TSママ、異世界を行く   作:オギャアデバブゥ

16 / 16
『ママと品種改良』

 

 

 

 

 

 最寄りの群生地は、一見すると荒れ果てた荒野にしか見えない場所だった。

 

 黄土色の乾いた大地。そこに、枯草のようなものが群生している。私の背丈よりちょっと高いぐらいの、大麦みたいな植物。

 

 これが野生のロコモだ。

 

「どうです、ママ? 何か参考になりますか?」

 

「ふむ……」

 

 実りで頭を垂れる穂を引き寄せて観察してみる。

 

 なんていうか、貧相な感じの植物、というイメージは変わらない。トウモロコシの原種というか、粒がいくつか数珠繋ぎになっているだけの、知らなかったら到底食用とは思えない枯れ尾花。

 

 だが、実際に生えている現場を見ると少し考えは変わってくる。

 

 見た所、ここはあまりに乾いて枯れ切った、およそ植物が生きていくにはあまりに不向きな環境だ。こんな環境でも育つというなら、それはそれで大したものである。

 

 生い茂っている株も、雨期の直後だからというのではなく、そういうのは関係なしにもともとここにしがみつくようにして生きているのだろう。それが乾いた所が好きだからなのか、もっと別の理由があるのかは知らないが……。

 

 というかこの環境でよく芽が出て根を張れるな。地面がっちがちじゃないか、植物ってすごい。

 

「ロコモはこういう場所にしか生えないのか?」

 

「ええ。ロコモは乾燥に強いし乾季でも育つ植物なんですが、その分成長がゆっくりでして。雨期の間にわっと芽を出して一気に育って枯れていくほかの植物と比べると、どうしても勢いで負けちゃうというか……」

 

 両手を大きく拾げて微笑ましいジェスチャーで教えてくれるコボルドの案内人。なるほど、そういう事か。納得である。

 

 タフであるがゆえに、この地の生存競争からは追い出されてしまったという事か。ある意味、コボルド達と似た物どうしなのかもしれない。

 

 勝手に親近感を覚えながら、私はいくつかの穂をさらに見ていく。

 

 穂に実っている実の数はバラバラだ。4つのものがあれば、7つのものもあり、かとおもったら2つしかないものもある。

 

 数えてみた限り、最大で8。その中から、特に実の状態がいいと思われる穂を、私はいくつか収穫する。

 

「よし、これぐらいでいいだろう」

 

 これ以上はここの収穫に差し支えそうだしな。必要な物は手に入った。

 

 そんな私に、隣で見ていたコボルドが首をかしげる。

 

「あれ、それだけでいいんです? もっとたくさん持ち帰らないと一食分にもならないっすよ?」

 

「ふふ。これは食べる用じゃないんだ」

 

「????」

 

 よくわかんない、といった感じで首をかしげるコボルド君。ふわっさふわっさと尻尾を背中で振る彼に、ちっちっち、と私は指を立てて振った。

 

「まあ、うまくいくかはわからないから、ここで詳しい説明はやめておくよ。もし狙い通りにいったらまた説明する」

 

「はあ……。まあ、ママ上のやる事ですから、きっとうまくいくと思いますがね」

 

「ふふふ、ありがとう」

 

 そういう訳で、集落に戻ったら、さっそく栽培の準備にかかる。

 

 赤レンガで作った花壇に、雨期の間に確保しておいた出来るだけ栄養のありそうな土を満たして、そこに取ってきたロコモの実を撒く。そしたら水をじょろじょろー、と。

 

 濡れて黒々と輝く土を眺めていると、子供達がよってきてなんだなんだと花壇を覗き込んだ。

 

「えー、何? ママ、お土たべるの?」

 

「食べない食べない」

 

 子供ならではの斬新な発想……いや、この死の荒野だとあんまし冗談にもならないか……。

 

 サブローが物珍しそうに黒い土を指先でぺたぺた触って、ぶすぶす指をさす。私は苦笑して脇を抱えて後ろに下がらせた。

 

「ほら、手が汚れちゃうから、めっ」

 

「はーい。ママ、ママ、もしかして、土を育てるの? おっきくなる?」

 

「ふふふ、まあ似たようなものかな……。ここから何が生えてくるか、皆も考えてみてね」

 

 私の言葉に、子供達は顔を見合わせて花壇を取り囲み、興味津々で眺めている。そんなに見つめても、すぐには芽は生えてこないんだけど……。

 

 最近イヤイヤ期で振り回されていたけど、これはこれでこの子達の情操教育にはいいかもしれない。この集落では基本、栽培とか養殖とかの概念がない。

 

 基本、外にあるものを食べているだけで……それが無くなったら飢えてしまう。行き当たりばったりもいい所だが、かといって現状きわどいバランスで成り立っている供給のバランスを崩すと、かえって飢餓を招く恐れがある。

 

 これはその問題を解決するための第一歩だ。

 

 うまくいけば、コボルド達の食糧問題を一気に解決できるいかもしれないけど……そんな一手で全てが変わる、とも言いきれない。

 

 期待しすぎず、そこそこにやっていくのが精神衛生上いいだろうね。

 

「ほら、皆。ごはんにするから、おうちに戻りましょう」

 

「はーい」

 

「わーい」

 

 手招きすると、てこてこと子供達がやってくる。人気のないおうちの中に子供達が入ると、一気に温かみを感じるようになる気がする。

 

「はい、おかえりなさい」

 

 

 

 

 

 変化があったのはそれから数日後の事だ。

 

「ママーーーッ! おつち、おつちが変だよ!」

 

「はいはい。変って、どんな風に?」

 

「何か生えてきた!! 緑の!!」

 

 興奮気味のサブローに引っ張られるようにして家の外に出ると、花壇の周囲に人だかり。

 

 コボルド達を押しのけて覗き込むと、花壇の土に、緑色の双葉がいくつか、芽を出していた。

 

 ロコモの芽に違いない。

 

「よしよし、ちゃんと芽が出たわね」

 

「すごいすごーい、これ、食べられる? おいしそー」

 

「ダメダメ、まだ食べちゃだめよ」

 

 さっそく手を出すイチローの手を掴んで押しとどめる。なんでー? と見上げてくる黒いお目目に笑いかけて、その鼻先をちょん、と指で押さえる。

 

「もうちょっと待っててね」

 

「はーい……」

 

 子供達を納得させたところで、私は可愛らしい双葉に芽を戻す。

 

 今回選んできたのは、どれも実の数が多い株。それらが成長して、交雑して実をつけた時、次世代はどうなるかな?

 

 ふふ、楽しみだなあ。

 

 

 

 

 

 なお、せっかく育てた栽培第一陣の実りは、可愛いうちの子達のおやつになってしまった事を記録しておく。

 

 たっぷりの水と豊かな土壌で育てたせいか、実は柔らかく甘くてとても美味しかったそうです。とほほ。

 

「ぐっすん……」

 

『回答:食害は農業の最大の問題です』

 

「うるさいよー!」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話(作者:タンクトップ桶狭間)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

タイトルまんまですわ。▼なろうとカクヨムに掲載していましたが、せっかくユーザー登録したので、こちらにも一応載せようと思います。▼先の展開が見たい場合、上記の二つのサイトでの視聴がオススメですわ。▼たくさんストックがあるのでお昼と夜の12時、一日の内に二回、最新話を投稿します。▼まじで感想聞かせてくださいませ! お願いいたしますわ!


総合評価:289/評価:8.1/完結:89話/更新日時:2026年04月10日(金) 12:01 小説情報

【TS】熱源の魔女は涼みたい 〜喋れないので適当に頷いていたら、いつの間にか人類の救世主になっていた〜(作者:えんえん)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

前世はニート。転生先は、歩くだけで国を焼く『熱源の魔女』。▼声帯が焼けて喋れない俺は、快適な【飯付き・筋トレ付き・エアコン(封印具)付き】の隔離施設で最強のニート生活を満喫していた。▼これは涼みたいだけのニートが、無自覚に世界を混乱させていく物語。


総合評価:279/評価:6/完結:6話/更新日時:2026年02月28日(土) 18:00 小説情報

英雄に殺された俺が聖女として転生したら、討伐対象が自分でした(作者:TSメス堕ちいいよね…)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

かつて勇者に討たれた魔王軍幹部。▼転生したら聖女になっていた。▼しかもコンビを組むのは、自分を殺した勇者アルフレッド。▼彼は知らない。▼隣で微笑む聖女が昔、自分に「おのれぇ!」とか叫んでいた魔族だということを。▼バレたら終わり。▼だがなぜか勇者からの好感度は上昇中。▼――待て。なんでだ。▼元ラスボス系幹部が、必死に聖女を演じながら世界を救う(?)話。


総合評価:411/評価:7.78/連載:6話/更新日時:2026年03月08日(日) 02:36 小説情報

「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの」(作者:性癖でバトルしようぜ!)(オリジナル現代/コメディ)

ごく普通の男子高校生、星宮朝日は母からとんでもないカミングアウトされてしまう。▼「実は、お母さんTS魔法少女だったの♪」▼それだけで終わらず自分の身体は美少女になっていて。▼おまけに飼い猫は喋りだすわ世間には怪人や魔法少女が存在していて…?▼元、TS魔法少女(雌落ち済み)のせいで遺伝してTSしてしまった朝日くんは、元魔法少女の母の代わりに怪人を倒して元に戻れ…


総合評価:327/評価:8.56/連載:4話/更新日時:2026年04月29日(水) 18:00 小説情報

TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面(作者:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。)(オリジナル現代/スポーツ)

かつて、チャンピオンとして輝いていた男がいた。▼ドラマティックなカードバトル。逆転劇。筋書きのないドラマは多くの人間を魅了し、カードショップに走らせた。▼だが、時の流れは残酷でいつしか英雄はカビの生えた存在になって、発酵して、TSさせられた挙句、相手をガンメタする様な奴に落ちぶれていた。▼「二度とやるか。こんなクソゲー!!」▼「おう! また明日な!」▼そんな…


総合評価:1174/評価:8.65/連載:46話/更新日時:2026年05月08日(金) 21:35 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>