TSママ、異世界を行く 作:オギャアデバブゥ
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朝ごはんが終わったら、今度は保育園である。
まあ保育園といっても地球のそれとは全然違う。どっちかというと、託児所といった方が正しいか?
実際にはもっと原始的な、母親の寄り合い所みたいなものだろうか。
子供はとにかく、体調が急変しやすい。それを見落とし、あるいは気が付いても適切な対応ができなければ命に関わる。
それに思い悩んでいた他のコボルドママと相談した結果、いっそ、皆で日中は同じ場所で集まって過ごし、私がスキルで気を配るのはどうか、という話になったのだ。
ちょっとスキルに依存しているような気もするが、背に腹は代えられない。というか、スキル無しでは生きていけないぐらいにハードモードな世界なのだから、これぐらいは甘えではないだろう。
という訳で、集落の一角、木の策で仕切られた区画に子供たちを連れていく。
「あ、みんなぁ~」
「みみっ、みぃ~。今日、何する?」
「ふわぁああ……」
幸い、子供たちも同じ年頃の子と集まるのは嫌いではないようだ。到着するなり顔見知りを見つけて走っていく子もいれば、兄弟同士で遊びの相談をする子もいるし、かと思ったら私の服にすがりついてさっそく居眠りを始める子もいる。
私は眠り始めたジローを小脇にかかえて、先着のお母さん方の所に歩いて行った。
「どうもこんにちは」
「あらあ、レンジさん。今日もよろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ」
挨拶を交わして、まずは他の家庭のお子さん達の体調チェックだ。
『回答:個体B2に若干の体調不良の兆候があり。体温が不安定です、暖かくして寝かせておくのを推奨します。個体A3に栄養失調の前兆。アーモンドミルクを多めに飲ませるのを推奨します。個体C1に皮膚炎の発生を確認。場所は右腕前腕部。毛を剃り、薬を塗っておくのを推奨。薬は、先日調合したものを使用してください』
「ほいほいっと」
そんな感じで、言葉が上手く使えず不調を訴えられない子供たちに代わってスキルで問題を解決していく。幸い今日も何か大きな異常を抱えた子供はおらず、健診は短時間で終わった。
そしたら、子供たちが自由に遊ぶ傍らでママ達もまた自由時間である。
「それでね、うちの子ったら……」
「あらまあ。私のところもね……」
飽きもせずお喋りをしながら、片手間でゴリゴリ木の実を磨り潰しているママさん達。ここに居る間は、基本的にみんなはずっとアーモンドミルクを作っている。どうにも、この木の実から作った植物性乳飲料を飲むと、子供たちが風邪をひきにくいとか、成長が早いみたいな話がある様子。まあ考えてみれば、この閉鎖されて何もかもが不足している環境、子供の健全な生育に悪影響が無い訳がない。一つでも食べられる食品が増えた、それだけでも影響は大きいのだろう。
ちなみに私は申し訳ないけど、疲れ果ててバタンキューである。日が沈んでからも順番に起きてくる子供たちを寝かしつかせたりで毎日ブラック労働なのだ。それは他のお母さん達も同じはずだけど、タフだなあ……。
『回答:マスターが多少過保護なのです。他の家はもう少し放任主義です』
うるさいやい。うちの子達はあの子から預かってるんだから、全員立派に育て上げる義務が私にはあるんだ。
「うみ……」
しかし慣れというのは大したもので、傍らで子供が甲高い声を上げて追いかけっこしてたり、時々ゆさゆさ揺さぶりに来るにも関わらず、うとうとと仮眠ができるようになってしまった。ガチで寝入るとトラブルが起きた時に対応できないから、あくまで転寝程度だけど……これが出来ると出来ないで、だいぶんちがうんだよなあ……Zzz……。
そうして安寧を貪っていると、ふと肩に何かが被せられた気配。毛布か襤褸布か、お母さん方が気をきかせてくれたんだろうな。ありがたい。
私はとくに気にせず、そのままずっとうとうとしていた。
んでもってお昼時。
そろそろご飯の準備をしないとなあ、と身を起こして伸びをする私の肩から、ずるり、と滑り落ちるなにがしら。
何気なく目をやった私は、そこにあった想定外の物に目を見張った。
「な、なな……?」
床に落ちているのは、襤褸布や毛布ではなく、立派な拵えの白い外套だった。恐らくコボルド達の抜け毛で編んだのだろう、集落では他に調達しようがないふわふわの毛で編まれたそれは、やわらかい上に手触りがつるつるしている。他にも裾部分には黒い毛で模様のようなものが編みこまれており、一見すると市販品のコートに見えなくもない。
え、これをコボルド達が?
私が反射的にママさん達に視線を向けると、彼女達はくすくす笑って微笑んだ。
「あら、やっと気が付いた。もう、全然起きてこないんですから」
「す、すいません。え、でもこれ、私に……?」
「ええ。私達コボルドに伝わる伝統装束です。綺麗で真っすぐな毛だけを集めて、最大の感謝と敬意をこめて編んだコートです。どうか、お受け取り下さい、レンジさん」
な、なんか凄そうな物だぞ? ホントに私がもらってもいいんだろうか……。
床から拾い上げたコートを手に躊躇っていると、てちてち這いずってきたイチローが、私が手にするコートを見て目を輝かせた。
「わあ……かっこいい! すごい!」
「そ、そうか? イチローはそう思うか?」
「うん!!」
目をキラキラさせて見上げてくる期待の視線に背を押され、私はコートに袖を通してみた。
サイズはぴったり。
おまけにぬくいというか風を通さない。抜け毛を使っているという割には、獣臭さもまるでないし。
それに思ったよりも軽いというか、薄い。どういう編み方をしたんだろう、手間がかかっている気がする。
「あ、ありがと、大切に着ます」
「いいええ、いいのよ。レンジさんがこの集落にもたらしてくれた物に比べれば、ほんのささいな事よ」
「そうですよ、気にしないで」
そんな訳で、私はその日から白いコートを着るようになったのである。これがほんとにいい代物で、来ている服と違って全く汚れないし、汚れがついても軽く水洗いすれば綺麗に落ちる。ずっと着ていてもすりへったりしないし。なんだか魔法がかかっているようである。
気が付けば、白いコートはすっかり私の代名詞になっていたのだった。
ちなみに。
このコートは本来コボルド達の“王”に贈られる物であるという事を私が知るのは、大分後の事である。
『回答:だって聞かれませんでしたし』
やかましいわポンコツスキルが。