TSママ、異世界を行く 作:オギャアデバブゥ
「うーん、今日のお肉もいい焼き具合だねえ」
地球の日本のスーパーで流通しているようないい肉じゃなくて、かっちかちの硬いお肉だけど。まあ料理の仕方では食べれない事もないって感じだね。
それでもコボルド達にとってはごちそうなのか、みんながっついて食べてるのは実に微笑ましい。
ええと、それでどうだったっけ。
そうそう、私がこの世界に来た後、行き倒れてた所を村に拾われた所まで話したんだっけな。
それで、そこからどうなったかって話だ。
心優しいコボルド達のおかげで九死に一生を得た私。
彼らの住処は、大きな岩山の根本にできた小さな隙間にある集落だった。
一日を通して太陽に晒される事なく日陰で、かつ風通しのよい集落は外が“死の荒野”なんて呼ばれているとは思えないほど快適で過ごしやすく、そこで私は一週間ほどで歩けるほどに回復した。
いやあ、あそこから持ち直したってのもすごいけど、ほんの半日で何日も歩けなくなるほどの重体に陥る、というのも初めての経験だった。
生き残れたのはコボルド達のおかげである。よって、私は歩けるようになってからすぐに、彼らに恩返しをするべく働き始めた。
なんせ私にはスキル『Q&A』がある。異世界の事だろうと問題ない。
「という訳なので、何かお手伝いする事はありませんか?」
「え? いや、僕達、そういうつもりで君を助けた訳じゃないんだけど……」
「いいんじゃない? 手足の長い人間に手伝ってもらえるのは助かるよ」
まずはさっそく、コボルドの大人たちに相談である。こういうとき、いくら善意でも勝手に動くのは混乱の元だからね。
可能な限り愛想よくする私の前でコボルド達は顔を見合わせ、困惑しつつも快く私の申し出を受け入れてくれた。
「それじゃあ、新しい水源を探してくれないかな。僕達、ここから少し歩いた所にある水たまりを使ってるんだけど、そこがそろそろ枯れそうでね」
「わかりました!」
『検索:ここから西に1km歩いた所の岩陰に、まだ手付かずの水源を確認。水質良好、資源量およそ3000リットル。このコロニーの居住者数を考えると十分な量と考えられます』
あいあいさー。人間の村だと3000リットルは少ないけど、彼らは人間ではなくコボルド。お風呂に入る習慣はないし、そもそも乾燥に強いからこそこんな所に住める訳で。
とはいえ、今の私では1キロ程度でも一人で出歩くと命に係わる。なんとか適当な理由をつけて、数名のコボルドについてきてもらう。
スキルの説明通り、村から少し歩いた先の大きな岩の影。植物に覆われて見えない所に、底の深い水たまりがあった。覗き込んでみると、底まで見えるぐらい透き通っている。
「え、ええー! ほんとにあったぁ……」
「すごーい。こんな近くにあったのに今まで気が付かなかったよ……」
「へへーん、こういうのを探すのは得意なのです」
最初は半信半疑だったコボルド達も、実際に水を見つけて顔色を変える。とりあえず持ち帰れるだけの水を桶に貯めて、村へと持ち帰る。
しかし帰り道の最中、桶から結構な量の水が漏れてしまう。これもなんとかしないといけないなあ……。
へい、スキル! なんとかする方法はないかい? 粘土でふさぐとかさ!
『検索:ここから南に100mほど寄り道した先に品質の高い粘土層が露出しています。水で湿らせて桶の隙間をふさぎ、よく乾燥させれば水漏れ対策になるでしょう』
ほいきた!
コボルド達に声をかけて、ちょっと寄り道。見つけた粘土で桶の隙間をふさぐ傍ら、物陰で桶の水を飲んで過ごす。
乾いたらもう一度水たまりに戻って、桶一杯に水を汲んで再び帰路へ。今度は水が漏れることなく、桶一杯の水を目にした村のコボルド達は大喜びだ。
「うわあ、すごいな!!」
「レンジ、もしかしてすごいひと?」
「ただの行き倒れじゃなかったんだなあ」
わあわあ喜ぶコボルド達を見ていると私も笑顔になってくる。
こうして、コボルド達から「間抜けだけどすごい人」と認識された私は、それ以降ひっきりなしにコボルド達に頼み事をされるようになり、それを解決する事に全力を注いだ。
「食料がちょっと減ってきて困ってるのー」
「ほいほい」
『検索:村から北東の泥沼で、大型の魚類が乾眠しています。確保すればこの村が数日食べていけるだけの食糧になるでしょう』
時に乾ききった泥沼に食料を求め。
「あの、このお肉なんだけど、まだ食べられると思う?」
「ほいほい」
『確認:腐敗菌の増殖を確認。食用に適した状態を逸しています。危険ですので食べないでください』
時に怪しげな食材の判別を行い。
「ねえねえ、こんなの見つけてきたんだけど……食べられる?」
「ほいっとな」
『確認:この世界における種別などは不明ですが、地球のサクラ属アーモンド種に近い植物と思われます。有毒な成分であるアミグダリンが含まれている為、除去が必要です。現環境を考慮すると、数日天日干しにしたのちに、流水に晒せば可食域まで毒性が低下すると思われます』
時に拾ってきた木の実が食べれるかどうかを判別し。
そんな事をしているうちに、私はすっかり、コボルド達から知恵袋として重宝されるようになっていた。場合によっては、こういう特異性は孤立や区別、差別を生み、場合によっては奴隷のように扱われる事もあるのだろうが、見ず知らずの旅人を親身になって助けるような善良なコボルド達である。当然そのような事にはならず、彼らは私の為に新しい家を建て、知恵者として敬ってくれた。
恩を返す目的からはちょっとずれてしまうが、こうやって人に敬意を持たれるのは悪い気分ではない。
これからも、コボルド達の為に頑張っていこうと私はおもったのだった。
そして、それなりの月日が流れた。