ガーディアン解任   作:slo-pe

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タイトルにもある通り九校戦2年目編です。
原作と違い、平和にいきます。
P兵器?知らない子ですね……


二年目九校戦編
二年目九校戦編1


 

 

 国立魔法大学付属魔法科高校は現在、全国に九つ存在する。

 その九校から選りすぐりの魔法科高校生たちが選抜され、その若きプライドを懸けて栄光と挫折の物語を繰り広げる。

 魔法関係者のみならず、一般の観客も多く集める魔法科高校生たちの晴れ舞台。

 

 その舞台が『九校戦』。正式名称・全国魔法科高校親善魔法競技大会。

 

 今年もまた、幕を開ける。

 

 

 

 

 二○九五年六月下旬。

 放課後の生徒会室には、あずさ、五十里、深雪、水波、泉美の生徒会役員。部活連会頭の服部。そして何故か呼ばれた達也が集まっていた。

 席順は長テーブルの片側に深雪、水波、泉美の女性陣。反対に五十里、服部、達也の男性陣。最後に生徒会長であるあずさが誕生日席に座っている。

 

「それではこれより、九校戦代表者選考会議を始めます」

 

 進行役の深雪が宣言すると拍手が起きる、一番大きな拍手をしているのはもちろん泉美だ。達也も周囲に倣って拍手を送り、収まった頃に質問を投げた。

 

「深雪、何故俺がここに呼ばれているんだ?」

「それは私から」

 

 回答を引き受けたのはあずさだ。緊張しているように見えるが、気の所為だろうか。

 

「司波くんにはエンジニアと兼任で、作戦スタッフもお願いしたいんです」

「作戦スタッフというと、去年市原先輩がやっていた」

「そうです。競技の特性と選手の魔法適性を合わせて、戦術や使用魔法を考える。今年は特に重要なポジションになると考えています」

「今年はというと、何か根拠があるので?」

「はい、えっと、その…」

「?」

「おそらくですが、去年波乱が起きすぎたので、今回の九校戦ではルール変更か、最悪競技自体が変更される可能性が高いかなと……」

「ああ…」

 

 言われてみれば確かにその通りだ。去年の九校戦では波乱が起きすぎた。

 思い浮かぶ三つについて言い訳させてもらうと、バトル・ボードがタイムアタックと化し、三人もの大会記録更新が起きたのは、摩利が「これだけ速くスタートがきれれば最初から独走できるんじゃないか?」と言い出して服部や水波がそれに乗っかったからだ。

 クラウド・ボールで水波がやったラスト二十秒全面魔法障壁は、単にその方が省エネだったから。

 ミラージ・バットでの飛行魔法は、発表済みの技術を想定していない運営側が悪い。

 

「ということで司波くん、確実に去年より忙しくなると思いますが、エンジニア兼作戦スタッフ、引き受けてくれますか?」

「分かりました、引き受けましょう」

「ありがとうございます」

 

 あずさはそう言うと、柔らかい椅子に体を預けて楽な体勢を取った。

 

「よかったね、中条さん」

「はい、もう今日の目的は半分くらい達成しました」

 

 穏やかに笑い掛ける五十里に、あずさも達成感溢れた笑みで答える。達也もまさか自分の勧誘が選手決めと同等扱いされているとは思っていなかった。

 それが戦力として同じくらい重要と認識されているなら喜ばしいが、達也の説得が面倒くさいという理由で選手選考と同列視なら少し哀しくなる。

 

「中条がこのタイミングで会議を開いたのは、業務量の過酷さを前もって伝えるためだ」

 

 そんな内心が表情に出ていたのか、隣に座る服部が彼らしいきちきちとした口調で言う。

 

「仮に司波がエンジニアのみで内定していたとして。開催要項が送られてきてから、新競技が大変だから作戦スタッフも兼任してくれと頼んだらおそらくお前は拒むだろう。九校戦は一高の威信を賭けた戦いだ、優秀なやつをみすみす逃す訳にはいかん。だから今日ここで話をした」

 

 服部やあずさ、五十里、ここにはいないが花音。一高三年生幹部の総意として。

 

 ──筋を通す

 ──敵にしてはいけない

 ──ラインを越えた事をしない

 

 これさえ守っていれば、達也は常識人であり寛容である。あと意外と面倒見もいい。

 

「激務を承知で引き受けたからには、きちんと働いてもらうからな」

「了解しました」

 

 達也は幹部たちの想像の精度に驚くと同時、去年以上の忙しさという事実に気を引き締めた。

 

 

 

 生徒会室に集まった面々は、一高生のデータを見ていた。資料は先日行った選手選考用の実技成績を纏めたものだ。

 

「泉美ちゃん、今回仮決めだから議事録を取るだけでいいけど、来月は参加してもらうからそのつもりで話を聞いておいてね」

「分かりました、深雪先輩」

 

 泉美が返事をしてからパソコンを開いた。

 

「まずは花形の競技から決めていこうか。女子のミラージ・バットから、去年も出ていた3年の加藤と、2年の光井と里美でどうだろう?」

 

 最初に声を上げたのは服部だった。

 

「良いと思うよ。実力も申し分ないし、魔法適性もぴったりだ。それに三人とも所属する部活動がバラけてるのがいい」

「これが偏ると各方面から苦情が届くからな」

 

 五十里の了承を得られたものの、服部は苦い顔になる。

 

「このまま女子を決める? 男子のモノリスを先にする?」

「モノリスを先にするか。この競技、うちは例年三年二人、二年一人という不文律がある。去年の経験も踏まえて俺と、二年からは吉田を推すが……司波、何か案はあるか?」

「去年から出ていたという話であれば二年からは森崎もいけるでしょう、三年生なら沢木先輩や桐原先輩ではどうでしょうか? 桐原先輩も去年のエリカのように、剣での物理攻撃も可能になりますし」

「確かに森崎の手札の多さ、沢木や桐原の戦闘能力は魅力だ」

「戦闘能力とは違うけど、三七上(みなかみ)くんの特技もモノリスに向いてそうだよね」

「確かに。だが能力の系統で言えば吉田と被るところがあるし、三七上を入れるなら二年の枠は森崎にした方が無難か」

「でも吉田くんの精霊の視野を共有する魔法、あれがあるだけでもチームの戦術がぐっと広がる。彼を外すのは勿体ないと思うよ」

「難しいところだな」

 

 魔法師は基本的にそれぞれ得手不得手がある。

 

 何を重視して誰を選択するか。

 

 九校戦の戦いは既に始まっていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 七月二日月曜日。期末テストを前にして、生徒たちが実技・筆記試験の対策に励む中、生徒会室に一つの報せが届いた。

 

 放課後、達也は五十里からメールを貰い、生徒会室へと向かった。来週は定期試験だが、生徒会の活動はそんなものに関係なく行われている。達也もテスト前に慌てるような成績ではないので(実技と理論でそれぞれ意味が違うが)、急な呼び出しにも対応可能だった。

 

「お疲れ様です、五十里先輩」

「司波くん、お疲れ様。今日はありがとうね」

「いえ。九校戦の運営委員会から今年の開催要項が送られてきたと伺いましたが」

「うん、そうなんだ。一応皆にメールは送ってあるから、もうそろそろ来ると思うよ」

 

 五十里は大体いつも一番乗りらしく、先ほど生徒会室に来た際に大会委員会からのメールに気づいたとのこと。

 

「ちなみに、どんな内容だったのですか?」

「先に見ておく? 運営委員会も、結構上手くやったと思うよ」

 

 皮肉ではなく素直に称賛する口調で五十里は言う。達也も送られたデータを確認する。

 

「……確かに、上手くやりましたね」

「でしょ?」

 

 去年の大会では、一高への集中攻撃が一線を越えてしまったことに対して、大会委員は何も反応しなかった。そのことで七草や十文字、さらには一条からも厳重抗議が来ていたらしい。

 しかし、今回の競技変更の緻密さを見るに、今年はそういった事は起きなさそうだ。

 

 

 

 あずさや深雪、水波、泉美、最後に服部が揃い、会議が始まる。

 

「では変更された箇所の確認から行います」

 

 あずさが手元のタブレットを見ながら話を進める。

 

「まずはスピード・シューティング、バトル・ボードが外されて、新たにロアー・アンド・ガンナーが追加されました」

「続いてアイス・ピラーズ・ブレイク、ロアー・アンド・ガンナーについて、ソロとペアそれぞれ一組ずつに分かれることとなります」

「また、去年までは一選手最大2種目までの掛け持ちが許可されていましたが、今年から掛け持ちは禁止になります」

「最後に、本戦モノリス・コードは登録選手が三名から四名へ変更、そのうち一名は男女問わない。試合出場者は三名のままなので、試合に応じて選手の入れ替えが可能となりました」

 

 以上ですと、あずさが締める。

 

 今回の改正、運営委員会は本当に上手くやったと思う。

 水波や服部がいるため、レース競技として成立しないであろうバトル・ボードは廃止せざるを得なかった。深雪水波といった二種目優勝をやりそうな選手が多く、女子の優勝独占が予想されたため掛け持ちを禁止とした。この二つは明らかに一高への縛りだ。

 海の七高への配慮も踏まえて新競技にはロアー・アンド・ガンナーを導入、同系統のスピード・シューティングの廃止。動きながらの射撃は三高が力を入れている分野でもあり、この競技は一高よりも三高や七高が有利となるだろう。

 

 ここまではあからさまに一高いじめな内容であるが、最後のモノリス・コードでそれも(一応の)フォローはしている。男女を問わない出場枠という、去年のエリカを前提にしたルール改正。

 もちろん男女では身体能力が違う。ステージによっては不利を受けやすくなったり、魔法やそれ以外でも体に受けるダメージは大きい。その点は選手の入れ替えや女子用プロテクターの着用で対策した。

 

 競技数は減ったものの、新競技やペア制度の導入で目新しさもある。掛け持ちを禁止したことで出場選手の数自体も増えた。モノリス・コードでは選手入れ替えによって戦術ががらっと変わる高校もあるだろう。

 ぱっと見の予想だが、去年のように総合優勝が早めに決まるなんてことも起こりそうにない。ショーとしての側面からすれば有益な変更しかない。

 総じて、大会運営としてはこれ以上ない最適なルール改正だ。

 

「これは…、」

 

「中々厳しいですね」

 

 とはいえ、一高からすれば優勝の計算が大きく狂ったのも事実。バトル・ボードが外されるのは予想していたが、掛け持ち禁止は想像していなかった。

 

 あずさや深雪が唇を引き締めた表情になる。一高が深雪水波雫ほのか服部といった優秀な選手が掛け持ち禁止になる一方で、他校も将輝や真紅郎の掛け持ちができなくなる。その影響はどちらが大きいか、二人とも優勝への点数を計算し直しているのだろう。

 隣の服部と目が合う、こくりと頷きを交わす。

 

「ひとまずメンバー決めを済ませましょう。変更が多いなら早めに周知した方がいい」

「そうだな。期末テスト前忙しくなる時期、出来るだけ早めに動くべきだ」

 

 あずさと深雪の意識が戻ってきた。

 

「そうですね。まずはそこから始めないとっ」

「では始めましょうか。泉美ちゃん、議事録は水波ちゃんに取ってもらうから、今回は貴女主体でやってみて」

「私が、ですか?」

「ええ、多分そんなに複雑な変更は無いし、やりやすいと思うわ」

「…分かりました」

 

 泉美はふぅと息をつくと、ではと周囲を見渡す。

 

「クラウド・ボール、アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードについては、出場選手の重複種目を調整するだけで良いと思うのですが、どうでしょうか?」

 

 泉美の案に答えたのは服部だった。

 

「それで良いと思うが、ピラーズ・ブレイクはソロとペアの組分けが必要だ」

「新人戦は皆初出場なので、実際にペアを組ませてみて、相性で決めるべきだと思います。本戦男子も選手三人の間にほとんど魔法力の差が無いので同様です。本戦女子は魔法特性の関係上、千代田委員長がソロ、深雪先輩と北山先輩がペアでいかがでしょうか?」

 

 その指摘に、泉美は打てば響くような回答をする。服部も「いいんじゃないか」と頷いた。

 

「待ってください」

 

 そこに待ったをかけたのが深雪だ。

 

「今年の私の担当エンジニアは達也さんですので、使用予定の魔法も去年とは違いソロ向きです。なので本戦女子は私と千代田先輩で一度試合をしてみて、よりソロに向いている方を選ぶべきかと」

「司波、司波さんはこう言っているが、その使用予定の魔法はペアでは使えないのか?」

「無理ですね。千代田先輩以上にソロで輝く魔法です」

 

 深雪が使おうとしている魔法は『氷炎地獄(インフェルノ)』というAランクの中規模エリア用振動系魔法。二分した対象エリアの一方の空間内全ての振動エネルギー、運動エネルギーを減速し、その分をもう一方の空間を加熱するエネルギーへと変換する魔法である。

 達也は「ソロで輝く」と言ったがこれは不十分な言い方で、「ソロで完結する」と言った方が正確だ。攻防を一人でこなしてしまうこの魔法は、攻守を分業するペア制度とはあまりに相性が悪い。

 

「分かりました。それではアイス・ピラーズ・ブレイクは各部門選考した選手ごとに試合を行い、その結果で決めるということで。泉美さん、次にお願いします」

「分かりました」

 

 最終的にあずさがそう締めくくって、泉美がまた議題を回す。

 

「では次にモノリス・コードの増えた一枠ですが、この枠は千葉先輩で決定でよろしいでしょうか……?」

「この枠は千葉さんのために作られたようなものだからな。彼女以外を入れるのは流石に……」

 

 泉美の問い掛けに服部も悩んだ表情を浮かべる。正直、戦力としてならエリカ以上の選手はいる。『小通連』により剣での攻撃が可能になったとは言え、あれはエリカ本来の戦い方ではないのだから。

 とはいえ、この枠は明らかにエリカの存在を前提に作られたもの。ここにエリカ以外の選手を入れるとなれば、それなり以上の理由を求められる。

 野球の完全試合と同じだ。八回まで完全試合の投手がいたとして。その投手を九回でも投げさせ打たれても、惜しくも大記録に届かなかったという印象を与えるだけだろう。しかし、もし九回に別の投手をマウンドに送り、その上で打たれたとなれば、観客の印象はガラリと変わる。なぜ代えたんだと、味方であるはずのサポーターからも叩かれるかもしれない。

 モノリス・コードの追加一枠は、こと一高においてそういう扱いだ。

 

「司波、お前は彼女を出しても問題ないと思うか?」

「ステージによっては厳しいですが、メンバー交代を上手く利用すれば問題ないかと」

「そうか。それではモノリスの残り一枠は千葉さんで決まりだな」

「分かりました」

 

 服部の宣言に泉美が頷く。

 

「続いてロアー・アンド・ガンナーですが、ペアの選考はスピード・シューティングとバトル・ボードの候補だった選手から行えば良いと思います」

「ペアはそれで問題ないだろう。ソロはどうする?」

「競技のイメージができていないので何とも言えませんが、おそらく高いレベルでマルチ・キャストの技能が要求されます。そこを考慮する必要があるのではないでしょうか」

「なる程。司波、ソロでは射撃技能と操艇技術のどちらを重視すべきだと思う?」

「ロアー・アンド・ガンナーはバトル・ボードより安定性が見込めますから、移動しながらの射撃技能をより重視すべきと思います」

「そうすると、該当するクラブはSSボード・バイアスロン部、狩猟部、それから……」

 

 その後も泉美はソツなく会議を回し、服部や達也がそれを補助することによって滞りなく出場選手は決まった。

 

 

 

 九校戦の競技種目変更を受けて、最も早く正確な対応をしたのは間違いなく一高だろう。

 

 放課後の会議から一時間ほどで出場選手を決め、校内に正式発表。ペア制度がある競技については、後日ペア決めの練習会を行うことを明記。新しい競技種目に関しても、明日大会の公式サイトに詳細が公表されると補足を付けた上で軽い説明を載せた。

 仮決めの際の選手名簿は公表しておらず、生徒会秘にしていたため、競技変更による各クラブへの説明も最低限で済んだ形だ。

 

 現在生徒会室では、新競技の大会ルールの読み込みが行われていた。何が許可されていて何が禁じられているのか、すべてが手探りの状態であった。選手が集まる練習会までには把握しなければと、全員が穴が開くまでタブレットを眺めていた。

 なお、去年ルールの穴を突く戦術を披露したためか、達也に対して「どういう抜け道がありますか?」という趣旨の質問が何度か向けられたそうな。

 

 

 

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