ガーディアン解任   作:slo-pe

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ダブルセブン編
ダブルセブン編1


 

 

 西暦二○九六年四月五日。国立魔法大学付属第一高校の新年度始業式前日。

 達也の自宅には二人の美少女がいた。

 

「エリカさん。そろそろできますから、達也さんを呼んできてもらえますか?」

「良いわよ~」

 

 楽しそうにキッチンに立っている水波の声に、リビングのエリカから呑気な声が返る。

 達也家の台所事情を担っている水波はともかく、エリカがここにいるのには色々と紆余曲折があった。

 

 とはいっても、水波がメイドとして週に一度の作り置き来訪を固辞したのに対して、エリカが恋人として二人きりは認められないと主張したのだ。そして妥協案として「水波が来るのはエリカがいるときのみ」ということになっただけである。

 初めはエリカが水波を警戒して空気が張り詰めたりもしたが、今では穏やかな空気に変わっている。エリカも水波にそういう興味がないことは理解したし、水波はお世話する対象が増えて嬉しそうだからだ。

 

 それに加えて、水波の作る料理にエリカは陥落していた。

 実家では離れに住んでいるエリカは、自動調理機の料理で済ますことがほとんどだった。

 だが、ここに来れば水波の作る美味しくて温かみを感じるご飯が食べられる。恋人と一緒という要素も相まって、エリカの心と胃袋をがっちりと掴んでいたのである。

 

「連れてきたわよ、ってさすがね水波。毎度のことだけど感心しちゃうわ」

「今日も美味そうだな」

「ありがとうございます」

 

 毎回のことながら、エリカも達也もストレートに褒めてくれる。学生として時間の拘束が多く、深雪家では穂波に仕事を取られがちな水波にとって、この家での料理は腕の鳴らしどころなのだ。

 三人は遅めの昼食を済ませ、食後のティータイムを楽しんでいた。

 

「明日から新学期ね。達也くんはどう? 魔工科楽しみ?」

「そうでもないさ、今まで通りだよ」

「さっきもそうだったけどつまんないわねぇ、水波もそう思わない?」

「そうですね、達也さんですので仕方がないとは思いますけど……」

 

 先ほどは達也の魔法工学科の新制服お披露目が行われていた。だが、達也があまりにもいつも通りだったので、何枚か写真を撮るとすぐに達也を開放したのだ。

 二人からの苦言に、達也は苦笑を返した。

 

「そういえば、今年の総代は男子なんだっけ?」

「五年ぶりだそうですよ。七草先輩の前の会長も女性だったそうですから」

「七草先輩の妹さんも入学するんでしょ? ちょっと意外よね~」

 

 二人の言う通り、第一高校で男子生徒が総代を務めるのは久しぶりだった。

 

「総代の名前は七宝琢磨だったかな。七宝というのは、あの『七宝』なんだろう?」

「はい、十八家『七宝』の長男ですね」

「七草と七宝が同級生になるとはね。すごい偶然と言うか根の深い因縁と言うか、厄介ごとを起こさなければいいが……」

 

 ふと、達也がエリカに疑うような視線を向けた。

 

「な、なにかな?」

「エリカ、今面白そうとか思わなかったか?」

「なんでわかるのよ!?」

「エリカの考えそうなことだからな。問題が起こっても荒らしたりはするなよ」

「あ、あはは……」

 

 達也の疑いの眼差しに、エリカは引き攣った笑みを浮かべた。

 

「と、ところでさ、今日のホームパーティーへは何時頃出るの?」

 

 達也とエリカ、それに深雪と水波の四人は、今晩北山家で開かれるホームパーティーに招かれている。

 

「四時頃に出ればいいだろう。水波は一度家に戻るのか?」

「いえ、深雪様とは現地で合流しますので、エリカさんの準備を手伝わせていただきます」

「……ねぇ水波、あたしも一応自分でできるんだけど」

 

 控えめなエリカの抗議を、水波は考える素振り見せずに一蹴した。

 

「エリカさんはじっとしていてください。着付けからメイクまで、私が行いますので」

 

 お世話したがり水波ちゃんには、その程度の抗議、そよ風と同じである。

 一高内で深雪に次ぐとされる美貌を持つエリカ。それをさらにプロデュースできると、水波はやる気満々だった。

 

 

 

 

 いくら名目が「ホームパーティー」とはいえ、経済界の大立て者・北方潮──「北方潮」というのは雫の父親が使うビジネスネームである──が催すパーティーだ。会場はかなりの盛況だった。

 達也たちは高校メンバーでまとまっており、時折雫が大人たちの対応をするくらいで平穏なパーティーを過ごしていた。

 だが、そんな一団に近づいてきたスーツ姿の少年。

 

「あの、司波達也さんですよね」

「航」

 

 まだ中学校に上がっていないであろう、小柄で幼い少年の名を、達也が問う必要がなかった。少年の名を雫が呼ぶ。

 

「姉さん。ゴメン、邪魔だった?」

「ううん。でもちゃんとごあいさつして」

 

 姉に言われたとおり折り目正しく一礼した少年。

 

「はじめまして、北山航です。今年、小学六年生になります」

「初めまして。知っているみたいだけど、自分は司波達也です」

 

 航は達也の方に身体ごと顔を向けて自己紹介した。その微笑ましい姿に達也たちも自然と笑みが溢れる。その後も隣にいたエリカから深雪、水波と自己紹介を進めた。まあ、深雪を見たとき数秒間固まってしまったのは仕方のないことだろう。

 

「航くん、達也さんに何か御用があったんじゃないの?」

「あ、はい、司波さん。一つ教えて欲しいことがあるんですが」

 

「司波さん」は二人いるのだが、航の話しかけている相手がどちらなのかは明らかだった。緊張でガチガチになっている航に、達也はしゃがんでから笑みを向けた。

 

「良いよ。答えられることなら」

 

 達也は気安い口調で応じた。航も緊張がほぐれたようで、達也に笑みを返した。

 

「ええと、魔工技師は魔法が使えなくても成れるんでしょうか」

 

 質問自体はおかしなものではないが、北山家の跡取り息子が口にするには奇妙な問い掛けだった。現に、雫とほのかは揃って「えっ?」という顔をしている。

 

「無理だな。魔工技師は魔法技能を持つ魔法工学の技術者のことだ。魔法が使えない技術者を魔工師とは呼ばない」

「そうですか……」

「だが、魔法が使えなくても魔法工学を学ぶことは可能だ」

「えっ?」

 

 誤解の余地がない答えに航はガックリと肩を落としたが、それに続くセリフに目を輝かせた。

 

「CADの調整は魔法的な感覚がなければ難しいが、魔法が使えなくてもCADを作ることはできる。航君が本気で勉強すれば、お姉さんの役に立つことはできるはずだ」

「あ、いえ、僕はそんなつもりでは……」

 

 口でいくら否定しても、そんな恥ずかしそうな顔をしていては本心が丸分かりだった。

 そして、達也に向けられる目も、見知らぬ大人(小学生から見れば高校生は大人だ)に対する警戒と畏怖の眼差しから、尊敬と憧れの入り混じった眼差しに変わっていた。

 

「達也くんって子供好きだったんだね」

 

 航が恥ずかしそうに去ってから、エリカがふと疑問に思ったという風に質問してきた。

 

「そうか? ……今まではあまり接する機会が無かったからな。だが、嫌いではないと思う」

「そっか」

 

 達也の優しげな笑みに、エリカも嬉しそうに笑って、ピタリと肩を寄せてきた。

 

「達也さんにエリカ、イチャイチャするなら向こうでやってほしい」

 

 そこに雫からの容赦ない一言を浴びせられ、一気に苦笑いに変わるのだった。

 

 その後、北山家のホームパーティーで、雫たちと談笑していた達也たちに小和村真紀という女優が近づいてきた。

 真紀のサロンに誘われた達也だったが、彼女に対して直感的な胡散臭さを感じていたため、達也は真紀の誘いを拒絶した。エリカと深雪、水波たちも誘われたが、達也と同じ理由で辞退。

 一礼して去っていく達也たちの背中を厳しい目で睨んでいた真紀だが、不意に振り向いた水波の視線に慌てて目を逸らした。

 

(何か企んでいるのか……新学期早々、また面倒なことにならなければ良いんだがな)

 

 達也は目を向けずとも真紀からの視線に気づいていたため、心の中でそっとため息を吐くのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 北山家でのパーティーが終了し、小和村真紀は高層マンションの最上階の部屋へ帰宅した。この都心で高層マンションの最上階に部屋を持つのは、いくら有名女優といえまだ若手に属する彼女のキャリアでは難しいはずだった。

 だが、真紀の父親は複数のメディア企業を傘下に持つホールディングカンパニーの社長。北山家ほどではないが、小和村家もかなりの財力を有する上流階級の一員だった。

 

 パーティ用のドレスから着替えた真紀が自室のソファでくつろいでいると、 来客を告げるベルが鳴った。

  真紀のボディガードに案内されてきた少年──七宝琢磨は「勝手知ったる」という感じで真紀の向かい側に腰を下ろした。少年らしい肉付きの薄い身体に、整ってはいるが年相応の子供らしさが残る顔つき。少し生意気そうな印象があるのは瞳に宿る強い自己主張の光によるものだろう。

 

「こんばんは、真紀」

 

  口調も振る舞いも「大人っぽさ」を過剰に意識しているきらいがあった。

 

「いらっしゃい、琢磨。何か飲む?」

「いや、それより話を聞かせてくれないか。その為に呼んだんだろう?」

「そうね。本題に入りましょうか。北山雫とコンタクトはとれた。でも今のところ顔と名前を覚えてもらっただけね」

「……芸能人には興味なしか」

「でも、彼女の友人の光井ほのかには随分と関心を持ってもらえたのよ」

 

  失望を隠せず呟く琢磨に、女優、いや、スターの余裕で真紀は笑みを見せた。

 

「そうか」

 

  琢磨は態度を一変させて真紀の方へ身を乗り出した。

 

「光井ほのかも新二年生トップクラスの優等生だ。味方にできればきっと役に立つな」

「そうでしょうね。それに親友である光井ほのかが琢磨の派閥に入ったら、北山雫も取り込める可能性が高くなると思うわ」

 

  真紀と琢磨の関係は「同盟者」。

 二人はそれぞれの理由で魔法師の味方を──手駒を欲していた。その一環として、一高内で魔法師として将来有望な生徒で派閥を結成しようと目論んでいるのだった。

 

「初めは同じ新入生で仲間を増やしていく方がいいと思うけど」

「いや、北山家のように大きな影響力を持つ者を味方につけるべきだ。無論、協力してくれるよな?」

「ええ、もちろんそのつもりなのだけれど……」

 

 真紀はワインで唇を湿らせると、少し物憂げな表情を浮かべた。もちろん演技だ。

 

「何かまずい事でもあったのか?」

「前以て聞いてた通り、パーティーには司波深雪と桜井水波、司波達也に千葉エリカ。新二年生の中でも影響力の強いメンバーが来ていたんだけど、あの四人を引きこむのは難しそうね」

「何かあったのか?」

「いいえ、話をしただけ……でも、あの四人はどうやら、前の生徒会長と特別な関係にあるみたい」

 

 この段階で既に真紀は嘘を吐いている、そんな事を聞き出す間もなく、真紀は四人から袖にされたのだ。

 

「前の生徒会長……七草か!」

 

 真紀は演技とは思えないほど自然に、琢磨のセリフに頷いて見せた。

 

「これは推測なのだけど、あの四人は既に七草家に取り込まれているのではないかしら。もし七草家の傘下になっていたとしたら厄介よね。あの四人はそれぞれ一科生と二科生に支持者が多いから。それに、司波深雪と桜井水波の方は生徒会だから、そこを足場にするのは難しいでしょうね」

「味方が多ければ敵だって多いのが世の中だ。七草の手先なら遅かれ早かれ衝突は避けられない。やってやるさ!」

 

 興奮のあまり立ち上がった琢磨に対し、真紀は瞳に期待の光を踊らせた。

 

 

 

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