ガーディアン解任   作:slo-pe

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九校戦編16

 

 

 九校戦八日目、新人戦五日目。

 新人戦モノリス・コードの会場は困惑に包まれていた。

 

 困惑の理由は三つ。

 一つ目は、棄権だと思われていた一高が特例として代役を立てて出場してきたこと。

 二つ目は、幹比古はともかくとして、他の代役がエンジニアと女子であること。

 三つ目は、直接攻撃が禁止されているにも拘わらずエリカの右手に刀らしき物が握られていることだ。

 

「出てきたね、彼が」

「そうだな、選手として出てくるとは思わなかったが」

「二丁拳銃に右腕にブレスレット……同時に三つのデバイスなんて使いこなせるのかな?」

「アイツの事だからハッタリじゃないだろう」

「複数デバイスの同時操作か……お手並み拝見だね」

 

 この将輝と吉祥寺と同じような会話が、各校の選手とスタッフの間で行われていた。担当競技で悉く優勝を掻っ攫った忌々しいスーパーエンジニア。それが各校の達也の認識であり、達也のイレギュラーなスタイルは警戒の的だった。

 

 

 

 第一高校と第八高校の試合が開始された。開始の合図と共に、森林の中に飛び込む達也とエリカ。幹比古も近くの森林に身を隠しており、モノリスの周囲は誰もいない。観客の誰もが訝しんだが、そんなことに関係なく試合は進んでいく。

 八高は野外実習に最も力を入れており、森林ステージはホームグラウンドと言える。おそらくは、達也が飛行魔法のCADチェックを断った腹いせだろう。

 だが、先に仕掛けたのは一高だった。

 

「前方三十メートルに一人、おそらくオフェンスだ。俺は右から仕掛けるからトドメは任せた」

「りょーかい」

 

 エリカの返事と同時に達也は駆け出し、八高ディフェンスの視界に飛び込んだ。

 達也がいきなり現れたことに驚いた八高選手は、反射的に魔法を放った。いや、放とうとした。

 

 だが、展開した起動式はサイオンの塊によって霧散した。

 

「なっ!?」

 

 八高選手が硬直している間に、背後からエリカが現れて八高選手の意識を刈り取った。達也は念のため相手のヘルメットを外してから、エリカと共に駆け出した。

 

 

 

「今のは……あの時の」

「『術式解体(グラム・デモリッション)』か……達也くん、そんな魔法使えたんだね」

 

 摩利が声にならない声で驚いてる隣で、真由美はそんな事を呟いた。

 

「今のが何だか知っているのか!?」

「『術式解体』……圧縮した想子(サイオン)粒子の塊をイデアを経由せずに対象物にぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式なんかの魔法情報を吹き飛ばしてしまう対抗魔法よ」

「じゃあ事故のときのあれは……」

「そういうこと、でしょうね。少なくとも十人以上の重ね掛けされた魔法式を一撃で消し飛ばしてしまうなんて……いったいどれだけの想子を保有してるのかしら」

 

 真由美が摩利に説明をしている隣では、鈴音があずさへと質問していた。

 

「千葉さんの使用しているデバイスですが、あれは何ですか?」

「司波君が独自に開発したオリジナル魔法『小通連』です」

 

 あずさは昨晩、達也の手伝いをしていたので、詰まることなく武装一体型CADの説明を始める。

 

「──という仕組みです。打ち込みの瞬間だけ刀身が離れるので、千葉さんの戦闘スタイルでも問題ないとのことです」

「なるほど……これなら白兵戦が得意な選手でもモノリス・コードに参加できますね」

「来年からは剣術が得意なやつが出てくるかもな」

「もうこれ以上はいいわよ……」

 

 達也の所為で今年は波乱続きだった。何人もの大会記録更新者や『インデックス』登録予定の魔法、昨日には飛行魔法まで出てきたのだ。もうこれ以上何をするのかと、真由美は疲れ切った様子で呟いた。

 

 その後、達也とエリカで残りの八高二人も順々に戦闘不能にして試合が終了した。

 

 

 

 一高と八高の試合を観戦していた将輝と吉祥寺。

 

「ジョージ、今の試合どう思う?」

「彼はすごく戦い慣れている気がする。身のこなしや先読み、ポジション取りに気配察知……魔法技能よりも戦闘技術は警戒した方が良さそうだ」

「その魔法技能の方はどうだ?」

「『術式解体』には驚かされたけど、三回とも千葉選手の陽動として動いていたからね……強い魔法が使えないのか、もしくは隠し玉があるのか」

「なるほど、あり得そうなことだな」

「千葉選手は接近戦に持ち込まれたら難しいけど、遠距離からの狙撃なら問題ないだろうね。司波達也もあれだけ動けるんだから、接近戦は避けた方がいい」

「正面からの撃ち合いなら恐れるに足りない、ということか?」

「そうだね。例えばだけど、試合が『草原ステージ』だったら九分九厘こちらの勝ちだ」

 

 

 

 

 一高の予選二試合目、二高との対戦は市街地ステージで行われた。

 しかし、先ほどの八高との試合とは打って変わって、試合開始の合図が鳴っても達也たちはモノリスの前から動こうとしない。

 

 達也は俯き指先を地面に当て、それっぽい索敵技術に偽装しながら存在認識の「眼」を使って敵チームの動向を探る。

 

「来た」

 

 達也の呟きに、エリカと幹比古が反応した。

 

「オフェンスが一人、この建物内に入ってきた。ディフェンスは二人、この二人は自陣から離れそうにないから、オフェンスだけ撃破する。それが終わったらエリカはここに戻って幹比古の護衛、俺が敵陣に入る。その後は幹比古も頼むぞ」

 

 何故侵入したオフェンスだけでなく敵陣の様子まで分かるのか、というツッコミは飛んでこない。二人とも入学当初から達也の規格外さを見ているので、この程度のことは驚くに値しないのだ。

 

「分かったよ」

 

 幹比古が了承したので、達也とエリカは開始地点から離れて、近くの二高選手へと向かった。すぐにオフェンスを無力化した達也は、エリカと別れてから敵陣へ進む。

 達也は音声ユニットで幹比古と連絡を取った。

 

「幹比古、敵陣まで精霊を連れてきたから始めるぞ」

『了解だよ、達也』

 

 達也は貼り付けられた不活性状態の精霊を喚起魔法で活性化させ、幹比古が精霊魔法『視覚同調』を発動した。

 オフェンスが倒され、エリカが護衛として控えている今なら、幹比古も安心して術に集中できる。十秒ほど経ってから、幹比古から達也へ通信が届いた。

 

『達也、見つけたよ』

「了解した」

 

 達也は幹比古から伝えられた座標位置の下の階に移動した。モノリスはこのちょうど真上の三階にある。達也がいる位置からモノリスまでの位置は約七メートル。モノリスを割る『鍵』となる無系統魔法の有効射程は十メートル以内。余裕で射程圏内だ。

 達也が『鍵』を打ち込んだことで、モノリスが開く。魔法発動を感知した二高選手がやってきて、達也に『鎌鼬』を放つ。

 もう一人はモノリスについているようだが、精霊を感知できないのなら問題ない。幹比古がモノリスのコードを打ち込んでいる間、達也は敵から逃げ回っていた。

 

 

 

 一高の勝利が決まったのだが、観客席では不満を漏らした者がいた。

 

「ここまでに使った魔法は『術式解体』のみ、か……手の内を見せるなと言っているのは我々だが……さすがに手抜きが過ぎるのではないか?」

「『精霊の眼』は使ってましたけどね。それに仕方がないですよ、彼には秘密にしなければいけない事情があるんですから」

「そうは言ってもな……」

 

 山中軍医少佐と藤林少尉は、達也が軍事機密魔法を使わないか監視する為にここにいる。だが、達也に少しでも本気を出してほしいとも思っているのだ。

 

「でも多分、『フラッシュ・キャスト』は使うことになると思いますよ。いくら達也くんでも『プリンス』と『カーディナル』を相手にして、低スペックのCADだけでは戦えないでしょうから」

 

 山中を宥めるように発言した藤林も、実は同じ気持ちなのか、瞳には楽しげな色が映っていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 新人戦モノリス・コード準決勝。

 第一試合は三高 vs 八高。三高が出場するため、達也たちはその観戦に来ていた。岩場ステージということもあり、フィールドに遮蔽物はなく、自陣のモノリスから敵陣のモノリスまでが見えるようになっている。

 そのフィールドを敵陣に向かって悠然と進軍するのは一条将輝。八高の選手が集中攻撃を仕掛けるが、将輝の歩みは止まらない。

 移動魔法で岩を撃ち込まれれば、将輝がより強力な移動魔法で岩を撃ち落とす。放出系魔法は将輝の周囲一メートルに張り巡らされた移動型領域干渉により、発動前に無効化された。

 

「『干渉装甲』か。移動型領域干渉は十文字家のお家芸だったはずだが」

「達也くんへの挑発よ」

 

 達也の呟きにエリカが反応したが、視線はフィールドに固定されたままだ。

 

 八高選手の一人が将輝への攻撃を止めて、三高のモノリスに向けて走り出した。だが、将輝がそんな軽率な行動を見逃すはずはない。八高選手の無防備な背中に圧縮された空気の砲弾が撃ち放たれ、前のめりに吹き飛ばされる八高選手。

 

「『偏倚開放』か……意外に派手好きなんだな」

「へんいかいほう、って?」

「大まかには圧縮空気弾と同じだ。おそらくは殺傷性ランクを下げるための選択だろう、力があり過ぎるのも一苦労だな」

 

 この場に達也の魔法を知る者がいたら「お前が言うな」との視線が浴びせられそうだが、今ここにはそんな人物はいない。

 幹比古とエリカが納得する中、将輝が残りの八高選手二人も戦闘不能にして、勝利を収めた。

 

「結局一条選手以外の手の内が見られなかったね」

「吉祥寺真紅郎の方なら大体予想できるぞ」

「本当かい?」

「彼が発見した『基本(カーディナル)コード』は加重系プラスコード。出場した競技はスピード・シューティング。ならば得意魔法は『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』だろう」

 

『不可視の弾丸』は作用点に直接加重を掛け対象の一点に直接力を及ぼす魔法。『情報強化』では防御できない魔法だ。

 

「『基本コード』って……そうか、彼が『カーディナル・ジョージ』だったのか……」

「そうだ。だから警戒すべきは一条選手だけじゃない。基本コードは使えるだけで厄介なものだからな」

「どう対策すればいいの?」

 

『カーディナル・ジョージ』の名前に幹比古の顔色が少し悪くなるが、エリカはいつも通りのようだ。

 

「『不可視の弾丸』には、対象を直接視認しなくてはならないという欠点がある。エリカのスピードなら捉えられることはまずないし、幹比古は幻術があるから大丈夫だ」

 

 二人が納得したのを見て、達也は言葉を続けた。

 

「それよりも、今は九高との試合だ。それに勝てば俺たちの仕事は完了だからな」

 

 幹比古にも気休めになったようで、三人は準決勝の準備に向かった。

 

 

 

 

 新人戦モノリス・コード準決勝第二試合は一高VS九高。「く」の字形に湾曲した人工の水溜まりのある渓谷ステージ。

 昨日の宣言通り、この試合は幹比古の独壇場だった。

 

古式魔法『霧壺』

飽和水蒸気量に関係なく作用エリア内の水蒸気を凝結させる魔法。

 

 フィールドは濃霧に覆われていたが、その霧は一高には薄く、九高選手には濃く纏わりついていた。九高選手が霧で満足に動けない中、達也は存在認識の「眼」を使って九高陣地のモノリスを開いた。

 そのまま幹比古が『視覚同調』でコードを入力し、一度の戦闘もなく一高が勝利した。

 

 

 

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