ガーディアン解任   作:slo-pe

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ダブルセブン編7

 

 

 風紀委員会本部へ連行され、香澄と琢磨は針の筵気分を味わっていた。

 この場には風紀委員会から委員長の花音と本日の当番である雫、部活連から会頭の服部と執行部を代表して十三束、そして生徒会を代表して深雪が同席している。

 

「千代田先輩、あたしは模擬戦の許可をもらいに来ただけなんですけど」

「そうは言っても、七宝の言動はあたしたちも見逃せないのよ」

 

 エリカの言う通り、模擬戦の許可をもらうだけならこれほどの人数は要らないのだが、入学以来問題行動の多い琢磨に自治会側も人数を割いたのだ。

 

「香澄、あんたも巡回中に二度も問題を起こしてる。しっかりと反省しなさい」

「分かりました……」

 

 花音からの叱責に、香澄は縮こまりながら頷いた。

 

「七宝、これでもう何度目だ。お前はもう少し自覚を持って行動すべきだと何度言ったら……」

 

 十三束の嘆きを、琢磨は身体を強張らせ正面に視線を固定して聞いていた。

 

「とにかく、事情を確かめる事が先決だと思うが」

「まったく……新勧週間が終わったと思ったら面倒くさいことを……」

 

 服部のセリフに、花音が不機嫌な顔で頷き、行儀悪く頭を掻きながら下を向いてから顔を上げ、鋭い目つきで香澄と琢磨を睨みつけた。

 

「最初に言っておくわ。模擬戦云々はともかく、これ以上の問題行動は見過ごせない。今回の騒動、いったい何が原因なの」

「七草から許し難い侮辱を受けました」

「七宝君が七草家を侮辱したんです」

 

 二人は同時に発言し、決して互いを見ようとはしなかった。花音は二人からエリカへと視線を移した。

 

「七宝から絡んできたのは事実ですけど、どっちもどっちの口喧嘩でしたよ」

 

 集まった幹部たちも、エリカの様子から大枠を把握した。

 

「ハァ……服部、この始末どう付ければいいと思う?」

「七宝は部活連の身内だ。俺には公平な判断を下す自信が無い」

「それを言うなら香澄は風紀委員会の身内よ」

「ならば部活連でも風紀委員会でもない第三者、生徒会に裁定してもらおう」

 

 花音と服部に目を向けられて、深雪は考える素振りも見せず即答した。

 

「エリカの言うように、模擬戦を許可すればいいのではないでしょうか」

「その理由は?」

「話し合いで解決出来ない事は実力で決める。それが当校では推奨されていると伺いました。今回はエリカが未然に防いだこともありますし、当事者同士で解決してはどうかと」

 

 深雪の発言に驚きを露わにしたのは十三束だった。花音はともかく、服部も当然という表情を浮かべている。

 

「あたしは副会長の意見で良いと思うけど、服部は?」

「異存は無い。司波さん、手続きを頼めるか? 中条への説明は俺も同行しよう」

「分かりました」

 

 二人はあずさの承認書面を取るため、生徒会室へ続く階段へ向かう。

 

「司波先輩」

 

 その背中に琢磨から声が掛かった。

 

「七宝君、どうかしたかしら?」

「七草との試合を許していただけるなら、お願いがあります」

「言ってみなさい」

 

 条件を付けられる立場に無い琢磨の発言に、花音は興味を駆られた。

 

「相手は七草香澄ではなく、七草香澄、泉美の二人にしてください」

「七宝、アンタ私の事バカにしてるの?」

 

 香澄の詰問は、先輩に囲まれた状況における言葉遣いの是非は別にして、当然のものだった。

 

「『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』、それが理由かしら?」

「はい。七宝家と七草家の誇りを懸けた試合です。二人同時に相手にして勝利して、漸く真の勝利と言うわけです」

「香澄ちゃん、どうしますか?」

「構いません。その思い上がりを後悔させてやります」

「では、そのように」

 

 そう言って深雪は生徒会室へ続く階段を上がった。

 

 生徒会長の決裁印が押された許可書を持って戻ってきた深雪の背後には、何故か水波までついて来ていた。

 

「委員長、こちらに承認印をお願いします」

「えっ、承認印? ……何処にあったっけ?」

 

 あたふたする花音に、雫が重要物の入った小箱をキャビネットから取り出した。

 

「あ、あはは……これで良いのね?」

 

 照れ隠しと分かる愛想笑いを浮かべ、許可書に承認印を押捺した花音。気まずさを誤魔化すように深雪へと視線を向ける。

 

「場所は何処を使えば良いの?」

「第二演習室でお願いします」

 

 深雪に向けられた質問に答えたのは水波だった。彼女が演習室の開錠コードを預かってきているというのは、説明されなくても全員に分かった。

 

「審判は服部?」

「いえ、服部先輩は立会人です」

「それじゃあ司波さんが審判?」

「ええ。それはともかく、行きましょうか。閉門まであまり時間がありません」

 

 深雪は花音に一礼して、風紀委員本部をあとにした。

 

 

◇◇◇

 

 

 第二演習室に移動したのは、当事者である琢磨、香澄、泉美。審判の深雪と立会人の服部。鍵(施錠・開錠コード)を預けられた水波。部活連から十三束と、風紀委員から雫。そして、イザコザの現場にいたエリカ。この九人だ。

 

 この立ち会いメンバーに琢磨は当惑を覚えていた。琢磨の視点では、深雪は七草家の人間であり、香澄たち側の人間。審判を敵に回したハンディキャップマッチ、というよりイカサマ戦。

 一方、雫は琢磨にとって、七宝家の今の地位を確固たるものとする為に是非とも味方につけたい人材。ここで自分の強さを見せつけることができれば口説き落としやすくなる、と琢磨は信じていた。

 絶対的に不利な状況と、それを覆して得られる果実。七草姉妹と向かい合った時、琢磨の当惑は闘志に昇華されていた。

 

 一方の香澄と泉美は、琢磨ほど積極的になれなかった。

 香澄は琢磨から一方的に因縁を吹っ掛けられた、というのが偽らざる心境であり、泉美は完全に巻き込まれたとしか思っていなかった。彼女たちは別に七宝に対して思うところはなく、敵視されるのが鬱陶しいだけなのだ。

 

 第二演習室は中距離魔法を想定した教室で、床は青と黄色で前と後ろに色分けされており、前後の壁から一メートルのエリアは赤く塗られている。

 琢磨は制服のままの姿で、左の脇に分厚く大きなハードカバーの本を抱えている。香澄と泉美は動きやすい実習服に着替えていた。

 

「この試合はノータッチルールで行います。色分けされた相手のエリアに入ること、赤のエリアに出ることが失格の対象となります。武器の有無に拘らず、相手の身体に触れることは禁止とします。ただし」

 

 そう言って深雪はチラリと琢磨の顔を見た。

 

「魔法で遠隔操作する武器は違反になりません」

 

 深雪は双方を等しく視界に収めるポジションへ視線を戻した。

 

「最後に、致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせる攻撃も禁止とします。危険だと判断した場合、私が試合を止めますので」

 

 琢磨が一瞬、鼻で笑うような表情を見せたのは「やれるものならやってみろ」と思ったのだろう。この場にいる全員がそれに気づいていたが、内心はどうであれ琢磨の不遜な態度を咎めた者はいなかった。

 

「では、双方、構えて」

 

 香澄と泉美はエリアの中央に移動した。

 琢磨は境界線近くから動かず、脇に抱えていた本をドスンと足元に落とした。

 深雪が三人の顔を交互に見る。三人とも、同じように頷きを返した。

壁際に下がった深雪が右手を頭上に挙げて、勢い良く振り下ろす。

 

「始め!」

 

 想子(サイオン)光が閃き、魔法が放たれた。

 

 

 

 実力差にそこまで開きは無かったが、琢磨の攻撃を防ぐので精一杯になっている香澄と泉美。だが、二人の顔に焦りは見られない。

 

「ボクたち、アイツのことを少しなめていたみたいだね」

「なめていたという言い方はともかく、どうやらそのようです」

「泉美、あれ、やるよ」

「ええ、香澄ちゃん。いつもどおりに」

「ボクがシュート」

「わたくしがブースト」

「じゃあ、行くよ。カウントダウン」

 

「スリー」「ツー」「ワン」

 

「キャスト!」

 

 香澄の発した掛け声の直後、琢磨へ襲い掛かる魔法の威力が数倍に跳ね上がった。

 自分の背後に、頭上に、側面に渦巻く事象干渉力。これまでとは比べものにならない強力な魔法の兆候を嗅ぎとって、琢磨は全力の攻撃を全力の防御に切り替えた。琢磨は魔法師としての感覚で、自分に襲い掛かっている風の成分が著しく窒素に偏っていることに気づいていた。

 

収束・移動系複合魔法『窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)

空気中の窒素の密度を引き上げる魔法と、その空気塊を移動させる魔法。

 

『窒息乱流』は気体の成分構成を維持しつつその流れを操るという、制御が非常に困難な魔法だ。

 高校生レベルではまずお目に掛からない高等魔法であり、一年生ながらそれを使用するのは称賛に値する。

 

乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)

香澄と泉美、二人の魔法力そのものを一つに組み合わせることで、一人一人では不可能な高威力・高難度の魔法を行使することが可能になる。七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮すると言われる所以である。

 

 酸素濃度が極端に低下した気流を少しでも吸い込んだなら低酸素症でたちまち意識を失う。気流に押し流されないようシールドを縮めれば、すぐに中の酸素が足りなくなってしまう。

 踏ん張る琢磨はこのままではいけないと思い、足元ハードカバーの分厚い本に目をやる。最初から最後まで、全てに同じ幾何学パターンが印刷されたページに目を落とし、琢磨はエースを切る決意をした。

 

 息を止めて踏ん張っていた琢磨がいきなり片膝をついてしゃがみこみ、バタバタと風にあおられてページが今にも千切れ飛びそうになっていた本を閉じた。

 琢磨は再びハードカバーの表紙を開く。その瞬間、全てのページが一斉に紙吹雪となって飛び散った。

 

七宝家の切り札の一つ、『ミリオン・エッジ』

群体制御により百万の紙片を操り、刃の群雲と成して敵を切り裂く魔法。

 

 双子が『窒息乱流』を操りながら別の魔法を繰り出した。酸素を多く含む空気を多方向から紙吹雪にぶつけ、断熱圧縮により紙の発火点を超えた熱風を作り上げて紙片の刃を焼き払おうとする。

 それは『熱乱流(ヒート・ストーム)』のアレンジ魔法。単純に断熱圧縮空気塊を作り出すよりワンランク高度な魔法で、それを『窒息乱流』と同時発動しているのだが、今の彼女たちにとっては十分能力の範囲内だ。

 

 呼吸を許さぬ嵐が琢磨を飲み込み、摂氏五百度超の空気塊が紙片を焼き尽くそうとする。

 百万の刃は発火点を超える熱を浴びながら、紙片を刃として成り立たせる魔法に守られて香澄と泉美へと押し寄せる。

 このままいけば琢磨は低酸素症に倒れ、香澄と泉美は灰に出来なかった刃を浴びて無数に近い傷を負う。どちらも後遺症が懸念される結末が見えていた。

 

「そこまで!」

 

 深雪の宣言と共に、高圧の事象干渉力が放たれる。

 

『領域干渉』

事象改変の結果を定義せず、ただ干渉力のみを領域に作用させる対抗魔法。

 

 この領域内では、深雪よりも干渉力の低い魔法は無効化される。

 窒息乱流、ミリオン・エッジ、熱乱流。

 三つの魔法式は効力を失い、魔法の空白地帯を生み出された。

 

 中止を告げる深雪の声は、はたして三人の意識に届いたかどうか。

 全ての攻撃性魔法がかき消された静寂の中で、琢磨も、香澄も、泉美も、何が起こったのか理解出来ず呆然と立ち竦んでいる。絶句して立ち尽くしているのは試合の当事者、一年生の三人だけだ。

 

 エリカや雫、服部に十三束といった面々は、何が起こったのか正確に把握しており、その上で深雪の魔法力に戦慄していた。

 ただ一人驚いていない水波は、自身の主が見せつけた力に満足げな表情をしていたのだった。

 

 

 

 

「この試合は双方失格とします」

 

 審判として深雪が裁定を下す。そこでようやく、フリーズしていた一年生が再起動した。

 

「どういうことですかっ!?」

 

 一番初めに声を上げたのは香澄だった。

 

「試合前に言ったはずよ。致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせる攻撃は禁止、後遺症が残るような攻撃も禁止、危険だと判断した場合は私が試合を止めると」

「では、どのような決着になるのでしょう?」

 

 双子の妹である泉美も、深雪に対する態度としては初めての強い語調で質問する。

 

「双方失格、つまり両方とも負けということね」

 

 引き分けではなく、どちらも負け。深雪があえてそう言ったのは「再戦を認めない」という含みを持たせてのものだったが、泉美たちがそれを理解したかどうかは疑わしい。

 

「しかし、窒息乱流はミリオン・エッジと違い、致死性の魔法でも後遺症を残すような魔法でもありませんが」

 

 泉美の主張は「七宝君の反則負けでは?」という意味だ。琢磨もすぐにそう理解した。ほとんどのタイムラグなしに反論の声を上げようとした琢磨だが、深雪の方が早かった。

 

「確かに窒息乱流は相手に重大な後遺症を残さないレベルに威力をコントロールすることもできるけど……泉美ちゃん、さっきの貴女たちにその余裕はあったかしら?」

 

 深雪に「違う?」という目を向けられて、双子は共に口ごもる。

 

「そのようなことはありませんでした!」

 

 その代わり、というわけでもないだろうが、今度は琢磨が深雪に食って掛かった。

 

「そうなる前に決着はついていました!」

「それは、七宝君の勝ちだったということかしら?」

「そうです」

 

 深雪の冷ややかな眼差しにも怯まず、琢磨は傲然言い放つ。

 

「七草の熱乱流ではミリオン・エッジを止められませんでした。窒息乱流が俺の気密シールドを破る前に、俺の攻撃が七草に届いていました!」

「七宝君の主張を尊重すると、私が止めなければ、百万の紙片が高熱を帯びた状態で香澄ちゃんと泉美ちゃんを襲ったことになるのだけど」

 

 深雪の皮肉げな色が混ざった声音に、今度は琢磨が口ごもる。

 

「その場合、二人は確実に重傷を負うでしょう? あくまでもそう主張するというのであれば、反則負けになるのは七宝君、貴方よ」

 

 激発する琢磨を前に、深雪が冷酷までに冷静な口調で宣言する。琢磨の敗北だと。

 冷たい視線と声が琢磨に反論を躊躇わせた。

 

「ミリオン・エッジをまともに浴びせればどういう結果になるか、貴方が一番知っているでしょう? 過剰攻撃が許されるのは殺し合いのときだけ、ルールのある試合で許されることじゃないわ」

「ではっ!」

 

 琢磨が自分を絡め取る深雪のプレッシャーを振り払うように、必要以上の勢いで反駁の声を上げる。その短い一言を繰り出すだけで、彼は見るからに消耗していた。

 

「ミリオン・エッジを使えば俺の負けだと最初から決まっていたんですか!?」

「攻撃力をコントロールできない限り、反則になります」

 

 いきり立つ琢磨に対して、深雪はあくまで冷静に対応している。むしろ幼子を諭すような声音に変わってさえいる。

 

「じゃあ俺は試合が始まる前から切り札を封じられていたことになる! とんだハンディキャップじゃないですか!」

「条件は同じです。殺傷性の高い魔法は香澄ちゃんたちにも等しく禁止されていました」

「詭弁だ! あいつらは禁止されるような殺傷力の高い魔法を持っていないじゃないか!」

「窒息乱流は十分な殺傷力を持ちます。最初に止めなかったのは、威力がルールの範囲内にコントロールされていたからです。ですが七宝君、貴方はミリオン・エッジの威力を抑える事が出来ていませんでした」

「言いがかりだ! 俺はちゃんと術式を制御していた!」

 

 琢磨の反論はまるで根拠の無い、反射的で感情的で短絡的なものだった。琢磨のミリオン・エッジが十分に加減されたもので無かった事は、この場に立ち会っている全員の目に明らかだった。

 

「服部先輩、七宝君はこう言っていますが?」

 

 深雪は立会人であり、琢磨の上司でもある服部に意見を求めた。

 

「三人の攻撃は制御から外れていた。司波さんが止めていなければ、双方が危険な状態だったことは間違いないだろう」

 

 服部は琢磨だけでなく、香澄たちの魔法も規定違反だと言ったのだが、今の琢磨にはそれを理解するだけの余裕がなかった。

 

「ああ、分かったよ! つまりミリオン・エッジの使用イコール過剰攻撃って事だろ! だったら最初からそう言ってくれれば良かったじゃないか! ミリオン・エッジがルール違反だと分かっていれば、他にも戦い様はあったんだ!」

「七宝……アンタ、自分が言っていることが支離滅裂だって気づいてないの?」

 

 駄々っ子のような言い訳をしている琢磨を、呆れ声でたしなめたのはエリカだった。

 

「深雪が止めなかったら二人に大怪我をさせてたって、さっき自分で認めてたじゃない」

「それは七草が熱乱流を使ったからだ!」

 

 相手がエリカになった途端に高圧的になったことに何人かは眉を顰めたが、エリカは気にも掛けなかった。

 

「それは違うわ。熱乱流が無くてもあの威力は規定違反よ」

「そんなことは無い! 七草が窒素乱流をコントロールできていて、俺がミリオン・エッジをコントロールできていないはずがないじゃないか!」

「あんたが制御できてなかったのは紛れもない事実、そこに香澄たちは関係ないわ」

「俺はミリオン・エッジを完全にコントロールしていた! 司波先輩のジャッジは明らかに七草を贔屓している!」

「贔屓なんかじゃない。あんたの力量が足りてないから制御できなかっただけ、自分の実力不足から目を逸らすのは止めなさい」

「ウィードのアンタに言われたくない!」

 

 琢磨の発言に室内がシン……と静まる。

 逆上して取り返しのつかない失言をしてしまったと、琢磨が我に返った時には、パシッという音と共に二人の上級生が目の前に現れた。

 

「千葉さん……なんで止めたの?」

 

 琢磨に向かって殴りかかった十三束の拳を、エリカが正面から受け止めたのだ。

 

「今のコイツにその価値は無いわ。十三束くんが手を出す意味がない」

 

 エリカはそう言うと十三束に背を向け、琢磨に視線をやった。

 

「七宝、アンタは反則負けに納得してないんでしょ?」

「千葉さん!」

 

 堪らず、という感じで十三束が声を荒げるが、エリカは琢磨に視線を固定したままだ。

 

「アンタはミリオン・エッジをコントロールできてて、フェアなルールなら負けないって証明したいんでしょ?」

「──ああ、その通りだ」

「それならあたしが相手になってあげる。アンタの言うウィードが相手なんだから、断ったりしないわよね?」

 

 エリカと関わりのある生徒ほど、このセリフに対する驚きは大きかった。

 そもそもこの試合は重大な校則違反を犯した琢磨と香澄に対する救済措置。贔屓だろうがイカサマだろうが、琢磨はケチをつけられる立場でないし、エリカは完全な部外者なのだ。それなのにエリカは自ら行動を起こしている。

 

「服部先輩、良いですか?」

 

 視線を向けられた服部は一瞬思案したが、すぐに頷きを返した。

 

「千葉さんが引き受けてくれるというなら問題ない。俺の方で手続きは済ませておこう」

「連戦を言い訳にできないように……試合は明後日にやりましょうか」

「ああ、七宝もそれで構わないな?」

「──はい、問題ありません」

 

 反射的に反論しかけた琢磨だったが、それをすれば試合自体が取り消されそうであるため結局は押し黙ったのだった。

 

 

 

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