ガーディアン解任   作:slo-pe

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横浜騒乱編14

 

 

 二手に分かれた第一高校警戒チームで、ここにいるのは四人。幹比古、エリカ、レオ、そして摩利だ。

 

「来た」

 

 そして、最初に敵の接近に気付いたのは幹比古だった。

 

「直立戦車……いや。さっきとは違う。随分、人間的な動きだ」

「人間的?」

 

 幹比古の言葉に、何故か鼓膜保護用の耳当てを付けているエリカが首を傾げる。(今は会話に支障が無いようにずらしている)

 

「もうすぐ見える……あんまり足止めはできなそうだ、三人ともお願いします」

 

 幹比古はそう言って、一枚の呪符を地面に張り付けた。

 

「おうよ」「分かってるわよ」「ああ」

 

 三人の声と共に、ビルの陰から四輌の直立戦車が姿を現した。

 無限軌道を備えた短い脚部。前後に長い胴体部。そこまでは通常の直立戦車と同じだったが、右手にチェーンソー、左手に火薬式の杭打ち機を取りつけた腕、右肩に榴弾砲、左肩に重機関銃。まさしく戦闘用ロボットだった。

 その禍々しいフォルムを視界に入れた直後、幹比古が発動した魔法が直立戦車を襲った。

 

『空転』

地面と接触する物体の電子分布を操作することでクーロン力を斥力に偏倚させ、摩擦力を減少させる魔法。

 

 直立戦車のスピードが先ほどの四割程度になった。無限軌道の回転速度が落ちたのではなく、空回りを始めたのだ。

 

 そして、続けざまに摩利の魔法が発動した。

 

凍火(フリーズ・フレイム)

一定以上の熱量の増加を妨げる魔法。

 

 火薬の燃焼を伴う銃器は、この魔法の前には意味を成さない。

 しかし摩利の魔法力では、目の前の銃器全てを沈黙させるのは数秒が限度。

 

 たかが数秒。されど数秒である。

 

 レオが両手を頭上に構えた。その手に握られているのは、日本刀を模したCAD──達也がレオに与えた『村雨』だ。

 上段の構えから袈裟切り、切り上げと続け、唐竹割に『村雨』を振るったレオ。その数瞬後、直立戦車右肩の榴弾砲と左肩の重機関銃が切り落とされ、中央の操縦席が真っ二つに割れた。

 

『一気通貫』

刀身に沿って硬化された領域を作り、斬撃として飛ばす魔法。

 

 この硬化された領域は、進行方向にある物質を『押し退ける』ようにして進んでいく。そして、その強さは硬化魔法の強度に依存する。

 戦車ほどの物体を真っ二つにするには、非常に強度の高い硬化魔法が必要だ。つまり、硬化魔法の強度に絶対の自信を持つレオにしか扱えない、レオだけの魔法だ。

 

 スタートはレオに一歩遅れたが、獲物を仕留めたのはエリカの方が早かったかもしれない。

 耳当ての位置を直すと、左腕で抱くようにして立てていた大太刀の柄を掴み、鯉口を切る。鞘から柄へ左手を移動させると同時に、鞘を峰側に蝶番にパカッと開いて、長大な刀身が露わになった。

 

 エリカが全長百八十センチの愛刀を、肩に担ぐようにして持ち上げる。

 

 直後、エリカの姿が消え、破砕音が轟いた。

 

 大太刀を地面まで振り下ろした姿勢のエリカ。レオとは正反対に、鈍い断面で前面装甲を唐竹割に断ち切られ、叩きつけられたように倒れている直立戦車。機械油に混じって刀身を濡らす赤い液体は、間違いなく、操縦者の鮮血だ。

 

加重系・慣性制御魔法『山津波』。

自分と刀に掛かる慣性を極小化して敵に高速接近し、インパクトの瞬間、消していた慣性を上乗せして刀身の慣性を増幅し対象物に叩きつける秘剣。この偽りの質量は助走が長ければ長いほど増大し、最大で十トンに及ぶ。

 

 エリカとレオで無力化した直立戦車は二輌。残っていた二輌はゆったりとした動きで進んでいたが、突然不安定な軌道を描き始めた。

 

連鎖震動(チェイン・ウェイブ)

ある一点を基点として、周囲に大小様々な振動波を連続発生させる魔法。

 

 元々機械部隊を苦手としていた摩利が、自身の戦術の幅を広げるために達也と相談し、練習を重ねたもの。

 摩利の干渉力では戦車を破砕することはできない。だが、その中にいる人間は別だ。連続する振動波により三半規管を完全に狂わされ、片方の操縦士は昏倒し、残りの一人もほとんど動けない状態だった。

 

 操縦者がまともに動けない戦車など、ただの大きな的でしかなく、それぞれレオとエリカ繰り出した斬撃によって崩れ落ちた。

 

 

 

「とりあえずこれで一段落かな」

 

 幹比古が呪符を目の前に掲げながらほぅと息を吐いた。

 

「エリカもレオもお疲れ様。渡辺先輩もありがとうございます、銃が無いだけで魔法に集中できました」

「あたしの方こそ助かったよ。むしろあそこまでスピードを落としてくれたんだ、きちんと当てなきゃ面目が立たん」

 

 そう言って摩利はカラカラと笑う。

 

「でもあんた、確か機械部隊を相手にするの苦手じゃなかったっけ?」

「苦手だぞ。あたしの魔法力じゃ、エリカや西城みたいに戦車ごと叩き潰すなんて芸当はできないからな」

「ですが、確か先輩は機械破壊の方法を探していたと思うのですが。北山さんの『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』を参考にしていたのもそうですし……」

 

 幹比古の問いかけに、摩利は小さく肩を竦めた。

 

「それがだな……達也くんに相談したときに、『わざわざ機械を壊すことに拘る必要はない。それよりも中にいる操縦士を無力化した方が手っ取り早い』と返されてな。何だかんだ諦めきれなかったんだが、あそこまで言われると吹っ切れたな」

 

 手っ取り早いとはいかにも達也らしいセリフだと、エリカたち三人は苦笑を浮かべた。

 

「それにしてもレオ……ほんとよくそれを振り回せるわね。怖くないの?」

「そうか? 使いやすいと思うぜ?」

「それはあんただからよ」

 

 心底不思議そうに首を傾げるレオに対して、エリカは呆れた表情を隠していない。

 

『村雨』において、レオが行うのはたったの三つの行程のみ。

 一つ目は、刀に沿って硬化領域を作ること。

 二つ目は、持続時間を決めること。

 そして三つ目は、硬化領域を刀から飛ばすこと。

 

 一見簡単そうに見えるこの武器だが、初めてその仕様を聞いたとき、エリカは耳を疑った。

 まず前提からおかしい。通常この手の魔法は事故を防ぐために目標の座標を設定して魔法を飛ばす。ただ、『一気通貫』は距離ではなく、発動してから消滅するまでの時間を設定するのだ。

 当然長ければ想定外の被害が出る可能性があるし、短ければそもそも相手に届かない。レオが苦手な座標設定が不要になったとはいえ、デメリットが大きすぎる──ただ、レオの持つ野生の勘とも言うべき本能によって、この問題はあっさりと解決してしまった。

 

 それに、斬撃を飛ばす際に頼りになるのが、これまた使用者の感覚である。魔法による補助があるとはいえ、撃つことを前提とした銃火器とは難易度がまるで違う。

 レオの魔法特性にマッチした武器というのに偽りはなかったが、一歩間違えればフレンドリーファイアもあり得る中々に凶悪な武器であった。

 レオも今でこそ使いこなせているが、練習の時はミスが多く、達也の『術式解体』が無ければあの地下室はボロボロにされていただろう。

 正直な話、エリカは頼まれても使いたくない。レオのような人並み外れた度胸と思い切りが無ければ使おうとすら思わないだろう。

 

「きっと達也くんはあんたが脳筋ってことも考えてそれを作ったのね」

「なんだとこら」

「あんた初日からバンバン撃ちまくってたけど、頭おかしいんじゃないのって本気で思ったわよ」

「ミスっても達也がなんとかしてくれるじゃねえか」

「だとしてもよ」

「話してるところ悪いけど……来たよ」

 

 呪符を構えた幹比古の声が真剣さを帯びた。それに呼応するように、エリカたち三人も戦闘態勢を取る。

 

「それじゃあ三人とも、頼んだよ」

 

 幹比古がそう言ったのと同時に、先ほどと同式の直立戦車が現れ、幹比古の魔法が発動した。

 

 

 

 

 エリカたちとは別の迎撃チーム、寿和を含む二年生チームも、直立戦車との戦闘に突入していた。

 五十里が予め地下に張った『陣』が索敵という作用を及ぼしており、幹比古が誰よりも先に敵を見つけたように、五十里は誰よりも先に敵の接近に気づいていた。

 

「来たよ」

 

 出現したのは、二輌の機体。五十里の声に、花音が起動式を展開する。

 舗装された路面が細かく砕けた砂になり、細かく振動する地面から水が滲み出て水溜まりを作る。予め五十里の魔法によって、地下三メートルの地層に振動を遮断する壁を作られていた為、地面を媒体とする花音の魔法が使用可能になっていた。

 

 直立戦車の足が地面に沈む。

 

『振動地雷』

千代田家の魔法 『地雷原』のバリエーションの一つ。地面を液状化して路面を直立戦車の足をくわえ込んだまま凝固させることで、敵の足を止める魔法。

 

 立往生した直立戦車の左右に、寿和と桐原が姿を見せた。空中から襲い掛かる寿和。

 

秘剣『斬鉄』。

刀を「刀」という単一概念の存在として定義し、魔法式で設定した斬撃線に沿って動かす移動系統魔法。

 

 雷丸を以って『斬鉄』を発動した場合、刀だけでなく剣士も魔法の対象に含まれる。刀が単一概念で定義されると共に、「刀を振るう剣士」が集合概念として定義され、わずかなブレもない高速の襲撃、高速の斬撃が可能となる。

 何千、何万、何十万回という素振りと型稽古により全身に斬撃動作をすり込ませてはじめて可能となる技。人知れず愚直に型稽古を繰り返した結果、彼は雷丸による斬鉄、「迅雷斬鉄」を会得した。

 

 一方、桐原は直立戦車の銃口を向けられたが、銃弾が桐原に放たれることは無かった。 桐原の背後から飛来した小太刀が、機銃に突き刺さり直立戦車の腕をもぎ取ったのだ。

 桐原の斜め後ろに立つ紗耶香が、もう一本小太刀を投げた。榴弾砲が同じ様にもぎ取られる。二本の小太刀が放物線を描いて紗耶香の元に戻る。

 

投剣術。

学校では剣道部に所属する紗耶香だが、彼女の父親は剣術で実戦に臨んだ魔法師。家では剣術の技も手解きを受けていた。

その中で彼女が最も得意とする技がこの投剣術。手裏剣やスローイングダガーではなく、小太刀、脇差しを投げつける技。投げた直後の隙が大きすぎる為、素早い相手には使えないが、今回のように大きく動きが鈍い的なら最大限の効果を発揮する。

 

 火器が無力化されたのを見て、桐原は最後の一歩を踏み込んだ。頭上から振り下ろされるチェンソーの軌道を見切り、自然に身体をスライドさせながら、桐原は『高周波ブレード』で直立戦車の左脚を両断した。

 のし掛かるように倒れ込んでくる直立戦車を、桐原は後退しながら杭打ち機を根元から切り落とし、側面に回って刀身を操縦席に突き込んだ。

 手に伝わる、肉を貫く感触。桐原はわずかに顔を歪めて刃を引き、大きく跳び退って転倒した直立戦車から距離を取った。

 

 

 

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