TSママ、異世界を行く   作:オギャアデバブゥ

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ママと雨の季節

 

 

◆◆

 

 

 

「みどりみどり!」

 

「わふう、たべられるかな??」

 

「みずがいっぱい、いっぱいあるよー!」

 

 大雨が去ると、空に広がるのは一面の青空。

 

 常の死の荒野は、ふたつの太陽で燃え上がるような空だが、今はどこまでも透き通り涼し気ですらある。気化熱の影響だろう、吹き抜ける風も冷たくさわやかだ。

 

 そして待ちに待った空の恵みを、大自然は逃さない。一晩で、荒れ果て乾き果てた死の荒野は、芽吹く緑に覆われるつかの間の楽園と化していた。

 

 荒れ果てた大地に刻まれた滑落を清らかな水が流れ、地面の下からは芽吹いた双葉が緑色に輝いている。枯れ木のようだった木々も、水を受けて潤ったように若葉を広げていた。

 

 あの荒れ果てた砂と石の世界が、まるで春が来たようだ。

 

 その喜びに満ちた自然の中を、子供達がはしゃぎながら駆けずり回っている。

 

 思い思いに緑を堪能する子供達を、大人たちはまぶしい物を見るように見守っていた。

 

 私の隣に、一匹の老コボルドがやってきて耳打ちする。

 

「……いつもであれば、こうして恵みを目にする事ができるコボルドの子供は、10人に一人でした。ですが、今回は生まれた全ての子供達が、こうして雫を見る事ができました。これも全て、ママ様のおかげでございます」

 

「い、いや、私はできる事をしただけなので……スキルだよりだし……」

 

 正直私自身は何もしてないに等しいわけだし。ただ、スキルの結果を回りに伝えただけだ。

 

 それを信じて、従ってくれたコボルド達の決断の結果が、そうなっただけである。

 

「ご謙遜を。まあ、そういうお方ですから、私達も信頼できるのですがね」

 

「ええと、まあ。それよりも、やれる事をやりましょう。雨期は短いんでしょう?」

 

「そうですな。この恵みは太陽が10のぼる程の間しか続きません。その後にまつのは、また長い長い乾きの季節です」

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 

 まずはこの大雨で、周囲がどうなっているのか、スキルに加えて実際にコボルド達と共に出歩いて確認する。

 

「西に大きな湖ができている、って話だったけど、どうかな……」

 

「あ、あれを見てください! ママ様、ほら」

 

「おお……粘土採掘場が、でかい池になってる……」

 

 荒野の一角にある、つるりとした粘土層がむき出しになっていた場所。くぼんでいたし、乾眠している魚がたくさんいるからそういう事だとはわかっていたが、実際に目にするとなかなか感動する。

 

 向こう側が霞んで見えるほどの大きな湖。覗き込むと、透き通った水の底で、早くも小さな生き物がたくさん蠢いているのが見えてた。

 

 耐久卵で乾季を乗り越えた、無数の甲殻類。と、水底の泥を巻き上げて、それを捕食する影があった。

 

 眠りについていた魚たちが目覚めて、エサを食べているのだ。雨が途絶えれば、再び灼熱によってこの湖は干上がる。そうなる前に餌を食べ、栄養を貯え、卵を産んで種を繋いでいかなければならない。

 

 そしてその命の輪廻に与ろうと、空にはいくつもの影が舞っている。鳥たちだ。

 

 普段はどこにいるのかもわからない無数の鳥が湖におりてきて、思い思いに魚をむさぼっている。渡り鳥だろうか?

 

 彼らもまた、この雨期の恩恵にあずかっているのだろう。

 

「よーし、水を汲んで戻るぞ」

 

「魚はいいんです?」

 

「今はほかにも食べる物がたくさんあるしな! 採りすぎると次に続かないからな、ちょっとは遠慮しよう」

 

 スキルで確認した所、芽吹いてる新芽とかも食べれるのがあるし、この短期間に実を実らせる植物もあるらしい。魚はあえて取らずに、また乾季がやってきた時、掘り出して食べる方がいいだろう。資源の継続的利用には管理が必要である。

 

 まあその辺をコボルド達に言い聞かせるのはなかなか骨が折れるかと思ったが、意外にも彼らは素直にうなずいた。

 

「そうですね、ママがそういうなら……」

 

「俺も気になるなあ、今しか食べられない食べ物。そういうのがあるなんて知らなかった」

 

「ふふふ、まあ任せたまえ。ほら、さっそく見えてきた。あの茂み、あの新芽が食べられるらしい」

 

 帰り道でさっそく緑の新芽を見つける。この新芽、ポキリと折れば癖もえぐみもなくタンパクな味で食べられるとのスキルの知らせだ。

 

 めちゃくちゃたくさんあるから、これっぽちの人数で木が枯れるほどとってしまう事もない。ちょっとしたお土産気分でむしり、いくつかは自分達で食べながら集落に戻る。

 

「ふむ。肉厚で、ほんのり甘い。いいなこれ」

 

「おいしい! おいしい!!」

 

「うまい! うまい!!」

 

 味付けしてないメンマみてーだな、ともちゃもちゃ食べる私の後ろでは、水瓶を抱えたコボルド達が夢中になってむしゃむしゃしてる。

 

 なんか、ちょっと様子が変だぞ……。まさか変な成分とか含まれてないよな?

 

『回答:彼らの味覚は人間のそれとは少し違います。マスターには薄味でも彼らにはクリティカルだったものと思われます』

 

「まあそういう事ならいいけど……」

 

 集落での主食のロコモも私からすると無味無臭だしな……正直あれもどうにかしたいけど。

 

 そんなこんなで集落に戻ると、今度は今度でこっちがちょっと様子がおかしい。

 

 集落の出入り口からでもすぐわかるほど、全体の空気が浮ついている。なんだ? 何かあったか?

 

「様子がおかしいな……」

 

「あ、ママ。返ってきた!」

 

「サブロー。どうした、何かあったのか?」

 

 とりあえず担いでいた水瓶を降ろしていると、とててて、と我が子が走ってくる。短い手足で精いっぱい急いでやってきた我が子を、膝をついて抱きとめる。

 

「むみぃ。えっとね、えっとね、ママが来たの」

 

「?」

 

 え、私はここにいるけど。

 

「ママ、じゃなかった。ママと同じのが、きたの。落ちてて、拾ったって」

 

「……人間? 私以外の人間が?」

 

「そうなの。人間、ママの他の人間! あっち!」

 

 私は抱きかかえたサブローに案内されて集落の中に進む。

 

 サブローが指し示すのは老コボルドの家だ。出入口にコボルド達が集まっているのに声をかけてどいてもらい中にあがると、奥でベッドに数人のコボルドが集まり、何か作業をしているのが見えた。

 

「ええと……水は飲ませたし……あとは……」

 

「あっ、ママが帰ってきた! よかった、これでなんとかなる」

 

「あ、ああ、帰ってきた。それで、なんだ? 来客か?」

 

 老コボルドに受け答えしつつ、ベッドの上を覗き込む。

 

 薄汚れた年季の入ったベッド。その上に寝かされているのは、無精ひげの痩せこけた中年だった。

 

 

 

◆◆

 

 

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