ガーディアン解任   作:slo-pe

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日常編9

 

 

 あずさとのCAD調整の指導も三回目を終えた頃、突然二人の上級生の来訪があった。

 そのうちの片方は、達也の前で立ち止まるや否や、可愛らしく目の前で両手を合わせてこんなことを言い出した。

 

「達也くん、お願い。チョッと時間をもらいたいんだけど」

 

 訪ねてきたのは、生徒会長である真由美と生徒会会計の鈴音。いきなり一高幹部が教室に来るとは何事かと思った。

 

「生徒会の公務って事にしておけば、減点されることはないから」

「……分かりました」

 

 授業を理由に断ることもできず、達也は渋々了承を返した。真由美は生徒会特権のIDカードを読み込ませて、欠席の手続きを終えてから達也に向き直った。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 真由美はご機嫌な様子で、達也の腕を引っ張って教室を出ていく。また面倒な噂が立たないといいなと思った達也だったが、その願望は教室を出て五秒で砕け散った。

 

「え、会長って司波君のこと……」

「九校戦でも格好良かったし……」

「このクラスでも……」

「競争率高過ぎでしょ」

「一科生の子も司波君のこと噂してたよ」

 

 達也たちが出て行ったすぐ後に、クラスメイトの女子たちが騒ぎ始めた。

 教室内がざわめく中、レオと幹比古はエリカの機嫌が急降下していることに気がついた。幹比古はその理由を察して黙っているのだが、レオは首を傾げながらエリカに話しかけてしまった。

 

「なぁ、なんで機嫌悪いんだよ」

「ちょ、レオ」

「……機嫌なんて悪くないわよ」

「いや、明らかに悪いだろ」

「……悪くないって言ってるでしょ」

 

 無意識に地雷を踏みまくっているレオ。

 

「あんたには分かんないわよ」

「何だよ。気になるだろ」

「レ、レオ。授業が始まるから、もういいじゃないか」

 

 幹比古が何を気にしているのかが理解できず、レオは本気で首を傾げている。幹比古はレオがさらに地雷を踏み抜かないかとヒヤヒヤしていたが、幸いなことに授業開始のチャイムが鳴った。

 

「エリカちゃん、戻ろっか」

「……そうね」

 

 美月がエリカに声を掛けたことで、どうにか収束した。エリカは不機嫌なオーラを纏ったままなので、居心地の悪さは変わらないのだが。

 

 全員が席に着いたが、こんな空気の中授業が進むわけはなく、ヒソヒソとした声は止まらない。これ以上何も起こらないことを祈り、幹比古は一人腹を擦りながら授業を受けるのであった。

 

 

 

 教室でそんなやり取りが行われているとは露知らず、達也たちは生徒会室に来ていた。

 

「授業時間中にすみません。急ぎの用だったものですから」

「いえ、構いません」

「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ。実は生徒会長選挙のことで相談があるの」

 

 ふぅ~、と大袈裟に息を吐いて、真由美が本題を切り出した。

 

「今月末の生徒会選挙と同時に生徒総会をやるんだけど、その時に『生徒会の二科生登用禁止』の規則を無くしたいと思っているの」

 

 以前二科生の差別撤廃を目指していると言っていたが、具体的に動き出すようだ。

 

「もしそれが可決されたら、達也くんには選挙の後に新生徒会に入ってほしいのよ」

「一科生からの反発があるのではないですか?」

「九校戦では司波君や吉田君、千葉さんの活躍もありました。なので、全校生徒の三分の二以上、つまり、一科生の三分の一以上の賛成は得られると思っています」

「それで、次の生徒会長はあーちゃんか、はんぞーくんの予定なの。だから達也くんにも生徒会に入ってほしいのよ」

 

 会長候補を生徒会で絞るのならこの二人でほぼ確定なのだろう。だが、それとは関係なく、返事は決まっている。

 

「申し訳ありませんが、俺は生徒会に入るつもりはありませんよ」

「……やっぱり?」

「ええ、生徒会は特に時間を取られますし」

「そっかぁ……」

 

 摩利と同じように、あわよくば、くらいの気持ちだったのだろう。真由美は少し残念そうな表情をしていたが、強制されないのはありがたかった。

 

「これで終わりなら授業に戻りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、わざわざありがとうございます」

 

 どうやら用件はこれで終わりのようだ。達也は一言告げてから生徒会室から退室した。

 

 

◇◇◇

 

 

 教室に戻ると、クラスメイト全員の視線が一斉に注がれた。これにはさすがの達也も訝しんだが、授業中ということもあり、声を掛けてくる者はいなかった。

 

「達也くん、ついてきて」

 

 だが、授業が終わるや否や、エリカが席にやってきてこう告げた。そのまま返事も待たず、達也の腕を掴んで廊下へと歩いていく。

 教室内では再度ざわめきが起こり、美月たち三人もエリカに続いた。まあ、美月が微笑ましそうに、レオは首を傾げながら、幹比古は腹を擦りながらという風に、心境に差があるのは仕方のないことだろう。

 

 連れてこられたのは実験棟の空き教室。偶に幹比古が術の練習に使っている場所だ。いつ連絡したのか分からないが、既にほのかと雫も到着していた。

 

「達也くん、会長は何の用事だったの?」

 

 エリカは近場の椅子に座るとすぐに口を開いた。

 

「会長は生徒総会で『生徒会の二科生登用禁止』の規則を無くしたいと思っているそうだ。もしそれが可決されたら、俺に新生徒会に入ってほしいと言われた」

「……それだけ?」

「ああ。時間も取られたくないし、断ったからもう呼ばれることは無いと思うぞ」

「ふーん」

 

 どうでも良さそうな返事だったが、エリカの機嫌が上向きになったことはレオ以外には丸わかりだった。レオも機嫌が直ったことは分かったのだが、その理由が分からずに首を傾げている。

 

「生徒会選挙って誰が出るんだい?」

 

 幹比古はレオが再度地雷を踏まないように素早く話題を変えた。

 

「生徒会が人選を絞るそうだが、中条先輩か服部先輩が候補だそうだ」

「選挙って月末だよね? まだ決まってなかったんだ」

「今年は二人の一騎打ちって言われてますよね」

 

 ほのかの隣で雫が頷いていることから、どうやら達也が疎いだけで周りではかなり話が回っているらしい。

 まあ確かに、あずさと服部以外の候補者などいないだろう。だが、レオが思わぬ事を言い出した。

 

「服部先輩は出ないみたいだぜ」

「そうなんですか?」

「ああ、十文字先輩に言われて部活連会頭になるんだと。本人もそう言ってたしな」

「本人って、レオって服部先輩と交流あったのかい?」

 

 幹比古の疑問は尤もなのだが、レオの回答は予想外のモノだった。

 

「服部先輩は九校戦が終わってから山岳部に入部したんだ。なんでも体を鍛えたかったらしいぜ」

「ああ……それなら納得だ」

 

 幹比古もバトル・ボードで服部の様子を見ていたのでしみじみと頷いたが、女性陣の興味は既に別の話題に移っていた。

 

「そうなると次の会長は中条先輩かな?」

「チョッと頼りないような気もするなぁ……」

「でも、実力はピカイチ」

「生徒会長は、優しい人の方がいい気がします」

 

 あずさの性格から生徒会長になるつもりは無いと思うが、真由美たちが説得するのだろう。達也は他人事のようにそう思っていたのだが、エリカが予想外のセリフを言い出した。

 

「あっ、頼り甲斐で言ったら、達也くんとかでもいいんじゃない?」

「は?」

 

 一瞬何を言っているのか分からなかったが、とりあえず何か反論しなければいけない。

 

「俺はまだ一年だぞ」

「別に一年生が会長になっちゃいけないってルールも無いじゃない」

「それはそうだが……」

 

 初っ端から躓いてしまった。幹比古もそれを支持する形で参入してきた。

 

「僕も達也が出ても良いと思うよ」

「バカ言うな。俺は二科生なんだし、票が集まるはずは無い」

「でも達也さんは九校戦優勝の立役者」

 

 そこに雫まで加わってきて、達也は本格的に頭を抱えたくなった。

 

「いや、雫、それはな……百歩譲って事実だとしても、競技には一つしか出てないんだから。裏方の仕事なんて表から見ても分からないって」

「百歩どころか純然たる事実、これは譲れない」

 

 雫の強い口調に、別の角度から賛同する声が上がった。

 

「私は達也さんが立候補したら絶対投票します!」

「あの、私も達也さんなら嬉しいです」

「少なくともE組は全員達也くんを支持すると思うわよ?」

「それによ、一年の二科生男子も殆ど支持するだろうぜ」

 

 なにやら嫌な言葉が続き、本気で頭痛がしてきたので、達也は強引に話を打ち切って購買へ向かうのであった。

 

 

 

 

 それから数日後、達也が教室へ着いた時には、達也の席にはいつものメンバーが揃っていた。

 

「おはよう、達也。いきなりで変な事を訊くヤツだと思われるかもしれないけど……」

「変な事なのか?」

「僕はそうは思わないけど……達也が生徒会長選に立候補する、って本当かい?」

「……何だって?」

「いや、だから、達也が生徒会長選に立候補する、って噂が流れているんだよ」

「噂……?」

 

 先週、達也が立候補したら面白いと言い出したのは確か……

 

「あたしじゃないわよ!」

「僕でもないよ!」

 

 エリカと幹比古は大慌てで手を左右に振る。

 

「あ、あたしは先輩から聞いただけよ? 一年の二科生が生徒会長選に出るって」

「ぼ、僕は廿楽先生に訊かれたんだ。『達也が生徒会長選に立候補するというのは本当か?』って」

「そんなデマが広がっているのか……?」

 

 達也が頭を抱えていると、さらに別の証言がもたらされた。

 

「俺の部活も、先輩たちがポツポツ噂してるな。皆意外と好意的だったぜ」

「あの、私も……昨日、カウンセリングの時に、小野先生が話題にしていた気がします」

「小野先生が?」

 

 E組のカウンセリング担当は、小野遥という先生だ。達也はこの名前を聞いて、噂の出所を探すのに前向きに対処することに決めた。

 

 

◇◇◇

 

 

 一時間目の課題を早々に終わらせた達也は、真相を確かめる為にカウンセリング室にやって来た。

 

「まだ授業中よ。堂々とサボりかしら」

「一限目の課題は終わらせました」

「はぁ……これだから優等生は」

「劣等生ですよ。実技試験は赤点ギリギリでしたから」

「……それ、君が言うと嫌味にしか聞こえないんだけど」

 

 お互いに遠慮のないやり取りだが、これはいつものことである。

 

「まあそれは置いておくとして。お久しぶりですね、小野さん。師匠の寺で会って以来ですので、三カ月ほどでしょうか」

「そうね、それくらいだと思うわ」

 

 遥は公安のオペレーターとして一高にいるカウンセラーである。それと同時に、八雲の教えを受けた妹弟子でもあるのだ。

 

「それで? 今回は何の用?」

「月末の生徒会選挙のことで、一つ悩んでいることがありまして」

「今回は中条さんが渋っていて立候補者の募集に難航しているそうね。それで? 何が悩みなの?」

 

 あずさが立候補を渋っているのは初耳なのだが、それは一旦横に置いて遥からの質問に答えた。

 

「最近校内で流れている『噂』に関して、相談がありまして」

「噂?」

「ええ、俺が生徒会長に立候補する、と職員室で噂になっているそうですが、何かお心当たりはありませんか?」

 

 遥は一瞬「しまった」という表情を見せた。もちろんその一瞬を、達也が見落とすはずも無い。

 

「昨日柴田さんにその話をされたそうですね?まさかとは思いますが、小野先生が噂を広めているのですか?」

「イヤねぇ、それこそ本当に『まさか』よ。大体司波君は矢面に立つよりも、黒幕タイプでしょ?」

「否定はしません」

 

 おそらく共通の師匠の影響があるのだが、二人は顔を見合わせて人の悪い笑みを交わした。

 

「それで、一体どういう経緯で、そんなデマが流れているんですか?」

「……それなんだけどね、一種の伝言ゲームみたいに広まってるのよ。『服部君が出ないらしい』『中条さんも出ないらしい』『生徒会は立候補者探しに困っているらしい』『だったら一年生でも良いんじゃない?』『一年生なら、司波君とか?』……という話がいつの間にか、『司波君が立候補するらしい』『ああ、あの風紀委員夫婦の』『新人戦にも出てた?』……という話に化けちゃっているのよ」

 

 遥の話を聞いて、達也は割と本気で頭を抱えた。伝言ゲームくらいはしっかりとやってほしいものだ。

 

「それで、なんだかその噂は生徒の間よりも先生たちの間で納得されちゃってね」

「何故です? 俺は二科生なのですが」

「司波君の頭脳は既に証明済みだし。それにほら、モノリス・コードで一条選手に勝ったじゃない? 十師族次期当主に勝つくらい強いなら、って司波君を高く評価している先生も少なくないのよ」

「そうなんですか……」

 

 まさかあの対決がここまで影響するとはさすがに予想外だった。自分の認識が甘かったと言わざるを得ない。

 

「四月の新歓期間もあったことだし、司波君が思っている以上に、校内では有名人よ」

 

 ……まずいことになっている、達也はそう思いながらも特に対策が思いつかず、カウンセリング室をあとにするのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 悪いことは重なるもので、その日の一限終わりのチャイムが鳴り終わるとすぐに、彼女たちの二度目の来訪があった。

 

「達也くん、何度もごめんね。チョッと時間をもらいたいんだけど」

 

 二十五人の少人数クラスということもあり、二度目の幹部来訪にこちらを窺う声が活発になったのも分かってしまう。「やっぱり」「会長」「選挙」などの単語が漏れ聞こえてくる。

 

「分かりました」

 

 下手に長引くとまた面倒なことになると思い、達也は即答で了承を返した。真由美が欠席の手続きをしている間、達也は美月へと向き直った。

 

「おそらく中条先輩の説得か何かだ。上手く言っておいてくれ」

「ふふ、分かりました」

 

 美月は頬を緩めて返事を返してくれた。自席にいたエリカにも目線をやってから、達也は教室を出ていく真由美へと続いた。

 クラス内のざわめきはまだ続いていたが、エリカの機嫌が悪くなることは無かった。それを遠目から確認した幹比古は、達也の気遣いに感謝しながらも美月たちの席に移動するのであった。

 

 三人が訪れたのはやはり生徒会室。真由美は腰を下ろすや否や、目の前で両手を合わせてこんなことを言い出した。

 

「達也くん、お願い! 生徒会に入ってくれないかしらっ?」

 

 用件はそっちかと思いながら、達也は以前と同じ返事を返した。

 

「すみませんが、お断りします」

「そんなこと言わずに、ね?生徒会もそんなに悪くないわよ?」

 

 今回は真由美も引くつもりはないらしい。だが、

 

「何故俺なのですか? 一年生にも司波さんや桜井さんなど優秀な生徒がいると思いますが」

「そ、それは……」

 

 達也がこう指摘すると、真由美は苦い顔で黙り込んでしまった。視線を横に移すと、鈴音も言葉が出ないようだ。

 

(やはり、俺を中条先輩の説得材料にするつもりか……)

 

 おそらく最近あずさが達也にCAD調整の指導を受けているので、達也とセットにして会長を受けさせるつもりだろう、と達也は考えたのだ。

 

 達也の推測は半分だけ当たっていた。真由美たちは達也を生徒会に入れるだけでなく、深雪を生徒会から外すつもりだったのだ。

 深雪の態度は良く言えば冷静沈着だが、人によってはプレッシャーにも感じられ、小心者のあずさはよく怯えている。だが深雪と同格の一年生などいるはずもない。だから成績とは別の意味で優等生な達也を入れようとしたのだ。

 

「俺が中条先輩を説得しましょうか?」

「えっ?」

 

 これ以上話が進みそうになかったので、達也は自分から行動することに決めた。真由美にも鈴音にも予想外のセリフだったため、一瞬の静寂が訪れた。

 

「……司波君が中条さんを説得してくれるのですか?」

「ええ」

「……説得って、生徒会長立候補の説得よね?」

「ええ」

 

 真由美は意外過ぎてポカンとした様子だったが、ジワジワと達也の言葉が意識に浸透して行ったのか、不意に、がっしりと達也の両手を握った。

 

「じゃあお願い! やっぱり達也くんは頼りになるわ!」

 

 手を掴んだままブンブンと上下に振り回し始めた真由美を見て、あずさと似たところがあるんだなぁ、と達也は場違いなことを考えていたのだった。

 

 

 

 

 偶然で済ませていいのか分からないが、その日の放課後にはあずさへの調整指導があったので、達也はそこで説得することに決めた。

 あずさは扉を開けると不穏な気配を感じたのか、一瞬部屋に入るのを躊躇した。

 

「中条先輩、お疲れ様です」

「あっ、お疲れ様です」

 

 だが、達也の声音がいつも通りだったこともあり、気のせいだと処理して部屋に入ってきて。

 

「すみませんが、今日は調整の前に一つお話がありまして」

 

 続く達也のセリフに、一瞬でそれを後悔した。

 達也は座っているので身長差による圧迫感はないが、その目はあずさの瞳を射すくめて離してくれない。

 

「中条先輩。何故生徒会長選挙に立候補しないのですか?」

「……会長から私を説得するよう、依頼されたんですか?」

「いえ、俺から会長に持ちかけました」

 

 あずさはやっぱりという表情を浮かべていたが、達也のセリフによって驚きに変わった。だが、やはり意思は固いようだ。

 

「……私には無理です。もっと相応しい人はいっぱいいます」

「そうでしょうか? 俺は中条先輩以上に相応しい人はいないと思いますよ」

 

 あずさが「えっ」と声を漏らしたが、達也は優しげな声音を意識したまま言葉を続けた。

 

「九校戦のモノリス・コードでも、急な仕事をこなしていましたし」

「あれは用具の準備だけでしたし……」

「そんなことありません」

 

 どうやら話は聞いてくれそうなので、安心して説得を続けることにした。

 

「中条先輩は一年間、七草会長の下で勉強していたのでしょう? そんな先輩なら大丈夫です」

「でも……私に生徒会長なんて大役、務まりませんし……」

 

 真由美の名前を出したことで、あずさの眼差しが小さく揺れた。それを見て、達也は勢いのまま攻めることにした。

 

「中条先輩で務まらないなら、七草会長の指導が悪いということになってしまいますよ?」

「そっ、それは違いますよ!」

「そうでしょう? でしたら先輩が立候補されればいいんです。先輩ならきっと上手くやれます」

「……そうでしょうか」

 

 あずさの反論がかなり弱くなってきたのを見て、達也の表情が真剣なものに変わった。

 

「中条先輩はあの七草会長に鍛えられたのです。先輩以上に相応しい人など、この学校にはいませんよ」

 

 言い方に気を遣ってはいるが、セリフ自体は紛れもない本音だ。この学校で一番真由美の意思を継いでいるのはあずさだろう。そのあずさが生徒会長になるべきだと、達也ですら思っている。

 

「……」

 

 達也の真剣な声音に、遂にあずさからの反論が途絶えた。そろそろ良いかと思い、あずさにとって最大の「飴」を持ち出した。

 

「ああ、そう言えば」

 

 先ほどとは打って変わった緩んだセリフに、あずさが一瞬キョトンとするが、達也は「ふと思い出した」という顔を崩さずにその言葉を聞かせた。

 

「再来月発売のFLTの飛行デバイスが、モニター用に二つ、手に入りまして……」

「えっ、それってもしかして……飛行魔法を最も効率的に使えるという、あのシルバーの最新モデル!?」

 

 あずさの目が爛々と輝きだした。顔には「欲しい、欲しい、欲しい、欲しい……」と書かれている。

 

「モニター用ですのでシリアルナンバーはありませんが、性能的には製品版と変わりません。中条先輩の生徒会長就任のお祝いに、と思っていたのですが……」

「やりますっ! 誰が相手でも負けません! 私、絶対生徒会長に当選してみせます!」

 

 達也が言葉を差し挟む余地もなく、あずさは力強く宣言した。そもそも立候補者がいない所為で自分が説得されていたことをすっかり忘れてしまっている。

 まあやる気がある分には問題ないかと、達也は真由美へと報告メールを出すのだった。

 

 

 

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