ガーディアン解任   作:slo-pe

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二年目九校戦編9

 

 

 三日目までの競技が終了し、九校戦本戦は前半戦を終えた。明日からは本戦は一旦休みとなり、四日間一年生のみで行われる新人戦が開始する。

 

 既に夜も更け、食事も入浴も終わり、あとは眠って英気を養うばかりの時間。あずさの部屋では女子幹部とその候補による女子会が開かれていた。

 

「千代田さん、優勝おめでとうございます」 

「ありがとう。中条さんも、クラウド・ボール準優勝おめでとう」

 

 あずさの祝福に花音が笑顔で頷き、同じように祝福で返す。

 

「ありがとうございます。でも結局、司波くんには負けちゃいましたけど」

「同じチームだから良いんじゃない? それにアレはちょっと別よ」

 

 花音のセリフは慰めではあっても気休めではない。技術分野に疎い花音から見ても達也の調整は異次元なのだ。そしてそのCADを使うのが水波である、勝てるわけがない。

 アイス・ピラーズ・ブレイクがソロペア制度になり、花音は自身の得意魔法が使いづらいことに不満を覚えた。だがそれ以上に、達也のCADを携えた深雪と直接対戦することが無くなったと分かって、思わず胸を撫で下ろしたのだから。

 

「競技変更があった時はどうなることかと思いましたが、今年も何とか優勝できそうですね」

「そうね。今日までの成績で総合優勝も大分近づいてきたし、これでようやく安心できるわ」

 

 あずさと花音がほっとした様子でコップを傾ける。

 真由美たち最強世代が卒業したことで、一高は苦戦するのではないかと予想されていた。競技変更も相まってその前評判は強まる一方だった。

 しかし伝統ある一高、しかも今年は史上初の四連覇が掛かった大事な大会。あずさだけでなく花音も少なからずプレッシャーを感じていた。

 

 それが本戦前半戦を終えて、総合得点は一高が460点で一位、三高が290点で二位。その他は団子状態。

 優勝安全圏に入ったと言える点数差であり、少しばかり肩の力が抜けても仕方がないだろう。

 

「深雪さんも水波さんも、優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます、中条会長」

「ありがとうございます」

「二人とも圧倒的だったからね。相手選手が可哀想だったわよ」

 

 深雪と水波は、あずさからの祝福には笑顔を、花音からのそれには苦笑いを返した。示し合わせたわけでもないのに主従で同じ反応をするとは、不思議なものである。

 

「明日からは本戦がお休みとなり、新人戦が始まります。三人とも、頑張ってくださいね」

「「「はい」」」

 

 あずさからの激励に一年生の三人が頷く。

 

 さて、三人というと、生徒会書記の泉美、風紀委員の香澄。将来の生徒会長・風紀委員長候補の双子に加えて、もう一人は船尾春花である。

 彼女は今現在幹部とは無関係なのだが、泉美が幹部女子会に参加すると聞いて「いいないいないいないいないいな」「行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい」と念を送り続けた結果、根負けした泉美があずさに許可を取ったのだ。船尾は風呂上がりの水波を見られたことに加えて、将来の生徒会入りにまた一歩近づいたとほくほく顔だった。

 なお、当の水波からはやっぱこいつやべー女だなという認識が強まったと記しておく。

 

 

 ◆

 

 

 あずさの部屋で幹部女子会が開かれていたのと同時刻。達也と五十里の部屋でも慰労会が開かれていた。

 ただ、ジュース片手に朗らかな雰囲気の女子会とは受ける印象がだいぶ違った。

 

 簡易的に広げられた数個のローテーブルに所狭しと並べられたのは、ピザやチキンなど手掴みで食べられる料理。さすがは食べ盛りの男子高校生、ホテルの夕食もあったにも拘わらず凄い量だ。

 一高選手団の二、三年男子全員が集められたこの部屋は当然人数が多く、床に直座りなこともあって、男子大学生の宅飲みのような雑多な印象が強い。端的に言えば、男臭い空間だった。

 

「当初はどうなることかと思ったが、何とか今年も行けそうだ」

「今日は桐原だけでなく、俺たち棒倒しも好成績を残せたしな。本当に良かった」

 

 安堵の声を漏らした服部に続いたのは、男子アイス・ピラーズ・ブレイクペアに出場した三七上ケリーという男子生徒。金色の髪に黒い肌という珍しい色彩を持ったインド&ブリテン系の三年生だ。

 

 今日の戦績はクラウド・ボールで桐原と水波が優勝。男女共に入賞した選手も一人ずつおり、女子に至っては準優勝も一高だ。

 アイス・ピラーズ・ブレイクペアは、ケリーが出場した男子ペア、花音&雫の女子ペアが共に優勝。ソロは男子が将輝に優勝されたものの三位、女子は言わずもがな深雪が優勝。

 今日開催された六種目のうち、五種目で一高が優勝したのだ。

 

「俺の場合は自分だけの力ってわけじゃねえけどな。司波の調整がなきゃもっと苦戦してた」

「そうだな。司波は今年もエンジニアとして大活躍してくれた。おいっ、司波!」

 

 別のテーブルにてピザを咥えていた達也を、ケリーがちょいちょいと手招きする。達也は食べかけのピザを飲み込んでから立ち上がった。

 

「まあ座れ」

 

 この言葉は男臭いメンバー筆頭の沢木だ。達也はあえて逆らう愚は犯さず、分かりましたと言って無理やりに空けられたスペースに座った。

 

「今日はご苦労だったな」

「いえ、今日に限っては俺は十分な働きができませんでした」

 

 達也は今日の競技で担当選手の半分をあずさと五十里に任せている。競技時間が重なっている以上、選手たちが勝ち進めば試合が重なってしまうのは必然であり、その無理を承知で達也は桐原たちの担当エンジニアに選ばれたのだ。

 

「今日のあれは仕方が無い。最初から分かっていたことだ」

 

 それはこの場の誰もが理解していることだったが、あえて口にするところに、服部の律儀であり頭の固い性格が表れていた。

 

「そうだね。それに司波くんが三高の作戦をドンピシャで当ててくれたおかげで女子ペアの決勝は楽に勝てた」

「その通り。少し抜けたくらいまるで問題にならない働きを見せてくれたからな。君は今日の勝利に間違いなく貢献してくれたぞ」

「これで総合優勝もまあ間違いないだろう。先輩たちにも顔向けできるというものだ」

 

 五十里と沢木に続いて、ケリーがホッとした顔でそう漏らした。彼は三年生になって初めて代表に選ばれた分、余計に伝統が重く圧し掛かっていたのだろう。達也からしてみれば随分早計な話だった。明日からの新人戦や残りの本戦二種目次第ではまだまだ逆転可能な点差なのだ。

 しかし、達也はそれを指摘しなかった。上級生もそんなことは分かっていて、それでもなお安堵が強いのだ。勝って当たり前というプレッシャーの中、結果を残した先輩たちに水を差すような真似はできなかった。

 

 

 

 慰労会という名のどんちゃん騒ぎが終わり、その場は解散となった。三年生は各自部屋に戻り、五十里も他の部屋でシャワーを浴びてくると席を外した。

 すると当然、片付けをするのは二年である。体育会系の悪しき風習とも言えるが、この程度なら誰も文句は言わなかった。

 

 本戦女子は二年生が十三人中七人を占める一方、男子は十二人中四人。エンジニアを含めても六人だった。

 ただ、一部屋の片付けなら六人もいれば十分である。先ほどまで上級生に囲まれていたことも要因なのか、手を動かしながら同時に口も動いていた。

 

「五十嵐、クラウド・ボール入賞おめでとう」

「ありがとう」

 

 森崎の祝福に、五十嵐という男子生徒がはにかんだ笑みを浮かべる。

 

 五十嵐鷹輔(いがらしようすけ)。彼はSSボード・バイアスロン部所属で、百家本流の五十嵐家の人間だ。去年の学年末テストでは、深雪、水波、ほのかに次ぐ総合順位四位を記録している。

 だが、去年出場したクラウド・ボールでは気合が空回りして二回戦敗退、モノリス・コードでも他校のオーバーアタックにより棄権。SSボード・バイアスロン部でも、本番に弱い性格と魔法適性が合わないことで結果が残せていなかった。

 そんな中での九校戦入賞、彼が喜ぶのも当然だった。

 

「でも僕はまだまだだよ。森崎くんはロアガンペア三位だし、尾白くんに至っては棒倒しペアで優勝でしょ」

「俺の場合は三七上先輩のおかげってのがデカいけどな。攻撃だけに集中すればいいからすっげぇ楽だった」

「三七上先輩のあれは超絶技巧だからな。だが俺も三位ではなく、せめて二位には入りたかったな」

 

 悔しそうにする森崎だったが、それを飲み込むと幹比古へ視線を向けた。

 

「あと二年で残っているのは吉田だけか」

「うん、最終二日のリーグ戦だね」

 

 今年からモノリス・コードは総当たりのリーグ戦になった。本戦も新人戦も二日に分けて六つの会場を使い、一チーム八試合を十回戦に分けて行う(つまり試合をしない時間帯が各チーム二回あるということだ)。

 試合数が去年より二つ増えたことで選手の負担は増すが、そこは選手の入れ替えでも対応可能だった。

 

「服部先輩や沢木先輩はもちろん、吉田や千葉も去年活躍していたからな。九校戦、最後は優勝で終わらせてくれよ」

「そのつもりさ」

 

 多少ぶっきらぼうな言い方ではあるが、確かな激励。幹比古は力強く応えた。

 

「桐生と……それと司波も、頑張ってくれよ」

 

 森崎は既に二科生に対する隔意はない。しかし、九校戦という舞台は否が応でも自身の黒歴史を思い出させてしまうため、達也や幹比古と話すときは少し苦い表情になってしまう。

 対して桐生は今でこそ達也と同じクラス、つまりは魔工科の生徒であるが、元々は一科生で森崎とも交流があった。二人への対応に差が出るのも仕方のないことだろう。

 

「エンジニアの腕が選手のパフォーマンス、ひいては順位にも影響することは去年の司波や今年の中条会長が証明している。桐生は新人戦の棒倒しとモノリスで三人、司波はそれ以上に担当選手が多い……頼んだぞ」

「ああ」「おうよ」

 

 達也と桐生はそれに短く、だが確かに頷いた。

 

 

 

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