西暦二○九六年四月十日。
深雪は生徒会室にて香澄と泉美に向かい合っていた。と言っても彼女一人で相対しているのではなく、生徒会役員の一人として同席しているという意味だ。
「……それでは、私たちのどちらかを生徒会役員として取り立てて下さるということですか?」
「やる気があるなら二人一緒でも大丈夫ですよ」
「深雪先輩とご一緒にお仕事できますなんて……夢のようです」
頬に手を当ててうっとりとため息をつく泉美の正面では、深雪が何を考えているかまるで読み取らせない鉄壁の愛想笑いを浮かべていた。
煩悩むき出しの泉美と、彼女の様子に若干引き気味の香澄。あずさも五十里も、水波ですら泉美の異様な態度に気を呑まれてしまっていた。
その結果、二人と交渉する役目は深雪ただ一人に委ねられてしまっていた。
「えっと、私は遠慮しようと思います。先輩方と仕事ができるのは楽しそうですけど、生徒会の仕事は向いていないと思うので」
「そう、残念ですね」
残念そうに答える香澄に、深雪も本心から残念だと思った。
「では泉美さん、生徒会に入っていただけますか?」
泉美のことを敬遠したいと考えている本音もまるで見せず、深雪は朗らかに問い掛けた。
「喜んで」
自分を見詰める泉美の、ますます熱っぽさを増した眼差しにも、深雪の完璧な淑女の笑みは揺るがなかった。
「あの、すみません、一つ質問しても良いですか?」
そんな泉美の思考を逸らそうと、香澄が手を上げた。
「香澄さん、どうかしましたか?」
「生徒会じゃなくて、風紀委員ってなれたりしますか?」
「風紀委員に?」
ただ、自分の願望も何割か入ってはいた。深雪は意外感を覚えつつも、あずさと五十里に目線を向けた。
「生徒会推薦の枠は一つ空いているのでいいと思いますよ」
「そうだね、僕も問題ないと思うよ」
深雪も先輩二人へ頷きを返して、香澄に視線を戻した。
「分かりました、それでは香澄さんは風紀委員になってもらうということで」
「ありがとうございます」
香澄が机の下でガッツポーズを作る。
そんなに風紀委員になりたかったのかと、深雪は内心首を傾げたが、当然口にしたのは別の事だ。
「それでは千代田委員長に報告しますので、香澄ちゃんはついてきてもらえますか?」
「はい、ありがとうございます」
「中条会長、少し席を外しますね」
「分かりました。ご苦労様です」
深雪はあずさに一礼してから、香澄を連れて風紀委員会本部へ向かう。その後ろ姿を泉美が残念そうに見つめており、深雪はそれに気づいていながらも、完全にスルーしていたのだった。
風紀委員本部には、思わぬ人物たちがいた。
「達也さんにエリカ?」
「あーっ!」
だが、相手がその問いに答える前に、深雪の横から甲高い声が響いた。
「あ、あの、千葉エリカ先輩ですよね!?」
そのままエリカのもとへ走って、興奮した様子で話しかける香澄。
「そうだけど……君は?」
「ボクは七草香澄です! 去年のモノリス・コードを見てたんですけど、すごく格好良くて、先輩のファンになったんです!」
「そう……」
「エリカ先輩って呼んでも良いですか! ボクの事も香澄って呼んでください!」
「……ええ、分かったわ」
エリカも七草の双子の名は知っていたので、香澄の自己紹介には納得した。だが、香澄の興奮冷めやらぬ様子には少し引き気味だ。
「香澄ちゃん、少し落ち着いて」
「あっ、すみませんでした……」
深雪が軽く窘めたことで、香澄もようやく収まったようだ。微かに赤面して小さくなっている香澄を見て、深雪は「今年の一年生はこういうタイプが多いわね……」と現実逃避していた。
「千代田先輩。改めまして、生徒会推薦枠で風紀委員に就任した七草香澄さんです」
「七草香澄です。先ほどはすみませんでした」
「風紀委員長の千代田花音よ。さっきの事は気にしないで良いわ、千葉さんもそれで良いわよね」
「あたしはそれでいいですよ」
「委員会の説明をしたいんだけど……吉田君が戻ってくるまで少し時間があるから、その間に司波君の自己紹介も済ませちゃって」
「早速人任せなのか……」と思ったのは達也だけではないだろう。だが、それにツッコんでも仕方ないので、達也は香澄へと身体を向けた。
「2−Eの司波達也だ。七草さん、よろしく頼む」
「一年C組の七草香澄です。こちらこそよろしくお願いします、司波、先輩……?」
セリフの途中で止まった香澄を訝しく思っていると、香澄は「司波達也……」と呟きながら、達也の身体を上から下まで眺め、
「あーっ、司波達也!」
達也を指差しながらそう叫んだ。
「香澄ちゃん、反省したのではなかったの? これで二度目なのだけれど。それに、先輩を指差すなんて失礼じゃないかしら」
流石に二度目は看過できなかったのか、深雪から叱責が掛かった。
「す、すみません……」
「深雪、俺は気にしていないから大丈夫だ」
入学早々深雪のプレッシャーは酷だろうと思い、達也が仲裁に入る。
「それはそうと、七草さんは俺のことを知っているのか?」
「あ、はい……エリカ先輩とモノリス・コードに出てましたし、お姉ちゃんからも話を聞いていたので」
「七草先輩から?」
「はい、新歓期間とか九校戦とかで大活躍だったって聞きました。あとは指輪のこととかも……」
チラリとエリカの左手に視線を向ける香澄。エリカもそれに釣られて指輪を見て、そして幸せそうに微笑む。
その様子に見惚れていた香澄だったが、エリカが顔を上げると、オロオロと視線を彷徨わせてから達也に向けてこう宣言した。
「そ、それと! お姉ちゃんとか泉美もいて紛らわしいので、私のことは香澄で大丈夫です!」
下手すぎる誤魔化しなのはその場にいる全員に明らかだったが、それを追求する意地の悪い者はいなかった。
「そうか。俺は一週間しかいないが、よろしく頼む」
「は、はいっ、私の方こそ宜しくお願いします」
勢いよく頭を下げる香澄。
ちょうどその時、幹比古が戻ってきた。達也たちは解散し、香澄は幹比古から仕事の指導を受けるのだった。
◇◇◇
新入生総代に生徒会入りを断られるという思いがけないアクシデントはあったが、他に大きな騒ぎもなく、新入部員勧誘週間も二日目に入った。
達也とエリカは紗耶香の演武を見るために闘技場の観戦エリアにいた。
「ねぇ達也くん、これって校内デートってやつかな?」
エリカは手摺に肘をついて、達也の顔を覗き込んできた。
「そうかもしれないな」
「あれ? ちょっとは否定すると思ってたんだけど」
「去年みたいなのは勘弁だが、今年は平和だからな。デートでもいいんじゃないか?」
「んー、まあそれでいいや。でも確かに、今年はかなり平和よね」
去年の活躍を目の当たりにした一高生で、今更二人を狙う猛者はいない。むしろ、二人の姿を認めて騒動が収まることも間々あったので、昨日はほとんど仕事が無かった。
その所為もあり、二人は巡回というよりも校内散策の気分になっていた。
「ねえねえ、これが終わったらさ、美月とレオのとこにも行ってみない?」
「良いんじゃないか。ついでにほのかたちの部活にも行ってみようか」
「バイアスロン部だっけ?」
「ああ、森林に近い場所だから山岳部と一緒に行けばいいだろう」
二人が今後の予定決めをしていると、下のフロアで演武が始まった。今年も型の決まった演武ではあったが、エリカが不機嫌になることは無かった。
「壬生先輩もかなり腕が上がったように見えるな」
「やっぱり達也くんも分かるんだ?」
「ああ、足捌きの練度が去年とは段違いだ」
二人の目線の先では、紗耶香が二回り以上大柄な男子生徒を相手にしているが、正直格が違う。
「多分桐原先輩のおかげじゃないかな。今まではさーやと同じレベルの人がいなかったし、さすがに先輩相手だと力負けしちゃうから」
「なるほどな。そういえば、エリカはやらないのか?」
「やらないのかって、演武を?」
「ああ」
「あたしは一応部外者だからね。こういうところはお呼びじゃないのよ」
「そうか、少し残念な気もするな」
エリカは一瞬首を傾げたが、すぐになるほどとばかりに笑みを浮かべた。
「なに達也くん、あたしの道着姿見たいの?」
「興味はあるな」
「そうなんだぁ……あ、そういえば去年もさーやに見惚れてたし、達也くんってそういう和服系好きなの?」
「別に見惚れてないぞ。エリカが着たら似合うだろうなと思っただけだ」
「へぇ~。じゃあさじゃあさ、今度剣道部の練習に来てよ。それならあたしの道着姿見れるわよ?」
「それもいいかもな」
達也が相槌を打ったのと同時に、紗耶香が鮮やかに一本を決めて一礼した。
「壬生先輩の演武も終わったことだし、そろそろ戻ろうか」
達也が踵を返すと、エリカもそれに続いた。
「平和なのもいいけど、少しくらい乱闘があっても面白いんだけどなぁ」
「そんなことが起きたら中条先輩が泣くぞ」
「大丈夫よ。達也くんなら無傷で取り押さえられるわ」
「そういう問題か? ……まあ、俺としては関係ない場所で起きてくれれば構わないが」
「達也くん、それって盛大なフラグだよ?」
「それもそうだな」
達也は苦笑いを返したが、そもそもこのまま平和に終わることなど期待していない。それに、トラブルが起きるとすれば自分の周りだろうとも思っていた。
こういった悪い予感ほど当たってしまうもので、
「あっ、あそこ見てよ」
エリカが指差す方にあるのは、ロボ研のガレージとそれを遠巻きに見る人だかり。そこそこ距離があるこの場所からでも、言い争いの声が聞こえてくる。
どうやらフラグはしっかりと回収できたようだ。
「達也くんがあんなこと言うから〜」
けらけらと楽しそうに笑っているエリカ。それが達也をからかいたいのか、野次馬的なノリなのか、おそらくは両方なのだろう。
◆
ロボ研のガレージの前では、一人の新入生を挟んでロボ研とバイク部が睨みあっていた。
その原因は、一年生の隅守賢人。入学式直前、迷子になっているところを深雪に発見された新入生である。
「いい加減に諦めなさいよ。スミス君はロボ研に入るって言ってるでしょ」
「プレス機の使い過ぎで耳がおかしくなったんじゃないの? スミス君はそんな事一言も言って無いでしょ。先に声を掛けたのはうちなんだから、そっちこそちょっかい出さないでほしいわ」
「早い者勝ちとか小学生じゃあるまいし。時代遅れのレシプロエンジンに脳みそまでシェイクされちゃったみたいね」
「時代遅れですって!? さすが等身大メカ人形遊びにうつつを抜かしている最先端オタクは仰る事が違いますねぇ」
「時代遅れぇ……?」
「オタクだと……?」
「あの、僕は……」
ケントが目を付けられた理由は「マスコットにしたい」という女子生徒の欲求からであり、睨み合いの最前列にいるのも女子生徒だ。客観的に見て相当見苦しい女同士の罵り合いに、集まった野次馬たちはかなり引いている。
だが、彼女たちの背後に控えている男子部員たちはそれぞれ譲れない部分があるのか、そもそもの原因であるケントを置き去りにして、すっかりエキサイトしていた。
そこへ駆けつけたのは、生徒会役員でも風紀委員でもなく、独自に巡回していた部活連の執行部だった。
「ロボ研もバイク部も落ち着いて下さい!」
まず割って入ったのは、執行部二年生の十三束鋼。その隣に割り込んできたのは、執行部見習いの七宝琢磨。
その琢磨の勢いに押されてケントが諍いの輪の外に出る。
「あら、すごい一年生がいるわね」
一歩遅れて到着した達也とエリカだったが、ケントの日本人離れした容姿にエリカが声を漏らした。場にそぐわない軽い声が聞こえたのか、ケントの目がこちらに向いた。
「あーっ!」
そして、視線の先にいた人物を認識した瞬間、ケントはその目を輝かせ、尻尾を振っていそうな雰囲気で駆け寄ってきた。
「あ、あの、先輩は司波達也先輩ですよね! 僕は隅守賢人です!」
「そうだが、俺のことを知っているのか?」
野次馬やエリカが興味深そうな眼差しを向けてきた。それに若干の居心地の悪さを感じながら、達也はケントに問い掛けた。
「はい! 僕、先輩がいるから第一高校を選んだんです! 去年の九校戦で先輩のスーパーテクニックを拝見して、先輩に会って、お話を聞いてみたいと思ったんです!」
(この感じ……ほのか、いや、中条先輩の同類か)
熱く語るケントに対し、達也はヒートアップしないよう細心の注意を払った。
「それは光栄だな。今度機会があればきちんと話もできるだろう」
「良いんですか!? ありがとうございます!」
「それよりもなんだが、隅守くんはここで何をしていたんだ?」
この時点で達也はまだ、目の前のトラブルがケントを巡ってのものだとは知らない。状況が分からないので質問しただけだ。
「あっ、僕のことはケントと呼んでください。それで、まだどのクラブに入るか決めて無くて、今日は見学だけさせてもらうつもりだったんですけど、中に入ろうとしたらいきなり後ろから……」
動揺しているのか、ケントの口述はまるきり整理されていないものだった。その分かりにくい説明でも達也は何とか理解した。
「……要するにバイク部が勝手に勘違いしてロボ研がそれに絡んできたという事か?」
「えっと、はい、多分……」
「なるほど……」
達也がこれからの対応を考えている内に、事態は新たな局面を迎えた。
「風紀委員会です!」
聞き覚えのある声を、達也は言い争いの向こう側に聞いた。
「あれ香澄じゃない」
「そうだな」
エリカに言われるまでもなく、達也は風紀委員を名乗ったのが香澄だとわかっていた。
「ケント」
「あっ、はい、すみません」
「別に謝る必要はない」
「はい、すみま──あっ」
また謝罪の言葉を口にしたケントに達也は苦笑いした。
「まあ、あっちはもう大丈夫だ。ケントはもう行って良いぞ。ロボ研とバイク部には俺の方から話しておく」
さっきまで聞こえていた言い争いは、別の声に替わっていた。ケントが達也に駆け寄った時点で半分収まっていた騒動が、周りをそっちのけにした険悪な口論に変わっていた。
「はい……ありがとうございます」
達也に後始末を押し付けて良いのかケントは少し迷ったようだが、結局達也に一礼してその指示に従った。
ケントを見送って騒動の中心を見ると、一触即発の空気が漂っている。衆人環視の中、自治会同士が魔法の撃ち合いなどシャレにならない。
「エリカ、頼めるか」
「あたし?」
「香澄がいるからな」
「なるほどね、それじゃあいってきますか」
短い説明だったがエリカも納得したようで、諍いの中心へと足を進めた。
◇◇◇
「ここは既に部活連執行部が対応している。風紀委員は余所へ行ってくれ」
琢磨のこれが、口論につながる第一声だった。横柄な物言いに香澄は一瞬怯んだが、相手の顔を見て同じ一年生だと分かると、ムッとした声で言い返した。
「生徒同士の諍いは風紀委員会の管轄だったと思うけど」
だからすごすごと立ち去る理由はない、言外にそう告げて香澄は琢磨の横を通り過ぎようとした。
「おい、待てよ」
すれ違おうとする香澄の腕に、琢磨が手を伸ばす。だがその手は何も掴むことができなかった。香澄が滑らかなサイドステップで琢磨の手を躱したのだ。
思わぬ空振りに唖然とした琢磨だが、香澄が得意げな表情を浮かべているのを見てカッと頭に血を上らせた。
もっともそれが暴力行為に直結するほど琢磨も単細胞ではない。
「しつこいなぁ。邪魔しないでくれる?」
素早く自分の前に回り込んだ琢磨に、香澄がうんざりした声を上げる。
「ここは俺たちが預かると言ったぞ、七草。それとも、ハッキリ言われなきゃ分からないか? お前の出る幕じゃないと」
「ふぅん……七宝君、私のこと、知ってたんだ」
香澄は意味ありげな目で琢磨を見ると、相手が口を開き掛けた機先を制して言葉を続けた。
「邪魔者扱いされているくらい分かってるよ? でもお生憎様。風紀委員は執行部の指示に従わなきゃならない謂われなんて無いんだ」
香澄の薄らと笑みを浮かべた顔の中で、目だけが挑戦的な光を放っている。
「七草……喧嘩売ってんのか?」
琢磨は逆に、赤みを帯びた顔の中で、目だけが冷たい光を宿していた。
「喧嘩を売るつもりなんて全く無いよ。買うのはやぶさかじゃないけどね」
「ほぅ……俺の喧嘩をお前が買う、ってのか」
琢磨が左袖を軽く引っ張り上げた。ブレスレット形態のCADが姿を見せる。
「そうだね、目一杯安く買い叩いてあげる。二度と私に喧嘩を売ろうなんて考えないくらい」
香澄も右手で左袖を押し上げた。手首の少し上に琢磨の物より小振りでお洒落な感じの、だが性能的には劣るところのない最新のCADが巻かれている。
「片割れがいないようだが、一人で良いのか?」
「なに? 二対一にして負けた時の言い訳が欲しいの?」
琢磨も香澄も、既に目の前の相手以外、目に入っていない。
「二人とも、その辺で止めなさい」
その衝突は不可避と見えた二人の間に突如割って入った女子生徒。
「エ、エリカ先輩……」
エリカがいつの間にか二人の間に割って入っていた。
「香澄、あんたバカなの?」
「えっ?」
「風紀委員が問題起こしてどうすんのよ。執行部がやってるんだから、さっさと任せればいいのよ」
「でも……」
「でもじゃない。ただでさえ人が足んないんだから、余計な仕事増やさないで」
「すみませんでした…」
達也からすれば「エリカがそれを言うのか?」と思うのだが、香澄には効果的だったようだ。憧れの先輩に叱られてしょげている香澄から目を外し、エリカは七宝に目を向ける。
「んで、部活連のあんたも同罪。十三束くん困らせてどうすんのよ」
「っ、何だと!」
七宝は一瞬怯んだが、エリカの胸にエンブレムが無いことに気づくと、すぐに高圧的な態度に変わった。
「喧嘩するなとは言わないけど、こんなところでやるのはバカのすることよ。魔法の撃ち合いなんて以ての外。やりたいなら模擬戦の許可でも取ってからやりなさい」
エリカはそれに取り合わず、告げるべきことを告げる。そして、すっかり放置状態となっていた集団に目を向けた。
「ロボ研もバイク研も、これ以上の騒ぎを起こさないなら解散して良いですよ。風紀委員にはあたしから報告しておくんで」
香澄と七宝の所為で、振り上げた手を何処に下ろせば良いのかお互いの顔色を窺っている状態だった彼らには、エリカの言葉は実に好都合だった。
ロボ研はガレージへ、バイク部も勧誘用に割り当てられたテントへぞろぞろと戻っていく。
「十三束くん、部活連への報告は任せていい?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
最後に楽をするのはエリカらしいと言えるだろう。
「香澄、あんたも巡回に戻んなさい。これ以上の騒ぎは起こすんじゃないわよ」
「は、はい!」
香澄は勢いよく返事をして巡回に戻った。
「それじゃあ達也くん、あたしたちも戻ろっか」
エリカは香澄を見送ると、達也を引っ張って校内へと戻っていく。その場に残ったのは野次馬ギャラリーと、その注目を集めている琢磨と十三束の二人だけだった。