TSママ、異世界を行く   作:オギャアデバブゥ

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『ママと西風』

 

 

 

 

 

「それでは皆さん、さようなら。この御恩は、必ず!」

 

「わふぅん! ママ上、元気でね!」

 

「お土産期待しててね!」

 

 翌日早朝、集落から去る馬車を皆で見送る。いや、この場合は犬車か? どっちでもいいか。

 

 しずしずと頭を下げるラヴェルさんが馬車に乗り込むと、二匹のコボルド達はせっせこせっせこ、縄を引っ張って走り出す。

 

 ゆっくりと動き出した馬車がやがて加速し、轍をのこして進みだす。

 

 荒野の向こう、立ち昇り始める蜃気楼の彼方に馬車が消えてしまうまで、私達は手を振ってそれを見送った。

 

「いっちゃった……」

 

 抱きかかえられ、指を加えるイチローが寂しそうに呟く。大分重たくなってきたその体を抱えなおし、私は頬を寄せて問いかけた。

 

「心配?」

 

「うん……雨季も終わっちゃったし……」

 

「まだ風が吹いていないから大丈夫よ。見た感じ、まだまだ水たまりが残っているし……水も食料もたくさん持たせたからね」

 

 とはいえ、全く不安がないという訳ではない。

 

 少なくとも、あの二匹のコボルドがしばらく帰ってこれないのは事実だ。人間の街についた頃には、死の荒野は短い雨季も終わり名前通りの死の世界である。

 

 二匹が帰ってくるのは最短でも次の雨季の始まり頃。それまでラヴェルさんが面倒を見てくれるというし、まあ実際良い社会勉強だと思うが、人類社会ではコボルドは差別対象だというし。

 

 心配だ……。

 

 しかし、それを子供たちに言ってもしょうがない。表向き、何の心配のないように笑顔で振舞い、私達は足元に身を寄せる子供たちを促した。

 

「さあ、皆。戻ってご飯にしましょう」

 

「はーい」

 

「わーい、ごはんごはん」

 

 尻尾をふりふり、家路につく子供たち。ゆさゆさ揺れる尻尾が服に擦れて、ふふ、くすぐったい。

 

 

 

 そして、そう。

 

 ご飯……ご飯である。

 

 雨季が終わり、集落の外は空っ風が吹いている。その風の音を聞きながら、私は家の中で頭を捻っていた。

 

 目の前にあるのは、皿の上に山積みにされたロコモの実である。

 

 言わずと知れたコボルド達の主食ではあるが、正直、栄養価が足りているかとか、収穫量が十分かというと、とてもそうとは言い難い。

 

 これを何とかできないものか。

 

 つまり品種改良がしたい。子供たちが大きくなって、四六時中面倒を見なくてよくなった分、その時間を使ってどうにかできないだろうか。

 

「よし。とにかく、実際に生えている場所を見てこよう」

 

 皿を片付けてコートを羽織ると、襤褸布を引きずってシローがぽてぽて歩いてきた。どうやらお昼寝から一足早く目が覚めたらしい。

 

「ママ、どこかでかけるの? 僕もいくぅー」

 

「ええと。遊びに行くわけじゃないわよ? シローは家にいなさい」

 

「ええ、やだー! ママと一緒がいい!!」

 

 地団駄を踏んで声を上げるシロー。

 

 お、おぉう。聞き分けがいいはずの我が子の反抗……これがイヤイヤ期という奴か?

 

 それはともかく、そんな大声を上げると、他の子達が起きてきてしまうというか……。

 

「何? 何? ママ、でかけるの?」

 

「僕もいくぅー!」

 

 ああ、ああー。ほら、大声で子供たちが皆起きてきてしまった……。

 

「な、なんでもないわよー。お仕事、お仕事だから! 村の為にちょっとね。つまらないから、無理してこなくても……」

 

「行くー!!」

 

「やだ僕も行くぅー!!」

 

 ええぇー……。どうしよ……。

 

 手間がかからなくなってきたのは嬉しいんだけど、こういう時はどうすればいいんだろ。教えて世の中のパパさんママさん! 私に知恵を!

 

『回答:諦めて激流に流されましょう。幼い子供のイヤイヤに親は無力です。無理に意見を封殺するのは教育にも悪いと思われます。我が儘をいうのは親を信頼している証拠でもあります』

 

 うええ……。そんな事言われたら、納得するしかないじゃん……。

 

 ここに私の味方はいないのか、ぐすんっ。

 

 はあ、仕方ない……。

 

 そんなこんなで、子供たちが熱さや砂で倒れてしまわないよう、念入りに準備をして出発である。

 

 子供たちはふわふわにほぐした草を編んで作った砂防マントを頭から羽織らせている。首元で縄をしめると……はい、出来上がり。見た目は生きたテルテル坊主みたいである。これはこれで可愛い。

 

「わふぅ。ねえ、脱いじゃダメ?」

 

「駄目。それを着ないなら、絶対に連れて行かないし、お出かけもとりやめ」

 

「ちぇっ。はーい」

 

 しぶしぶながらも、大人しくマントを羽織ってくれる子供たち。嫌そうにしたのも最初だけで、今は子供同士ぶつかり合ってマントのクッション感を楽しんでいる。

 

「どーんっ」

 

「やったな、どどーんっ」

 

「わふわふぅ」

 

 無邪気だねえ……。

 

「さ、出るわよ。ママから離れないように」

 

「はーい」

 

「わくわくっ」

 

 尻尾を千切れんばかりにふりながらついてくる子供たち。あの尻尾の回転で巻き起こる風で空っ風を相殺できたりしないかなあ……。

 

 そんな事を考えながら、集落の外に出る。

 

 途端に吹き付けてくる、乾ききった鋭い風に私は目を細めた。

 

 目の前に広がるのは、水と緑に覆われた楽園ではなく、干乾びつつある砂色の大地。命の化粧は一時の事、それが剥がれて冷酷な素顔が露になりつつある。

 

 西から吹いてくる、この強い風。雨季で潤った台地の水分がこの風にさらされて急速に乾いていくのが分かる。今は気化熱みたいな感じで比較的涼しいが、すぐにドライヤーを吹き付けるような熱風に代わる事だろう。そうなったら日中はとても外を歩けるものではない。

 

 子供たちの体調も心配だ。

 

 私はさっさと、近くのロコモ群生地に向かう事にした。

 

◆◆

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