ガーディアン解任   作:slo-pe

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二年目九校戦編5

 

 

 八月三日、九校戦への出発日。

 一高の選手団は例年どおり、前夜祭パーティ当日午前八時半に学校集合で、そこから大型バスとエンジニア用の作業車に分乗して会場に隣接するホテルへ向かう段取りだ。

 ただ、ほんの少しだけ例年と違うところがあった。

 

 去年までは技術スタッフ全員が作業車で移動していたが、今年は一台に一名ずつ、合計四名が作業車で移動し、残りの四名はバスに乗ることになっている。

 そのバス搭乗者には五十里もいた。彼は事実上作戦スタッフを兼ねているので、他の作戦スタッフと同じくバスに搭乗すべきだ、という理屈で彼の同乗を強く主張したのが誰なのかは言うまでも無いだろう。

 

「むぅぅぅ……」

 

 そんな主張をした張本人である花音は、何故かすごく不満げだった。窓側の席に座った五十里が逃げられないのをいいことに、これでもかというほど密着している。

 

「花音、いい加減機嫌直しなよ。今回は司波くんや千葉さんが正しいよ」

「でも……」

 

 珍しく咎める口調の五十里に、花音の勢いも弱まる。

 花音がこうも気分が落ちているのには理由があった。

 

 一高選手団の人数は、本戦二十五名、新人戦二十名、技術スタッフ八名、作戦スタッフ四名の合計五十七名。例年通り二人一組で宿の部屋を取ると、女子の選手が一人余るのだ。

 当初は三人部屋を取ることで対応しようとしたのだが、ここで花音が主張した。去年のように幹部女子会を行うなら、あずさ用の一人部屋を追加で取ればいいと。それにより人数余りは解消され、花音はエリカと同部屋ということになった。

 

 エリカは達也と恋人同士で、左薬指にシルバー・リングを付けていることからも婚約者に近い間柄と推測される。そしてその達也は五十里と同室。これで動かない花音ではなかった。

 

「何を言っているんですか? 駄目に決まっているでしょう」

「普通にダメでしょ。バカなんですか?」

 

 が、結果は惨敗。達也もエリカも、わざわざ九校戦の舞台で、同級生の前で、同部屋にする理由がなかった。

 

 そういうわけで、五十里と過ごすために策を巡らせた花音としては不機嫌にならざるを得なかったのだ。

 

「花音、今回は旅行で来てるんじゃない。九校戦で勝つために来てるんだから、我儘は程々にね」

「分かってるけど……」

 

 自分のためだったのは事実だが、我儘と切り捨てられるのは納得いかない。そんなやりきれない想いを込めて、抱えていた腕を強く抱きしめた。

 

 

 

 

 今年は途中事故も無く、一高選手団は無事ホテルに着いた。細かなトラブルも起こらず全てが予定どおりに進み、前夜祭パーティの開幕を迎えている。

 達也も既に会場入りしている。また去年と違い、自分の制服を着ていた。その肩に刺繡された八枚ギアのエンブレムを見て、隣にいたエリカが嬉しそうに微笑む。

 

「エリカ、何を笑っているんだ?」

「今年は二人とも制服だなって。それに達也くんはほら、魔工科の制服でしょ。よく似合ってるなぁって」

「どうしたんだ、改めて。もう四ヶ月も見ているはずだぞ?」

 

 達也は少し面食らった顔をしているが、この場において彼は少数派、というか孤立していた。

 

「達也さんのために作られたエンブレムの、借り物ではない制服。達也さん、去年より肩の力が抜けていますよ」

「私もそう思いますよ、達也さん!」

「私も」

 

 張り切って水波のセリフに賛同したほのかに続いて、雫も同意を示す。去年関わりの薄かった深雪、英美、里美スバルの三人も頷いている。

 

 本戦の選手は二年三年関係なく選ばれる。二年生で選ばれたのは代表十三人の内、過半数の七人。

 深雪がアイス・ピラーズ・ブレイクのソロ、雫が花音とのペア、水波がクラウド・ボール、ほのかとスバルがミラージ・バット、英美がロアー・アンド・ガンナーのペア、そしてエリカがモノリス・コードだ。

 現在の達也は隣をエリカが陣取っているとはいえ、複数の美少女たちに囲まれている。傍から見れば、完全にハーレム状態だ。

 

 達也は会場をグルリと見渡した。そこで、彼と同じく女子生徒に囲まれている友人を見つけた。相手も達也に気づいたようだ。もしかしたら視線を感じ取ったのかもしれない。

 同じ三高の制服を着た女子生徒をぞろぞろと引き連れて、一条将輝が達也の方へ歩いてきた。達也の方でも、将輝を出迎えるように歩き出す。ほのかと英美が自然に道を譲り、達也と将輝は背後に女子生徒を従える格好で向かい合った。

 

「久しぶりだな、達也」

「そうだな、直接会うのは論文コンペ以来か」

 

 将輝が名前呼びをしたことで、両女性陣がぎょっとする。そんな事には意識を向けず、達也はもう一人の男子へと声を掛けた。

 

「真紅郎も、久しぶり、か?」

「テレビ電話で顔は見ていたからね、あまり久しぶりという感じじゃないけど。うん、久しぶり達也」

 

 そのまま友好的に会話を始めた三人の様子に、いつ仲良くなったんだと興味深げな視線が集まる。それは両女性陣だけでなく、会場の選手たちの多くがそうであった。

 

「去年は君に完敗だった、でも今年は違う」

 

 しかし、唐突に真紅郎が発した台詞に空気がピリついた。

 

「君の戦略にも、君が調整したCADを使う選手にも勝ってみせる。優勝するのは一高じゃない、僕たち三高だ」

「悪いが、俺たちも負けるつもりはないぞ」

「それでいい。全力で来なければ潰し甲斐がない」

 

 真紅郎、達也、将輝。友好の中に確かに混ざる戦意。敵意ではなく、純粋に高め合う意志。

 張り詰めた空気は、達也がふっと笑みを漏らしたことで終わりを迎えた。

 

「とはいえ競技は明後日からだ。今日は前夜祭、楽しむのが礼儀だ。特にプリンス、お前はな」

「は? なぜ俺なん、だ……」

 

 台詞の途中で達也が自身の後ろを視線で示す。その意図に気づいた将輝は、緊張で顔を強張らせた。

 とはいえ、顔を赤くすることはなく、(魔法の気配がしたため、おそらく血流操作で顔色が変わらないようにしたのだろう)数歩踏み出す。

 

「お久しぶりです、司波さん」

「ええ、ご無沙汰しております、一条さん」

 

 ガチガチに緊張した将輝とは対照的に、深雪は見事な愛想笑いで応えた。そして将輝はその愛想笑いですら、久しぶりすぎてダメージを食らっている。

 その後の会話もなんかこう…さっきまでのカッコいいプリンスはどこへ行ったんだと強く思わされる感じで。

 そんな将輝を見ていられなくなったのか、先ほどまで達也と将輝を挟んでいた女子たちの間に交流が始まっていた。他校ということで少し遠慮はあれど、和気藹々とお喋りをしている。

 

 その後は達也が四高に通っている雫の従兄から文弥と亜夜子を紹介され、お互いに初対面の挨拶をして。

 来賓の挨拶では九島老師が普通に登場して、去年と似たようなことを述べていった。その姿が達也の目には去年より覇気がないように見え、『世界最巧』も歳には勝てないのかと考えていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 時刻はそろそろ夜十時。一高の規定に消灯時間は無く、翌日は休養日とされているため急ぎの調整もない。

 達也は同室の五十里とお互いのベッドに腰掛け話し合っていた。

 

「だからね、司波くんに意見を聞きたくて」

「それは構いませんが、俺の意見が参考になるとは限りませんよ?」

「それでも大丈夫」

「ならいいのですが」

 

 いつになく真剣な表情の五十里に達也も少し引きながら了承する。

 

「それで、何について意見を聞きたいんですか?」

「……花音は、普段は果断即決・有言実行、タフでポジティブ、一高幹部として誇らしいんだけど……その、僕が絡むと別人になるというか、子どもっぽくなるというか」

「端的に言えば馬鹿になりますね」

「うん、そうなんだよ」

 

 今回の部屋交換未遂があったため、先輩に対して馬鹿になるという言葉を使うのに、達也は躊躇いを覚えなかった。

 

「それに最近は少し我儘が過ぎるように思えて。突然部屋に来ることも増えたし、あとこれは去年の話だけど夕食時に翌日の調整で抜けようとしたら引き留められたりして」

「それは……」

 

 ぶっちゃけ邪魔だ。五十里も少なからずそう思っているのだろう。

 

「司波くんはそういう場合どうしてるの? 強く言ったりとかしてる?」

「…すみません、俺たちも喧嘩する事はありますが。研究が忙しい場合はエリカが察してうちに来る頻度を減らしているので。アポ無しで来る事もないですし」

「それはそれは……やっぱりうちの花音か」

「一度厳しく言ってみたらどうですか? 五十里先輩から言われたら千代田先輩はかなり効きそうですし」

「厳しくか、苦手なんだよね」

 

 五十里はうーんうーんと唸る、本当に苦手なのだろう。達也の考えでは、五十里が基本的に穏やかだからこそ、きつく言われた時堪えると思うのだが、苦手なものは仕方がない。

 

「まあこれは僕が頑張るしかないか。九校戦が終わったら話してみるよ」

「頑張ってください」

「……そっ、それで、ここからが本題なんだけど」

 

 突然雰囲気が変わり、あの、えっと、と口ごもる。中性的な容姿の所為か、その動作すらなんだか艶めかしい。

 なんだなんだと達也は五十里の急変を訝しむ。

 

「その、司波くんと千葉さんってどこまで進んでるの?」

「はい?」

「だからその……最後までしてる君にアドバイスを貰えたらなと」

「…俺は逆にあそこまでベタベタしてるのに最後までいってなかった事に驚いているのですが」

「あれは花音の素の距離感なんだ」

 

 小さい頃からあんな感じでねと、昔を懐かしむように五十里は言う。

 

「僕たちは家絡みの許婚だから、高校に入ってからはうちに花音が居候してるんだけど、やっぱり古い家だからね。そういうのは結婚してからって暗黙の了解があるんだ」

「それを破るつもりで?」

「うん、もう普通に我慢できない」

 

 五十里が開き直った様子で断言する、まああれだけベタベタされてればそうなるか。

 

「それで何かアドバイスはないかい?」

「アドバイスですか……家が無理となると外でですけど。そのつもりがない女子をホテルに、というのは無理がありますし……二人で旅行のご予定は?」

「一応九校戦が終わったら二泊三日で」

「ならその二日目の夜に照準を合わせて、旅行中も五十里先輩から手を繋ぐなど、さりげなくスキンシップを取っていつもと違うことを感じさせて。当日の夜は腰周りや太ももなんかにさり気なく手を当ててみたりして。千代田先輩にもしかしてって意識させられたらこっちのもんです、あとは向こうが勝手に想像を膨らませて気持ちを作ってくれます」

「ふむふむ」

「あとはまあ、最終手段、その日の夕食にアルコールを入れるのが一番手っ取り早いと思いますよ」

「それは……いいのかい?」

「年齢に関しては、まあ旅先での事ですしそこまで気にしないでもいいでしょう」

「なるほど……やっぱり効果もあるのかな?」

「酔った勢いで見知らぬ人と関係を持つなんて話もあるくらいですし、雰囲気作りには役立つと思います。泥酔するなら話は別ですが、ほろ酔い程度なら良いんじゃないでしょうか?」

「司波くんは飲んでしたことあるの?」

「一度だけですが」

 

 洋酒入りのチョコを食べて全然酔わなかったエリカが本物を飲んでみたいと言ったことで始まったあの出来事。達也はある程度アルコールが回ると自動で『再成』が発動してしまうためほとんど飲まなかったが、エリカは違った。初めてのアルコールに水波の料理が合わさって、ぐいぐい飲み進めていた。

 酔ったエリカはやばかった。顔が赤らんで目がとろとろしてて少し呂律が回ってなくて動きもふにゃっとしてて、端的に言えば超えろかった。

 あの頃はお互い行為への羞恥が抜けていなかったため。だが、エリカが酔いによって普段以上に乗り気となったことで、達也も遠慮を捨てて盛り上がった。

 ただ、翌朝素面に戻ったエリカが恥ずかしがったため、アルコールありの性交はあの一度しかできていない。

 

 なお、身体への影響を考えて念のため翌朝に『再成』を行ったのだが、『再成』の仕様上何万倍にも圧縮された快楽によって達也が「ひぎっ!」と声を出したことでエリカに不審がられ、結果『再成』のリスクを話すことになったことは記しておく。

 

「……うん、そうだね。魔法師もCADの力を借りているし、お酒の力を借りるのも悪くないかもね」

「一応男性はアルコールで勃たなくなる事もあるそうなので、そこだけは気を付けてくださいね」

「それだけは勘弁だね」

 

 五十里はそう笑って、じゃあ寝ようかと寝支度を始めた。

 

 

 

 

 達也と五十里の相談に乗っていたのと同時刻、二年女子の選手たちはホテル地下の大浴場に来ていた。大浴場と言いながらせいぜい十人前後の収容能力しか無いが、二年女子選手は七人しかいないので問題はなかった。

 

「わぁ……!」

「な、なによ」

「ほのか、去年よりおっきくなってる~」

 

 じりっ、とにじり寄ってくる英美。後退するほのかだったが、その背中はすぐに浴槽の壁にぶつかった。

 

「ほのか」

「何よっ?」

 

 英美から漂ってくる不穏な空気に、ほのかの声は悲鳴に近くなっていた。

 

「今年こそ、むいてもいい?」

「いいわけないでしょ!」

 

 英美の目は笑っている、悪ふざけでやっていることは明らかだ。ただ問題は、悪ふざけであっても冗談で済ませる気が無いところだった。

 助けを求めて、ほのかが浴室を見回した。この場にいるのは湯船に浸かっている雫と、浴槽の縁に腰を下ろし足を湯の中につけているスバルのみ。ほのかは去年の経験から、この二人には頼れないことを知っていた。

 

 ペタっ、ペタっと、足音が聞こえた。

 

 ほのかは救世主が来たと、音がした方向を見やり、一瞬で目を奪われた。ほのかだけではない、先ほどまでほのかの胸に興味津々だった英美も、スバルや雫でさえも、硬直したようにそれを見つめていた。

 そこにいたのはゆったりしたデザインの女性用の湯着を纏った深雪と水波。しかし彼女たちの目を釘付けにしているのは深雪ただ一人だけ。

 

 深雪の湯着姿は去年も見ており、その完璧な肢体に見惚れもした。しかし年齢を重ねて妖艶さも兼ね備えた姿に目が離せない。言葉すら発せない。まるで浴室の時間が止まったかの如き静寂が訪れた。

 

「深雪姉さま、足元滑りやすいのでお気をつけて」

「分かっているわ水波ちゃん。そこまで気を使わなくても大丈夫よ」

 

 その静寂を破ったのは、水波たちだった。二人並んで湯船に浸かる。

 深雪がゆっくりと身体を沈める。身体に貼り付いていた湯着がフワリと揺れた。ほのかはそれをまるで天女の羽衣のようと感じた。深雪が気持ちよさげに、艶めかしく息を吐き出すと、周囲からは息を吞む音がした。

 彼女たちはここから逃げ出すべく腰を上げかけたが、友人と来たこの場でそんな事はできないと湯船に肩まで浸かり直した。

 

 彼女たちの気持ちが水波にはよく分かった。本音を言えば水波も、深雪と一緒に入浴などしたくない。迂闊にもそれに気づいたのは湯船の脇で合流してからだった。女として劣等感を刺激される、だけならまだしも、女としてのアイデンティティまで揺るがされては逃げ出したくもなる。

 深雪も深雪で、先ほど自身に見惚れていた友人をスルーする程度には自分の容姿が優れていることを自覚しているが、まだ認識が甘いと言わざるを得なかった。

 

 二人が普通に会話を始めたことで、他四人の空気もようやく正気を取り戻した。

 

「そういえばエリカは?」

「千代田先輩に捕まってるから遅くなるとは言ってたけど、さすがにそろそろじゃない? ……あ、ほら来た」

 

 雫の質問に答えた英美が指差す。そこには湯着を身につけたエリカがいた。

 

「おお~結構広いわねー」

「エリカ遅いよー」

「ごめんごめん」

 

 エリカは軽く謝って湯船に入った。深雪の肢体を見ても軽く目を奪われただけですぐさま自分の調子を取り戻すあたり、さすがはエリカである。

 なお、エリカの身体にはいつものキスマークはないため、盛り上がり必至の話題を場に提供することはない。去年の経験から温泉に行くかもしれないと深雪から伝えられていたのだ。

 

「それで何の話してたの?」

「んー、特には何も? ほのかのおっぱいおっきいしむいちゃおっかってくらい?」

「ちょっとエイミィ! なんでそれ蒸し返すの!」

「にゃはは」

 

 逸れていた矛先が再び向かってきたほのかが叫ぶ。エリカもほのかの胸元へ視線をやり、ああこれは気になるわと納得した。

 

「制服でも大きいと思ってたけど、ほのか着痩せするのね」

「エリカもそう思うでしょ。こんなご立派なのを持ってるのにほのかったら全然むかせてくれないの」

「むかせるわけないでしょ!」

 

 絶叫するほのかに英美は笑いながら矛先を変えた。

 

「でもエリカもそうじゃない?」

「あたし?」

「そうそう。制服で見るより大きいし、あとはなんかこう…えっち」

 

 シンプルなえっちという表現に、その場にいた他の五人も頷いた。

 

「深雪とはまた別の色気があると言うか……やっぱり司波くん? 司波くんとエッチしてるから?」

「僕も気になるな。あの司波くんが恋人を前にしたらどうなるのか」

 

 英美の質問にスバルも乗っかった。

 

「んー……、まあ……、それなりに?」

 

 湯船のせいだけでなく顔を赤くしたエリカに、その場は甲高い声で満たされるのだった。

 

 

 

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