ガーディアン解任   作:slo-pe

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日常編1

 

 

 新入生勧誘期間を終え、実技の実習も本格化している。

 

「九四〇ms。達也さん、クリアです!」

「やれやれ、三回目でようやくか」

 

 教師が付かない二科生の実習は、課題をクリアして提出する形式であり、時間内なら何度挑戦しても良い。美月のように一回でクリアする生徒も居れば、達也のように二回目以降も挑戦する生徒もいる。

 まあ、ペアの両方がクリアすればお喋りに興じることができるので、楽と言えばそうなのかもしれない。

 

「それにしても意外でした。達也さん、本当に実技が苦手なんですね」

「意外って、結構自己申告してたつもりなんだが」

 

 五〇〇ms以内が優秀な魔法師と評される中、一〇〇〇msを切るのに三回も要した達也は、お世辞にも優秀とは言えない。

 

「いえ、謙遜とばかり思ってまして」

「自分で言うのもなんだけど、実技が人並みに出来たらこのクラスには居なかっただろうね」

「そうですね。達也さんが実技も得意だったら、ちょっと近寄りがたかったでしょうね」

 

 屈託無く笑う美月に達也は苦笑いで応える。だが、美月は首を傾げて心底不思議そうに口を開いた。

 

「達也さん……口惜しくは無いんですか?」

「何が?」

「本当は実力があるのに、実力が無いように評価されて、普通なら口惜しいと思うんです。でも、達也さんはあまり気にしていないみたいだから……」

「処理速度も実力だよ。コンマ一秒が生死を分ける状況だって皆無では無いからね」

 

 答えにくい質問であったので、達也は建前論を選択した。

 

「でも達也さん、実戦を想定するなら、本当はもっと早く発動できるんでしょう?」

 

 だが、美月の「目」はそれを許さなかった。

 

「……なぜそう思う?」

「さっきの実技ですけど、達也さん、三回ともすごくやりにくそうでした。それに、最初の試技のとき、起動式の読み込みと魔法式の構築が並行していました。それを見て思ったんです。達也さんって、この程度の魔法なら、起動式を使わずに直接魔法式を構築できるんじゃないかって」

 

 たった一度の試技で秘匿技術を見抜かれた。美月の「目」は想像していたよりもずっと特別なようだ。

 

「そこまで見られてたとは思わなかった……さすがに良い『目』をしてる」

「それは……」

 

 これ以上美月に踏み込ませないように、達也からも美月の触れられたくない部分に一歩踏み込む。効果があった事に安堵する。

 加えて美月の好奇心を満たしてやるため、自身の技術について少しばかり説明をする事にした。

 

「確かに基礎単一系程度ならもう少し早く発動することもできるけど、その手が使えるのは工程の少ない魔法だけだ。俺には五工程が限界だな」

「五工程あれば、戦闘用には十分だと思うんですけど……」

「俺は戦闘用に魔法を学んでいるんじゃないからね。多工程の魔法を使うにはやはり起動式は必要で、その処理速度が劣っているんだから評価には納得しているよ」

 

 これで大丈夫かなと、達也は美月の様子を確認する。すると、美月は何故か目を潤ませていた。

 

「達也さん……尊敬します」

「は?」

「魔法が使えるから魔法師になる……それが普通なのに、達也さんはしっかりと自分の目標を持ってるんですね……私もこの目をコントロールする為に魔法を勉強してただけですけど、これからしっかり考えてみます!」

 

 何故か隠していたはずの『目』のことまで自分から言及している。いやほんと、どうした?

 

「ちょっと美月、なにエキサイトしてるの?」

「え? ……あっ、すみませんでした」

 

 美月はエリカにツッコミを入れられて、ようやく周りからの視線に気づいたようだ。顔を真っ赤にして俯いている。

 

「それよりも達也くん、ちょっと手伝って」

 

 エリカが測定台から離れたのは達也を呼びに来るためだったらしい。

 

「悪い達也! 俺も教えてくれ!」

 

 その後ろからはペアのレオもやってきた。どうやら、二人仲良く苦戦しているようだ。

 よく見ると同じような顔をしているのが、実習室内にちらほら見受けられる。はじめはエリカとレオだけだったのだが、最近は他の生徒からも頼まれるようになり、いつの間にかE組の専任講師のような扱いになってきているのだ。

 

「はぁ……」

 

 達也にとって実習の時間は、自分がクリアしてからの方が忙しいのであった。

 

 

 

 

「一〇四六ms……ほら、頑張れ。もう一息だ」

「と、遠い……〇.一秒がこんなに遠いなんて知らなかったぜ……」

「バカね、時間は『遠い』とは言わないの。それを言うなら『長い』でしょ」

「エリカちゃん……一〇五二msよ」

「あああぁ! 言わないで! せっかくバカで気分転換してたのに!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 達也はE組の生徒に指導していたのだが、結局エリカとレオは仲良く居残りだった。

 

「レオは照準の設定に時間をかけすぎだ。この手の魔法はピンポイントに座標を絞る必要はない」

「分かっちゃいるんだけどよ……」

「まあ、そうだろうな……仕方ない、先に照準を設定してから起動式を読み込んでみたらどうだ」

「え、そんなことできるのか?」

「その場しのぎの裏技だがな」

「さすがだぜ、達也! もう裏技でもカンニングでも大助かりだ!」

「それで、エリカの方だが……」

「なになに? 裏技でもカンニングでも不正でもいいからお願いします! いい加減お腹空いたよぉ」

 

 二人揃ってカンニングや不正とは人聞きの悪いことをとは思ったが、口にしたのは別のことだった。

 

「すまんが、エリカの方はだな……何故できないのかが分からない」

「そんなぁ! 達也くん、見捨てないでよ!」

「見捨てるつもりはないから安心しろ。とりあえず、パネルの上で両手を重ねて発動してくれ」

「え、なんで?」

「俺の勘だ。上手くいったら説明する」

「分かったわ……よし、ここまで来たら何でもしてやるわよ!」

 

 疲れてテンションがおかしくなっている気もするが、やる気になっているなら問題ないだろう。達也はそんなことを考えながら、レオに裏技のレクチャーをするのだった。

 

 

 

 

「お二人とも、お疲れ様です」

「ようやく終わった~」

「ふぅ……ダンケ、達也」

 

 二人はそれから数回の試技で課題をクリアすることができた。達也が口を開こうとしたちょうどその時、実習室の扉が開いた。

 

「あ、達也さん、終わったんですか?」

「ほんのついさっきね」

 

 実習室に入ってきたのはほのかと雫。

 

「達也さん。これ、頼まれてた物」

「ああ、二人ともありがとう」

 

 なにやら達也たちの会話が分かっていない三人だったが、達也が雫からビニール袋を受け取りレオたちに渡した。中身はサンドウィッチと飲み物だ。

 

「時間がかかりそうだったからな、二人には購買で買ってきてもらったんだ」

「達也くん、もう最高! お腹ペコペコだったのよ~」

「達也、お前ってやつは!」

「達也さん、ありがとうございます」

 

 エリカとレオの反応が大げさなのはいつものことなので気にしない。ほのかたち二人は既に食べ終えているので、飲み物のみ手に持っている。よほど空腹だったのか勢いよく食べ終えると、エリカが思い出したように話題を出した。

 

「それで達也くん、なんであたしは手を重ねただけであそこまで早くなったの?」

「簡単な話だ。エリカは片手で握るCADに慣れている。だからCADとの接点を片手にしてみたんだ」

「え? それだけ?」

「ああ、慣れは大事だろう」

「まあ、そうね……なんか気が抜けちゃったわ」

 

 達也の種明かしが思っていたよりも些細なことだったので拍子抜けしたようだ。

 

「というよりも、達也さんがみんなに指導しているんですか?」

「ああ、俺たちには教員がいないからね」

「あ、すみません……」

 

 ほのかたち一科生には教員がついているので、生徒が教えるという感覚がなかったようだ。一瞬気まずい雰囲気になりかけたが、そこにエリカの明るい声が飛んだ。

 

「達也くんの指導は凄いわよ、クラスの成績がどんどん上がってるんだから」

「確かになぁ、俺なんて達也がいなかったらクリアできたか分かんねぇからな」

「その分俺の順位は下がっていくけどな」

 

 なにやらべた褒めされてくすぐったい気持ちになるが、ふんふんと頷くほのかは興味津々だ。

 

「達也さんはCADの調整もできるそうですし、こういったことが得意なのですよね」

「達也さん、調整もできるの?」

 

 今まで黙っていた雫が、いきなり美月の発言に反応した。

 

「ああ、一応な」

 

 本当は一応どころではないのだが、達也としてはこう返すしかない。

 

「達也くんは魔工師志望だもんね。あ、今度あたしのCADも調整してくれない?」

「お、それじゃあ俺も頼みたいぜ」

「レオは構わないが、エリカのは形状が特殊だからな。遠慮しておくよ」

「ちぇ~」

「達也の調整か、なんかすげえのができそうだな」

「調整ですごいのってなんだよ……」

 

 その後、いつの間にか流れでエリカ以外全員のCADを調整することになってしまった。

 

 

 

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