ガーディアン解任   作:slo-pe

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入学編6

 

 

 闘技場での騒動の後、達也は部活連本部に呼ばれていた。『高周波ブレード』という殺傷性の高い魔法についての案件だったので、事情聴取を受けていたのだ。

 

「──以上が事件の顛末です。とはいっても、俺が知っているのは途中からなので、争いの原因は不明です」

「なるほど。達也くん、改めてあたしから感謝する。達也くんが止めてくれなかったら大事になっていたかもしれん」

 

 達也は摩利が先ほどの騒動を収める様子を目撃している。

 一科生の多い剣術部と、二科生の多い剣道部、どちらかに肩入れすることなくその場を収める姿に、摩利の評価は持ち直していた。というか、見逃し事件は摩利が率先したわけではないのだろうと判断した。

 

「いえ、危ないところでしたので、何事もなくてよかったです」

「謙遜だな。それで、本当に魔法を使ったのは桐原だけなんだな?」

「はい。二人ほど発動しようとした部員がいましたが、発動前に気絶させたので魔法の使用はしていません」

 

 それもあって摩利への態度は軟化している。ただその分、摩利を抑えてまであの場の放置を選んだ、真由美の評価はドン底を更新している。

 

「それにしても、十人以上を相手にしてよく無事だったわね、三人は魔法も使っていたのに」

「いえ」

 

 摩利もそれを分かっているのか、真由美に対する達也の素っ気ない返事を聞いて、すぐに本題に戻った。

 

「十文字。達也くんもこう言っているし、風紀委員会としては桐原を追訴するつもりは無い」

 

 部活連会頭、十文字克人。

 分厚い胸板に広い肩幅、制服越しでもわかる隆起した筋肉。肉体だけじゃなく、彼を構成する全ての要素が、存在感の密度が桁外れに濃く感じられた。

 

(まるで巌のような人だな)

 

「寛大な決定に感謝する。本来ならば停学処分も免れないのだ、俺からもよく言い聞かせておく」

 

 そんなことを考えているうちに、摩利たちの間で話がまとまった。これで達也は退出できると考えたのだが、そうもいかないようだ。

 

「達也くん、少しいいか」

「何でしょうか」

「今回の件もあることだし、風紀委員をやってみないか。最悪、新歓期間だけでもいい」

「すみませんが、お断りします」

「……念のため、理由を聞いてもいいか?」

「先ほども剣術部員から二科生ということで反感を買いましたし、危険だと分かっている役職に就きたくはないので」

「そうか……」

 

 摩利の願いを断るのは忍びないが、今日の件もあるので面倒事は御免なのだ。摩利は諦めたようだったが、そこに真由美が可愛らしい口調で頼んでくる。

 

「そんなこと言わずに、お願いできないかしら?」

「できません」

 

 要請を断ることに対して、摩利には罪悪感を懐いても真由美には微塵も感じない。本日二度目の素っ気ない態度に真由美が撃沈する。ここで、克人が口を開いた。

 

「司波、なぜそこまでして拒絶する」

 

 達也はここで誤魔化すこともできたのだが、それも不義理かと思い、理由の一部を答えた。

 

「正直な話ですと、俺は七草会長を信用していません。なので、先ほどの理由を別にしても、同じ学校側の自治会に所属することはできません」

 

 入学二日目のことを言っているのだと正確に理解した二人は苦い顔をしているが、克人はそれを知らない。

 

「七草を? 何故だ」

「渡辺委員長、言ってもよろしいですか?」

 

 達也は摩利が頷いたのを確認してから、先日のイザコザについて説明した。

 

「そうか。わかった、今日のところはここまででいい。だがな司波、風紀委員就任は考えておいてくれ」

「わかりました、では失礼します」

 

 達也は一礼して、部活連本部を後にした。

 

 

 

 

 

「真由美、随分と余計なことをやってくれたな」

「それは本当にごめんなさい、ここまでになるとは思ってなかったのよ」

「七草、なぜ見逃したりなどしたんだ」

 

 達也がいなくなってすぐ、摩利は真由美に文句を言った。普段寡黙な克人も、今回ばかりは口を挿んだ。

 

「入学試験で、達也くんの筆記の点数がずば抜けていたのよ。だから、実技でも何か隠してる力があるんじゃないかと思ったのよ……」

「渡辺もその場にいたんだろう。何故すぐに出ていかなかったんだ」

「私が止めたのよ。最悪、対抗魔法で魔法の使用は止められるからって」

「まああたしも納得したから言い訳はしないが……真由美、達也くんの信用を取り戻すのは簡単じゃなさそうだぞ」

「分かってるわよ……」

 

 真由美も反省しているようなので、摩利もそれ以上の追求はしなかった。

 

「それにしても、殺傷ランクBの魔法を素手であしらうとはな」

「渡辺は司波の立ち回りを見たのか?」

「いや見ていない。だが桐原が『高周波ブレード』を使ったのは事実だ。それに達也くんは簡単に言っていたが、魔法発動前に気絶させるなんて尋常じゃないぞ」

「そうだな。だが、今回は何よりも大きな怪我人が出なかったことに感謝すべきだろう」

「そうだな。達也くんにも怪我がなかったようだし、それで良しとするか」

 

 言いたいことはまだあったのだが、二人はそれで会話を打ち切った。

 

 

◇◇◇

 

 

 部活連本部での報告を終えた達也は、昇降口の傍に見知った顔をみつけた。

 

「あっ、達也くんお疲れ~」

「お疲れ様です、達也さん」

「達也、大活躍だったそうじゃねえか!」

 

 あれからかなり時間が経っていたのだが、友人たちは達也の事を待ってくれていたようだ。

 

「すまんな、待っていてくれたのか」

「水臭いぜ、達也。ここは謝るところじゃねえよ」

「私はついさっき、クラブのオリエンテーションが終わったばかりですから」

「そうそう、コイツもさっきまで部活だったから気にしなくていいのよ」

「そうなんだが、オメェが言うな」

 

 達也は三者三様の心遣いにすぐ気づいたが、それを無にするようなことはしなかった。

 

「こんな時間だし、何か食べて帰らないか? 一人千円までなら奢るぞ」

「おっ! マジか!」

 

 達也の申し出にレオが喰い付いた。普段ならエリカも喰い付きそうなのだが、全員分となるとそこそこの値段になるし、何よりエリカは先日奢ってもらったばかりである。さすがに遠慮しているのだろう。

 

「いいじゃねえか、こういう時は気持ちよく奢られるもんだぜ」

「そうね……よし、それじゃあ行こう!」

「そうですね。達也さん、ありがとうございます」

 

 だが、レオの言葉で踏ん切りがついたのか、エリカと美月も乗り気になったようだ。達也はレオに小さく感謝を告げてから、先頭を行くエリカを追いかけた。

 

 

 

 

 入学式とは別のカフェで今日一日の体験談を話す。その中で最も関心を引いたのは、やはり達也の捕物劇だった。

 

「その桐原って二年生、殺傷ランクBの魔法を使ってたんだろ?よく怪我しなかったな」

「『高周波ブレード』は有効範囲の狭い魔法だからな。刃に触れられないだけで、良く切れる刀と対処は変わらないさ」

「でもそれって、真剣と同じってことですよね、危なくないんですか?」

 

 レオは手放しで感心しているだけだが、美月は心配そうに達也の事を見ている。

 

「大丈夫よ、美月。達也くんの動きを見たらそんな感想吹っ飛ぶから」

 

 だが、エリカはそれを不要だと一蹴した。

 

「えっと、どういうこと?」

「達也くんに一撃を入れるなんてムリムリ。桐原先輩程度じゃ何人集まっても敵わないわよ」

「でも『高周波ブレード』って確か、超音波を放っているんですよね?」

「耳栓無しだと酔っちまうって話だよな」

 

 エリカは自信満々な態度を崩さないが、美月はそれでも心配なようだ。それも当然だろう。達也は完全な素手だったが、相手は魔法を併用していたのだ。

 

「あのレベルまでいったら多少魔法が入っても変わらないわ。少なくともあの距離じゃ達也くんには敵わない」

 

 エリカも今度は真剣に答えた。その真剣さが達也の実力に向いていたのは、血が騒ぎ始めたからだろうか。そんなエリカの様子を不思議そうに見ていた美月も、とりあえずは安心したようだ。

 まあ、エリカはそんなことを気にせずにマイペースを貫いているのだが。

 

「ねえ達也くん。明日も一緒に回ってくれる?」

「俺は構わないが、おそらく今日よりも面倒なことになるぞ」

「面白そうだしいいじゃない」

 

 どうしようもない理由に達也はため息を吐くが、エリカはそれだけでは終わらなかった。

 

「それに、もしもの時は達也くんが守ってくれるでしょ」

 

 わざとらしい上目遣いにウィンクまで添えられている。絶妙に似合っているので反論もできず、達也はもう一度ため息を吐くのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 闘技場の騒動を処理した翌日。達也は昼休みに生徒会室を訪れていた。

 

「それで達也くん。話とはなんだ」

「今日の放課後から新歓期間の間の臨時ですが、条件付きで風紀委員を受けようかと思いまして」

「本当なの!?」

「ええ」

 

 真由美が身を乗り出してくるが、達也は一言答えただけですぐに摩利に視線を戻した。

 

「それで、条件とはなんだ?」

「新歓期間の間、俺と一年E組の千葉エリカが攻撃を受けた際に、反撃を許可していただくことです」

「もちろん風紀委員なら許可されるが……エリカもか?」

 

 どうやら摩利の方からも、エリカに対して何か抱えているようだ。

 

「はい。一緒に部活動を回る約束をしていまして、エリカなら反撃しかねないので」

 

 だが、それなりに付き合いは長いのだろう、この一言で摩利は納得の表情を浮かべた。

 

「ふむ、それならいいだろう。放課後、風紀委員本部に来てくれ、そこで詳しい説明をしよう」

「ありがとうございます」

 

 これで少しは安心できるだろう。達也はそう思って、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 放課後、達也は渋るエリカを引き連れて風紀委員本部に入り、あまりに雑然とした室内の様子に眉を顰めた。だが、そんなことを気にする間もなく怒声が掛かってきた。

 

「何故お前がここにいる!」

 

 達也はまたこいつと会うのかとうんざりした。隣でエリカも顔を顰めている。

 

「渡辺委員長に用があってな」

「なにぃ!」

「森崎、やかましい!」

 

 奥にいた摩利が一喝し、その場は収まった。

 

「二人は新歓期間の間、臨時の風紀委員として活動してもらうことになった。1−Eの司波達也と同じく1−Eの千葉エリカだ。二人一組という形ではあるが、今日からパトロールに加わってもらう」

「役に立つんですか?」

 

 この発言をした生徒だけでなく、風紀委員全員の目がエンブレムの無い制服に向けられている。二科生が役に立つのかと言っているのだ。摩利は呆れながらそれに答えた。

 

「昨日の闘技場での騒ぎを知っているだろう、あれを収めたのは司波だ。千葉についても、剣術の腕に関してはあたしより遥かに上だ。この二人に喧嘩を売って勝てるやつなどそうはいないさ」

 

 摩利の発言内容に一同は驚き、その威圧感に負けてその風紀委員は大人しくなった。

 

「他に質問のあるやつはいないか? ……よろしい、司波と千葉は残るように。その他の者は、出動!」

 

 摩利の合図で、その場の全員が右手の拳で左胸を叩く。おそらく敬礼か何かなのだろう、ゾロゾロと本部から見回りに出かけるメンバー。

 

「張り切り過ぎんなよ」

「分からないことがあれば何でも訊いてくれたまえ」

 

 その中に二人ほど好意的に話し掛けてきた人物がおり、達也たちは少し驚いてしまった。

 

「意外だろ? さっきの辰巳と沢木はこの学校には珍しく、一科、二科に囚われない奴らだ。この委員会には何人かそういったやつもいる。確かに優越感がゼロってわけじゃないが、きちんと実力の判断ができる奴らだ。二人にとって、悪くない雰囲気だろう?」

 

 確かに、初めこそ二人の制服に目がいっていたが、摩利の発言を聞いてからはその視線が消えた。彼らにとっては二科生だろうと実力のある奴ならば関係ないのだろう。

 もちろん何人かは制服へ視線を向け続けていたが、それは仕方のないことだろう。

 

「そうね」

「確かに気持ちのいい先輩たちでした」

 

 二人の気持ちが伝わったのか、摩利も少々声のトーンが上がっている。

 

「よし、それじゃあ仕事の説明を始めるか」

 

 その後、摩利から腕章と薄型のビデオレコーダーを渡され、通信用のコードを伝えられた。また、摩利も無理やり頼んだ意識はあるのか、緊急事態以外は自由行動を黙認すると暗に言ってくれた。

 

 

 

 

 だが、そんな摩利の気遣いもあまり意味はなかった。

 

「校門付近で揉め事ですか? 分かりました、すぐ向かいます」

 

 出動要請が来るのも度々で、今日だけでもう五件目だ。毎回達也の近くで問題が発生するので移動するのに苦労しないのだが、ここまで来ると狙っているとしか思えない。

 

「風紀委員です。そこの二人、今すぐ止めてください」

「え?」

 

 乱闘していた二人のうち、一人が展開中の魔法を達也の方に向かって発動した。簡単な『空気弾』だったので、達也はそのまま躱した。

 

「うわぁ、あれ躱すんだ」

 

 後ろから感嘆した声が聞こえたが、達也はそれを無視して乱闘騒ぎをしていた二人を捕らえようとする。

 

「イテェな、何処見てんだよ」

「すみません」

 

 明らかに向こうからぶつかってきたのだが、そんな事を証明出来るはずも無く達也は素直に相手に謝った。その所為で乱闘騒ぎをしていた二人には逃げられてしまう、はずだった。

 

「達也くん、二人捕まえたよ」

 

 だが、先ほど達也を称賛したエリカがいつの間にか二人を捕らえていた。

 

「助かったよエリカ。危うく逃げられるところだった」

「いいのいいの、あれわざとでしょ。二人いた方が効率良いって」

 

 まさかとは思ったが、やはり達也を狙った犯行だった。

 

「随分と目の敵にされてるんだな……」

「仕方ないって、昨日あれだけ暴れたんだから」

「暴れたのはむしろ向こうなんだがな。すまん、ちょっと待ってくれ……はい、分かりました。ただいま捕縛した生徒を送り次第すぐ向かいます。次だ、行くぞ」

「あは、やっぱり達也くんについてきて正解だったわ」

 

 エリカの呟きを無視して、達也は捕まえた二人の生徒をその場から運ぶのだった。

 

 

 

 

 新人勧誘週間も終わりに差し掛かっているにも拘わらず、達也は風紀委員の仕事で奔走していた。エリカは嬉々として警棒を振っているだけなので、仕事という意識がないようだ。

 

「……分かりました、すぐ向かいます」

 

 今日も達也が巡回している場所の近くで乱闘騒ぎが勃発した。だが、今回はその道中で問題が発生した。

 

想子(サイオン)光、狙いは俺を転ばせる為に地面を掘り返すものか……陰湿さが増してるな)

 

「エリカ、足元に気をつけろ」

「りょーかい」

 

 初めの方は直接攻撃だったのに、最近ではこうやって周りのものを使って攻撃してきたりするようになっている。二人はそれを躱して術者の方に向かうが、術者が木陰から猛スピードで逃げ出した。

 

「エリカ、待て」

「達也くん、なんで止めたの」

「後で説明する、今は先を急ぐぞ」

 

 今の襲撃者は二科生。一科生の逆恨みで襲ってきたわけではない。

 だが、襲撃者の腕にはトリコロールのリストバンドが巻かれていた。「エガリテ」のシンボルであるリストバンドを、達也はしっかりと見ていたのだった。

 

 

 

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