TSママ、異世界を行く 作:オギャアデバブゥ
「いやはや、本当にありがとうございます……」
「いえいえ。困ったときはお互い様ですから」
意識を取り戻した男性をまかされた私。私は営業スマイルを浮かべつつ、スキルも活用して男の相手をしていた。
『回答:ラヴェル・クーマシー。行商人。懐にナイフを持っています。思想は中立、亜人種に対する差別意識などは確認できません』
「それにしても災難でしたね。ええとその、もしかして死の荒野を越えようとしたんですか?」
「ええ、まあ。もちろん無謀ではありませんよ、ここには何度か来た事があります。雨期の間は、死の荒野といっても安全に行き来できますので。ただ、今回はちょっと直前の砂嵐がいつもと違っていて、巻き込まれてしまいまして……。
おかげ様でこのありさまです、と苦笑する男性。
私は頷き返しつつ、傍らで様子を見守っている老コボルドにちらりと視線で合図する。意図を理解して、老コボルドはこくり、と頷いた。
「こちらの方はラヴェルさん。時々、この集落に商売にいらっしゃるのです」
「……失礼ですが、この集落には商売のタネになるような物はないかと思われますが。何故わざわざ、危険を冒して?」
「いやまあ、商人というのは強欲な生き物でして。もしかしたら、何か商売のタネになるかもしれないと、変わった所には手を伸ばしたくなるのですよ。確かにここは物資は困窮していますが、売り物になる物がない、という訳ではないですし。死の荒野からの特産品、というのは、意外とセールスになるものです」
ふむぅ……? 具体的にはどんな?
『回答:人類の間では亜人種に対する差別意識が普遍的に存在していますが、一方で無知故に、それと物品が結びつかないケースも多々あります。コボルド族の毛皮を用いた布製品などは品質が高く、希少品としてそれなりの値段が付きます。また彼らの牙も、場合によっては工芸品の材料とされるようです』
なるほど。そういや私が着てるコートも彼らが作ったものだったな。見た目とは裏腹に手先が結構器用なんだよね、コボルド達。
「ラヴェルさんとは、毛編みの工芸品と金属製品などを交換したりしていただいていたのです。まあ、その大半はママ様がいらっしゃったときには使い潰してしまっていたのですが……」
「ああ……そういえば集落の中にちょくちょく、使われてる道具レベルと釣り合わないものがあったな。扉の蝶番とか。行商人から購入してたのか」
「はは、そういう事になります。需要を捉えて、安く仕入れて高く売るのが商売とはいえ、少々ぼったくり価格のようで気がひけるのですが……」
困ったように照れ笑いする行商人さん。まあ、私が居ない時の事の話だし、ここらで蝶番や螺子のような部品は確かに値千金の価値がある、取引としては申し分ないというのは私も同意見だ。まあ今後は私も口を挟ませてもらうから、そんな甘い商売にはならんだろうが。残念だったな。
と、そこでラヴェル氏がげほげほ、と咳き込んだ。
見れば顔色もまだ青い。ちょっと無理をさせてしまったか。
「なるほど、事情は分かりました。無理なさらず、ゆっくり休んでいってください」
「ありがとうございます。ところで、その、今更なのですが……その……貴方は?」
「私? まあコボルドの里にお世話になっているただの小娘です」
肩を竦めて答えるが、それに異を唱える声があった。
「ママだよ! 僕のママ! みんなのママ!」
「これ、サブロー!」
「ママ……?」
行商人がきょとんとした顔をする。その視線が素早く私の顔とサブローの間で往復して、続けて私の胸を見た。
おい。
「今、その胸で母親は無いでしょとか思いました?」
「いいいいいいいえ、そんな滅相もない!?」
いや今確実に思っただろ。目が泳ぎまくってるし。
「……はぁ。故あって私が引き取って育てているんです。お腹を痛めた子じゃありません」
「あ、ああ、なるほど。それにしてはよく懐いていますね」
「素直でよい子達ですので」
腰あたりに抱き着くようにしてじゃれてくるサブローの頭をワシワシと撫でまわす。くすぐったそうに眼を細めたサブローが、耳をぺたんと倒して尻尾をちぎれんばかりに降りしきった。
「とにかく、命が助かってよかったです。お大事に」
「ええ、ええ。体調が回復するまで、どうぞ遠慮なく」
「本当に申し訳ありません……」
ぐったりとベッドに身を預けるラヴェルさん。本当に体調が悪そうなので、これ以上邪魔をせずに辞退する。じゃれついてくるサブローの両肩に手を回して、ぐいぐいと押し出すようにして家を後にする。
「わはー」
「ほれほれー」
新手の遊びだと思ったらしく、サブローはおとなしく押されてダッシュ。私達がそのまま広場に向かうと、それを見た子供たちが僕も僕もと集まってきて、忽ち電車ごっこの有様になってしまった。
この世界にまだ電車はないはずなので、こういう場合は何て言うんだろうね。ムカデごっこ?
「わんわん!」
「わふぅん!」
そのまま、私はお昼寝の時間まで子供たちを遊ばせるのだった。