TSママ、異世界を行く 作:オギャアデバブゥ
最寄りの群生地は、一見すると荒れ果てた荒野にしか見えない場所だった。
黄土色の乾いた大地。そこに、枯草のようなものが群生している。私の背丈よりちょっと高いぐらいの、大麦みたいな植物。
これが野生のロコモだ。
「どうです、ママ? 何か参考になりますか?」
「ふむ……」
実りで頭を垂れる穂を引き寄せて観察してみる。
なんていうか、貧相な感じの植物、というイメージは変わらない。トウモロコシの原種というか、粒がいくつか数珠繋ぎになっているだけの、知らなかったら到底食用とは思えない枯れ尾花。
だが、実際に生えている現場を見ると少し考えは変わってくる。
見た所、ここはあまりに乾いて枯れ切った、およそ植物が生きていくにはあまりに不向きな環境だ。こんな環境でも育つというなら、それはそれで大したものである。
生い茂っている株も、雨期の直後だからというのではなく、そういうのは関係なしにもともとここにしがみつくようにして生きているのだろう。それが乾いた所が好きだからなのか、もっと別の理由があるのかは知らないが……。
というかこの環境でよく芽が出て根を張れるな。地面がっちがちじゃないか、植物ってすごい。
「ロコモはこういう場所にしか生えないのか?」
「ええ。ロコモは乾燥に強いし乾季でも育つ植物なんですが、その分成長がゆっくりでして。雨期の間にわっと芽を出して一気に育って枯れていくほかの植物と比べると、どうしても勢いで負けちゃうというか……」
両手を大きく拾げて微笑ましいジェスチャーで教えてくれるコボルドの案内人。なるほど、そういう事か。納得である。
タフであるがゆえに、この地の生存競争からは追い出されてしまったという事か。ある意味、コボルド達と似た物どうしなのかもしれない。
勝手に親近感を覚えながら、私はいくつかの穂をさらに見ていく。
穂に実っている実の数はバラバラだ。4つのものがあれば、7つのものもあり、かとおもったら2つしかないものもある。
数えてみた限り、最大で8。その中から、特に実の状態がいいと思われる穂を、私はいくつか収穫する。
「よし、これぐらいでいいだろう」
これ以上はここの収穫に差し支えそうだしな。必要な物は手に入った。
そんな私に、隣で見ていたコボルドが首をかしげる。
「あれ、それだけでいいんです? もっとたくさん持ち帰らないと一食分にもならないっすよ?」
「ふふ。これは食べる用じゃないんだ」
「????」
よくわかんない、といった感じで首をかしげるコボルド君。ふわっさふわっさと尻尾を背中で振る彼に、ちっちっち、と私は指を立てて振った。
「まあ、うまくいくかはわからないから、ここで詳しい説明はやめておくよ。もし狙い通りにいったらまた説明する」
「はあ……。まあ、ママ上のやる事ですから、きっとうまくいくと思いますがね」
「ふふふ、ありがとう」
そういう訳で、集落に戻ったら、さっそく栽培の準備にかかる。
赤レンガで作った花壇に、雨期の間に確保しておいた出来るだけ栄養のありそうな土を満たして、そこに取ってきたロコモの実を撒く。そしたら水をじょろじょろー、と。
濡れて黒々と輝く土を眺めていると、子供達がよってきてなんだなんだと花壇を覗き込んだ。
「えー、何? ママ、お土たべるの?」
「食べない食べない」
子供ならではの斬新な発想……いや、この死の荒野だとあんまし冗談にもならないか……。
サブローが物珍しそうに黒い土を指先でぺたぺた触って、ぶすぶす指をさす。私は苦笑して脇を抱えて後ろに下がらせた。
「ほら、手が汚れちゃうから、めっ」
「はーい。ママ、ママ、もしかして、土を育てるの? おっきくなる?」
「ふふふ、まあ似たようなものかな……。ここから何が生えてくるか、皆も考えてみてね」
私の言葉に、子供達は顔を見合わせて花壇を取り囲み、興味津々で眺めている。そんなに見つめても、すぐには芽は生えてこないんだけど……。
最近イヤイヤ期で振り回されていたけど、これはこれでこの子達の情操教育にはいいかもしれない。この集落では基本、栽培とか養殖とかの概念がない。
基本、外にあるものを食べているだけで……それが無くなったら飢えてしまう。行き当たりばったりもいい所だが、かといって現状きわどいバランスで成り立っている供給のバランスを崩すと、かえって飢餓を招く恐れがある。
これはその問題を解決するための第一歩だ。
うまくいけば、コボルド達の食糧問題を一気に解決できるいかもしれないけど……そんな一手で全てが変わる、とも言いきれない。
期待しすぎず、そこそこにやっていくのが精神衛生上いいだろうね。
「ほら、皆。ごはんにするから、おうちに戻りましょう」
「はーい」
「わーい」
手招きすると、てこてこと子供達がやってくる。人気のないおうちの中に子供達が入ると、一気に温かみを感じるようになる気がする。
「はい、おかえりなさい」
変化があったのはそれから数日後の事だ。
「ママーーーッ! おつち、おつちが変だよ!」
「はいはい。変って、どんな風に?」
「何か生えてきた!! 緑の!!」
興奮気味のサブローに引っ張られるようにして家の外に出ると、花壇の周囲に人だかり。
コボルド達を押しのけて覗き込むと、花壇の土に、緑色の双葉がいくつか、芽を出していた。
ロコモの芽に違いない。
「よしよし、ちゃんと芽が出たわね」
「すごいすごーい、これ、食べられる? おいしそー」
「ダメダメ、まだ食べちゃだめよ」
さっそく手を出すイチローの手を掴んで押しとどめる。なんでー? と見上げてくる黒いお目目に笑いかけて、その鼻先をちょん、と指で押さえる。
「もうちょっと待っててね」
「はーい……」
子供達を納得させたところで、私は可愛らしい双葉に芽を戻す。
今回選んできたのは、どれも実の数が多い株。それらが成長して、交雑して実をつけた時、次世代はどうなるかな?
ふふ、楽しみだなあ。
なお、せっかく育てた栽培第一陣の実りは、可愛いうちの子達のおやつになってしまった事を記録しておく。
たっぷりの水と豊かな土壌で育てたせいか、実は柔らかく甘くてとても美味しかったそうです。とほほ。
「ぐっすん……」
『回答:食害は農業の最大の問題です』
「うるさいよー!」