ガーディアン解任   作:slo-pe

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日常編17

 

 

 年末、二学期も終わりに近づいたある日の放課後。生徒会室には錚々たるメンバーが集まっていた。

 

 生徒会長の中条あずさに、生徒会会計の五十里啓。

 元・生徒会会計の市原鈴音。

 そして、一年生の司波達也。

 

 一高各学年の筆記試験トップクラスの生徒たちが話す議題と言えば──

 

「それではこれより、明日発売のシルバー・モデルの最新作についての話し合いを始めます」

 

 進行役の鈴音が宣言すると拍手が起きる。

 宣言の中にもあったように、話し合いの議題はシルバーの最新作。ただし、それは先日発売された飛行デバイスではない。

 周囲が静かになったのを確認し、鈴音があずさへと視線をやる。

 

「シルバー様の最新作は……コレです!」

 

 あずさがハイテンションでモニターを指差す。

 表示されたのは、黒色のリングボックスに入った銀色の指輪。

 唐草模様が彫られたリングには、紫色の小さな宝石のようなものが、爪を使用しない伏せ込みで埋め込まれている。シンプルながらも上品さを感じさせる指輪ではあるが、一見するとただ普通の指輪だった。

 

「正直驚きました。あのシルバーがこういった製品を発売するとは……」

「そうですね。僕も今までとは大きくイメージが変わりましたね」

「そうなんです!」

 

 鈴音と五十里に力強く同意したのは、やはりあずさだった。

 

「これはシルバー・モデルのイメージを大きく変えるCAD……まさにシルバー様の革命なんです!」

 

 技術系の二人が大きく頷く横で、遠慮がちに手を挙げる者がいた。

 

「あの…あーちゃん」

「真由美さん、何でしょうか?」

「私はシルバーのイメージを良く知らないんだけど、そんなに変わるものなの?」

「変わりますよ!」

「そ、そう……」

「中条にここまで言わせるとは……さすがはシルバーだな」

 

 当然と断言するあずさに、真由美とその隣にいる摩利は少し引き気味だ。

 ちなみにだが、生徒会メンバーである深雪と水波は当然として、風紀委員長の花音、引退した真由美と摩利も遊びに来ている。

 だが、彼女たちはあまり技術系に明るくないので、それほど盛り上がっているようには見えない。

 

「今までシルバー・モデルは大型拳銃のみを販売していたのですが、今回はそれを覆す新型のCADなんです!」

「そう言われれば確かに、シルバー・モデルは拳銃型しか見たこと無いわね」

「それに少し大型だからな。言い方は悪いが女子向けではないイメージだな」

「お二人の言う通り、シルバー・モデルはその高い技術力と実用性重視のフォルムによって、警察や軍の魔法師に高い支持を得ています」

「それに対して今回の指輪型はアクセサリー性を持ったもの。それに指輪サイズの超小型化まで成功してる。中条さんが気になるのも仕方ないよね」

「はい! なので今日はこのCADについて語り合いたいと思います!」

 

 あずさの宣言に盛り上がる真由美たちを横目に、沈黙を保っていた達也は心の中でため息を吐きながら思った。

 

(どうしてこうなった)

 

 

◇◇◇

 

 

 エリカとの婚約が決まった日の夜、達也はふとこんなことを考えたのだ。

 

 ──今からでも婚約指輪を渡すべきではないかと

 

 エリカは気にしないと言っていたが、やはりあれだけというのは少々味気ない。婚約指輪なら男性が女性に贈るものでもあるし、不自然にならない。

 達也は誰に言うのでもなくそう決断し、どんなものが良いのかを調べ始めた。

 

 だが、これが間違いだった。

 元々達也にはファッションセンスというものが皆無である。普段着は水波や穂波セレクトのものであるし、そもそもあまり着る機会がない。アクセサリーに至っては全くの素人なので、正直どれも同じに見える。

 当然クラスメイト達には相談できないし、揶揄われそうなので深雪や水波も却下。言うまでもなく、真夜たちは論外である。

 

 そんな中思いついたのが、知り合いの既婚者に話を聞くこと。とはいえ、達也の周囲の既婚者と言えば、思いつくのは一人だけ。

 

 FLT開発第三課所属、牛山欣二。

 聞く限り夫婦仲は良好だそうで、達也は迷わず連絡を取った。

 

『どうしたんですかい、ミスター』

「夜分遅くすみません、牛山さん。一つお聞きしたいことがありまして」

『それなら明日ラボにいらっしゃる際でも良いんでっせ』

「いえ、プライベートなことなので、研究所では少し……」

『プライベート? こりゃあ珍しいこともあるもんですなぁ』

 

 牛山の言う通り、達也がプライベートを相談するなど初めての事だった。

 

『あっしにアドバイスなんざぁできるか分かりませんが、どんなご用件で?』

 

 学生である達也には悩みもあるだろうと、牛山は軽い気持ちで先を促した。

 

「実は婚約指輪を探していまして」

『……はい?』

 

 だから、予想の遥か彼方をいく達也の発言に、こんな反応になってしまうのも仕方のないことなのだ。

 

『……御曹司、今何と?』

「婚約指輪を探しているので、牛山さんの意見を伺いたいのですが」

『……念のため伺いますが、誰の婚約ですかい?』

「俺の婚約ですが」

『御曹司の婚約……』

 

 牛山が電話口で黙ってしまったので達也が首を傾げていると、牛山が静かにこう告げた。

 

『……御曹司、明日ラボにはいらっしゃいますかい?』

「ええ……そのつもりですが」

 

 わざわざ予定を確認する牛山に、達也が戸惑っていると、

 

『わっかりやした! 明日ラボのヤロー全員で御曹司の婚約指輪を考えましょうや!』

「いえ…そこまでしていただくわけには……」

『何を言うんですかい! あの研究一筋だった御曹司の婚約で、何もしないわけにはいかないでしょうや!』

 

 牛山は達也の制止も聞かずにそう言うと、慌ただしく電話を切った。

 

(……俺は何か間違えただろうか)

 

 受話器の前に立つ達也は、独りそう思うのだった。

 

 

 

 

 牛山をはじめとする第三課の面々にとって、達也はシルバー開発の中心人物であると同時に、年の離れた弟、人によっては息子のような存在でもある。

 だが、根っからの研究気質であり研究室に籠ることも多い達也は、色恋沙汰には疎いだろう──というのが第三課の総意だった。

 

 その達也の電撃婚約である。

 飛行デバイスの販売によって多忙にも拘わらず、達也の婚約指輪を優先するのは当然の帰結だった。

 ちなみに、達也がラボのドアを開けた瞬間、主に女性陣からの質問攻め、言葉を選ばずに言えば尋問を受けたので、相手が学生であることは知られている。また、九校戦の事件を知り、尚且つ勘の鋭い者は、相手はエリカであろうと見当をつけていた。

 

「婚約指輪というと給料三か月分ってやつですよね」

「御曹司の給料三か月分……」

「すげぇのができそうっすね」

「それは昔の話よ。それに御曹司の相手は学生なのよ」

「そうね。あんまり高価なのは良くないわ」

「あとあんまり派手だと普段使いが……」

「それに稽古の邪魔になるようならつけて貰えないんじゃないかしら」

「稽古? なんの話っすか?」

「あんたはちょっと黙ってなさい」

「ですがシンプルすぎると特別感が無いのでは?」

「確かにそれは問題ね」

 

 ラボの面々が思い思いに意見を出し合っており、この場では階級や男女といった垣根は存在しなかった。

 

(……こんなに盛り上がったのは、飛行魔法の時以来じゃないか?)

 

 当事者である達也が、現実逃避気味にそう思うほどには盛り上がっていた。

 

 そして話し合いの結果、「学生でもつけやすいシンプルなもので、特別感のある指輪」というのがコンセプトとなったのだが、これが難しかった。

 総勢四十人を超えるラボメンバーがうんうんと唸っており、一つ案を出しては却下され、また一つ案を出しては却下され、ということが数時間ほど。

 このラボではよくあることではあるが、昼休憩の時間を無視しての議論である。まあ今日は通常業務をしていないので、昼休憩という言葉は正しくないのかもしれないが。

 

 そんな中、一人の人物が声を上げたのは、達也が「一度休憩を挟んではどうか」と口にする直前だった。

 

「そうだ! 御曹司が作るのはどうでしょう!」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 全員から浴びせられた問いかけに、その男性研究者は高らかにこう述べた。

 

「指輪をCADにして贈るんですよ!」

 

 このセリフに一瞬その場がシンッと静まり返る。その丁度一秒後、大歓声が沸き起こった。

 

「天才か!」

「確かにその通りだ!」

「俺たちの十八番じゃないか!」

 

 男性研究者に賛辞が贈られ、その後すぐにその案を発展させ始めた。

 

「CADではただのリングになりませんか?」

「デザインを工夫することはできますが、さすがに宝石は……」

「代わりに感応石を使うのはどうかしら」

「あれも綺麗だから問題ないわね」

「感応石は表に出せませんが……」

「それなら伏せ込みにしましょうか」

「確かに邪魔にもならないし良いわね」

「指輪ほど小さいと性能が……」

「あと操作も難しいかと……」

「そこは腕の見せ所よ」

 

 ここでは主に男性が技術的な問題点を上げ、女性がデザイン面での意見を言うという風に分かれてはいたが、活発な議論であることに変わりは無かった。

 一人蚊帳の外にあった達也であったが、この提案にはなるほどなと思ってしまうあたり、同じ穴のムジナである。

 つまり、達也が指輪を贈ると決めた時点で、この結末は決まっていたのだろう。

 

 

 

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