九校戦六日目、新人戦三日目。
今日は達也の担当選手が最も多い日だ。水波、ほのか、幹比古の三人のバトル・ボードと、雫のアイス・ピラーズ・ブレイク。
「五十里先輩、中条先輩。すみませんが、よろしくお願いします」
水波とほのかは準決勝では当たらないので、どうやっても幹比古と雫は担当できない。そのため、五十里とあずさにそれぞれの選手を任せることになっている。
「うん、大丈夫だよ。予選でも何もなかったしね」
「わ、私も大丈夫です! 北山さんのCADはしっかり調整しますから」
別にあずさは達也に苦手意識を持っているわけではない。達也の調整したCADを自分が調整できるのかと緊張しているのだ。
だが、二人には悪いが、雫も幹比古も達也のCADをいじってもらうことは考えていないので、あずさの心配事は杞憂でしかない。
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
「うん、行ってらっしゃい」
「はい! 私も頑張ります!」
三人とも会場が違うので、それぞれの担当選手の場所へ向かうのだった。
選手が被っていることで悩んでいたのは、なにもエンジニアだけではない。
エリカと美月、レオの三人も、どの競技場に行くか悩んでいた。幹比古とほのかは準決勝第一レース、水波は準決勝第二レース、そして雫は第二試合だ。見る側のエリカたちも、どこか一つの競技場しか行けないのである。
「北山は決勝リーグ行くだろうから、午前中はいいんじゃね?」
「でもそれだと、午後はバトル・ボードが見られなくなりませんか?」
「午後はバトル・ボードが男女同じ会場だから何とかなりそうよ。最悪、アイス・ピラーズ・ブレイクは雫と司波さんの試合が見られればいいわ」
「バトル・ボードならどっちを見に行くんだ?」
「あたしは達也くんが言ってた布石ってのを見たいのよね……」
「それじゃあほのかさんと水波さんの二人ですか?」
「ん~、そうなるかな。ミキには悪いけど、我慢してもらいましょうか」
「よっしゃ、それじゃあいい席取るためにも移動するか!」
会場まで自分の体を移動させる必要がある分、スケジュール的には三人の方がきついのかもしれない。
◆
エリカたちが女子バトル・ボードの会場に移動してすぐに、準決勝第一レースの選手が水路に現れた。
「う~ん……」
「これはちょっと……」
「まあ、その、ね……」
「さっきから何だよ二人して」
さっきからスタート位置に並んだ三人の選手を見て、客席で悩ましげに唸っているエリカと美月に、レオが呆れ顔で問い掛けた。
「何かさ~異様じゃない? 選手全員黒メガネってさ」
「エリカちゃん、そこはゴーグルって言おうよ……」
エリカの言うように、今回はほのかだけでは無く他の二人も色の濃いゴーグルを着けていたのだ。
「当然じゃねえか? 光井の幻惑魔法対策としては一番確実だぜ?」
レオが常識的に返すと、エリカはつまらなそうに気の抜けた笑い声を漏らした。
「……何が不満なんだよ」
「だってさ~、これって達也くんの思うツボだよ? ゴーグルをしないのは水しぶきで視界が妨げられるのを嫌うっていうちゃんとした理由があるのに」
「ほのかさんが今度は水しぶきで目潰しを仕掛けるって事?」
美月の問いかけにエリカはつまらなそうに頷いた。だがレオはそうは思っていないようだ。
「それはわかんねぇぞ。達也がそんな単純な手を使ってくるとは限らないんじゃねえか」
「……それはそうかも」
レオの指摘にエリカは好奇心を甦らせた。
そしてスタートのブザーが鳴ったが、今回は直後の閃光は無かった。
「やっぱりほのかも速いわね」
予選は閃光があったため気がつかなかったが、ほのかのスタートも他の選手より数段速い。
とはいえ幹比古と同様、スタートと同時に独走できるほどではない。あれは摩利や服部、水波がおかしいだけである。
「それに、他校からの妨害もねぇな」
「多分ほのかの作戦を警戒してるのよ、何してくるか分からない相手に下手にちょっかい掛けらんないもの」
「でも、その達也さんの布石って」
「まだ何も起きてねぇと思うんだが……」
レオの言う通り、達也が言っていた予選からの布石が何かまだ分からない。
その後、スタンド前の緩い蛇行を過ぎて、ほのかは一番手で最初の鋭角コーナーに侵入した。すると続く二番手以降の選手が妙なコース取りを見せた。
大きく減速してコースの中央をターンしたのだ。
すると当然、一番手で速度を落とさずコースの外側ギリギリを通過したほのかとの差は大きくなる。まだ一つ目のコーナーを通過したばかりだが、ほのかと他の選手ではかなりの差が付いていた。
「何だぁ、今のは……」
「……コースに影が落ちたように見えたけど……あっ、まただ!」
エリカが鋭い目を細めながらコースを見ていると、やはりコースの隅が黒くなってるように見えたのだ。
「……あ、わかりました」
「えっ、何?」
「達也さんの狙いが、他の選手に遮光効果のあるゴーグルを着けさせるっていう、エリカちゃんの考えは正しかったの。だけど、それは水しぶきで視界を遮る為じゃなくって、暗いところを見え難くする為だったんだよ」
「あ、そうか! 幻術にこんな使い方があるなんて……」
「そうだね。明るくする、暗くするというだけで、相手選手の行動をコントロールする事も出来るなんて、魔法って本当に使い方次第なんだね……」
「エリカ、美月……二人で納得してないで、どういうことか教えてくれよ」
レオの不満げな声に、自分の世界に沈みかけていた美月は現実に復帰した。
「あ、すみません。えっと、達也さんの作戦は……」
偶然か必然か、同じ説明が一高本部でも行われていた。
「司波君の作戦は簡単なものですよ。光波振動系で水路に明暗を作る。ただでさえ濃い色のゴーグルで視界が暗くなっているので、明るい面と暗い面の境目で水路が終わっているように錯覚させる事で、相手選手を暗い面に入れないようにする。つまり相手にコースを狭く使わせているのです」
同じ競技である服部はともかく、それについてきた桐原は鈴音の説明を食い入るような表情で耳を傾けている。
「本当はもっと広いはずだと頭では分かっていますが、目から入ってくる情報に逆らう事は困難です。そして狭いコースでは広いコースよりスピードが出せません。相手選手に実力を発揮させない、戦術の基本ですね」
「……それなら光井も影響を受けそうなのですがね」
「その為の練習を積んでいますから」
桐原の質問に対する鈴音の回答は実にシンプルなものだった。
「普通なら術者本人は影響を受けない、って安心しちまうものだと思いますがね」
「安心出来なかったんでしょうね。コースの幅は決まっているんだから、目に頼らずに身体で覚えろ、と司波君は言っていました」
「へぇ。服部、お前はこれを知ってたんだろ?実際どうだったんだよ」
「ゴーグルをかけた状態だと俺も渡辺先輩も光井さんの術中だった。さすがに負けることはなかったが、同じレースじゃなくて良かったと心底思うよ」
答えにくい質問であるはずが、服部はすんなりと答えてくれた。桐原はそれに意外感を覚えながらも、小さく唸り声を上げた。
「なるほどなぁ、奇策に見えて実は正攻法ってわけか。性格が悪いだけじゃねぇんだな」
「あいつは選手に合わせた戦術を提供しただけで、奇策のつもりはないようだぞ……まあ、性格が悪いのは否定しないが」
「そりゃあ間違いねぇな」
桐原と服部、担当選手二人のこぼした感想に、鈴音は声を出して笑った。
◇◇◇
新人戦三日目の午前競技は、ほのかだけでなく、水波、幹比古、雫の三人も滞りなく勝ち進んだため、午後の競技には四人全員が出場する。
午後の組み合わせを確認すると、深雪 vs 雫の試合は決勝リーグ第三試合、バトル・ボード男女決勝を観戦してからでもぎりぎり間に合うタイミング。エリカたちの観戦予定は即座に決定した。
第一試合、女子バトル・ボード決勝の観客席は超満員だった。水波とほのか二人のCADの調整を済ませた達也は、水波にもほのかにもつく事無く観客席で友人たちを探していた。
「達也くん、こっちこっち!」
数日前と同じようにエリカが声を掛けてきたので、達也も苦労してそこに進んだ。
「今さらだけどよ、達也はここにいて良かったのか?」
「どちらかにつくわけにもいかないからな」
「雫さんの方は大丈夫なんですか?」
「中条先輩が見てくれているし大丈夫だ。CADの調整自体は昼に済ませたからな」
「そうなんですね」
美月が納得していると、選手がコースに出てきた。
「ほのかと水波、どっちが勝つかな?」
「普通にやれば水波だと思うけどよ」
「水波さんもゴーグルをつけてますし、ほのかさんにもチャンスはあると思いますよ」
「光井にもまだ隠し玉があるかもしれねぇしな」
「ん~、水波がそのくらいでどうにかなるのかな?」
「三人とも、そろそろ始まるぞ」
今まで沈黙していた達也が声を掛けたことで、エリカたちの意識がレースへと戻った。
スタートのブザーがなった瞬間、水波が勢いよく飛び出して、それに一拍遅れてほのかが動き出した。
「やっぱりスタートじゃ水波が圧倒してるわ」
「でもほのかさんもついていってます」
「コーナーでどれだけ光井が詰められるかだな」
水波がコーナーに入る直前、コースに影が落ちた。誰もが差が詰まると予想したが、水波は減速して影の中を正確に通過した。
「えっ?」
「水波、影の中に突っ込んだわよね?」
ほのかもほぼ同じ速度でインコースを通過したため、二人の差はほとんど縮まっていない。
「達也、水波は何をしたんだ?」
「水波はコーナーのとき、水面を見ていない。正確に言うと、水面ではなく壁を見ているんだ」
「見てない?」
「壁ってどういうこと?」
レオもエリカも疑問を投げ掛けてきたが、達也もこれだけで理解しろと言うつもりは無かった。
「水波は障壁魔法が得意なのは知ってるだろ?」
「そりゃあな」
「障壁魔法は空間を仕切るという性質上、魔法の作用領域を明確に区別する必要がある。水波は空間認識能力に関しても天性のものがあるが、それに加えて質量の分布にも敏感なんだ」
「質量ってことは……壁がどのくらい離れているかを感じてるってこと?」
エリカに頷きを返して残り二人の顔色を窺う。二人とも理解したように思えたが、念のため結論だけ付け加えた。
「水波は視覚情報だけでなく、質量分布からも壁の位置を把握できる。ほのかの水面に影を落とす魔法だと効果が薄い。もちろん、あのスピードの中で水面の影を完全に無視はできないから妨害にはなるが、それでも厳しいだろうな」
達也の説明が終わるころには、水波は三つ目のコーナーを通過していたが未だに差は縮まっていない。ほのかも影だけでなく水面を荒らしたりと妨害を掛けているが、水波を止めるには至らない。
レースが進むにつれて少しずつ差が開いていき、最後にほのかからの妨害が届かない距離まで離した水波がスパートを掛けた。
「水波って見た目以上にヤバい子なのね」
エリカのそんな呟きと共に水波が優勝を決めた。
続く男子決勝の幹比古は相手選手が一人ということもあり、予選と準決勝よりも余裕を持って優勝した。
ちなみに、幹比古が出場した新人戦男子は今大会唯一大会記録が更新されていないのだが、優勝者の中で唯一バトル・ボードらしいレースだったと謎の賞賛を受けていた。
◆
最後にアイス・ピラーズ・ブレイクの決勝戦。決勝リーグは三高の選手が既に二敗。深雪と雫は一勝ずつなので、正真正銘の決勝戦である。
「達也さん、いよいよ決勝だよ」
雫の表情は一見いつも通りだが、その肩は強張っており緊張しているのが分かる。達也も雫とは別の意味で緊張している。
達也は深雪の魔法力が如何に桁外れなものか理解している。雫は優秀な魔法使いであるからこそ、その異次元さがよく分かるはずだ。
深雪のこれまでの戦績は圧倒的なまでの完封勝利。彼女としては誠意を持って対戦相手に向き合った結果とはいえ、その差に絶望する選手も多かった。
「決勝の司波さんだが、領域干渉で守りを固めてその間に攻めてくるスタイルだ。氷柱に衝撃波をぶつけてくるから、情報強化では防ぎきれないと思う。だから、雫も攻めの気持ちを忘れないように」
そうなってはいけないと、せめて一矢でも報いてほしいと、試合の注意点を列挙し始める。だが、それも当の雫によってすぐに中断を余儀なくされた。
「達也さん、大丈夫だよ」
「……そうか」
「うん、ここまで来たら最後までやるだけ」
何故か分からないが、雫はいつの間にか肩の力も取れており、真剣な表情になっていた。
「雫、頑張れ」
達也からもこれ以上言うことは無い。予選の時と同じ言葉で、雫を送り出した。
女子アイス・ピラーズ・ブレイクの観客席は、バトル・ボードからの移動客で超満員となった。皆考えることは同じである。
エリカたち三人はそれに流されつつも、なんとか後列の空席を確保した。
「さてさて、最後は雫だね」
「雫さんは司波さんに勝てるでしょうか?」
「動画見てる限りじゃしんどいよな。司波さんの領域干渉を抜いた相手がまだいないんだぜ」
「そうですね、雫さんの『共振破壊』も地下まで領域干渉が広がってしまえば手が出せないでしょうし」
「だがよ、達也が無策とは思えねぇしなぁ」
下馬評では圧倒的深雪の有利。だが、雫のエンジニアが達也ということで、無敗のエンジニアが何かするのではないかという期待感も、会場内には確かに存在していた。
二人の選手がステージに上がると同時、客席は水を打ったように静まり返った。
フィールドを挟んで対峙する二人の少女。
片や、目に清冽な白の単衣に緋の袴。
片や、目に涼しい水色の振袖。
締め付けるような静けさが、二人の少女から放たれている。
始まりを予告するライトが点る。灯火が色を変え、開戦を告げる狼煙となった瞬間、同時に魔法が撃ち出された。
深雪の陣地を地鳴りが襲う。
だがその震動は、共振を呼ぶ前に鎮圧された。自陣全域に張り巡らされていた『領域干渉』が、地表・地下にも影響を及ぼしたのだ。
衝撃波が雫の陣地を襲う。
だが氷柱はよく持ちこたえていた。個々の氷柱を狙った衝撃波を、氷柱の座標改変を阻止する『情報強化』が退けていた。
二人の攻防は一見互角に見える。だが当人たちはそう考えていなかった。
(やっぱり届かない……)
雫の『共振破壊』は敵陣から完全にブロックされている。だが、雫の『情報強化』では衝撃波を完全には阻止できてない。自陣の氷柱は少しずつ、だが確実にひび割れてきている。
(だったら……!)
雫が左手を袖の中に入れた。袖から出した左手には拳銃形態のCADが握られていた。『二つのCADの同時操作』という高等技術に深雪が衝撃を受けている隙に、雫は引き金を引いた。
量子化された超音波の熱線が深雪の氷柱を襲う。
「『フォノンメーザー』っ!?」
観客席で誰かが悲鳴を上げる。
振動系魔法『フォノンメーザー』
超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法。
自陣の氷柱が初めて魔法攻撃を受けて、深雪の魔法継続処理が一瞬止まった。だが、その動揺はほんの一瞬だった。深雪も新たに魔法を発動した。
『フォノンメーザー』の射線上に透明な壁が現れ、氷柱の溶け出しが止まった。
『領域干渉』と同時に発動された『耐熱障壁』が『フォノンメーザー』の熱線を阻んだのだ。
当然雫も黙ってみているわけではなかった。
『耐熱障壁』を突破できないと見るや否や、別の氷柱へと『フォノンメーザー』を放つ。だが、再度『耐熱障壁』によって防がれる。
二度、三度と照準を変えて魔法を放つも、その尽くが防がれてしまう。
(これも届かない……これじゃあもう……)
自身の切り札が完封されている焦りからか、雫の魔法制御が少しだけ乱れた。
(あっ──)
二つのCADの同時操作はただでさえ難しい高等技術だ。サイオン波同士が干渉し合い、二つのCADによる魔法発動が停止した。
そして、その隙を深雪が見逃すはずもなかった。
雫の氷柱を十二発の衝撃波が襲う。
魔法的防御の無い氷柱など、深雪の魔法を前に少しも耐えることはできない。全ての氷柱が轟音を立てて一斉に崩れ落ちた。
決着を告げるブザーが鳴り、一拍遅れて競技場は大歓声に包まれた。
達也が控室に戻ると、既に雫も戻ってきていた。達也は何と声を掛ければいいか分からず戸惑っていたのだが、幸い沈黙に困ることは無かった。
「達也さん」
立ち上がった雫が達也に向かって歩いてきた。
「ちょっとだけでいいから、じっとしてて」
そう言って、達也の胸に額を当てた。
「負けちゃった……」
「……そうだな」
「最初から、勝てるとは思ってなかった」
「……そうか」
垂れ下がっている雫の手が握り締められ、言葉にも嗚咽が混じり始めた。
「でも、手も足も出なかった……こんなにも差があるなんて思ってなかった」
『共振破壊』も『フォノンメーザー』も、達也が雫のために用意した武器だ。対して深雪は基礎的な魔法しか使っていない。圧倒的な魔法力を持つ司波深雪だからこそできる芸当だ。達也は彼女を慰める言葉が見つからなかった。
「悔しい、悔しいよ……」
沈黙の中に嗚咽だけが流れ、幾ばくかの時が過ぎた。
「……ありがとう。もう、大丈夫」
そう言って体を離す雫。涙の跡が見えるが、その表情に暗い影は見当たらない。感情の整理が早いなと達也は思った。
「よし、それなら着替えてからホテルに戻ろうか。『早撃ち』のお祝いも兼ねてケーキでもご馳走するぞ」
「……うん。それじゃあ、着替えるからちょっと待ってて」
優しげな達也の声音に雫も恥ずかしそうにこくりと頷いた。
◇◇◇
新人戦三日目の全競技が終了して、達也と雫の二人はエリカたち観客組と、ほのかたち選手組と合流してホテルのラウンジにいた。
「雫さん、ほのかさん、吉田くん、おめでとうございます」
「三人ともすごいじゃない!」
「美月もエリカも、ありがとう」
「私たちは負けちゃったけどね」
幹比古はほのかと雫に気を遣っていたのだが、二人が気にしていないようなので、安心したようだ。
「幹比古も優勝なんてすげぇじゃねえか」
「ありがとう、レオ。僕だけじゃなくて達也の力もあったけどね」
「それはそうだけどよ、幹比古の実力もあるんだぜ」
「そうよ、ミキ。こういう時は素直に褒められとくもんよ」
直接的に褒められるのに慣れていないのか、幹比古がはにかみながら雫へと視線をずらした。
「そういえば、北山さんはいつの間にCADの同時操作をできるようになったの?」
「練習中に達也さんに勧められた、司波さんに勝つための秘策だって。『フォノンメーザー』もそう」
「そのつもりだったんだが、雫には悪い事をしたな」
「何が?」
雫は何のことだか分からないといった表情で、達也の顔を見返している。
「俺の見通しが甘かったと思ってな。『フォノンメーザー』を二週間でものにするのは、さすがに無理があった」
達也の言いたいことを把握して、雫は勢いよく首を振った。
「あっ、そのこと……ううん、達也さんは全然悪くないよ。そもそもアレがなかったら反撃の手段すら無かった。アレがあったから司波さんの本気が少しでも見れたんだし、私の方がありがとうだよ」
「そうか、それならよかった」
なにやらピュアな空気が形成されていたが、その空気に耐えられなくなったのか、レオが割り込んできた。
「そ、そう言えばよ、今日までの得点で下手すりゃ明後日にでも優勝が決まりそうじゃねえか」
「そうですね、ミラージ・バットとモノリス・コード。新人戦の結果次第では一高の優勝が決まりそうですね」
明日のミラージ・バットにはほのかと深雪が出ることから、ほとんど優勝が決定しているも同然だ。
モノリス・コードも毎年優勝争いをしているそうだし、新人戦の結果次第では最終二日間を待たずして一高の総合優勝が決まる。
「でも、ミラージ・バットでは他校から妨害されるかもしれないですよね」
「そうだね、五対一だとさすがに厳しいかもしれない」
「大丈夫よ、ミラージ・バットの選手はほのかと司波さんよ。多少の妨害なんて関係ないわ」
美月と幹比古が明日の競技での妨害を気にしていたのだが、エリカが不要と一蹴した。
「それで、達也くんの秘策って何なのよ」
「おっ、それ俺も気になってたんだよ」
もはやエリカとレオは優勝ではなく、達也の秘策に興味が移ったようだ。
「明日になればわかるさ」
達也はもったいぶった笑みを浮かべて、ほのかへと視線を移した。
「そうですね。エリカも西城くんも、会場中の全員を驚かせてみせます」
達也の視線を受けたほのかも、自信満々といった様子で力強く頷いた。