ガーディアン解任   作:slo-pe

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入学編4

 

 

 真由美たちがいなくなった後、森崎が噛みついてきたが、正直な話これ以上関わりたくなかった。

 達也たち四人はそのまま帰ろうとしたのだが、一人だけ騒ぎを止めようとしていた女子生徒が声をかけてきた。

 

「何か?」

「あ、あの……」

 

 顔を赤くしたまま何も話さない女子生徒を不審に思い、達也が声をかけると、漸く決心がついたのか女子生徒が口を開いた。

 

「光井ほのかです! 助けていただいてありがとうございます!」

「気にしなくていいよ。さっきは止めようとしてくれたし、俺の方こそありがとう」

「とんでもないです! お咎めなしで済んだのは司波達也さんのおかげです!」

「……俺は本当の事を言っただけだよ」

 

 どこかで知り合っただろうか、最初から微妙に距離が近い。達也が首を傾げていると、ほのかがこんな提案をしてきた。

 

「あの、駅までご一緒してもいいですか!」

 

 

 

 

 駅までの帰り道は大所帯となっていた。ほのかの親友である北山雫も含めて、六人での帰宅となっており、メンバー間の雰囲気もかなり良い。

 ほのかたちが一科生ということでエリカたちとは溝があると思われたが、意外にもすぐに馴染めたようだ。

 

「達也、さっき会長たちになんて言ったんだ?」

 

 とはいえ、全員が一番気になっているのは先ほどのことだ。軽く自己紹介を済ませると、すぐにその話題になった。

 

「……言わないとダメか?」

 

 言うなれば幹部のサボりである、入学して早々する話でもない。特にほのかと雫には聞かせたくないのだが、黙っているのは無理そうだ。

 

「会長と風紀委員長は、最初からあれを見ていたんだ」

「見ていたって……放置してたってことですか!?」

「達也さん、それ本当?」

 

 声を上げたのはほのかと雫。エリカたち三人は眉を顰めて不快感をあらわにしている。

 

「ああ、タイミングとしては美月がキレたくらいからか。理由は分からないが放置していたんだろうな。会長の腕なら初手で森崎の魔法を阻止できただろうに、わざわざ二度目で止めに来たのだから、何をしたかったのかもよくわからない」

 

 真っ先に思いつくのは、森崎たちが一科生だから一度目は目を瞑っていたというものだが、流石にこれはないだろう。二科生である三人も似たような推測になったのか、重い空気が流れる。

 そんな中、エリカが思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、ほのかと達也くんって知り合いなの? なんか仲良さそうだけど」

「いや、初対面だと思うんだが……」

「あっ、入試のときに同じグループだっただけなので、達也さんも知らないと思います」

「え、それだけで憶えてたの?」

「いえ、達也さんの魔法がきれいだったんです」

「えっと、どゆこと?」

「普通魔法を発動するときに無駄ができて、それが光波のノイズになるんですけど、達也さんの魔法からはそれがほとんど出ていなかったんです。私が今まで見た中で一番きれいでした」

「へー、そうなんだ」

 

 ほのかは少しうっとりしていたが、エリカには理解できない感覚のようで相槌が若干おざなりになっている。

 

「達也、なんでそんなことができるんだ?」

「いや、俺は実技の成績が悪いからな。丁寧にやろうと心掛けているからじゃないか」

「そんなもんかね。まっ、達也完璧主義っぽいもんな」

「逆にあんたはがさつっぽいわよね」

「何だと!」

「なによ、ホントの事でしょ」

「二人とも! 喧嘩は駄目って言っているじゃないですか!」

 

 話が収まったのも束の間、二人ともなんでこんなところから喧嘩ができるのか。いつも通り美月が注意しているが、初対面のほのかと雫は少し狼狽している。達也は深いため息を吐きながら、仲裁に入るのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 翌日、駅でエリカと美月、レオと合流して学校までの道を進む。校門に差し掛かろうとしたところで背後から陽気な声が聞こえた。

 

「達也く~ん」

 

「達也くん、あれなに」

「達也さん、会長とお知り合いだったんですか?」

 

 エリカは不機嫌に、美月は単純に不思議そうに訊ねてくる。

 

「いや、一昨日の入学式が初対面のはずだ」

 

 なぜか達也の名前を呼びながら軽やかに駆けて来る真由美。だが、昨日の事件の対応で真由美の評価は地を這っているため、自然と表情も曇る。

 

「達也くん、オハヨ~。皆さんも、おはようございます」

「おはようございます、会長」

 

 達也に続いて三人も挨拶をしたが、エリカとレオはあからさまに不機嫌だし、美月も控え目ながら表情を曇らせている。これ以上話すのも面倒なので、達也から水を向けた。

 

「それで、何か御用でしょうか?」

「もうっ、少しくらい話してくれてもいいじゃない。達也くんはお昼はどうする予定かしら?」

 

 馴れ馴れしい。その一言に尽きるが、これでも相手は生徒会長だ、丁寧な対応をしなければならない。

 

「みんなと食堂でいただくことになると思います」

「そうなのね。それなら皆さん一緒に生徒会室でどうですか?」

 

 真由美はエリカたちに視線を向けた。何が言いたいのかはわかるが、少し卑怯ではないだろうか。

 

「い、いや、達也と俺たちはマブダチだからな! 一日くらい別でも問題ないぜ!」

「そ、そうですね! 一日くらい問題ないですよね!」

 

 やはり無理だったようだ。だが、エリカだけは少し思案顔だ。もしやと思い、期待していると、

 

「ねえ、達也くん。あたしも一緒に行った方がいい?」

 

 本当に来てくれるというのだ。だが、実際に生徒会室にエリカも巻き込むとなるとやはり気が引ける。達也が躊躇していると、

 

「千葉さんも一緒に来てくれるのね。それじゃあ二人でお昼休みに生徒会室に来てくださいね」

 

 真由美がそう言ったことで行くことが決定してしまった。何がそんなに楽しいのか、真由美は上機嫌に鼻歌を歌いながら立ち去った。

 

「……エリカ、すまない」

「良いって気にしなくて、昨日のことも詳しく知りたかったしね。あ、でも、今度なんか奢ってね」

「…分かった、今度一昨日行ったカフェにでも行こうか」

「やりぃ、じゃあ決まりね。それじゃあ教室に行きましょ」

 

 昨日までのエリカは直情的なイメージだったが、意外にも気遣いのできる性格のようだ。エリカとは会って三日目なのだが、友人の意外な一面を更新したのだった。

 

 

 

 

 昼休みになり、生徒会室のドアの前に立つ達也とエリカ。

 

「はぁ……」

「面倒なのはわかるけど、いつまでもそんな顔してないの」

「…そうだな」

 

 いくらエリカがいるとはいえ気が乗らない達也だったが、ここまで励まされて落ち込んでいてはダメだと思い、気合を入れ直してから扉をノックする。

 

「1ーEの司波達也と千葉エリカです」

「どうぞ」

 

 合図と共に扉のロックが解けた。扉を開け視界に入ってきたのは、五人の女子生徒。その中に摩利の姿を認め、エリカが少しだけ顔を顰めた。

 

「二人ともいらっしゃい、さあ掛けて。お話は食事をしながらにしましょう」

 

 朝も思ったがやはり馴れ馴れしい。

 

「知ってると思うけど一応紹介しておくわね」

 

 ダイニングサーバーの料理ができるまでの間、真由美が順番に役員を紹介してくれた。達也の前に座っているのが、会計の市原鈴音。エリカの前に座っているのが、風紀委員長の渡辺摩利。その隣が書記の中条あずさ。最後に書記の司波深雪。深雪はやはり生徒会に入ったようだが、こちらに軽く会釈しただけで特に何も言わなかった。

 真由美の呼び方にはいろいろ意見があったが、概ね順調に進んだところで調理が完了した。食事中の会話に特筆すべき点はなかった。強いて言えば摩利が弁当を手作りしていると聞いた時にエリカの機嫌が悪くなったことくらいだ。

 

「それで会長、自分たちが呼ばれた用件をお聞きしても良いでしょうか?」

 

 食事も終わりどう切り出したものかと悩んでいた真由美だったが、昼休みの残り時間もあるので達也から水を向けた。真由美もその言葉に気持ちを切り替えたようで、真剣な表情になった。

 

「昨日の校門での件についてです。仲裁に出るのが遅くなってしまって、本当にごめんなさい」

「謝罪は分かりましたが、なぜギリギリまで手を出さなかったのですか?」

 

 もし二科生関係が理由だとしたらさすがに許容できない。

 

「それは……」

「正直に言うと、エリカがいたので少し安心していた。言い方は悪いがあの程度の言い争いは毎年起こるし、万一実力行使になったとしても森崎程度にエリカが後れを取ることはない。その所為で反応が遅れたんだ」

 

 真由美が口籠っていたところ、摩利が横から返答した。それだけが理由ではないことは明らかだが、これ以上は聞き出せないだろう。

 

「分かりました、エリカもそれでいいか?」

「あたしは特に問題ないわよ」

 

 エリカも嘘だと分かっているようだが反論はしなかった。達也に続きエリカも了承したのでその場は一段落した、ように見えた。

 

「ちょっといいかい?」

 

 だが、摩利の用事はここからが本番だったのだ。

 

「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まっていない」

「摩利、それはまだ選定中と言ったでしょう、そんなに急かさないで」

 

 摩利は真由美の抗議を無視して、ゆっくりと達也に視線を移してニヤリと笑った。なんだか嫌な予感がしてきた。

 

「実は、あたしから一人推薦したい奴がいるんだが」

「摩利……貴女」

 

 摩利の言葉に真由美は大きく目を見開いている、鈴音とあずさも似たような表情だ。深雪はそれが嫌なのだろう、ほんの少しだけ顔を顰めた。

 

「ナイスよ! 生徒会は司波達也君を風紀委員に指名します」

 

 真由美はノリノリでそう宣言した。どうやら予想は当たったようだが、深雪のいる自治会に入るのは避けるべきだ。それに、真由美たちのことも信用ならないのだからなおさらだ。

 

「渡辺先輩」

「なんだ?」

「風紀委員の指名は強制なのですか?」

「いや、強制ではない。だが、風紀委員には校内でのCAD携帯許可がある、入っていて損はないと思うぞ」

「それに、昨日達也くんが見せたあの動きは風紀委員に役立つと思うの。是非やってくれないかしら」

 

 そんなものはどうでもいい、強制ではないなら答えは一つだ。

 

「そうですか。それなら自分は風紀委員には入りません」

「……なぜだ」

「俺にはこの学校でやりたいことがあります。それ以外のことに時間を取られるのは御免です」

「風紀委員の仕事は週に二、三回の巡回のみだ。そんなに時間は取らせない」

「それでも時間を取られるのは好ましくないので」

 

 何故だかわからないが、二人は何とかして達也を風紀委員にしたいのだろう、まだ納得していないようだ。なので、達也はもう一つの理由を告げた。

 

「それに、自分は二科生です。風紀委員になれば一科生からも注目を浴びることになる。昨日の事件もありますし、そんな危険な立場にはなりたくありません」

 

 昨日の件を持ち出されては何も言えないようだ。摩利が言っていたように一科生が二科生を差別視していることは確かであり、それは学年を問わないのだから。真由美からも摩利からも反論がなかったが、ここに来て深雪が初めて口を開いた。

 

「いいのではないでしょうか。風紀委員の選抜は任意なのですから、また別の人材を探せばいいと思います」

 

 深雪は達也と近くに居たくないだけなのだが、それを上手く建前で包んでいる。そんな中、五限開始の予鈴がなったので、達也たちは教室に戻った。

 

 

◇◇◇

 

 

 四限目の授業は魔法実技の実習だった。今日の課題は小さな台車を三往復させるという単純なもの。

 教員がいない二科生の授業では必然的に、既に課題をクリアしている生徒たちはお喋りに興じるようになる。

 

「達也、生徒会室での話はどうだったんだ?」

「何だか奇妙な話をされた」

「奇妙って?」

「いきなり風紀委員になれ、だと。いきなり何なんだろうな、あれは」

 

 達也は首を傾げていたが、一緒にいたエリカは違うようだ。

 

「あの女は面白そうってだけで言ってるだけよ。気にしない方がいいわ」

 

 生徒会室にいたときからそうだったが、エリカは摩利のことが嫌いなようだ。

 

「そうだな、断ったことだし気にしないことにするよ」

「なんだ、断っちまったのかよ。達也が一科の連中を取り締まるの見たかったぜ」

「馬鹿言うな、俺は実技が苦手なんだぞ?」

「でも、達也さんなら魔法を使わなくても取り締まれそうですよ?」

「昨日の蹴り、凄かったもんな」

 

 昨日の一件でストレスが溜まっているのだろう、二人はどうやら達也が一科生を取り締まる様子を思い浮かべているようだ。あまり期待されても困るので、達也は早めにこの話を切り上げに掛かった。

 

「エリカ、お礼に奢る約束だが、今日の放課後はどうだ」

「おっ、いいじゃない。美月も一緒に行かない?」

「いいけど、昨日も行ったのに今日も行くの?」

「お前って、ホント色気より食い気だよな」

「じゃああんたは来なくていいわよ」

「なっ、別に行かねえとは言ってねえだろ!」

「来るんだったら文句言うんじゃないわよ!」

「何だと!」

「何よ!」

「だから! 二人共喧嘩は駄目ですよ!」

 

 なぜカフェに行く話からこうも揉めることができるのか、呆れを通り越してもはや感心してくる。美月はそんな喧嘩コンビを必死に諫めている。

 達也はそんな三人の様子を、いつも通り苦笑いを浮かべながら見ていたのだった。

 

 

 

 

 その日の夜、真夜から電話があった。

 

『達也さん、ブランシュの件なのだけれど、計画の目的と手段が分かりました』

「さすがですね」

 

 入学式から僅か三日しか経っていない。にも拘わらず、ブランシュの計画を暴いた情報網を素直に称賛した。

 

『ふふ、嬉しいこと言ってくれますね。それで、ブランシュの目的は魔法科高校にある非公開文献を奪うこと、手段は一高に大掛かりな襲撃をかけるそうです』

「大掛かりな襲撃とは、具体的にはどのようなものでしょうか」

『それはまだ分かりません。ですが一高内にマインド・コントロールを受けた生徒が多数いるそうです。詳細が分かり次第、再度連絡します』

 

 ここまでで真剣な話は終わりなのだろう、真夜の雰囲気が一気に弛緩した。

 

『それにしても達也さん、深雪さんとは話していないそうね』

「ええ、ボロを出すわけにもいきませんし。なにより深雪が俺のことを嫌っていますからね」

『それは構わないのだけれど、水波ちゃんとは偶には話してあげてね。あの子は達也さんのことを慕っているのですから』

「分かりました、機会があれば話したいと思います」

 

 達也も水波のことは嫌っていない。本家では一緒に訓練を受けたこともあり、仲間意識さえある。機会があれば話したいというのは達也の本音だ。

 

『それならよかったわ。それじゃあ今日のところはこれくらいで失礼するわね』

「はい。ありがとうございます」

 

 真夜は達也が頭を下げたのを見て、通信を切った。

 

 

 

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