ガーディアン解任   作:slo-pe

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九校戦編6

 

 

 九校戦の参加者は選手だけで三百六十名。裏方も含めると四百名を超える。

 何か理由をつけて懇親会を欠席する者も少なくないが、それでも三百から四百人の大規模なものとなる。だが、その中に知り合いがいるとなると驚いてしまう。

 

「お客様、お飲み物はどうですか?」

 

 達也が幹比古と一緒に料理を取っていると、横から声を掛けてくる人物がいた。

 

「エリカ!?」

「エリカ……今度というのはこういうことか」

「アルバイトだけどね、ビックリした?」

「……驚いた」

 

 エリカは達也の反応に満足したのか、今は幹比古に絡んでいる。

 達也が驚いたのはアルバイト自体にではなく、エリカの服装に、だったのだが。エリカの格好はメイド服だった。

 

「それにしても……」

「んっ? なぁに?」

 

 達也の呟きを聞き取って、エリカがこちらに向き直ってくる。

 

「いや……」

 

 視線を逸らしたのは失敗だったか。エリカがニヤリと笑みを浮かべた。

 

「おお~? 達也くん、珍しく照れてる?」

 

 ここらで反撃しないと、エリカは段々と調子を上げていってしまう。四ヶ月の経験から達也はそう判断した。

 

「そうだな、化粧も服装も良く似合っていて可愛かったからな」

「えっ? あ、ありがとう……」

 

 次は褒めてと言ってはいたが、実際に褒められると照れるのが何ともエリカらしい。だがそれだけで終わらないのも、やはりエリカらしいのだろう。

 

「それじゃあ、次はミキね。この格好どう思う?」

「え、あ、いや……」

 

 どこかイライラしているように見えるエリカだったが、幹比古をサンドバック代わりに鬱憤を晴らしているようだ。少し申し訳ないが、ここは犠牲になってもらおう。

 

「もう、達也くんは褒めてくれたんだから、ちゃんと褒めないとダメじゃない」

「はい……」

 

 理不尽極まりない要求だが、しばらく揶揄われていた幹比古には効果抜群だった。エリカも満足したようなので、ここらが引き際だろう。

 

「ところでエリカ、仕事は良いのか?」

「あっ、ヤバッ」

 

 焦った様子で仕事に戻っていったエリカに、二人は苦笑いしていたのだが、そこに新たな人物が現れた。

 

「達也さん」

「ほのか、雫。他の人たちは?」

「あそこ」

 

 雫が指差した先にいたメンバーは視線を向けられて、気まずそうに目を逸らした。

 

「みんな達也さんたちとどうしたら良いのか分からないんですよ」

 

 ほのかが慰めのセリフを口にする。幹比古はバトル・ボードでかなりの成績を残しているのである程度受け入れられているが、達也はエンジニアとして担当選手としか関わっていないので、未だに声を掛けられることは少ない。有力選手としか関わっていないこともそれに拍車をかけている。

 

「二人とも、戻らなくて平気か?」

「あとで戻るから、今はいい」

 

 達也のセリフはそれを加味したものだったが、雫は即答で否を返した。

 

「いいんですよ。私たちがお二人といたいんですから」

「そうか」

 

 ここまで言ってもらえるのなら達也も何も言わないことにした。その後は摩利や桐原が混ざってきたりもしたが、概ね平和に懇親会は進行した。

 

「ご静粛に。これより来賓の挨拶に移ります」

 

 司会者のアナウンスが流れて来賓の挨拶が始まり、魔法師界の名士たちが激励の言葉を述べていく。そして、老師・九島烈の挨拶となった。

 だが、壇上に現れたのはドレスを身に纏った金髪の女性。ざわつく魔法科高校生たち。何かのトラブルか、と誰もが思った。

 

(違う……これは、精神干渉魔法。会場全体に魔法を発動しているのか……)

 

 よく見れば壇上に上がったのは彼女だけでは無かった。その背後に老人が立っている。目立つものを用意して注意を逸らす。

 事象改変と呼ぶまでもないただの現象なのだが、それを意図して起こしている。大規模ではあるが、微弱。それ故に気づくことが困難な魔法。

 達也の視線に気づいた背後の老人がニヤリと笑い女性に耳打ちすると、その女性は舞台の袖へ移動した。そして、突如現れた九島老人に魔法科高校生たちは驚愕の声をあげた。

 

(これがかつて「最高」にして「最巧」と謳われた『トリック・スター』九島烈の魔法、か……)

 

 老人の目が再び達也を見た。目立たぬように目礼を返すと、老人は上機嫌そうに笑っていた。

 

「まずは悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のは魔法というより手品の類いだ。だが、手品のタネに気づいた者は、私が見たところ六人だけだった。つまり」

 

 烈が何を言いたいのか、魔法科高校生たちが興味津々の態で耳を傾けている。

 

「もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こすことができたのは、六人だけだ、ということだ」

 

 九島老人の言葉に、会場がそれまでと別種の静寂に覆われた。

 

「魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であって、それ自体が目的ではない。私が用いた魔法は規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。魔法力の面から見れば、低ランクの魔法でしかない。だが君たちはその弱い魔法に惑わされ、私がこの場に現れると分かっていたにも拘わらず、私を認識できなかった。魔法を磨くことはもちろん大切だ。魔法力を向上させる為の努力は、決して怠ってはならない。しかし、それだけでは不十分だということを肝に銘じてほしい。明後日からの九校戦は、魔法を競う場であり、それ以上に、魔法の使い方を競う場だということを覚えておいてもらいたい。魔法を学ぶ若人諸君。私は諸君の工夫を楽しみにしている」

 

 聴衆の全員が手を叩いた。残念ながら一斉にというわけでは無く、戸惑いながらといった感じだったが。

 

 

◇◇◇

 

 

 懇親会を終えた翌日。達也は初日に出場する摩利と服部のCADを調整していた。

 服部のサイオン波を測定した際に、表情が険しいものへと変わった。

 

「服部先輩、少しいいですか」

「なんだ」

 

 いつもと違う達也の様子に服部は訝しんだ。達也は少し悩んだ素振りを見せた後、口を開いた。

 

「何かお悩みですか?」

「は?」

 

 服部は口を小さく開けたまま固まっている。

 

「いえ、測定データが芳しくなかったので、何かお悩みなのではないかと」

「そんなことも分かるのか……」

 

 少し平静を取り戻したようだが、別の驚きに気を取られている。

 

「ええ、ですが今は横に置いておきましょう」

 

 達也はそう一言置いてから再度口を開いた。

 

「服部先輩が何に悩んでいるのか分かりませんが、競技に差し支えるようなら俺からも言わざるを得ないのですが」

「……そうだな」

 

 服部は昨日桐原に勧められたが、結局達也に会いに行くことはしなかったのだ。だが、ここまで言われては隠し通すことはできない。服部はゆっくりと語りだした。

 

「ここに来るまでのバスの事故があったが、司波さんや渡辺先輩が冷静に対応していたことに自信を失ってしまってな。それに、懇親会でも老師が仰っていた工夫もそうだが、優れた魔法師になるには、俺には足りないものが多すぎると思ったんだ」

「いいんじゃないですか」

「は?」

 

 だが、語り終えた瞬間に達也があっけからんとした様子で言葉を返した。

 

「足りないものなんてあって当然です。それを補うために努力するんでしょう?」

「いや、それはそうだが、あの時俺は何もできなかったんだぞ」

「十文字会頭や司波さんが対処してくれたんでしょう? だからいいんですよ。次の機会が得られたんですから、それを改善すればいいんです」

「いや、しかし……」

 

 服部は達也の言い分に納得できていないようだったが、次の言葉に口を噤んだ。

 

「確かに、実戦では次などありませんが、今回はそうではなかったでしょう?」

 

 今までとは違う、何かが籠った言葉。

 

「今回は、司波さんたちのおかげで次の機会が得られたんですから、それを改善すればいいんです……足りないものを補うためには力を尽くすしかないんです」

 

 おそらく、達也の言う足りないものとは魔法力のことなのだろう。達也はそれが原因で何か大切なものを失くしたのだろうか、服部はそう思った。だが、それを聞くことはしないし、できない。

 

「なので、まずは明日の競技に集中しましょう。身近なことからやっていかないと、先に進みません」

 

 達也の雰囲気はいつの間にか戻っていた。服部も自分が悩んでいたことが意識から逸れた所為か、いつも通りの様子に戻ったようだ。

 

「そうだな、それじゃあもう一度測定した方がいいか?」

「そうですね、お願いします」

 

 達也はそう言って、服部から視線を外して端末に目を落とすのだった。

 

 

 

 

 その日の夜十時頃、前日の調整を終えた達也は部屋に戻らず、少し散歩をしようとホテルの玄関とは逆方向に歩き出した。

 その途中で、達也は不穏な気配を感じ取った。あまりにも殺気立っている気配に、達也は感覚を開放して巨大情報体にアクセスした。

 

(侵入者は生け垣に偽装したフェンス間際に三人……拳銃と小型爆弾か……)

 

 軍の管理地内のセキュリティはザルではない。そのセキュリティを突破してきた危険な存在を放置することはできない。達也は足音を消してその場所へ駆け出した。

 

 達也は自分以外に、侵入者に近付いていく存在を捉えていた。

 木陰から魔法の気配がして、三人の賊は頭上に生じた小さな雷によって撃ち抜かれて崩れ落ちた。崩れ落ちた賊を拘束するためだろうか、もう一度魔法を使うようだ。

 

「幹比古」

「誰だ!? ……って、達也か。おどかさないでよ」

 

 達也はしゃがみ込んで、侵入者たちの状態を見た。

 

「気を失っているだけだな。捕獲を目的とした正確な遠距離攻撃、良い腕だな」

 

 達也の素直な称賛に幹比古は笑みを浮かべた。だが、優先順位は弁えているようで、すぐに真剣な表情に戻った。

 

「それより賊の処置が先だ。達也、ここで待っていてもらえるかい?」

「ああ、分かった」

 

 達也が頷くのを見て、幹比古は駆け出していった。

 

「……そろそろ出てきたらどうですか?」

 

 幹比古の姿が見えなくなったところで、達也は闇の中に声を掛けた。

 

「気がついていたか、さすがだな。それに、『吉田家の神童』があそこまでやるとはな」

 

 闇の中から姿を現したのは、風間少佐だった。

 

「スランプを抜け出してから一気に化けましたね」

「特尉の手助けだろう?」

「……なぜ知っているんですか」

「やはり当たっていたか、時期から見てそうとしか考えられんだろう」

 

 風間の言葉に反論もできず、達也は話を逸らした。

 

「少佐、この者たちをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「引き受けよう。しかし、予想以上に行動が積極的だな。気をつけろよ、達也」

「ええ、ありがとうございます」

「明日の昼にゆっくり話そう。皆待っているぞ」

「はい」

 

 上官と部下から、兄弟弟子に変わりその日は別れた。

 

 

 

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