ガーディアン解任   作:slo-pe

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完結したはずなのに、また書きたくなってしまいました。

原作から外れすぎてしまったので、三年生編を書く予定はありません。
その代わり、本編で書けなかった幕間や小話を、思いついた時に投稿していこうと思います。

作品は完結表示のままですが、気が向いたら更新する、くらいのゆるいスタンスでお付き合いいただければ幸いです。



幕間
二年目九校戦編 前日譚


 

 

 二○九六年六月上旬。一学期の前半を消化し終えたこの週末。

 午前の授業が終了し、これから部活や委員会活動の時間だ。その前にエネルギー補給、ということで香澄と泉美は食堂に来ていた。

 

 香澄も泉美も一年生の間で人気があるが、面倒見が良いタイプではないので「香澄軍団」や「泉美親衛隊」のようなものはできていない。

 同時に派閥争いの類とは無縁で「皆のアイドル」的な慕われ方をしている。その点、面倒見の良さから「七宝グループ」を着々と形成している琢磨とは好対照だった。

 特定の取り巻きがいないから二人きりで行動するのは難しくない。ただ最近は、あと一人を交えた三人になることが多い。

 

「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

「あ、船尾やっと来た」

「大丈夫ですよ、私たちも食べ始めたばかりですので」

 

 二人の卓に合流したのは船尾春花。A組の彼女は、当初B組C組の泉美・香澄とは接点が無かったが、GW明けから徐々に話すようになり、今ではこうして一緒にお昼を食べる仲だ。

 

 船尾は日替わり定食を、双子は天ぷら蕎麦を口へ運ぶ合間に、彼女たちは遠慮の無い会話を交わしていた。

 泉美はイメージ通りだが、香澄も丁寧な食べ方だ。かき揚げも一口ずつに割ってお行儀良く口に入れる。口に物を入れたまま喋るようなことはしないので、ペースもかなり遅めだ。

 その点船尾は、マナーを守った上で食事ペースが早い。だが、二人に比べて量があるため、食べ終わるのはほとんど同時だったりする。──余談だが一高の学食のメニューには大・中・小のサイズがある。双子は小で、船尾が大だ。

 

「そういえば、もうすぐ九校戦の時期だよね」 

「そうだね。家で泉美がぼやいてるよ、作業車とか工具とかユニフォームとか、準備する物が多いって」

「香澄ちゃん、誤解を招くようなことを言わないでください。私はただ、一生徒であるはずの生徒会役員たち、その業務負担が大きすぎると言っただけです」

「つまり自分たちだけに押しつけるな、ってことでしょ」

「端的に言えばそういうことです」

「だったら最初からそう言えば良いのに」

「本来なら学校側が行うべき業務をわざわざ生徒たちに委託しているのは、それなりの理由があるはずです。当校の先生方は皆様、生徒たちの成長を願っているのだと信じたい(・・・・)ですから」

「言ってることは同じだと思うけど。むしろ泉美の言い様の方が酷いと思う」

「そんなことはありませんよ、香澄ちゃん。私は、この業務が押し付けなどではなく、将来人の上に立つ可能性の高い私たちに与えられた予行練習だと思っていますから」

 

 澄ました顔でそう言って、泉美はトレーに置いていた小振りな丼を手に取った。

 

「難しい言葉を使えば本音を隠せるものでもないと思うけどなぁ」

 

 泉美の目と注意が手元に向いている隙に、香澄はこっそり呟いた。時々こうしてガス抜きをしないと、泉美との会話は、双子の妹の本性を知っているだけに、息が詰まってしまうのだ。

 

「香澄ちゃん、何か言いましたか?」

 

 だが少しタイミングが早かったようで、丼の中に箸をつけた状態で泉美は顔を上げた。

 

「何も言ってないよ」

 

 香澄はそう言って、泉美と同じように自分の丼を手に取った。

 香澄は泉美より少しだけ勢いよく蕎麦を啜る。そんな双子の姉に眉を顰めながら、泉美も箸を動かす。

 マナーを楯に話を逸らすことに成功した香澄は、丼を置いて何事も無かったように船尾へ話し掛けた。

 

「話は戻るけど、九校戦に向けてみんな気合が入ってるよね」

「そうだね。例年、この時期の実技成績が選手選考の大きな枠を占めるみたいだし、そりゃ気合も入るよね」

 

 香澄のパスに、先ほどまで双子のじゃれ合いを眺めていた船尾が同調する。

 

「まあでも、二人は二種目出ること確定してるだろうし、今さら慌てることもないか」

 

 香澄と泉美は、琢磨と並び一学年では圧倒的な魔法力を誇っている。まだ選考すら行われていないが、二人が選ばれるのはほぼ確実と言える。

 

「そだね」

 

 香澄は短く頷いた、泉美も自分が選ばれることは当然と思っている様子。そこには謙遜は無く、恵まれた魔法力への絶対の自信が滲んでいた。

 

「ですが九校戦当日は油断できませんよ。他校にも船尾さんや、それこそ去年の司波先輩のような実力者が隠れているかもしれません」

「だね。油断してたら…ううん、油断なんてしなくても負けることはあるし」

 

 だが、二人は決して慢心しているわけではない。

 琢磨、香澄、泉美、一高一学年トップ3を尽くなぎ倒した船尾春花。圧倒的な魔法力の差を覆し、一条家の跡取りを下した司波達也。

 魔法力では明らかに劣っていても、勝利を掴み取った者はいる。負けず嫌いな双子が、そんなイレギュラーを警戒するのは当然だった。

 

「んーまあ、そんなに気負わなくてもいい気はするけど」

「船尾がそれ言う? ボクたちに勝った船尾が」

「そりゃ模擬戦なら話は別だけど、九校戦じゃほとんどの競技で私は二人に勝てないよ」

「うそだぁ」

「ほんとだって」

 

 疑いの眼差しを向けてくる香澄に、船尾は苦笑いを見せる。

 

「私が得意なのは、あくまでハメ技。純粋な魔法競技じゃ、力負けしちゃうもん」

「あー、そっか」

「確かにアイス・ピラーズ・ブレイクやスピード・シューティングなど、取れる選択肢が少ない競技では、船尾さんの本領は発揮できないかもしれませんね」

 

 船尾の武器は、豊富な手札を自在に操れること。

 臨機応変、多種多彩、虹のように魔法を重ね合わせるマルチキャスト技術。それらを瞬時に切り替えることで相手の処理する情報量を増やし、思考や知覚リソースの撹乱・妨害をする。

 九校戦の一部競技では、これらの長所は発揮しづらい。

 

「モノリス・コードが女子も参加できればいいんだけど」

「去年の千葉先輩のご活躍があるので、もしかしたら本戦は女子の参加が許可されるかもしれませんが……」

「新人戦は難しいだろうね」

 

 船尾、泉美、香澄。三人の意見は一致していた。

 

「そんなわけで、私が選ばれるとしたらクラウド・ボール、次点でバトル・ボードじゃないかな」

「戦略性の高い競技ですので、おそらくはそうなるでしょうね」

 

 船尾の自己評価に、泉美も頷く。

 香澄もそれには同意見で、頷こうとしたのだが……ふと気づいた。気づいてしまった。

 

「……船尾さ」

「どうしたの香澄?」

「……それ、桜井先輩と同じ競技だよね?」

 

 双子の姉の指摘に、泉美はハッとする。

 

 選手選考を担う泉美に、事前に競技適性をアピールする。それは全て、水波と同じ競技に出場するため。

 水波のために志望校を変更し、部活動も被せ、その他諸々の行動からストーカー予備軍と認定されている船尾であれば、やりかねない。

 

「そうだよ?」

 

 船尾はそれをあっさり認めた。

 

「せっかく一緒の学校で、一緒の部活に入ったのに、水波先輩生徒会で忙しくて中々話す機会ないんだもん。一緒の競技になりたいって思うのは当然でしょ、ねえ泉美?」

「……そうですね」

 

 崇拝する深雪と同じ生徒会役員になれた泉美としては、そっと目を逸らし頷く以外の選択肢がなかった。

 

「……ちなみにだけど、他にもまだ根回ししてたりするの?」

「んー、情報収集はしてたけど……いい機会だし根回しもしちゃおっか」

 

 恐る恐る訊ねてきた香澄に、船尾はにっこりと笑った。

 

「泉美」

「はい」

「九校戦の選考会議って、選手だけじゃなくてエンジニアも決めるじゃん?」

「そうですね」

「それで桐原先輩に聞いたんだけど、去年司波先輩が担当してた選手たちって、全体とは違う練習メニューだったんだって。特にクラウド・ボールだと、水波先輩と桐原先輩がほぼ二人きりで練習しててさ」

「…そうですか」

「うん。だから、できればでいいんだけど、司波先輩が私のエンジニアになってくれると嬉しいなぁって」

 

 競技への推薦は、その背後に邪な意図があるとは言え、適性が正しいためせざるを得ない。対してエンジニアの希望は完全な私情だ。

 とはいえ、去年の九校戦から『勝てる選手に達也のCADをつけ、確実に勝つ』という方針があったことは察せられる。

 船尾は、その条件に合致する実力の持ち主だった。

 

「……善処します」

「よろしくね」

 

 これ以上要求が増える前に切り上げよう、と泉美は話題を探した。もっとも、その決意が実を結ぶことはなかった。

 

「でもさ、出る競技は何にせよ楽しみなんだよね」

「何がですか?」

「ようやく、現地で九校戦を観戦できるんだもん」

「?」

「去年までは行ってなかったの?」

 

 泉美が首を傾げ、香澄が訊ねる。

 

「うん。魔法塾で放送されてるやつを、みんなで観てた」

 

 船尾は肩を竦めて笑う。

 

「十日も山梨に泊まり込むなんて、普通の家庭には結構大変なんだよ?」

「「あ……」」

 

 香澄も泉美も、思わず顔を見合わせた。

 七草家は社交的な家であり、香澄や泉美も外部の人間と関わる機会は多かった。けれど、それは魔法・非魔法問わず、一流の者たちばかり。

 二人にとって身近な「普通」は、船尾のそれとは少し違っていた。

 

 とはいえそれで場が気まずくなることはない。

 ごめんの一言と、麺を啜って空気をリセットすることで、今まで通りに会話は弾む。

 

「さて、そろそろ行こっか」

「そうだね。泉美は生徒会で……香澄はどうする? 巡回の時間まで一緒に来る?」

「んー……そうだね。お邪魔させてもらおうかな」

 

 船尾は山岳部とお料理研を兼部しているが、そこだけに参加しているわけではない。校内のあちこちに顔を出し、多くの上級生に指導や模擬戦を申し込んでいる。

 今日は先ほど話題にも上がった桐原から、魔法による高速走法の指導をつけてもらうことになっている。

 

 三人は「ご馳走さまでした」と手を合わせ、トレーを返却する。

 

「じゃあ泉美、巡回終わったら生徒会室行くから」

「はい、お待ちしてます。船尾さんも、また来週に」

「またね泉美」

 

 食堂を出ると、船尾と香澄、泉美の二手に別れ、それぞれは目的地へ歩き出した。

 

 

 

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