TSママ、異世界を行く   作:オギャアデバブゥ

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ママとレンガ

 

 

 光陰矢の如しというが、可愛い盛りは瞬く間に過ぎていった。

 

 もちもちてちてちした赤ちゃんコボルドはやがて、二足歩行して歩き回るようになった。

 

 毎日、小さな怪獣を相手にしているようなものである。世のお母さん方には感謝する他ない。

 

「ママ、ママ。だっこ、だっこぉ」

 

「あははは、僕の方がはやーい」

 

「待てよぉー!」

 

 小さな家の中を所せましと走り回る子供達。思うがままに暴れまわる暴君たちの間で、私は難儀しながら朝ごはんの準備をしていた。

 

「はいはい、いいからテーブルについて。おとなしくしないとご飯用意してあげないし、遊びにも連れて行ってあげないわよ。お昼寝の時のお話もしてあげません!」

 

「ええ、やだー!!」

 

「だったらほら、行儀よくしなさい。わかるわよね?」

 

 ご褒美を引き合いに出して言い含めると、子供達はしぶしぶテーブルについた。素直でよろしい。

 

 うちの子は聞き分けがよくて助かるわー。

 

「はい、皆。ご飯よ」

 

 そういって用意するのはいつものロコモだが、ちょこちょこ成長に合わせてアレンジしてある。アーモンドミルクは成長に伴い、混ぜるのではなく別のコップに。ロコモ自体も、砕いた木の実を加えてちょっとアレンジ。今日は干し魚が手に入ったので、それも細かく切って入れてある。

 

 栄養価はそれなりにあるはずだ。たぶん。

 

『回答:この環境で手にはいる食材を考えるとそれなりにバランスがとれています。カルシウムやたんぱく質といった子供の成長に必要な要素が、不足気味ながらも一定量確保されています』

 

 ほらね。まあ、タンパク質はなんとかお肉を手に入れたいところだ。小さなころの食生活が大事っていうしね。

 

「いただきまーす」

 

「まーす!」

 

「こら、省略しないの」

 

 そしてガッツガツと貪り始める子供達。小さなお口にスプーンを詰め込んで、瞬く間に皿は空になってしまう。食べ終えるや否や、子供達は外に飛び出していった。

 

「いってきまーす!」

 

「遊びにいってくるー!」

 

「はいはい。集落の外には出ないのよ」

 

 弾けるエネルギーの塊みたいな子供達を、小さな家や囲いに押し込める事は出来ない。こうなるのは自明の理だ。

 

 幸い、集落は皆が家族のようなものだ。はしゃぎまわる小さな子供達を、大人たちは優しい目で見守ってくれている。

 

 あまり過保護なのも、子供達の成長によろしくない。そもそも、コボルド達はずっとそうして育ったというし。私は子供達の事をまかせて朝ごはんの食器を片付けると、私がしなければならない仕事に向かった。

 

 家を出て、集会場に向かう。干しレンガを積み上げた小屋が、集落の有力者の集まる会議場だ。

 

 まあ有力者といっても、この集落の場合それなりにお年を召したご老人と、若者衆のまとめ役、ぐらいなものだが。

 

「おはようございます」

 

「おお、ママ様。おはようございます」

 

 私が顔を出すと、話していたコボルド達がそろって頭を下げる。背中でぶんぶん振られる尻尾の様子に苦笑しながら、私は椅子の一つに腰掛けた。

 

「そう畏まらなくともよいといっていますのに。それで、例の件、手はずはどうですか?」

 

「ばっちりです! 今、若い衆で集落に運び込んでいます。裏手にどうぞ」

 

 とりまとめ役と共に集会場の裏に回ると、そこには真っ黒にやけた焼きレンガが山のように積まれている。そこへ、今もコボルド達が外から運び込んだレンガを積み上げていた。

 

「まあ、こんなにたくさん」

 

「はいー! これだけあれば、貯水池だけでなく、いろんなものが作れます!」

 

 目の前の宝の山に、私は思わず小躍りをした。

 

 そう。干しレンガは便利は便利だが、やはり焼き固めたレンガのそれにはやはり劣る。特に、集落の今後を考えると、水の染みこまない焼いたレンガが大量に必要だった。

 

 しかし、レンガを大量に焼くだけの設備も、何より燃料がない。

 

 私の知る限り、レンガは窯か、平原で素焼きするものだ。だがこの死の荒野と呼ばれる大地には、そうやって燃やすほどの草木がない。この乾燥地帯で辛うじて生き残っている一部の植物、あるいはごく短期間の雨期に生い茂って枯れていく草木、そういったものが集落で使われている燃料だが、それらでは到底必要量に全く足りていない。

 

 そこで利用する事にしたのが、時折平原に発生する不審火である。

 

 乾燥と突風によって、時折平地に発生する火災。それは地面に薄くこびりつくように残る緑の残滓を根こそぎ焼き尽くすだけでなく、燃料もないのに不自然に燃え上がり多くの命を奪う恐るべき災害である。突如発生するそれによって、過去多くのコボルドが命を落としてきたという、忌まわしき天災である。

 

 しかしスキルによって、その発生条件と発生場所をある程度絞り込む事に成功した私は、コボルド達に頼み込んでそれらの地域にレンガを並べて置いた。そして発生した炎によって、めでたく大量の焼成レンガを大量にゲットする事ができたのである。これは、今の集落にとって大きな大きな収穫である。

 

「それにしても、元は泥だったのに焼いたら水に溶けないというのは不思議ですね……」

 

「これさえあれば、水漏れしない大きな貯め池が作れます! そうしたら、水の問題も大きく改善しますね!」

 

 コボルド達はにこにこ笑顔だ。

 

 私が来てから、水資源の発見は容易くなり彼らの生活環境は大幅に改善した。が、やはり、大変な事には変わりがない。以前のように穴の開いた桶ではなく、素焼きの水瓶を使うなどして効率化されてはいるが、持ち運べる程度の水瓶に貯められる水はたかが知れている。それに素焼きの水瓶は耐久性に乏しく、長期保存に適さない。何よりも、それだとたくさんの瓶を並べる必要がある。

 

 コボルド達の集落はそこまで広くはない。どうしても、効率よく水を貯蓄し、必要に応じて分配するだけの貯水設備が必要である。

 

「すべてはママ様の英知のおかげでございます。これからも、どうか私達をお導きください!」

 

「いや、まあ、そんなに畏まらなくてもいいんだってば。私達は家族でしょう?」

 

「家族……」

 

 一瞬きょとん、とした取り纏め役だったが、黒い瞳をキラキラとさせて彼は何度もうなずいた。

 

「そうですね! ママは僕ら皆のママです! ワンワン!」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが……」

 

 そうなると、彼らも皆私の子供か? なんとなしに手を伸ばして、ピンと立った三角耳の間をワシワシと撫でる。ふわふわの毛皮が撫で心地がいい。

 

「あふぅん」

 

「よーし、いい子、いい子……」

 

「わふぅ……ママァ……」

 

 なんか気分が出てきたので、そのまま首の下もワシワシして、ぐでーんと横になったコボルドのお腹もワシワシ。頭を膝枕して、思う存分ワシワシ。

 

「よーく頑張ったね、ママは嬉しいわー」

 

「あ、いいな、いいな」

 

「僕も僕も!!」

 

 よおしいいだろう、そこに並べ! 頑張ったご褒美だ、思い切り甘やかしてやろう! わははー。

 

 

 

 

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