TSママ、異世界を行く   作:オギャアデバブゥ

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ママとママ友

 

 

「どうも、レンジ」

 

「やあ。今日の毛並みもつやつやだね」

 

「えへへ、そう?」

 

 コボルド達の集落にお世話になるようになり、そこで知恵者のポジションにもついてしばらくが立った。

 

 そうこうする間に、私もコボルド達もお互いに慣れ、中には友人と呼べるような存在もできた。

 

「どう、調子は」

 

「レンジさん。ええ、私も、お腹の子も元気ですよ」

 

 私が訪ねたのは、あるコボルドのおうち。そこでは一人の雌のコボルドがベッドに横になっている。そのお腹は大きく膨らんで、新たな命をはぐくんでいる事を伺わせた。

 

 このメスのコボルドは、私がこの集落に来た時はまだ小さな子供だった。やんちゃ盛りで外で迷子になったのを、私が探しにいって連れ帰ってからの付き合いだ。

 

 フワフワの白い毛を優しく撫でると、彼女はくすぐったそうに眼を細める。

 

「お産は近そうだね」

 

「ええ。ふふ、何匹生まれてくるかしら。4匹かしら、5匹かしら?」

 

「ふふ、何匹でもいいさ。母子ともに健康ならば」

 

 妊婦に果物を差し入れして、私は家を後にする。今だからこそ知っているが、この集落で汁気のある果物は貴重品だ。

 

 そんなものを、倒れていた私に差し出してくれたこの集落の者達には感謝している。

 

「それにしてもあの子供がもう大人になって、それも母親かあ」

 

 記憶にある小さな姿を思い返して感慨にふける。

 

 コボルド達の成長は早い。一年も経たずに大きくなり、大人になり、子供を産む。そしてその子供もまた瞬く間に大きくなるのだ。現実の犬猫だってここまで早く増えたりはしないと思う。

 

 にも関わらず、この集落の人数は一定を越えることはない。これだけのペースで増えても、いつも集落はちょっと隙間が空いている。

 

 ……その理由は言うまでもない。

 

 私は通りがかったある空き家の前で足を止めた。

 

 この家には、つい先日まで5匹の家族が住んでいた。今は誰も居ない。

 

 外に家族で食料採集に行っているときに獣に襲われたのだ。私がスキルで探した結果、見つかったのは末の子の千切れたしっぽだけ。残りがどうなったかは、言うまでもない。

 

 この死の荒野は、生きるにはあまりにも過酷だ。

 

 ただでさえ厳しい環境に、飢えた獣がうろついている。小さくか弱いコボルド達は、それらの狂暴な獣に遭遇したら一たまりもない。

 

 私のスキルで周辺を索的して安全を確保したとしても絶対ではない。スキルの効果範囲は見た所周囲5キロほどで、そこから遠くはわからない。それに判明するのは今現在の状態で、あとから変化した状況には対応できない。コボルド達もそれをわかったうえでうまく私のスキルを利用して安全を確保しているが、それでも10匹死ぬのが8匹になったぐらいだ。

 

 それでも、コボルド達はここで暮らすしかない。人間社会に彼らの居場所はないし、もっと奥の亜人種側のテリトリーは強く狂暴な種族が縄張りを持っている。この死の荒野の近くという立地条件だからこそ、弱いコボルド達がなんとか生きていけているのだ。今の世の中に、彼らにとっての安息の地はない。

 

「…………」

 

『回答:今現在の情勢、環境、資源、勢力ではこれ以上の立地条件は望めません。死の荒野を越えて別の場所に移動する事は現在のコボルド集団の総合能力では不可能です』

 

「わかってるよ……」

 

 このスキル便利なんだが空気を読まないのが玉に瑕だ。まあこれのおかげで生き延びれてるのが大きいから文句は言えないが……。

 

「なあ。お前って答えられる範囲って決まってるんだよな」

 

『回答:Q&Aスキルは今現在、この世界における一般常識+α程度の回答能力しか持ち合わせていません。索敵についても、あくまでいわゆる神の目を持っていた場合の普通の視野でしかありません』

 

「つまり、それってもっと上があったりするのか? スキルが成長するとか……」

 

 問いかけるが答えはない。

 

 答える事が出来ないのか、そもそもそんな事は出来ないのか。

 

 時々こうやってメタな質問をするが、その多くは返事が返ってくることはない。禁足事項です、とか何か答えが返ってくればもうちょっとやりようもあるんだが。

 

 一応、異世界転移者にはスキルが発生する、ってのを教えてくれたけどこれは本当に例外だったのかな。

 

「まあいっか……」

 

 とりあえず木の実でも拾いに行こう。どこに行こうかな。

 

『検索:集落からでて西に350m歩いたところに、風にのって複数の木の実が枝ごと流れてきています。30分以内に回収しないと、熱でダメになってしまうでしょう』

 

「お前ね……」

 

 私はため息をつきつつ、アドバイスに従って木の実を拾いにいった。

 

 

 

 

 

 あの子が産気づいたのは、それから三日後の夜の事だった。

 

 産婆さんが対応している間、そわそわと家の外で待つ。周囲には、彼女を心配したコボルド達の姿もある。

 

 ……彼らに、夫婦という概念はない。もしかするとここにいる誰かが子供達の父親なのかもしれないな、とちらりと思った。ああいや、応えるなよスキル。もし誰が父親かわかってしまったら、私はそいつにすこし理不尽な対応をしてしまうかもしれない。それは望むところではない。

 

『了解しました』

 

「大丈夫かなあ。初産は大変だっていうし……」

 

 そわそわしながら待っていると、小屋の中から複数の赤子の鳴き声が聞こえてきた。

 

「生まれた!!」

 

 急いでドアを開けてベッドに向かう。

 

 そこでは産婆さんが四匹の赤子を産湯に付けて血を洗い流している所だった。

 

「……レンジさん」

 

「お疲れ、おばあさん! 可愛い赤子だね、あの子は? 大丈夫? えっとね、木の実を用意してるんだけど、食べさせてあげてもいい? 喉が渇いてると思うから……」

 

 赤子を抱きしめる老コボルドにまくし立てる。早くあの子の笑顔が見たい。

 

 だけど、なんだか、老コボルドは様子が変だった。彼女はくしゃ、と顔をしかめると、私に赤子を一匹、優しく差し出した。

 

 受け取って抱きしめると、おくるみの中で赤ちゃんが足をつっぱって、顔をくしゃくしゃにして鳴き声を上げる。

 

「みぃ、みぃー。みぃーー!!」

 

「……そうね。あの子と、一番仲が良かったのは貴方だものね。……赤ちゃんを、見せてあげて」

 

「? う、うん」

 

 なんだか妙な雰囲気に首をかしげながら、赤ちゃんを抱えてベッドの枕元に。

 

「お疲れ様! みて、みて! 赤ちゃんだよ! 君の赤ちゃん! 可愛いでしょうー!」

 

「みぃー!! みぃいいい!!」

 

「…………」

 

 あれ。

 

 おかしいな。

 

 ベッドの上で、あの子は眠ったままだ。幸せそうに眼を閉じて、ぴくりとも動かない。

 

 そんなに疲れちゃったのかな。はは。はははは。

 

 

 

 

 

『回答:対象の生命活動は停止しています。出産の負担に耐えられなかったと思われます』

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 …………うるさいよ。だまれ。

 

「ね、ねえ、目を空けなよ。君の赤ちゃんだよ? 私がママだよ、って教えてあげないと。ねえ」

 

「…………」

 

「ねえってば。そうだ、名前を決めようよ。君達コボルドにはない文化らしいけどさ、私達人間では一人一人名前があるんだ。友人の子供に名前を考えてもらうとか、あるんだよ。四匹の子供だから、上から順番にイチロー、ジロー、サブロー、シロー、ってのはどうかな。私の故郷では有名なヒーローの名前なんだよ。ねえ」

 

 だから。

 

 だからさ。

 

 目を空けてよ。

 

「な、なあ……頼むから。赤ちゃんに、声をかけてあげてよ。ねえ。ねえってば…………なあ……?」

 

 目の前がにじんで霞む。

 

 私はそこで耐えきれなくなって、赤ちゃんを抱きしめたまま膝をついた。

 

 物言わぬ母親と、私。静寂に満ちた部屋の中に、赤ちゃんの元気な声が、ただ響いていた。

 

 

 

「みぃーー! みっ、みぃ、みーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

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