ガーディアン解任   作:slo-pe

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入学編2

 

 

 講堂に向かっている途中で、案内板の前に一人の男子生徒が立っていた。

 

「おい、大丈夫か」

「ん? ああ、スマン、講堂ってどこだ?」

「端末は持ってないのか?」

「急いで来たから忘れちまってな」

「それなら俺も向かうところだ、一緒に行こうか」

「サンキュ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は西城レオンハルト。レオでいいぜ」

「分かったレオ。俺は司波達也だ。俺も達也でいい。」

「OK、達也」

 

 お互いの自己紹介を済まし、講堂へと向かった。講堂へ入ると既に席の半分以上が埋まっていた。

 

(これは思っていた以上にひどいな……)

 

 新入生の座っている様子を見て達也は、頭の中で呟いた。座席の指定が無いにも拘わらず、前半分が一科生、後ろ半分が二科生。同じ新入生でありながら、前後でエンブレムの有無が、きれいに分かれている。

 

(最も差別意識が強いのは、差別を受けている者である、か……)

 

 そんなことを考えていると、レオが何処に座るか聞いてきたので、後ろの空いている席に座った。しばらく経ち、開式まであと少しとなったところで、遠慮がちな声が掛けられた。

 

「あの、お隣は空いていますか?」

「どうぞ」

 

 どうやら女子生徒二人組だったようだ。この時間では空き席もほとんどないので、二つ続きで空いている席を探したのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 達也の隣に眼鏡を掛けた少女が座り、続いてもう一人の活発そうな赤毛の少女も席に着く。

 

「ねえねえ、あたしは千葉エリカ。よろしくね」

「あっ、私は柴田美月って言います。よろしくお願いします」

 

 活発そうな少女、エリカが突然の自己紹介を始めたので、眼鏡の少女、美月は少々慌てたように自己紹介をする。

 

「司波達也です。こちらこそよろしく」

「へえ~、面白い偶然って感じかな?」

「何が?」

「だってシバにシバタにチバでしょ? 何だか語呂合わせみたいで面白くない? ちょっと違うかもだけどさ」

「…なるほど」

 

 ちょっと違う気はするが、言われてみれば似ているような気もする。だが、達也が気になっていたのは別な事だった。

 

(千葉ね……また数字付きか? 『あの』千葉家にエリカと言う娘は居なかったと思うんだが、傍系と言う可能性もあるしな……)

 

「あの、司波君、そんなに見つめられると照れるんだけど」

「ん? ああ、すまない」

 

 初対面の男子にじっと見つめられ、恥ずかしかったのだろう。達也も素直に謝罪する。

 エリカの表情には未だに羞恥の色があったので、話を逸らすために達也は反対側の席を向いた。

 

「紹介が遅れたけど、俺の反対に座っているのが……」

 

 達也が言葉を詰まらせたのは、レオが爆睡していたからだ。やけに静かだとは思っていたが、まさか寝ているとは思わなかった。レオを起こそうかと手を伸ばしたのだが、開式のブザーが鳴ってしまい中断せざるを得なかった。

 

「……すまない、後できちんと紹介するから」

「いいえ、気にしないでください」

 

 エリカは達也の間の悪さに笑いを堪えている。幸いなことに美月がフォローしてくれたが、達也としては恥ずかしい限りだった。

 

 

 

 入学式は滞りなく進み、やがて新入生代表の答辞となった。

 代表者が壇上へ上がると、その空気が一変した。特に男子は新入生や上級生関係なく彼女の可憐な立ち姿に一目惚れしたようだ。答辞自体は当たり障りのないモノだが、そんなことは耳にも入っていない。

 

「うわっ、なにあの子、綺麗……」

「本当ですね……」

 

 同性から見ても目を奪われる美貌なのだろう、隣からそんな声が聞こえてくる。おそらく彼女の周りには人が集まり、騒がしくなるだろう。達也はなるべく近づかないようにしなくては、と少し場違いなことを考えながら答辞を聞いていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 入学式を終えて、爆睡していたレオを起こし自己紹介を済ませた後、窓口でIDカードを受け取った。

 

「ねえねえ、達也くんは何組?」

 

 ワクワク感を隠しきれてない表情で、エリカが達也にそう訊ねた。ちなみに、レオが名前呼びなことから、他のメンバーも名前呼びをすることになった。

 

「E組だ」

「やたっ! 同じクラスね」

「私も同じクラスです」

「俺も同じだったぜ」

「アンタには聞いてないわよ」

「なんだと!」

「エリカちゃん! レオ君も!」

 

 息をするようにレオを煽っていくエリカと、それに直ぐに反応するレオ。喧嘩をする二人を止める美月。自己紹介のときと同じ構図だ。横並びの四人全員が同じクラスというのも珍しいな、という暢気なことを考えていると、美月から助けを求める視線が届いていた。

 

「ところでこの後のことだが、ホームルームにでも行くか?」

「ん~、それもいいけど、ケーキでも食べに行かない? 近くにおいしいケーキ屋さんがあるらしいんだ」

 

 どうやら喧嘩は止められたようだ。エリカの提案が魅力的だったのか、美月もすぐに賛成した。

 

「いいですね、お二人もどうですか?」

「俺は構わないぞ」

「俺もだ」

 

 そんな流れでケーキ屋に行くことが決まった。

 

 

 

 

 エリカを先頭にして、美味しいケーキがある「アイネブリーゼ」という店に向かった。どうやらその店は、美味しいデザートのあるフレンチレストランのようで、達也たちはそこで昼食を済ます事にした。

 料理が来るのを待っている間も、会話は続いている。

 

「そう言えば、二人は元々知り合いなのかい?」

「違うよ。さっきが初対面だよ」

「初対面?」

「案内板の前でにらめっこしてたら美月が声を掛けてくれたんだ」

「案内板? にらめっこ?」

「いや~講堂の場所が分からなくてさ~」

「……端末はどうした? 地図くらいならそれで分かるだろ」

「持って来るの忘れた」

「そう言う事か、レオと全く同じ理由だったな。レオも端末を忘れて看板を睨んでいたからな」

「あの時は達也がいてくれて助かったぜ」

「えっ、コイツと一緒なの?」

「コイツとはなんだ、コイツとは」

「何よ、入学式に爆睡してたくせに」

 

 何やら口論が始まってしまった。自己紹介のときもクラス発表のときもそうだが、この二人は相性がいいのか悪いのかよくわからない。また、先ほどと同様に美月が視線で助けを求めてきていたので、達也も再度これを収めに掛かった。

 

「それはそうと、エリカは入学式の事は事前に調べて来なかったのに、高校周辺の店事情には詳しいんだな」

「当然よ!」

「当然なのか……?」

「そうよ、これから三年間は通う場所の周辺事情を確認するなんて当たり前なのよ」

「達也、コイツはこういうやつなんだ、気にしたら負けだぜ」

 

 一瞬エリカが話題から逸れたように思えたが、レオは先ほどの意趣返しのようにそう言った。また口喧嘩が始まるのかと思ったが、ちょうどいいタイミングで料理が来たので、達也と美月はホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

 昼食を終え、目的のケーキを食べながら女子二人を中心にお喋りに興じていたところ、美月から達也に質問があった。

 

「達也さんって新入生総代の司波深雪さんと親戚なんですか?」

 

 あまりに急な質問だったので一瞬動揺しかけたが、冷静な表情を保って返事をする。

 

「いや、違うよ」

「へえ、あたしもてっきり遠い親戚かと思ってたわ」

「司波って名字は珍しいからね。美月もそれで聞いてきたんだろう?」

「いえ、お二人の面差しが似てましたから」

「似てるかな? 司波さんはあんな美人だぞ」

 

 レオは寝ていたため深雪を見ていないのだが、起きていたエリカは達也と同意見のようで首を傾げている。

 

「何と言いますか、お二人のオーラは、凛とした面差しがよく似ていました」

 

 エリカとレオは美月の表現が良く分かっていなさそうだったが、達也は美月への警戒心を最大まで引き上げた。

 

「そうだったんだね。それにしても、オーラの面差しが分かるなんて、『本当に目が良い』んだね」

 

 達也がしみじみと呟いたこのセリフに、美月の顔が青ざめ、二人の顔は疑問で染まった。

 

「目が良いって、美月は眼鏡掛けてるぜ?」

「そう言う意味じゃ無いさ」

「?」

 

 達也はレオの疑問には答えずに、美月の前ではなるべく力を使わないようにすることを決意した。

 

 

◇◇◇

 

 

 その後はしばらくエリカたちと談笑してから解散した。

 新しい家に帰ってきて、達也は地下に籠って作業をしていた。真夜たちが達也に用意した家は4LDKの一戸建て、地下には研究室と実験室までついている。一人暮らしには大きすぎる家だったため、達也は遠慮したのだが、真夜たちが押し切ったのだ。

 

 夕食を食べようと一階に上がった時、狙っていたようなタイミングで電話がかかってきた。

 

「はい」

『達也殿、突然の連絡失礼致します』

 

 電話の主は葉山だった。達也には葉山が直々に電話を掛けてくる理由に心当たりは無かった。

 

「いえ、大丈夫です。何か厄介事ですか?」

『そうではありません』

「では?」

『真夜様と深夜様が達也殿にお話があると』

「なるほど……」

 

 達也はこの時点で世間話に付き合わされるのだと察したが、いきなり通信を切る訳にもいかない。

 

『代わりますので少々お待ちを』

 

 返事の代わりに葉山から真夜と深夜へと画面が切り替わった。

 

『こんばんは、達也さん。一高入学おめでとう』

「ありがとうございます、叔母上」

『もう少し可愛げのある返事はできないのかしらね』

「高校一年の男子に可愛げがあるのも問題だと思われますが」

『それもそうね……そういえば達也、女の子二人を連れて帰っていたそうじゃないの、入学初日からすごいわね』

「そんなんじゃないですよ……というか、なんで知ってるんですか」

『秘密よ』

 

 電話は他愛無い話が続いていた。いつもと違い会話自体に疲れることはない。真夜も深夜も達也を愛でる際には頭を撫でるなどをしてくる。今日は電話なので身体接触が無い分かなり楽だ。

 二人は世間話をしたいだけだと思っていたのだが、どうやら他にも用件があるようだった。真夜が急に真剣な様子になり、達也も自然と背筋が伸びる。

 

『それはそうと、第一高校に反魔法国際政治団体ブランシュの浸食があります』

「ブランシュですか?」

『ええ、正確にはその下部組織のエガリテの影響が第一高校にあるみたいです』

「なるほど。それで、連中の狙いは分かっていますか?」

『そこはまだ分かっていないのだけれど、達也さんにはブランシュごと潰してもらおうと思っているの。時期が来たらお願いしたいのだけれどいいかしら?』

「問題ありません」

『それならよかったわ、それじゃあ名残惜しいけど今日はこの辺で失礼するわね』

『達也、今度時間があるときにでもこちらにいらっしゃい』

 

 真夜と深夜はそう言って電話を切った。

 

 

 

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