ガーディアン解任   作:slo-pe

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横浜騒乱編16

 

 

 沿岸部からの脱出を果たしたヘリは穏やかな雰囲気に包まれていたが、美月が突然発した「あっ!?」という声によって、それは破られた。

 

「美月、どうしたの?」

 

 真っ先に反応したのは隣にいるエリカだ。

 

「えっと、ベイヒルズタワーの辺りで危ないオーラが見えたような気がして……」

 

 美月はヘリに乗ってから断続的に眼鏡を外して地上を見ている。見る事しか出来ないからという理由で見張り役を自発的に務めていたのだが、今はそれが功を奏した。

 

「危ない?」

 

 エリカが美月に問い掛ける傍ら、幹比古は懐から呪符を取り出し目前にかざした。既に小さく見えるベイヒルズタワーを呪符越しに見た幹比古は驚愕の声を上げた。

 

「敵襲!?」

「確かなの?」

「でも敵は義勇軍が押し返してるはずよ」

 

 エリカと花音が続けざまに問い掛け、幹比古はエリカの質問に首肯し、花音の反問に首を振った。

 

「少人数による奇襲です。協会の職員が押されています。戻りましょう、協会が危ない」

 

 最後の言葉は真由美に向けたもの。真由美は瞳に迷いを浮かべて摩利と顔を見合わせていたが、そこへ副操縦席の名倉から声が掛った。

 

「真由美お嬢様、魔法協会より十師族共通回線へ緊急通信が入っております」

「貸してください!」

 

 真由美は奪い取るように通信機を受け取り耳に当てた。そこから聞こえてきたのは幹比古が告げた通りの緊急事態だった。

 真由美は迷っていたのが嘘のように迅速に決断をした。

 

「名倉さん、協会にヘリを向けて!」

 

 答えを待たずに真由美は自分で通信機を操作した。回線はすぐに繋がった。

 

『七草、如何した?』

「十文字君、協会支部には私たちが行くわ。すぐにヘリで引き返すからそんなに時間は掛からないわ。十文字君は敵部隊の撃退に専念して」

『頼む』

「任せて」

 

 通信が切れた時には、既にヘリは転進していた。

 

 小さく見えていたベイヒルズタワーが段々と近づいてくる。誰もが再び戦場へ望む心構えを整えていたところ、

 

「へっ!?」

 

 突然エリカがすっとんきょうな声を上げた。

 

 

 

 

 達也が柳率いる前線部隊と合流後、ムーバルスーツの機動性を最大限生かし、敵戦力を蹂躙していた頃、念のため『視て』いたヘリの異変を感知した。

 

(突然進行方向を変えた?わざわざ沿岸部に戻るとは……この方向にあるのは、魔法協会支部か)

 

 気になって『精霊の眼』で確認したところ、協会支部が奇襲を受けている様子が視えた。

 これはまずいと思い、無線で風間へと個別通信を入れた。

 

『大黒特尉、何があった』

「約二十名の兵士により魔法協会支部が背後から奇襲を仕掛けられています」

『……戦況はどうなっている』

「協会の職員と思われる魔法師が応戦していますが、敵はかなりの精鋭です。状況は芳しくありません」

『この状況になっても魔法協会支部に保管された機密データを狙っているということか』

 

 風間はしばし沈黙した後、再度口を開いた。

 

『実のところ、陳祥山の姿が発見できていない』

「陳祥山ですか?」

『ああ、奴はスパイ実働部隊の隊長だ。状況から察するに、おそらくこの襲撃、もしくはその裏で協会支部に潜り込むつもりなのだろう』

「なるほど……」

 

 達也は頭の中で状況を整理する。

 現状、直立戦車を含む残存兵力の多くがここに集結している。達也がここを離れることはできない。

 そもそも論として、陳を捕らえるためには風間クラスの精神干渉魔法に対する耐性が必要であり、達也では荷が重い。魔法協会にもそんな人材はそうそういないだろう。

 

 となると、現時点で打てる最善手は──

 

 

 

 

「へっ!?」

 

 突然すっとんきょうな声を上げたエリカに対して、隣にいた美月が訊ねる。

 

「エリカちゃん、どうかしたの?」

「あ、うん……なんか今、達也くんの声が聞こえたような気がしたんだけど……」

「達也さんの?」

「うん。気のせいだとは思うんだけど……あ、ちょっと待って」

 

 エリカは俯いて右耳に手を当てた。美月は首を傾げながらも、エリカの言う通りに静かに待つことにした。

 

「あ、やっぱりこれ達也くんよね? 聞こえてるわよ…………えっ、今? ちょっと待ってて、聞いてみるわ」

 

 エリカは顔を上げると、真由美へと視線を向けた。

 

「七草先輩、すみません。達也くんから話があるみたいなんですけど、今大丈夫ですか?」

「え、ええ……大丈夫よ」

「ありがとうございます。達也くん大丈夫だって」

 

 エリカが虚空に向けてそう告げると、どこからともなく声が聞こえ出した。

 

『助かったよ、エリカ。先輩方もいきなりすみません、大至急お願いしたいことがありまして……』

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 達也のセリフを遮ったのは花音だった。

 

「この魔法は何!? 司波君は今どこにいるの!?」

『場所は港の近くで、これはただの振動系魔法ですよ。それよりも今は時間が無いので、用件だけ伝えます』

 

 達也はさらりと流したが、この魔法は断じて"ただの(・・・)振動系魔法ではない。

 

 魔法には物理的距離は無関係。

 これは魔法師にとっては常識ともいえる大原則だが、当然のことながら、距離が離れれば離れるほど照準が難しくなる。ここから離れた港にいながら、目視できないヘリの中にピンポイントで魔法を発動させ、その音を拾い会話を成立させることなど普通はできない。少なくとも、ここにいる誰にもできない。

 ここにいる面々は、少なからず達也の非常識っぷりに慣れてきたつもりだったが、それがつもりだと改めて実感した。

 

『ご存じかと思いますが、横浜ベイヒルズタワーが敵部隊によって襲撃を受けています』

 

 その所為もあり、『ご存じかと思いますが』というセリフの違和感に気付く者は誰もいなかった。

 

『協会に残った魔法師が応戦していますが、その部隊は敵の精鋭が揃っており、状況は芳しくありません。まずはそこに向かってほしいのですが』

「今から向かうつもりだったけど、まずってことはまだあるんでしょ?」

『ああ、おそらくだがこの襲撃には裏がある』

 

 達也は自身と風間による推測を端的に説明した。

 正面の奇襲部隊とは別に、魔法協会支部に保管された機密データを狙っている者がいること。『鬼門遁甲』という、方位を狂わせる精神干渉魔法が使われる可能性が高いこと。

 

「なるほどね。それで、あたしたちにしてほしいことってなに?」

 

 エリカは相槌と共にそう訊ねた。躊躇するような短い沈黙の後、達也の声が返ってきた。

 

「その術者を見つける役目だが……美月にやってほしいんだ」

「えっ、私ですか!?」

 

 突然指名された美月が驚きの声を上げる。それも当然のことで、美月は完全な非戦闘員であり、一度も前線には出ていない。それは達也もよくわかっているはずだ。

 

「美月の『眼』なら『見えないことにされている』術者を見つけることができるはずだ」

「ですが……」

「もちろん危険なことは承知しているし、見抜けるという確証もない。それでも頼まれてくれないか?」

 

 達也が初めて示す懇願に、美月だけでなくその場にいた全員が息を呑んだ。

 何の裏付けも無く、ただ「やってくれ」と頼むのは一種の他力本願とも言えるだろう。しかしこれは、相手に対する信頼が無いと出来ない事だ。少なくとも美月はそう感じた。

 

「……わかりました」

 

 侵入者を捕らえるためにはその術を破る必要があり、その為に自分の力が必要なのだと。達也の寄せる信頼に、美月の瞳に強い覚悟が宿った。

 

「必ず、やり遂げてみせます」

 

 

 

 

 陳の部隊による奇襲は、完全に日本側の意表をついていた。少人数の部隊による奇襲がではなく、これほどの精鋭を温存していたことが。

 

 海側から侵攻してきた大亜連合(と推定される)軍は、今や完全な劣勢に陥っている。

 山手方面の部隊は克人の指揮する義勇軍によって敗走し、関内方面は将輝によって同じく敗走していた。山下町方面では漆黒の飛行兵団により壊滅状態に陥っている。兵力を温存している余裕など無いはずだった。

 だが実際には、少人数の精鋭部隊により襲撃を受けている。部隊規模は小隊未満だが、一人一人の戦闘力が極めて高い。装甲車の機銃掃射に対抗しつつ、何重にも築かれたバリケードを少しずつ突破して丘を登ってくる。

 

 その様子はヘリポートに着陸した真由美たちからも見えた。

 

「真由美、どう人員を分ける?」

「そうね…」

 

 真由美は全員の顔を見渡してすぐに結論を出した。

 

「エリカちゃんたちは達也くんからのお願いに専念できるかしら?」

 

 達也からの依頼を完遂するのに必要な人材がいることに加え、それを最も意欲的にこなせるのは一年生、そう思っての配置だ。

 視線を向けた四人からも、当然とばかりに了承が返ってきた。

 

「五十里くんに花音ちゃん、桐原くんと壬生さんの四人は協会職員の救護に加わって」

 

 この配置は先ほど怪我をした花音と、その婚約者である五十里、そして銃撃戦に不向きの二人に配慮したものであることは明らかだった。

 ある意味では戦力外通告とも言える配置に、四人とも強情を張らずにこれを受け入れた。

 

 そう言って真由美は、残った二人へと視線を移す。

 

「最後に摩利とはんぞーくんだけど…」

「ああ、あたしたちは敵兵を叩きに行く。服部、お前にも手伝ってもらうぞ」

「分かりました」

 

 摩利は不敵に笑い、服部も力強く頷いた。

 

 

◇◇◇

 

 

 バリケードの一角として並べられた装甲車を次々と突破してくる四人の敵兵に、突如無数の白い弾丸が降り注いだ。言うまでもなく真由美の魔法だ。

 しかし、敵兵にダメージはなかった。生体波動の防壁『鋼気功』の鎧がドライアイスの弾を弾き返した。

 

(呂剛虎ほどではないが、生半可な攻撃では通じないか)

 

 摩利は冷静にそう分析していると、服部の魔法により周囲のバリケードが浮かび上がり、次々と敵兵に襲い掛かった。

 そのうち一人は全身を覆う『鋼気功』を強化し、その豪腕で迎え撃ちながら直進してくる。おそらくこの男がリーダー格なのだろう、他の三人とは明らかに動きの質が違う。

 残りの三人は右に左に躱しつつ、こちらへと向かってくる。

 

 突出してきた敵兵に対して、摩利は協会から借りた三節刀で迎え撃つ。迫りくる豪腕を的確に打ち落としつつ、カウンターを仕掛ける。

 本来の実力差なら一方的になるはずの戦闘だったが、摩利はその敵兵相手に互角に撃ち合っていた。

 

『気流操作』

 

 敵兵がここに来るまでの進路上に、摩利は錯乱効果のある香水を漂わせていた。

 このレベルの腕利き相手では、ほんの十秒程度多少動きが鈍くなるくらいの効果しかないが、今はそれだけで十分だった。

 

 追い付いてきた三人の敵兵が摩利に襲い掛かろうとする。その頭上から、拳大まで威力を高められた白い弾丸が降り注ぐ。

 敵兵もそれに気づいたが、さすがに受けきれないと判断したのか、攻撃を取り止めそれぞれ左右に身を翻して──次の瞬間、敵兵全員が地に伏せた。

 

 急激に増加した重力が敵にダメージを与えたのだとはっきりと分かる。その光景に、摩利は思わず笑みを浮かべた。

 

 今の魔法は真由美の『魔弾の射手』の発動と同時に組み上げられたもの。

 敵が左右に散って避けると予測して、魔法の作用領域を設定していたのだ。常に敵の一手先を読み取る鋭さと、それを可能にする魔法の制御。

 

「さすがは『ジェネラル』というべきか……相変わらず器用だな」

 

 本人が嫌うのは分かり切った事なので、服部自身の耳には決して入らぬように陰でこっそり囁かれている二つ名を、摩利は呟いた。

 

『GENERAL』

 

 形容詞としては「専門的ではなく一般的な」「普通の」「世間一般の」など、どちらかと言えば消極的なイメージも付き纏う言葉だ。

 例えば『ゼネラリスト』といえば、「分野を限定しない広範囲な知識・技術・経験を持つ人」という本来の意味を離れて「スペシャリストになれない何でも屋」というような、揶揄するニュアンスで使われることの方が多い。

 しかしCADの使用を前提とする現代魔法は、元々「一人で何でもこなせる万能型の兵士」を想定して開発された技術だ。「専門的でない」のは「専門分野に縛られない」、即ち「何でも出来る」という事。これぞまさしく現代魔法が目指した姿だった。

 

 自分や真由美、克人がいる一学年上の世代、服部のいる同学年の世代、達也や深雪がいる一学年下の世代を通して見ても、現代魔法の教育方針を最も忠実に実現している魔法師は服部だろう。

 摩利も確かに魔法のバリエーションは豊富だが、対人戦にめっぽう強いその一方で、機械化部隊は苦手にしている。だが服部にはそれが無い。

 彼が本来得意とするフィールドは中・遠距離の集団戦だが、狙撃戦も白兵戦も高レベルでこなすことが出来る。白兵戦専門の桐原が、服部に格闘訓練でなかなか勝てないというレベルでだ。

 

 それともう一つの意味が『ジェネラル』の二つ名にはある。

 服部は『数字付き(ナンバーズ)』ではなく、古式魔法の名門というわけでもない。苗字は同じだが『忍術』の名門・服部家とは無関係。百家の一つであり家系こそ古いが、魔法界では非主流派だ。

 それでいて『数字付き』と対等以上に渡り合う服部は、桐原や沢木のような数字を持たない同級生から将来のリーダー『将軍(ジェネラル)』と期待されているのだ。

 

 服部や摩利には見えなかっただろうが、後方で真由美の唇がかすかに動いていた。

 もしかしたら彼女も摩利と同じように、服部の本人が知らない二つ名を呟いていたのかもしれない。普段はオモチャとして遊んでいる真由美ではあるが、服部の能力の高さはよく知っている。

 

 加重から抜け出せたのは、リーダー格の敵兵ただ一人。他の三人は地に伏せたままだ。その隙を摩利が見逃すはずもなかった。

 地を蹴って敵に襲いかかり、左手に構えた三節刀を打ち込み、続けざま三人を無力化した。

 

 ただ一人残った敵兵の殺意が、摩利へと向けられる。

 その目が、突如頭上から襲い掛かる白い塊を捉えた。

 

 子供の拳大の、目に見える速度で(・・・・・・・・)落下するドライアイス。敵兵は加重のダメージの残る足で回避するより、強化した拳で迎え撃つことを選択した。

 その拳と接触する直前、ドライアイスの塊は二酸化炭素へ戻った。気化膨張による衝撃波が敵兵に襲い掛かり、高濃度の二酸化炭素が気道を通ってその肺に到達する。

 

『ドライミーティア』

二酸化炭素の収束、凝結、加速、昇華の四工程からなる魔法。衝撃波と二酸化炭素中毒で敵を行動不能にする術式。対人戦闘における真由美の切り札だ。

 

 四人全員の意識が失われたことを確認して、摩利は服部へと声をかけた。

 

「さすがだな服部、助かったぞ」

「いえ、俺が何もしなくても先輩方なら問題なく勝てていたでしょう」

「そうかもしれんが、安全に越したことはない。お前の魔法でいち早くカタがついたんだ、素直に受け取っておけ」

 

 真っ正面からの賛辞に、服部の方が照れくさくなってしまいそっぽを向いた。だが視線を逸らした先には、ニコニコと笑う真由美の姿があった。

 

「んんっ。それよりも、残りの敵を片付けにいきましょう」

「あははっ、そうだな」

 

 後輩の下手すぎる誤魔化しに笑いを堪えつつ、摩利は未だ戦闘が続く集団へと駆けるのだった。

 

 

 

 

 陳祥山は魔法協会支部へ通じる廊下を、足音を忍ばせるでもなく普通に歩いていた。だというのに誰にも咎められないのは、彼の部下が囮となって警戒の目を集めているからだった。

 それに加えて、陳自身が発動している秘術の効果もあった。

 

『鬼門遁甲』。

術者の望む方向へ人々の認識を誘導する、方位に特化した精神干渉の呪法。

 

 方位を狂わされた人間は、目標へ辿り着くことができない。目標の場所へ進んでいるつもりでも同じ所をグルグル回ってしまい、自分がどの方向へ進んでいるのか、今自分はどの方角を向いているのか、わからなくなってしまう。

 意識の向かう行き先をねじ曲げる鬼門遁甲と部下の働きにより、陳は易々と魔法協会支部へ到着した。

 

 ドアには鍵が掛かっているが、これは予想済みであり、陳は慌てずカードキーのパネルに懐から取り出した端末を押し付けた。物理的な接触により、開錠用に調節した電子金蚕が鍵システムに取り憑く。

 鍵が壊れて警報が鳴り響いたが、職員が戻ってくるまでには十分な時間がある。陳は気にすることも無く協会支部に足を踏み入れた──その瞬間、陳の四肢が不可視の何かによって壁に縫い付けられた。

 何事かと思い周囲を確認すると、足元には一枚の呪符が張られていた。そして目を凝らすと、高密度に収束された空気の渦が陳の手足を壁に固定しているのがわかった。

 

「これが鬼門遁甲かぁ。確かに厄介ね」

 

 場にそぐわない呑気な声が陳の耳に染み込む。拘束されていない首を動かし、声の放たれた方へ向ける。

 そこには、赤毛の快活そうな美少女がにこやかな笑みを浮かべていた。

 

「千葉エリカ……」

「あれ? あたしのこと知ってるんだ。じゃあ、あいつのことも知ってたりする?」

 

 エリカが顎で示した方向には、大柄な男が日本刀を肩に担いでいた。

 

「西城レオンハルト、だったか……」

「やっぱ知ってんのか。それじゃあ美月が監視されてるっつってたのはこいつらのことか」

「何故ここにいる?  私の術が通じなかったのか……?」

「言われてたのよ。方位に気を付けろって……まあ正直あたしには無理だったんだけど、こっちには見えないものが見える娘がいたからね。術によって見えないことにされているあんたのことも見えたってわけよ」

 

『見えないものが見える娘』というのはもちろん美月のことである。

 美月がタイミングを計り、予め幹比古が設置していた呪符で陳を捕縛するという方針だった。エリカとレオの役目は、捕縛した後の無力化である。

 

 そんな彼女たちの事情まで知る由もない陳は、袖に仕込んでいた小型拳銃を取り出そうとして──即座に叩き落とされた。

 痛みに顔をしかめつつ眼前の少女を見る。いつの間に取り出したのか、その右手には警棒が握られており、陳の眼前に突き付けられていた。

 

「変な抵抗はやめなさい、あんたを捕まえるのがあたしたちの役目なの。達也くんが初めて頼ってくれたんだもの、失敗なんてしてられないんだから」

 

 エリカはそう告げると、陳に突き付けていた警棒をその首筋に打ち込むよう構えた。

 

「それじゃあね、おやすみなさい」

 

 視界に写る銀閃を最後に、陳の意識は闇に閉ざされた。

 

 

 

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