(年齢・実名共に非公開)よりも一つ下のはずだが、交渉相手としての強かさではこの少女の方が明らかに勝っていた。

 性格が不向きとはいえ、まがりなりにもUSNA軍で最精鋭の魔法師部隊総隊長として、様々な場を経験してきた彼女よりもだ。

 

 目の前にいるのは、ただの少女ではない。それをカノープスは、改めて心に留めた。

 

「ヨツバ家というのは……あの(・・)『四葉』ですか?」

 

 抽象的な言い方になったのは、万が一勘違いだった時を考えてのこと。しかし、その具体性に欠ける問い方にも関わらず、少女はニッコリと微笑んだ。

 

「ええ、その四葉です。十師族が一、四葉家の当主、四葉真夜の代理人として、本日はお願いに参りましたの」

 

 外れている可能性はほとんど無いと心構えをしていても、あっさりと告げられたその事実を受け止めるのは、簡単ではなかった。

 

 日本の、四葉。

 

 それは魔法に関わる者にとって、ある種の不可触領域だ。特に、魔法の軍事利用に関わっている者にとって。

 彼らはシリウス少佐のように、たった一人で一軍に匹敵する大破壊力を有しているというわけではない。

 四葉の在り方は、その対極。今は(とりあえず)日本政府に従っている形だが、もし彼らが地下に潜りテロリストと化したなら、四回目の世界大戦の引き金が引かれると言う者までいる。

 魔法というものの一面を狂的に突き詰めた集団として、彼らは尊敬されるのではなく、ただ恐怖されていた。

 

「お願い、ですか?」

「はい。是非ともお聞き入れいただきたいお願いがございまして」

「うかがいましょう」

 

 今更ながら、客を迎えてお茶も出していないことにカノープスは気づいた。しかし、ここで飲み物を用意して話の腰を折るのは、それこそ今更だった。

 

「ではお言葉に甘えて。ミスターが命じられた、我が国への密入国者の捜索を中止していただきたいのです」

「…………」

 

 密入国者とは言う迄もなくヘイグ(顧傑)のことだろう。この少女の「お願い」──四葉の要求がその件である可能性を、カノープスはもちろん考えていた。というより最も可能性が高いと予想していた。

 しかし「中止せよ」という予想を超えた遠慮の無い要求に、すぐには反応を示せなかった。

 

「ミスター・カノープスにおかれましては、我が国の『十師族』というシステムがどのようなものであるか、ご存知のことと思いますわ」

 

 もし知らないなら教えて差し上げてよ、とでも言いたげな少女の口振りに、反感を覚えながらもカノープスは頷いた。しらばくれても意味の無いことだった。

 

「わたくしどもの当主、四葉真夜は、人間主義者による魔法師排斥運動の活発化を憂慮しております。その更なる火種となり得る顧傑は、既に処理していますの」

「……無力化が済んでいるならば、何故すぐ我々へ伝えなかったのですか?」

 

 少女はカノープスの質問に、もう一度ニッコリ微笑んだ。

 

「正式に声明を出してもよろしかったのですか?」

 

 その場合傷付くのは、テロリストに兵器を盗難され、国外への持ち出しを許し、あまつさえ友好国を危険に晒したUSNA軍の面子と信用だ。

 

「……秘密裏にヘイグを処分していただいたこと、感謝する」

 

 カノープスとしては、こう答えるしかなかった。

 

「ミスター・カノープス。わたくしどもは、できますならば、ミスターと良好な関係を築きたいのです」

「良好な関係、ですか?」

「ええ。わたくしども四葉の実力は、ミスターもご存知のとおりです。そしてわたくしどもも、ミスターの、そしてスターズのお力は良く存じ上げております」

 

 少女が背後に控えていたボディガードの一人に目配せする。彼は少女とカノープスを隔てるテーブルにアタッシュケースを置き、その中身を露わにした。

 

 汎用型・特化型CAD、拳銃、暗器、情報端末。そして、盗まれたはずの歩兵用ミサイルに使われていた炸薬。それぞれが一つずつ。

 

 ──足りない

 

 数も足りないが、それは交渉の場に大量の荷物を持ってこないためだろう。問題なのは、その種類だ。

 特定の想子パターンを追跡する短距離レーダー、対魔法師用のキャスト・ジャマー。USNA軍が誇る機密道具が、ない。

 

「……そういうことか」

 

 小さな呟きが、カノープスの口から漏れた。

 

 目の前の少女、黒羽亜夜子は、『見逃す代わりに見逃せ』と言っているのだ。

 四葉家がUSNA軍の汚点を隠蔽する代わりに、スターズの隠し球を共有しろと。

 

 カノープスは悩んだ。

 感情は、テロを未然に防ぎ、非戦闘員の保護を成した四葉には、感謝すらしている。

 理性も、取り引きを受け入れろと言っている。拒否した場合、四葉家はこの事を暴露するだろう。力尽くでの口封じも選択肢から外れる。現時点で戦えるのはカノープスのみ、目の前の三人だけならともかく、周囲に待機しているであろう四葉家の魔法師全てを相手にするのは不可能だ。

 

 カノープスが思考したのは、僅か数秒。

 

「承知しました。我々はヘイグの捜索を打ち切り、本国へ戻ることにしましょう」

「ありがとうございます。それでは出立する日が決まりましたら、このアドレスにご一報ください」

 

 そう言って少女は長い文字列とカラーコードが印刷された、名刺サイズの紙を差し出す。

 カノープスはその文字列を読み取って、高度に暗号化された──おそらくスターズの暗号技術にも劣らない厳重さだ──仮想専用回線だと理解した。

 

「良いのですか?」

 

 カノープスは思わずそう訊ねてしまう。

 

「ええ。わたくしどもはミスター・カノープスとも、そしてミズ・バランスとも、良好な関係を築きたいと思っておりますので」

 

 そう言って、少女は婉然と微笑んだ。

 

 

 

「あれが日本のヨツバか……」

 

 少女が部屋を後にして、その気配が確かに遠ざかったのを確認したカノープスは、思わずそう呟いた。

 

 少女、黒羽亜夜子は最後に特大の爆弾を落としていった。

 今回カノープスを派遣したのが、ヴァージニア・バランス大佐であること。彼女はそれを指摘してみせた。

 

 そもそもあれは交渉ですらなかった。

 廃棄予定の兵器が盗まれたこと、USNA軍がそれを黙認していたこと、カノープスが来日していたこと。カノープスがいなかったとはいえ、スターズの精鋭を手加減しながら無力化したこと。

 情報戦でも純粋な戦力でも、完全に上をいかれていた。

 

 四葉家が『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』と恐れられる理由を、カノープスは身を以て理解した。

 

「それに……」

 

 カノープスは首筋に、心臓に、そっと手を当てる。

 

「やはりこれは四葉家の秘術か何かだろう……私がこの国をあとにするまで、消える事はないのだろうな」

 

 少女が来訪する直前から、カノープスを苛むこの感覚。時限式の首輪を付けられているような、カノープスにして全く未知の技術。

 この感覚を持ったまま寝られる気がしないと、カノープスは出国の支度を進めることにした。

 

 

 

 

 まだ夜が明けきらない未明、画面越しに美女と美少女が向かい合っている。

 

「──以上がご報告となります」

『そう……亜夜子ちゃん、お疲れ様でした。期待以上の成果です、今日はゆっくりとお休みなさい』

「はい。ご当主様、ありがとうございます」

 

 画面に映る真夜に向けて、亜夜子は深々と頭を下げる。真夜はそれに微笑んでから、通話を切った。

 

 亜夜子が顔を上げ、ふぅ……と息を吐いた。

 

「姉さん、お疲れ様」

「お疲れ様、亜夜子」

「ありがとう文弥、達也さんもありがとうございます」

 

 そんな亜夜子を、文弥と達也が労った。

 ここは達也の自宅。スターズとの交渉役を任された亜夜子は、四高での授業を終えてすぐに文弥と共にここを訪れていた。

 

 今日は──正確に言えば昨日だが──師族会議が終わり三日が経った二月七日。そろそろスターズによる顧傑捜索に焦りが出る頃。

 秘密裏に動いていた捜索員たちを電波ジャミングの下で無力化し、丸裸(もちろん言葉の通りではなく武装解除という意味だ)にして帰還させる。そこに亜夜子が爆弾の返還という手土産を持って交渉するという段取りだった。

 

 交渉は成立し、さらにはCADを妨害するキャスト・ジャマーと短距離レーダー。二つの副産物まで得られた。

 特に特定の想子パターンを追跡する短距離レーダーは、犯罪者の確保など四葉が裏の仕事をする上で極めて有用な道具となる。

 

 そのどちらも日本にはない技術。思わぬ副産物に真夜も上機嫌だった。

 なお、亜夜子や文弥、達也たちは作戦のためずっと起きていたが、真夜は一度寝ており先ほど起きたばかりのようだった。

 

「それにしても……まさかベンジャミン・カノープス、スターズのナンバー・ツーが出てくるとは思わなかったな」

「そうですわね。世界最強の魔法師集団を自称するスターズ、その第二位の魔法師……彼とは戦わずに済んで本当に良かったです」

 

 達也の感想に亜夜子も深く同意する。

 交渉の場では余裕の態度を崩さなかった亜夜子だが、その内心は決して穏やかではなかった。

 

 彼女は自分の魔法力を過大に評価していない。

 亜夜子は達也ほどではないが、得手不得手がハッキリ分かれるタイプの魔法師だ。そして彼女は、近距離戦闘があまり得意ではない。三対一とはいえ、ベンジャミン・カノープスほどの魔法師と正面からやり合って、勝ち目があるとは考えていなかった。

 あの場で亜夜子が強気でいられたのは、カノープスの理性を信じていたこと、達也による遠隔監視があったことが大きかった。

 

「それで亜夜子、文弥もだが、帰る前に少し仮眠を取っていくか? 時間になれば起こすことはできるが」

 

 現在午前四時過ぎ。今日は土曜日だが魔法科高校は午前授業がある。帰る時間も考慮すると、寝られるのは二時間程度だろう。

 たかが二時間、されど二時間だ。キツイ任務に完徹が加わるよりは、二時間でも眠れた方がいい。

 

「それでは達也さん、時間まで寝室をお借りしますね」

「ああ。今日は水波が来る日だから、片付けもしなくていい。私物だけ忘れないようにしてくれ」

「分かりました。達也兄さん、お世話になります」

 

 亜夜子と文弥はそう言って、少しでも多くの睡眠を取るため足早に寝室へ向かった。

 

 

 

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