ガーディアン解任   作:slo-pe

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九校戦編10

 

 

 九校戦三日目、男女ピラーズ・ブレイクと男女バトル・ボードの準決勝・決勝が行われるこの日は、九校戦前半の山場だ。

 

「服部先輩が男子第一レース、渡辺先輩が女子第二レースか」

「今日も被らなかったみたいね」

 

 達也の呟きに応えたのは小春だ。女子バトル・ボードは第一レースに小早川という選手が出場するので、小春もエンジニアとして会場入りしている。

 

「ええ、これでようやく一安心です」

 

 決勝は同じ会場で男女順番に行うので、準決勝まで被らなければいいのだ。

 

「そうね、それじゃあ服部くんの所でしょ。いってらっしゃい」

「ありがとうございます。失礼します」

 

 達也は小春の気遣いに感謝して、男子の会場に向かった。

 

 

 

 

 エリカたち六人は達也が担当している二人を見るために、今日も会場入りしていた。

 

「服部先輩はすごかったですね」

「そうだね、午後の決勝にも進めたし、一高が絶好調だね」

 

 服部が出場する男子第一レースを見終えたエリカたちは、摩利の観戦のため女子の会場に移動していた。

 

「これで渡辺先輩も決勝に進んだら、すごいことだよね」

「今のところ一高は全競技優勝してる。今日もそれができるかもしれない」

 

 雫の言う通り、ここまで一高は全競技優勝している。今日の選手もバトル・ボードの摩利と服部、アイス・ピラーズ・ブレイクの克人と花音。優勝候補筆頭が勢揃いしているのだ。

 

 そんなことを話しているうちに、スタート直前のアナウンスが響く。準決勝からは参加人数が四人から三人になり、より個人を狙った攻撃がしやすくなる。

 さらにこの試合は、摩利と七高エースという、去年の決勝カードだったため注目されていた。

 しかし。

 

「あっ、落ちた」

 

 エリカがポツリと呟いた。

 スタート直後、七高の選手がいきなり落水した。

 おそらく予選の摩利を見て、それに対抗するためにスタートの加速術式を改良したのだろう。だがその分、身体は加速の際に慣性を真っ向から受けてしまい、それに耐えきれずボートから落ちてしまったのだ。

 

「決まったね」

「『海の七高』でも、あれは使いこなすのは厳しいか」

「あの魔法は術式こそ単純だけど、その分魔法と肉体両方でかなりの技量が要求される。ぶっつけ本番でやるものじゃないよ」

「それくらいしないと、渡辺先輩に勝てないと思ったんでしょうね」

 

 雫とレオが端的に、幹比古とほのかが競技者として、それぞれ感想を述べた。

 七高エースが早々に脱落したことで、摩利のライバルになり得る選手は居なくなった。完全な独走状態、昨日と全く同じ展開だ。

 摩利はそのまま相手選手を寄せ付けず、断トツでゴールするのだった。

 

「なんかつまんないけど、仕方ないかぁ」

「まあしょうがねぇだろ、達也の担当競技じゃ」

「そうだけどさぁ、全部これと同じじゃん」

 

 エリカの言う通り、摩利と服部の二人のレース展開はほぼ同じ。スタートから他の選手を寄せつけず、その後は徐々に差が開いていくだけ。見ている側としてはあまり面白くはない。

 

「でもお二人ともすごいですよね。渡辺先輩は予選とほぼ同じタイムですし、服部先輩は予選よりも速かったですから」

「そうね、服部先輩は決勝で記録更新できるかな?」

「分からない。でも可能性はある」

 

 服部は予選より二秒タイムを縮め、摩利も予選とほぼ変わらないタイムだ。観客はもはや二人の優勝を疑っておらず、記録更新できるかが話題の種となっていたのだった。

 

 

 

 

 達也は昼休憩の時間、エリカたちと合流していた。

 

「なぁ達也、今日の成績次第じゃほぼ優勝決まったりしねぇか」

「そうだな。大きなミスも無ければ、新人戦の結果次第で決まるだろうな」

「でもさ、達也くんが担当する種目は優勝候補筆頭じゃない。ほぼ決まっちゃうじゃん」

 

 正直達也も似たようなことは考えていた。達也の調整が無かったとしても水波が新人戦レベルで負けるはずがないし、幹比古やほのか、雫も上位は確実だろう。深雪がいるのだからアイス・ピラーズ・ブレイクの優勝もほぼ確定だ。

 

「まあ、そうかもしれないな」

「そっかぁ、それじゃあ後半はつまんないのかぁ」

「いや、そうでもないぞ」

 

 達也にはそれ以上に秘策がある。使うのはおそらく新人戦四日目だが、選手も観客も皆驚くであろう秘策だ。

 

「早めに優勝が決まっても、楽しませてみせるさ」

「へぇ、それじゃあ楽しみにしてるわよ」

 

 達也の自信ありげな様子に、エリカも楽しげな笑みを浮かべたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 九校戦三日目が終了し、一高の食堂は昨日以上の大騒ぎだった。

 今日の戦績はバトル・ボード男女の摩利と服部、アイス・ピラーズ・ブレイク男女の克人と花音が四人とも優勝。ここまで開催された全競技で一高が優勝しているのだ。

 また、女子バトル・ボードでは小早川が、男子アイス・ピラーズ・ブレイクでも三位入賞があった。達也の予言通り、このままいくとすぐにでも優勝が決まりそうな勢いである。

 

「凄いじゃない達也くん! これは快挙よ!」

 

 だが、達也の表情は冴えない。今までに無かった真由美からの絡みが始まったのだ。

 

「会長、ほどほどに。司波君も困ってますし」

「あっ、ごめんごめん」

 

 視線で助けを求め、鈴音が真由美を宥めてくれた。優しい先輩なのだろうが、達也が助けを求めるまで止めようとしない時点で、同じ穴の狢である。その隣にいる摩利は明らかに面白がっているので、そもそも当てにしていない。

 

「でも本当にすごい! 摩利もはんぞーくんも大会記録更新じゃない!」

 

 そう、決勝では服部が大会記録をついに二秒更新して、摩利も自身が予選で出した記録を塗り替えたのだ。

 

「頑張ったのは選手で、俺ではありませんよ」

「確かに二人とも良く頑張ってくれたわ」

「だがそれと同時に君の功績が大きい事も確かだよ」

 

 真由美ほど興奮はしてないが、上機嫌な顔で摩利が賛辞の環に加わってきた。当事者の摩利は本来達也側のはずなのだが、何故か真由美側についている。

 

「はぁ、ありがとうございます」

「何だ張り合いの無い。今回の快挙に、エンジニアとしての君の腕が大いに貢献しているというのは、ここに居る全員が認識してるんだ」

「そうよ、摩利なんて達也くんのCADをすごい自慢してきたんだから」

 

 真由美が愚痴をこぼしてきたが、達也に言われても困る。隣に本人がいるのだからそっちに言ってほしいものだ。

 

「それはありがたいですが、もう少し選手を褒めませんか、隣にもいるんですし」

「真由美はようやく達也くんと話せて嬉しいんだよ、我慢しろ」

 

 優勝できたからか、摩利も随分と気分が上がっているようだ。ここから抜け出しても桐原たちに捕まるのは目に見えているので、達也は称賛を聞き流しながら食事を続けるのだった。

 

 

 

 

 一方で、一高最大のライバルである三高のミーティングルームは、重い空気で充満していた。緊急に開かれたミーティング、今日の成績は今年こそ覇権奪取を目標に掲げていた三高にとって一大事だったのだ。

 前半種目は一高が優勝を総なめ。三位入賞した種目も多い。このままでは確実に負けてしまうので、何か対策が欲しいところなのだ。

 

「今年の一高は予想以上に強いです。七草選手・渡辺選手・十文字選手は仕方ありませんが、それ以外の選手も躍進が多い状況です」

 

 ここに集まっているのは三高生徒会メンバーなどの幹部クラスと、新人戦リーダー格の一条将輝と吉祥寺真紅郎。

 

「吉祥寺くん、意見をもらえるかしら」

「はい。優勝した中で渡辺選手、服部選手、桐原選手の三人ですが、エンジニアが同一人物となっています。おそらくこのエンジニアがかなりの凄腕なのだと思われます」

「そうだね、私も同意見だ」

 

 三高の生徒会長の水尾佐保が口を開いた。

 

「私が準決勝で対戦した渡辺選手、あのCADは明らかにスペックが違った。魔法式の構築速度が段違いだった」

「俺が昨日対戦した桐原選手も同じだ」

 

 佐保に続いたのは、クラウド・ボールで桐原に二回戦で敗北した三高のエース。彼は優勝候補筆頭だったこともあり、悔しさに顔を歪めている。

 

「はい、あのレベルのCADでは多少の実力差があっても相手にならないと思います。少なく見積もっても、デバイス面で二世代ほどのハンデがあると考えた方がいいです」

「そこまでなんだ……」

「このエンジニアが担当する競技は、あといくつかあります。その競技では苦戦は免れないでしょう」

「……あまり聞きたくないけど、どの競技か聞いてもいい?」

 

 本当に嫌そうに質問する佐保。真紅郎も渋々といった形で端末を開いた。

 

「本戦では、渡辺選手のミラージ・バット、服部選手のモノリス・コード。新人戦では男子バトル・ボードに加えて、女子の五種目全てです」

「多いなぁ……本戦の二つは置いておくとして、新人戦の競技でうちが勝てる可能性はあるかな?」

「正直かなり難しいです。今年の一高一年のレベルが極端に低ければ話は別ですが」

「それは期待しない方がいいね。多分だけど優勝できる選手にそのエンジニアを当ててるんじゃないかな……はぁ、どうしようかこの状況……」

 

 佐保は深いため息を吐いた。今の発言は生徒会長として軽い問題発言なのだが、全員が同じ意見なため、誰からも咎められることは無かった。

 

 

 

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