ガーディアン解任   作:slo-pe

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古都内乱編10

 

 

 十月二十一日、日曜日。

 この日も、達也たちは二手に分かれて調査を行う予定だ。実際に荒事があったことで深刻度がアップしたのか、仲間たちのモチベーションは昨日より上がっていた。

 

 しかし、思わぬアクシデントが発生した。

 

「……すみません、達也さん」

 

 光宣が布団の中から泣きそうな声で謝罪を口にする。彼は今朝、突然熱を出してしまっていた。

 

「気にするな。光宣に責任があるわけじゃない」

「ですが……僕は自分が情けないです」

 

 達也に慰めの言葉を掛けられて、光宣はかえって辛そうに顔を顰めた。

 

「光宣、自分を責めるな。お前は良くやってくれている」

 

 今この部屋にいるのは達也と光宣のみ。他のメンバーは一人を除き、ロビーで待っている。

 

「病気になりやすいのは前もって聞いていた。それはお前の所為じゃないし、この可能性を理解した上でお前に手伝ってもらっていたんだ」

 

 光宣が達也から目を逸らした。

 

「お前は十分力になってくれている。昨日も光宣がいなければあの呪い師の所へはたどり着けなかっただろう」

「……そうでしょうか」

 

 顔を背けたまま、気が弱っている声で光宣が問う。

 

「俺は本気でそう思っている」

 

 光宣が恐る恐る達也の方へ視線を戻す。達也の表情は何時もどおり無愛想なものだった。慈しみにあふれた笑顔、とはお世辞にも言えない。だが愛想笑いのような噓臭さも、彼の顔には無かった。誠実という言葉の意味が偽り無く真面目なことであるなら、達也の眼差しは誠実そのものだった。

 

「それに以前エリカも言っていたが、光宣は気負いすぎだ。与えられるばかりの関係は寂しいものだ。光宣が俺たちのことを友人と思ってくれているなら、今回は頼ってくれ」

「友人……」

 

 光宣はその一言を繰り返すと、縋るような目を達也へ向けた。

 

「僕はまだ……達也さんの友人ですか?」

「ああ」

「……分かりました」

 

 光宣が弱々しく微笑んだ。

 

「水波を残していく。ああ見えてあの子は家事万能だ。それに、光宣と同じで頼ってもらった方が水波も喜ぶ。細かいことでも遠慮なく言ってくれ」

 

 光宣が気恥ずかしそうな表情を見せた。発熱以外の理由で顔に赤みが差している。多分、頼られて喜ぶ質だと見透かされているのが恥ずかしかったのだろう。

 

「荷物はこのまま置いて行くから番を頼む」

 

 これは調査が終わってもそのまま東京に帰ることはなく、一旦ここに戻ってくるという意味だ。

 

「お任せください」

 

 光宣は達也の不器用な優しさを理解して、微笑みを浮かべた。

 

 部屋を出た達也は、一人廊下に控えていた水波に声を掛けた。

 

「押し付けて済まないが、看病を頼む」

「押し付けなど滅相もありません。これは私の仕事だと心得ております。九島さまのお世話はお任せください」

「よろしく頼む。もし容態が急変したら連絡をくれ、俺から藤林さんに連絡してホテルに来てもらう事になっている」

「かしこまりました」

 

 お辞儀をする水波に頷いて、達也は友人たちが待つロビーへ向かう。

 水波はその背中が見えなくなるまで見送ってから扉をノックし、返事を待たず部屋に入る。外の扉を閉め、中の襖を開けると、光宣が布団の上で身体を起こそうとする。水波は音も無く駆け寄り、優しく光宣の両肩を押して彼を元の体勢へ戻した。

 

「九島さん、私にお気遣いはご無用です。そのように為されては、看病の意味が無くなります」

 

 光宣を責めるような言い方は、彼が無理をしないようにあえて悪役を演じるもの。尤も、水波ではどんなに頑張っても悪役は務まらないのだが、それとは関係なく、光宣は水波の真意を誤解しなかった。

 

「分かりました。大人しく寝ています」

 

 これには水波が拍子抜けの表情を浮かべる。だが病人が休むならそれでいいかと、布団から少し離れた場所に行儀よく膝を揃えて座る。携帯端末を開いてお気に入りの恋愛小説を読み返し、時折光宣の様子を確認する。

 

 しばらくして、光宣が目を開け、居心地悪そうな苦笑いを浮かべた。

 

「桜井さん」

「何でしょうか」

「なんだか寝付けなくて、申し訳ないですけど……」

「申し訳ありません。ですが体調が悪化する可能性もありますし、席を外すことは……」

「あ、違うんです。寝られないので何かお話しませんかという意味で……ケホッ、ゴホッ……」

 

 困り眉になる水波へ、光宣は焦って身体を起こし弁明しようとする。だが、それは中断せざるを得なかった。

 

「九島さん、横になってください。私が勘違いしていたのは理解しました」

 

 水波は光宣の両肩を押してそっと布団へ戻した。そして呼吸が落ち着いたのを見計らって口を開く。

 

「何かお話をということですが、体調が悪い九島さんに多くお話させるわけにも参りません。ですので、私から語らせてください」

「それはありがたいですけど……ちなみにどんなお話を?」

「そうですね……去年、達也さんたちが一高で過ごしたお話など如何でしょうか?」

「ぜひ聞きたいです!」

 

 興奮から光宣は身を起こしかけて、水波の視線にそれを止めた。怒りや呆れといった負の感情ではないが、逆らえない圧力が水波の視線にはあった。

 

「ではまずは入学からですね──」

 

 水波は光宣が布団に身を預けたのを確認して、そう語り出した。

 

 

 

「眠ってしまいましたか」

 

 達也たちの物語が、四月の入学式から年末の『シルバー・リング』まで進んだところで、光宣は眠りについた。最初から興味津々で耳を傾けていたため体力が保たなかったのだろう。

 

 水波は達也へ光宣が寝た旨を報告し、再度恋愛小説の読み返しを始めた。

 

 

 

 

 達也がロビーへ下りると、水波と光宣を除く六人が待っていた。

 

「すまない、待たせてしまったな」

 

 言葉だけの謝罪をして、本題へ入る。

 

「水波と光宣が来れないことで、今日の捜索の割り振りを変えようと思う。新国際会議場周辺の警戒を幹比古と深雪の二人、それと将輝に頼みたい」

 

 深雪と幹比古は昨日に引き続き了承したが、将輝は異を唱えた。

 

「達也、荒事になる可能性が高いなら鞍馬山へ行く戦力を減らすのはまずいだろう」

「昨日のこともあるし、幹比古の護衛には複数人付けておきたい。いくら深雪でも、未知の古式魔法を相手に多対一の状況になれば、万が一もあり得る」

「…理屈は分かった。だがなぜ俺なんだ」

 

 将輝は厳しい視線を達也に送る。自分の恋心に配慮してのことなら許さないと、強く主張していた。

 

「俺たちは将輝との連携を取ったことがない。得意魔法も戦闘スタイルも、九校戦で見た以上の事は何も知らない。今回の相手は戦闘のプロ。僅かなミスが致命的な隙に繋がる」

「……その二人なら、良く知っているということか?」

 

 二人と限定したのは、エリカとレオを指してのことだろう。今回は名倉氏の遺品を見せてもらうことから、真由美がこちらに来るのは確定事項だった。

 

「ああ。それに、森林戦という状況に限って言えば、二人とも将輝に劣らない」

「ほぅ?」

 

 将輝の視線から険しさが取れ、代わりに興味の色が混ざる。

 

「千葉さんは分かるが、西城もなのか?」

「ああ」

「分かった」

 

 その自信に満ちた回答に、将輝もようやく了承を返した。

 

「だが捜索で得た情報は共有してくれ。今回の事件は俺の不手際が大きな要因だ、捕縛には俺も協力させてもらう」

「そのつもりだ。それで、俺と七草先輩、エリカ、レオの四人は予定通り、嵐山付近の捜索と名倉氏の遺品の確認だ」

 

 最後にそう締め括って、達也たちは二手に分かれた。

 

 

◇◇◇

 

 

 眠っている光宣の隣で、水波は静かに端末へ視線を落としていた。

 少し熱が高い以外は、光宣の容態は安定している。ホテルでは片付けなければならない家事も無い。偶にはする事がなく手持ち無沙汰も悪くないと、水波はのんびりした気分になっていた。

 

 主従は似るものなのか、深雪や達也──達也は水波の主ではないが──と同様に、水波も周囲の不要な情報をシャットアウトする事が得意であった。

 まだ知り合ったばかりの同じ年頃の男の子、しかも極上の美形と二人きりでも水波は特段気を張ったりはしなかった。

 

 だが、そんな穏やかな時間は唐突に終わりを迎えた。いきなり光宣の呼吸が乱れたのだ。

 枕元へ寄って様子を窺うと、苦しげに吐き出す息は細く、短い。手を当てた額は熱かった。

 水波は情報端末の音声通信機能を立ち上げた。発信先は達也。

 

「もしもし、達也さん……はい、九島さまの容態が急変しまして……はい、熱が上がり呼吸も浅く……いえ、眠ったまま苦しげで……はい、お願いします……かしこまりました、それでは失礼致します」

 

 達也から今後の対応を伝えられて、水波は通話を切った。

 光宣の従姉である藤林がホテルに来ること。それまで医者には見せず薬も与えないこと。それ以外の通常の看病はしても問題ないこと。

 

 水波は手早く二枚のタオルを用意する。乾いたタオルで光宣の首元や顔の汗を拭うと、濡れたタオルを光宣の額に載せた。

 光宣の表情が少し和らいだことに、水波はほっと息を吐く。

 

 とはいえ、自分の素人看病ではこれ以上できることはない。時が経ち、光宣が汗をかけばそれを拭い、額に載せたタオルがぬるくなれば取り替える。

 それを繰り返していると、苦しそうな声と共に光宣が目を開けた。

 

「……さくらいさん?」

「はい、桜井水波です。九島さん、つらいと思いますが、もう少しで藤林さんがいらっしゃいます。それまでご辛抱を」

「そうですか、響子姉さんが……」

 

 光宣は藤林が来ると知って、より一層苦しげな表情になった。

 その心中は、何となくではあるが水波も理解できた。だから、額のタオルに手を重ねて、こう声を掛けた。

 

「大丈夫です。達也さんも、藤林さんも、もちろん私も、迷惑などと思ってはおりません。身体が辛いと心まで滅入ってしまいますが、どうか自分を卑下なさらぬよう」

 

 ゆっくりとした口調で、トントンと緩く額を撫でながら。子どもをあやすようなそれは、今の光宣には絶大な安心感をもたらした。

 

「そうですね……では少し、寝かせてもらいます」

 

 穏やかな笑みを湛えて、光宣は穏やかに目を閉じた。

 

「はい、おやすみなさいませ」

 

 水波は光宣が深く寝入って呼吸が安定するまで、額に当てた手を離すことはなかった。

 

 

 

 

 達也が水波から電話を受けたのは、警察署で名倉の遺品を見せてもらった少し後。名倉の死体が発見された場所へ向かうコミューター内での出来事だった。

 光宣の容態を案じる気持ちはあれど、達也たちは達也たちでやらなければならない事がある。コミューターが到着した頃には、四人は目の前の調査へ集中していた。

 

「ここですか?」

「ええ」

 

 エリカの問いに、真由美が頷く。

 名倉の死体が発見されたのは、渡月橋を臨む桂川の河原、嵐山公園中之島地区の側。桂川が南へ折れ曲がる直前の、小さな砂州が点在するあたりだ。

 

「達也くん、どういう状況だったと思う? 名倉さんがここに立っていて犯人が近づいて来たのか、犯人が先に来ていて名倉さんが近寄っていったのか」

「分からないですね」

 

 真由美の問いに、達也は即答する。

 

「考えても結論は出ないでしょう。そもそも名倉さんと犯人が待ち合わせをしていたのか、名倉さんが犯人に一方的に襲われたのか、それすら分かりません」

「確かに、その通りだわ……」

 

「ならこれからどうするよ。ここには何も手かがりは無さそうだし、周公瑾が潜伏してたって場所に行くか?」

「そうだな」

 

 レオの提案に、達也たちはその場をあとにした。

 

 

 

 達也たちは昨日清水寺参道の豆腐料理屋で入手した手掛かりの地、周公瑾が潜伏していたという場所へ向かう。

 桂川のこちら側ではなく、渡月橋を渡って上流へ。と言っても保津峡まで遡るのではなく、そのずっと手前の嵐山公園亀山地区、小倉山南東部丘陵地を登っていく。

 

 迷いなき足取りで歩くことしばらく、達也が急に立ち止まった。わずかに遅れてエリカたちも立ち止まる。

 

「達也くん……?」

「すみません、やられました。精神干渉魔法──結界です」

 

 どうしたのかと訊ねた真由美は、達也の言葉によりその違和感に気付いた。

 今日は日曜日だ。紅葉に彩られたこのハイキングコースは、先ほどまでちらほらと観光客がいた。しかし現在、周囲には達也たち四人を除いて誰一人いなくなっていた。

 

「ほんと、全然気付けないわねこの結界」

「それな。事前に注意されてても、言われるまで違和感の欠片すら感じなかったぜ」

 

 エリカが日傘を一振りして、銀鞭とも呼ぶべき武装一体型CADを露わにする。レオはポケットからナックルダスター型のCADを取り出して両手にはめ、戦闘準備を完了させた。

 エリカとレオ、二人のCADは達也が用意したものであり、レオに至っては服の下の完全思考型の補助デバイスも手伝いの礼ということで達也が提供した。

 

「達也くん、相手の戦力は分かるかしら」

 

 真由美は手首に巻いたCADに指を沿わせており、こちらも戦闘準備は整っている。

 

「数は十三、そのうち一人は結界を張った魔法師です。残りは前後に六ずつ……前は俺が処理しますので、後ろはお願いします」

「分かったわ」

 

 真由美が了承する。それを待っていたわけではないだろうが、その直後に敵の魔法が発動した。

 

「はっ!」

 

 敵の初撃に反応したのはエリカだった。四人目掛けて降り注いだ鬼火を、エリカは一つ残らず打ち落とした。続けざまに襲い来る鬼火の第二波、第三波も、難なく迎撃する。

 鬼火の雨が止む。しかし、それで襲撃が終わりであるはずもない。

 

 今度は左右の竹林から細い紐が伸びる。青、赤、白、黒、黄の五色で編まれた組紐。それを達也は自身に届く前に摑み取った。

 キャスト・ジャミングに似たノイズが組紐から伝わってくる。

 

(密教系古式魔法師が使う羂索(けんさく)か!)

 

 組紐を相手に巻き付け、紐を通して想子(サイオン)のノイズを直接流し込むことで、魔法発動を封じる技術だ。

 達也は羂索そのものを分解せず、送り込まれてくるノイズのみを分解した。そして両手に摑んだ紐を力一杯引っ張る。

 

 達也は力が強いといっても、人外じみた怪力を誇るわけではない。本来なら、片手ずつで一度に二人の人間を引きずり出すほどの腕力はない。

 だが、彼らは思いも寄らない方法で自分たちの魔法を破られて呆然としていた。その隙を突かれて、隠れていた場所から引っ張り出されたのである。

 

 達也に引きずり出された二人の魔法師、その四肢の付け根に針で突いたような細い穴が穿たれ、一斉に血を噴いた。四つの微小な傷が、神経を直接やすりで削るに等しい激痛をもたらし、二人の意識を刈り取った。

 突然仲間が倒れたことで、竹林から動揺が漏れる。達也がそんな隙を逃すはずもなく、瞬時に木々の向こう側に回り込んだ。

 立て続けに悲鳴が上がる。達也の部分分解で身体に穴を穿たれたことによる苦痛の叫びだった。

 

 

 

 一方、真由美たちへ伸びる羂索は、真由美の起こした突風により押し戻される。風そのものは魔法の結果であって、魔法発動を阻害する羂索の影響を受けていない。

 続けて真由美が魔法を行使した。

 

『ドライ・ブリザード』

得意魔法「魔弾の射手」の原形である、ドライアイスの雹を降らせる魔法。

 

 振り注ぐドライアイスの速度は音速に遥か及ばぬ時速五百~六百キロ。弾丸も鉛弾に比べれば随分軽い。だが、魔法で固められた弾が人の皮膚と肉を貫くには十分な速度だ。

 竹林の中から六人の男があたふたと転がり出てくる。重傷を負っている様子が無いのは、ドライアイスの銃弾から魔法で身を守ったのだろう。それでも手足に何ヶ所も血が滲んでいた。

 

 六人の魔法師は傷を負いながらも印を結んだ。相手は密教系の古式魔法師と分かっている。だからその予備動作に戸惑いは無い。

 エリカの背後で起動式が展開される気配がした。真由美が魔法の発動態勢に入っているのだ。

 

 エリカは真由美の実力を良く理解している。十師族、七草家の長女。一高の元生徒会長で、遠距離精密射撃魔法の天才。だが実力はあれど、実戦経験はあまり無いのだろう。

 先ほどの『ドライ・ブリザード』。あの魔法はわざと威力が落としていたと、エリカは見ただけで分かった。

 手加減をした結果、相手の無力化に失敗している。敵の燻り出しには成功しているが、これは相手が間抜けだっただけだ。スピードで劣る古式魔法師が現代魔法師の正面に姿を曝すなど、下策と言うべきだった。

 

 真由美の魔法は戦闘を上手く進めるための過程にはなるが、相手を沈黙させるには至らない。それはエリカとレオの役目だと考え、武装一体型CADに想子を流す。

 

 だが、エリカが敵へ踏み出そうとした瞬間、古式魔法師が一言叫んだ。

 

「カン!」

 

 その直後、術者の右手が一斉に燃え上がった。

 

「何だこれ!?」

「敵の魔法よ! それ以外はどうでも良いことでしょ!」

 

 エリカは咄嗟に攻撃を取り止め、レオにそう怒鳴り返した。

 幻影とは思えない。いや、幻影ではない。ゆったりと作られた男たちの服が真っ先に燃えている。右手の肘から先は早くも黒く炭化し、タンパクの焼ける嫌な臭いが鼻をつく。

 

「うっ……!」

 

 エリカと真由美が口を押さえた。その光景よりもその臭いに吐き気を催したようだ。

 驚愕に囚われ、エリカたちは攻撃することを忘れて、その光景を凝視していた。燃え続ける右手から、炎で作られた剣が出て来るまでは。

 渦巻く炎が竜のように纏わり付く諸刃の直剣、の形をした炎。もしこの場に幹比古が居たら、その剣をこう呼んでいたに違いない。俱利伽羅剣(くりからけん)、と。

 

 炎の剣を構えた男が二人、突っ込んで来た。エリカは六人全員、一斉でなかったことに疑問を覚えたが、それと同時に術者の顔に苦悶の表情が浮かんでいることに気が付いた。

 エリカはこの術式が、本人の意思によるものではないと理解した。

 

 エリカの心を静かな怒りが満たす。

 

 ──この魔法師たちは、操り人形だ。

 ──糸で四肢を操る代わりに、魔法で操られたマリオネット。

 

 エリカは銀鞭に想子を纏わせる。

 

 ──魔法師を使い捨てる炎、しかもそれが剣を形作っているときた。

 ──そんなクソみたいな魔法、許せるはずがない。

 

 エリカの姿が掻き消えた。その直後、想子の刃が振るわれた。

 

『サイオン・ブレード』

 

 外から押し付けられた六つの魔法式は、エリカによって全て斬り裂かれた。

 六人の術者の右腕で燃え盛る炎が、酸素が断たれたかのごとく消え去る。

 

 術者たちは自身を焼いていた炎が消えたことで、動きに精彩を取り戻した。一斉にエリカへと襲いかかる。

 だが、彼らがエリカへ到達する前に、その身体が浮き上がった。

 

『ベクトル反転障壁』

 

 真由美が展開した魔法によって六人の術者は跳ね返され、隙だらけの体勢を晒した。

 

「うりぁあ!」

 

 レオが吼えた。彼の拳が唸りを上げて、術者の胴に次々と叩き込まれる。

 

「──しっ!」

 

 エリカの振るう銀鞭が、術者を的確に打ち抜いていく。

 

 真由美により作られた隙を、レオとエリカで三人ずつ。六人の術者は、三人の連携により全員が意識を奪われたのだった。

 

 

 

 達也が茂みの奥から敵魔法師を引きずって、次々と路上に投げ捨てる。密教系の古式魔法師たちはそれなりに若そうだが、方術士の男はかなりの高齢、少なくとも六十歳以上に見える。

 乱暴に引きずられた所為で意識を回復していた者もいたが、達也は面倒を起こされる前に再度意識を奪った。

 

「達也くん、これからどうするべきだと思う?」

「大人しく警察に引き渡すのが賢明でしょう。本来であればこいつらを訊問すべきなのでしょうが、素直に答えるとは思えませんし、下手をすれば拷問……不当逮捕、脅迫、暴行の容疑で俺たちの方が不利になります」

「正当防衛を主張できる範囲に収めておくべきってことよね」

「ええ。それに、彼らを倒したことで結界も無くなりました。じきに人が来るでしょうから、こいつらをここに放置するわけにもいきません」

 

 眉を顰め、口をへの字に曲げて考え込んでいた真由美が、諦めたようにため息を吐いた。

 

「そうね。警察に来てもらいましょうか」

「先輩、あたしが警察に連絡します」

 

 そう言いながら、エリカは既に情報端末を取り出している。

 

「エリカちゃん、お願いするわね」

 

 エリカが警察に電話を掛け、真由美とレオの目はエリカに向けられている。

 一方で、達也は地面に転がる密教系古式魔法師を、焦点の合わない目でじっと見詰めていた。真由美もレオも、達也の行動に気づいていない。

 

「達也くん? 何してるの?」

 

 気づいたのは電話を終えたエリカだった。

 

「こいつらのアジトを探っていた」

「……どうやって?」

 

 エリカはこの問いがマナー違反であると理解していたが、それでも聞かずにはいられなかった。口にはしなかったものの、真由美もレオも同じ目をしていた。

 

「俺の『再成』、その原理については憶えているか?」

「そりゃもちろん。エイドスの変更履歴を遡って、過去のエイドスをフルコピーしてって…………そういうこと?」

「そういう事だ」

 

 エリカはセリフの途中で自力で答えにたどり着き、達也もそれを肯定した。

 達也の『再成』は外傷を負う前のエイドスをフルコピーするために、エイドスの変更履歴を最大で二十四時間遡る。それを応用すれば、対象が何をしていたのか全て読み取ることができる。

 

「エイドスの変更履歴から、こいつらが『どこから来たのか』のデータを読み取った。幸い一日以内にアジトに寄っていたようだったから、その場所も判明した」

「警察も真っ青な捜査能力ね……」

「捜査っつーか地獄の裁判官か何かだろこれ……」

 

 真由美は開いた口が塞がらず、エリカやレオですらそんな言葉しか返せなかった。

 

「この古式魔法師が所属しているグループの、アジトの座標は…………ここだ」

 

 達也はそんな三人の反応を流した。情報端末に呼び出した地図に位置情報をピン留めして、その画面を掲げる。

 

「事情聴取が終わり次第、ここへ向かいましょうか」

 

 三人は呆然と頷くのだった。

 

 

 

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